【黙示録】都に舞う道化師
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月27日〜01月01日
リプレイ公開日:2009年01月03日
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●オープニング
「クックック‥‥」
精霊達の煌きが、夜空を彩る美しい月夜。
その闇の中にくっきりと浮かび上がるのは、ウィルを囲う壁の上で踊っているかの様な奇妙な動きを見せる、道化師の影。
「潜入は成功っと。やれやれ、こないだ攻め込んだ時には、あんなに堅固だったのにネェ。まあいっか。それじゃあ、手始めにそこらへんの人間でも拉致っとくカナ?」
そう言う影の主の眼が捉えたのは、夜道を一人歩く女性の姿。
――シュタッ。
つぎの瞬間、彼はその背後に音も無く降り立っていた。
そして肩をトントンと叩き、此方を向かせると――瞬間、女性の身体から突然力が抜け、崩れ落ちる様にしてその場に倒れ込んでしまった。
殆ど寝息も立てないまま、死んだ様に眠る彼女の身体を、道化師はゆっくりと担ぎ上げ。
ヒュンッ――!!
銀色の刃が煌き空を裂いた頃には、その場に既に道化師の姿は無く。
「‥‥邪魔されたネ。まあ良いヤ。此処に居る限り、機会なんて幾らでもあるんだからネ☆」
ヒャハハハハ!! と言うけたたましい笑い声と共に、民家の屋根を飛び移って行く道化師を、黒ずくめの男は無言で見送り‥‥。
そして、傍らで眠り続けている女性の身体を、近くの民家へと運び込むのであった。
翌日、所変わって冒険者ギルド。
――それは、余りにも意外な来客であった。
聖夜祭が近い為か、珍しく人気のないロビー。
その中で受付係が昼食を取ろうと席を立った瞬間――背後から掛けられたのは、呼び止められる声。
振り返れば、カウンターの向こう側に黒ずくめの男が立ち竦んでいた。
「‥‥‥‥」
「‥‥ええと、何か御用でしょうか?」
無言で対峙したまま、ふと口を開くのは受付係。
すると、彼は被っていた漆黒のフードをはらりと降ろし‥‥。
「!! あ、貴方は‥‥ッ!!?」
「‥‥静かにして貰おうか」
次の瞬間、死角を縫う様にして喉下に突き付けられたのは、小振りのナイフ。
受付係は声も出せず、ゴクリと喉を鳴らしながら男――『L.D.』の顔を睨み付ける。
「‥‥案ずるな。危害を加えるつもりは元より無い‥‥」
言いながら、スッとナイフを引く『L.D.』。
次いで今まで息をする事も忘れていた受付係が肩を大きく上下させると、その様子を見据えながら黒いフードで再び顔を隠し。
「‥‥此度は、貴様等冒険者に警告をしに参った」
「は‥‥? 警告‥‥?」
唐突に切り出す『L.D.』に、受付係は目をパチクリさせる。
「左様‥‥この街に潜み、今この時にも民の魂を狙わんとする輩‥‥それを放置しておくつもりか、とな‥‥」
「タマシイを狙う‥‥!? ま、まさかそれは‥‥!?」
身を乗り出す受付係に、小さく頷く『L.D.』。
そして、彼が伝えるのは――『睡魔の繰り手』と言う、道化師の様な姿をして居るとカオスの魔物の情報。
その特徴を伺うに、どうやらそれは先日ウィルに攻め込んできたカオスの魔物の軍勢‥‥それらを率いていたと見られる、上位の者に相違無さそうだ。
――だが、ここでふと思い直す。
別方面の情報に因れば、彼が身を寄せるのは盗賊集団『ライアーズトリオ』、その首領もカオスの魔物と手を組んでいる筈。
そんな立場の者が言う事を、果たして信じてしまって良いものか、と。
「‥‥信じぬのであれば、勝手にするが良い。ただし、どれ程の民が犠牲になる事やら知れぬがな‥‥」
「‥‥」
確かに、彼の情報がもし真実であったとすれば、これは大変な事である。
おまけに、先日もカオスの魔物の軍勢がウィルへ押し寄せてきた事もありき‥‥それを完全に撃退できては居ない以上、最悪事態が重なって起こる事さえも考え得る。
ここは無駄足覚悟で‥‥騒ぎを大きくしない様迅速かつ慎重に、解決してしまうのが吉か。
と、考えを巡らせている間に、『L.D.』は既に踵を返し、立ち去ろうとしていた。
その背中を呼び止めようと口を開いた瞬間、声が出るよりも先に止まる足。
「‥‥そう、言い忘れていたが‥‥この事は、くれぐれもアレックスには知られぬ様‥‥さもなくば、貴様の命は無い‥‥」
「は!? ふ、伏せておく分には一向に構いませんが‥‥それはまた、どうして‥‥?」
受付係が尋ねれば、『L.D.』は僅かに顔を此方へ向け。
「‥‥クリスマスプレゼントだ‥‥」
そう言い残し、足早にギルドから去って行った。
●リプレイ本文
●入念な準備
「情報提供感謝するぜ。そう言う訳だから、事が済むまで余り家から出ない様にしてくれよ」
街中で聞き込みをしながら、その様に広めて回るのはオラース・カノーヴァ(ea3486)。
『L.D.』からの情報を信じるのであれば、ウィルへ侵入してきたカオスの魔物の目的は、民の身柄。
ならばこうしてその一人ひとりに外出を控えさせれば、被害を減らす事が出来るのでは無いかと踏んでの行動である。
しかし、その情報源が情報源であるが故か、彼の想定していた以上に今回の事件について知られておらず‥‥。
「こいつぁ、徹底するとなると思った以上に骨が折れそうだな」
苦笑を一つ浮かべながら呟くオラース、その一方で‥‥。
別の場所で聞き込みに当たっていたのは導蛍石(eb9949)に雀尾煉淡(ec0844)、そしてサポートのゾーラク・ピトゥーフ、以上の三名。
彼らは実際に道化師と遭遇し、催眠術を掛けられたという女性の案内の下、その現場へと赴いていた。
「それにしても、催眠術が揺り起こせばある程度簡単に解けるものだったとは‥‥。フレッドさんの言う『目を合わせると』と言う発動条件に関しては定かではないにしても‥‥それならば万一術に掛かったとしても、多少は気楽に望めるかも知れません」
「けれど、お話に因れば起こされるまではまるで死んでいるかの様に眠っていたとの事ですし‥‥もしかすると、起こされなければそのままずっと眠り続けて居る所だった可能性もありますね。何にせよ、対峙している最中に術中に嵌ってしまえば、危険な状態に陥れられる事には変わりないでしょう」
彼女やその身柄を預かっていた民家の者から聞いた話を鑑みて、推測を立てる面々。
何にせよ、この時点で一つだけ明らかになった事がある。
それは――『L.D.』のもたらした情報の真理性。
被害女性が眠ってしまう直前に見た『道化師』の姿、そして眠った彼女を民家へと運び込んで来た『黒ずくめの男』。これらの証言が、それを裏付けている。
とは言っても、彼の真意は未だ知れないが‥‥それでも魔物の存在自体に疑いを持ったまま臨む事になるよりは、幾分かマシである。
そして辿り着いた事件現場。
煉淡とゾーラクが遭遇当時の時間を伺いつつ、唱えるのは過去視の魔法パースト――。
「‥‥間違いありませんね。『道化師』と呼ぶべき魔物は‥‥確かにこのウィルの街中に存在して居る様です」
「ふーん、道化師ね‥‥」
同じ頃、ウィルに佇む教会の書庫で呟く様に漏らすのはアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
「‥‥いい度胸だ。俺の前でそんな格好で現れた事には存分に後悔してもらわないとね」
かく言うアシュレーの装いも、まさしく道化師そのもの。
どうやら彼は、自分と同じく道化師の姿を取る睡魔の繰り手が、どうしても気に食わないらしい。
微笑を浮かべながら目は据わっている彼の表情を見れば、その程度が窺って取れる。
「‥‥アシュレーさん、これを」
ふと其処へ、一冊の本を手に声を掛けてくるのはフレッド・イースタン(eb4181)。
彼が広げて見せるのは、ジ・アースにおけるデビルに関する事の纏められた古い書物。
そう、今回カオスの魔物と相対するに当たって、デビルの中で似た様な存在の情報が無いものかと、教会の書庫閲覧を提案したのは他ならぬフレッドであった。
そんな彼の予測は見事に的中し――その中の1ページには、道化師の姿をしていると言う魔物についての記録が綴られていた。
「どうやら『ニバス』と言うデビルが、『睡魔の操り手』に酷似して居る様です。これに因ればニバスは体長が約1.5m程度の人型で、闘気に関わらない幻覚攻撃を用い、そのまま深い眠りを誘ってくる他、月精霊の力を借りた魔法を行使して来る、と‥‥」
「なるほどね、ニバスか‥‥。特徴なんかを考えても、今回現れたカオスの魔物とは全くの別物、と言う事は無さそうだね」
「ええ、ただやはり攻撃に対する耐性に関しては、何も書かれていない様です‥‥」
言いながら視線を落とすフレッド。
とは言え、彼の抜かりない前準備のお陰で、一先ず今回相対する敵に関する情報は得る事が出来た。
これは、大きな貢献と言えるだろう。
「まあ、後は色々試しながら兎も角矢を打ち込んで見るだけさ。‥‥相手が倒れるまでね」
「ええ、耐性があると言っても、もしかすると完全耐性ではないのかも知れませんし‥‥。私が弓で援護をしている間に打撃の機会を生み出せる様、期待しています」
●麗しき囮
かくして、アトランティスの地‥‥ひいてはウィルの街に、夜が訪れる。
今宵は普段にも増して人気が少ない事に加え、人間の魂を欲するカオスの魔物が何処かに潜んで居ると言う事実が、都を包む夜闇をより深いものとしている気がして――。
そんな中、物陰に隠れながら通りを窺うのは冒険者達。その視界の先に捉えるは、暗がりの中を並んで道往く麗しい二人の女性と一頭の白馬の姿。
‥‥実は、ミミクリーと理美容技術により変装した煉淡と蛍石、及び布で羽を隠したペガサスだったりする。
一見すれば二人は、背こそ高いもののか弱そうな淑女そのもの。どう見てもカオスの魔物を討たんとする冒険者達には見えない。
――睡魔の繰り手を誘き寄せる為の囮を務める彼女‥‥いや、彼等二人は当然の如く、その様子を窺いながら待ち伏せする一同を包むのは、不可視ながら確かな神の守護、レジストデビル。
そしてカオスの魔物が近付くと中の蝶が羽ばたく宝石、石の中の蝶を数名が持ち寄り‥‥尚且つ蛍石に至っては、生命無き者を探知する魔法デティクトアンデットを何度も掛け直しながら、道化師接近時に即座に対応出来る様備えている。
彼らの準備は、まさに完璧だった。
――ホー。
「「「っ!!?」」」
唐突に背後から聞こえた声に、振り返るのは弓を構える待ち伏せ組の三人。
その中で今回の敵の道化師、その行動指針についての推測を立て、自分達の周囲をも警戒していたオラースは待っていたとばかりに逸早く矢を番える――が。
「‥‥何だ、梟か」
チッと舌打ちを打つ彼に倣い、他の二人もゆっくりと弓を降ろす。
――だがしかし、この時もし街中に梟が居ると言う事への違和感に、咄嗟に気付ける者が居れば。
「あれェ? おかしいナ‥‥何でキミ達には幻覚が効かないのカナ?」
「「っ‥‥!?」」
――囮の二人の背後に突如現れた道化師にも、即座に反応できたかも知れない。
●睡魔の繰り手
「そんな‥‥認識はしていたのに、何時の間に背後に‥‥!?」
余りにも突然の敵の出現に戸惑い、一瞬の判断を鈍らせる蛍石。そしてそれは、煉淡も同様。
ジリッと後退りする二人の下へ。
「煉淡、蛍石!! 避けろっ!!」
響くアシュレーの声に従い、咄嗟に左右に飛び退く二人。
次の瞬間、今まで微動だにせず立ち竦んでいた道化師の身体へ、三本の矢が飛来し――。
そして、擦り抜けて行った。
「な‥‥!? まさか月魔法の幻影‥‥っ、後ろです!!」
フレッドの声と共に、再び背後を振り向く囮の二人。
すると蛍石の足元の影から微かな黒いもやを纏った道化師が、不気味なまでに口元を引き攣らせながら笑みを浮かべるその顔を、ひょっこりと覗かせていた。
「くっ‥‥こいつらは俺に任せて、早く道化師を!!」
「分かりましたっ!!」
その頃、待ち伏せ班を襲っていたのは先程の梟に加え、猫や鼠等の小動物たち。
どうやらカオスの魔物の術によって、操られているらしい。
それらを回避に長けたアシュレーが食い止めている間に、フレッドとオラースは再度弓を構え‥‥。
そして放たれた矢は、今度こそ道化師の身体を射抜いた、筈だった。
「クックック、効かないネェ?」
言葉通り、弾かれた矢はカツンと言う音を立てて、石畳の上に横たわる。
「くっ‥‥耐性か! ならばっ!!」
恐らく耐性の根源は、道化師の身体を包む様に漂う黒いもや。それを解除しようと蛍石はニュートラルマジックを詠唱する。
‥‥が。
「ヒャハハハ!! 無駄無駄!! ちょっと前にも同じ事を試した奴が居たケド、そんな魔法じゃこの力は破られやしないヨ!! ナンて言ってる間にカオスフィールドっト☆」
――ボシュゥッ!!
瞬間道化師の身体の周囲にまた違った黒い霞の様なものが漂ったと思えば、結界によってアシュレーの放った矢が阻まれる。
「あれはデビル魔法の‥‥っ、くそっ!!」
悔しげに歯噛みしながら、間髪入れずに背後から襲い来る小動物達の方を、再び向き直るアシュレー。
まるで今までに一撃も与えられていない冒険者達、そんな彼らを嘲笑うかの様に道化師は高笑いを上げ――。
「――ゲフゥッ!?」
「‥‥調子に、乗るなよ?」
麗しい姿からは想像も付かない様な凄みの効いた声を響かせながら、結界の内側に佇む煉淡の手から放たれたのは――ブラックホーリー。
達人級の難易度を誇る詠唱を成就させ、生み出されたそれは‥‥今まで全く攻撃を受け付けなかった筈の道化師に対し、明らかに大ダメージを与えていた。
「な、ナンだ‥‥ナンなんだソノ術ハッ!?!?」
今までとは一転、顔では笑っていながら声には明らかな動揺の色を滲ませる道化師。
ふら付きながら立ち上がった彼は、次の瞬間――踵を返し、一目散にその場から駆け出した。
「待て、逃がすかっ!!」
続けて高速詠唱により紡がれるブラックホーリー。
だがしかし、動きの機敏な道化師は寸での所で結界から飛び出し、黒の光は彼に届く事無く。
――このままでは逃げられる!
シュンッ!!
「ナっ!!?」
唐突に、道化師の身体を横に凪ぐ様に煌くのは、不自然なまでに伸ばされた手に握られた剣。そして繰り出される斬撃。
――見れば、道化師の正面の道の先には、黒ずくめの男の姿があって。
咄嗟に跳躍し、上空に逃れる道化師。
「‥‥結界は打ち消しました! 今です!!」
蛍石の声が響けば――。
「射線を阻む物は無くなった‥‥! 射撃のプロフェッショナルとしては‥‥外す訳にいかないね!」
アシュレーの天鹿児弓から放たれたホーリーアローが、夜空を裂き――。
「ぎゃ嗚呼アぁぁァアアアあァァ!!? 目がっ、目がアァァァああッ?!!!」
見事に道化師を射抜くと、その身体を路上に撃ち倒すに至る。
其処へ一直線に駆け込んで来るのは――太刀「鬼神大王」を構えるオラース。
魔を断たんと言う意思一つに満ちたその形相もさる事ながら‥‥太刀の鍔へ僅かに当たる月光、そこから映えた影に、鬼の姿が垣間見えた様にさえも思え――。
「ヒッ‥‥ひイぃいィイいいいッ!!!?」
道化師の恐怖に歪んだ笑顔は。
「覚悟しなッ‥‥このカオス野郎っ!!!」
――全力を持ってして振り下ろされた刃の下、霧散する様に消滅して行った。
「‥‥どうやら、完全に討ち果たす事が出来た様だな‥‥」
勝利の余韻に浸る間も無く、呟き踵を返すのは、先程睡魔の繰り手の逃走を食い止めた黒ずくめの男――『L.D.』。
冒険者達はハッと我に帰り、その後姿を呼び止めようとするも‥‥振り返る事無く、彼はそのまま夜闇に溶け込む様に姿を消して行った。