藪の中からSOS(主に貞操的な意味で)
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月04日〜01月09日
リプレイ公開日:2009年01月13日
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●オープニング
「あかんあかん、すっかり遅うなってしもたっ」
とある日の夕暮れの事。ウィルからそう遠くない森の中を、慌てて駆け抜ける一人の人影があった。
その正体はパラの自称トレジャーハンター、ティーナ・エルフォンス。
ここ数日間ウィルを離れていた彼女は、種族特有の身軽さと土地勘を生かし、森の中を突っ切るという荒業的な近道を持ってして都へと戻ろうとしていた。
‥‥のだが。
ガササッ!!
「ぎゅぶっ!?」
生い茂る藪の中を抜けようとした途端、唐突に襟首を何かに引張られ、くぐもった声を上げるティーナ。
ゲホゲホと咳き込みながら首を後ろに向けてみると‥‥そこにあったのは、まるで吸い付く様に衣服にくっ付く、蔦の様な植物の茎だった。
その表面は見れば小さな棘がびっしり生えていて。成程、どうやらそれが布に絡まった様だ。
ティーナはやれやれとばかりに溜息を吐き、身を捩って抜け出そうとする。
‥‥だがしかし、どう言う訳か引っ付いた蔦は取れる事無く、寧ろ手足までもが他の蔦にくっ付いてしまって‥‥。
そうこうしている内に気が付けば、彼女は四肢を広げた状態で全く身動きを取れない状態に陥ってしまっていた。
「うへぇっ‥‥な、何やのこれ?」
ゆさゆさと身体を揺らしてみるも、一向に服から蔦が離れる気配は無い。
これは可笑しいとばかりに、蔦の一本を良く観察して見てみると、何やら白いべとべとする粘液の様なものが、所々にこびり付いている。
それはこの植物が自然に分泌したものなのか‥‥何にしてもどうやらこれが、服を蔦から離れなくしている本当の要因らしい。
「あぁっ、もう何やのこんな所で〜っ! えぇいっ‥‥はっ、HA☆NA☆SE」
強引に身を捩り、腕を振るい、足をばたつかせ、何とか脱出しようと試みるティーナ。
すると気が付けば、その衣服が段々と肌蹴てきていた。
襟口から覗かせる真っ白の右肩はうねる様にのたうち。普段から露出しているお腹の辺りから段々と捲くれ上がってきたトップスから、種族柄の見た目に反してさり気にそれなりの盛り上がりを見せる胸部の下半分が顕になって。そして仕舞いにはミニのスカートまでもが(以下規制)。
「くっ‥‥ふんっ‥‥!」
その顔に浮かぶのは、明らかな羞恥の色。
実は恥ずかしがりやなティーナさん、人目が無いからこそこうして強引に脱出しようと試みているが、もしこんな姿を誰かに見られでもしたら‥‥禁忌を省みず、穴を掘って埋まりたがる事必至である。
何にしても、早い所脱出しないと‥‥。
「ブルルル‥‥!」
「‥‥はい?」
背後から聞こえた妙な息遣いに振り返れば‥‥そこに居たのは、巨木の様に立ち聳え、ティーナを見下ろす何か。
――ミノタウロス。黒い雄牛の頭にジャイアントの身体を持ち、人を見れば襲ってくる危険なオーガである。
だが、この種族にはもう一つの特徴があって‥‥そう、所謂ミノタウロスには、雄しか存在しないのだ。
故に、人の形の女性を見境無く攫うと言う、悪評しか着いて回らない行動を本能で起こす様な‥‥‥‥って!?
「ブルァァァァァ!!!」
「い゙ーーーーーや゙ーーーーーーー!!!?!!?」
案の定手に持っていた斧を投げ捨て、ティーナに向かってダイブを決め込んでくるミノさん。
そして当のティーナはと言えば‥‥どうしても蔦から離れない服達を見捨てて、その場から一目散に逃げ出して行った。
――――。
『と言う訳で、ウチは今現場近くの洞窟に隠れてはる。
何とかして服を取りに行きたい所なんやけど、こない格好でまたミノタウルスにまた会うてしもては、色々終わってまうし‥‥せやけどこのままやと凍えて死んでまいそうなんや!
お願いやわ、助けに来てな!!』
「‥‥‥‥」
一部始終と共にそんなメッセージの綴られた手紙を片手に――そしてハーブティーのカップをもう片手に、固まる事数分。
受付係は、鼻やら口やら色んな所から芳しいハーブ抽出飲料を吹き出していて。
「‥‥なにやっでるんでずが、あのびどば」
呟きながら、渋々とばかりに羊皮紙にペンを走らせる。
と言うか取り合えず、受付係さんは顔を拭いた方が良いと思います。
●リプレイ本文
●懸念
ある者は徒歩で陸路を、ある者はペットの機動力を借りて、件の現場へと集まった冒険者達。
目の前には、森の木々に絡まる様にびっしりと生え乱れ、往く手を阻む蔦、蔦、蔦。
「うわぁ‥‥」とばかりに其方を見遣る仲間達へ、チラリと目を向けるのはレオン・バーナード(ea8029)(以下レオたん)。
(「女の人多いな‥‥。普通の冒険中でも一緒に寝起きしたりする以上着替えとか色々気を使うし、女性のほうが多いと男衆のほうが小さくなって過ごすこともあるんだよなぁ。ましてや今回は万が一なことが起きたら‥‥」)
眼福とばかりに飛んで喜ぶ、と言う訳にはいくまい。
(「ある意味本能で突っ走れるミノタウロスが羨ましい‥‥」)
何やら縮こまっているレオたん‥‥何となくその心中を察した鳳レオン(eb4286)(以下鳳)とキルゼフル(eb5778)は苦笑を浮かべ。
「しかし、ティーナに会うのは久しぶりになるはずだが、短慮とツキの無さは相変わらずみたいだな。もうすこし冷静になってくれれば、もっと『精霊の瞳』探しも進むと思うんだが‥‥」
「まったくだぜ。ティーナは呆れた奴だが‥‥見捨てる訳にもいかねぇな」
「ああ、この寒空に女の子が素っ裸ってのは、さすがに可哀相過ぎるな。早い所――」
「『覚悟』とはっ!!」
――唐突に響いた声に皆が肩を震わせる中。
いつも以上に凛々しい表情で、声を張り上げていたのはシャルロット・プラン(eb4219)
「犠牲やサービスシーンを強いる心ではない。いざ参らん、藪の中から1004!!」
‥‥何だか、テンションが上がっていらっしゃる様子で。
ともあれ、彼女の声に続く様にしてフルーレ・フルフラット(eb1182)も拳をギュッと握り締め。
「着ている服を失った上に興奮気味のミノタウロスに追われている‥‥まさに、オトメのピンチ。急いで助けに向かわねばっ!」
「そうですね〜。手紙を届けたシフールさんにも場所は聞いてきましたし、ブレスセンサーにも反応はありましたから、まずはティーナさんの所へ向かった方が良いでしょう」
ソフィア・カーレンリース(ec4065)がそう促せば、仲間達も大きく頷く。
かくして、一同はフルーレやソフィアの案内の元、巧い具合に藪を避けながら、哀れ裸一貫のティーナの待つ洞窟へと向かって行った。
●こんな干支イヤだ!
「‥‥お。ティーナの様子はどうだった?」
洞窟から出てきた女性陣に鳳が尋ねれば、ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)は僅かに笑みを浮かべ。
「そうですわね。微熱はあったものの、それ程酷い凍傷も無く、思った以上に元気そうでした」
彼女の言葉に、仲間達もほっと表情を緩ませる。
「まったく、手間掛けさせやがって。取り合えず、何ともねぇなら何よりだ」
「そうだな。ジャクリーンさんが用意した服もあるし、おいら達がミノタウロスを倒す頃には、すっかりいつも通りになってそうだな」
もっとも、この状況下で相手をするのは、そう簡単じゃ無さそうだけど‥‥と、周囲を埋め尽くしている蔦をざっと見遣りながら苦笑を浮かべるレオたん。
何にせよ、この蔦の性質を熟知していない事には、危なくて仕方ない。
取り合えず手近な蔦を切り取ると、色々な物にくっ付けて実験をしてみる一同。
「なるほど〜、やっぱり前情報の通り革や布に良く付いて、素肌や金属なんかには殆どくっ付かないみたいですね〜」
「それで居て、くっ付くものに対してはほぼ瞬間接着剤‥‥しかも、力ずくじゃ簡単には剥がれないときた。なんなんだ、まるでこの『服を剥く』為だけに存在する様な植物は」
鳳が愚痴る様に呟けば、思い出した様に石の中の蝶に目を向けるソフィア。
‥‥だが、反応は無い。
「この蔦も魔物か何かと思っていたんですけど、どうも違うみたいですね〜。それに誰かが仕掛けたにしても、こんな一杯だと凄く大変でしょうし‥‥」
「まあ一先ずは、敵はこの蔦の他にミノタウロス一匹しか居ない様子ですし、早い所退治してティーナさんをもう一度迎えに来ましょう」
と言う訳で。ソフィアのブレスセンサーにより、あっさりと見付けられたミノタウロス。
その周囲には、これまた嫌がらせかと言う程に例の蔦がびっしりと絡まり合っていて‥‥。
相手はどうやら此方に気付いていない様子と言え、このままでは近付く事さえ叶わなそうだ。
そこで冒険者達は、ウィンドスラッシュの魔法や各々の持つ刃物で周囲の蔦を切り分け、最低限のスペースを確保しながら尚且つミノさんの注意を引く事にした。
すると物音に気付いたミノタウロスは此方へ眼を向け‥‥。
かと思えば途端に鼻息を荒くし、一同へ向けて一直線に突っ込んで来た。
そんな彼に、先制攻撃とばかりに矢を放つのはジャクリーンと鳳の二人。
‥‥だが、ミノタウロスが動けば当然周囲の蔦も動いて。
「くっ‥‥藪の濃さに相まって、こうも蔦が不規則に動くと狙いが‥‥!!」
超越級の射撃の腕前を持つジャクリーンの放った矢さえも、ミノタウロスに辿り着く直前に蔦に阻まれ届く事は無く。
どうやらある程度開けた場所でなければ、遠距離攻撃を当てるのは難しそうだ。
一旦後退する二人と打って変わって、各々戦闘準備をするのは近接戦闘を想定した装備の面々。
フルーレにレオたんはミノタウロスを見据えながら剣を構え、キルゼフルは両手の刀の他に更に口にダガーを銜えると言う変わった戦闘体制を取り、そしてシャルロットは白金製のローブをはためかせる。
「我々は万全を期した。‥‥いざ参らん!」
彼女の声と共に、角を突き出しながら藪を突破して来るのはミノタウロス。
その突撃をある者は左右に跳んで避け‥‥フルーレだけはその正面に立ちはだかり、受け流そうとしていた。
「っ‥‥! くぅっ‥‥!!」
左手のインビシブルガントレット越しに伝わって来るのは、想像していた以上の衝撃。
格闘技能に秀でた彼女と言えど溜まらずによろめき、2、3歩後ろへ――。
ガサガサッ。
「‥‥はい?」
よろめいた彼女の身体は、背中に両腕を何かに支えられた事で安定した。
――この状況下で最も聞きたくなかったであろう音と共に。
彼女は女性らしい体型を持つと自覚している故、最初から自ら囮となるつもりではあったのだが‥‥流石にこれは囮と言うよりも『据え膳』と言った方が適切な感じで。
両腕を開いている姿勢故か、呼吸と共に服の下で妙にふっくりと自己主張をしている丸い何かを上下させるフルーレと‥‥。
色々逞しい身体に腰巻一丁で、鼻息を一層荒くしているミノさん。
(「で、でかくてうらやましいとか‥‥思ってないぞ」)(誰かの心の声)
――何の話なのかは、追求しないが吉だろう。うん。
「‥‥く、来るなッスーーーーーーっ!?!?」
「くそ、フルーレ!!」
慌てて予備用に携帯していたナイフを手に、助太刀に入ろうとする鳳。‥‥だが。
「むがっ!?」
絡まった誰かがわっしゃわっしゃともがいている故か、突然予想外の方向から飛び出て来た蔦に絡め取られてしまい。
「って、ソフィアにキルゼフル、それにレオンも‥‥(汗)」
同じく身動きの取れなくなっている仲間達を見て、あちゃーと言った具合に頭をもたげる鳳。
それでも何とかミノタウロスを凍らせて足止めできないものかと、アイスコフィンの魔法を唱えてみるも‥‥術の有効範囲からは遠すぎる様子。
ソフィアの魔法も、仲間を巻き込んでしまいそうで中々放つ機会が見出せず‥‥何とか蔦に絡まっていないジャクリーンも、中々思う所に位置取りが出来ていない為、矢による援護も間に合いそうにない。
これはまぢで乙女のピンt
「させませんっ!!」
ザクッ、と、ミノさんの背中に突き刺さるサンソード。
それは直感力が鋭く、故に予測困難な蔦に絡まれず立ち回る事の出来ていたシャルロットの物だった。
「ブルアアァァァァァ!!!」
激昂と共に、手に持っていた斧を振り返り様に力任せに振り下ろすミノタウロス。
それを即座に避けたシャルロットは、続く攻撃に移ろうと地を蹴って‥‥。
「む」
だがしかし、身体は思わぬ力に引かれ、後方に引き戻されてしまう。
見れば、回避の弾みに突っ込んだ藪、その蔦の棘にプラチナローブの金属繊維が絡まってしまっていたらしく‥‥。
更には今の動作で、それ以外の衣服もぴっちりと粘着してしまったらしい。
ミノさんの注意もバッチリ彼女の方へ。
(「Q:この場合どうする」)
(「A:職務を全うするため、脱ぐ!」)
一瞬の自問自答。かと思えば、彼女は――。
一方その頃、他の仲間達はと言うと。
「男の俺達が‥‥」
(「素肌を見せるのを躊躇うって、どうよ!」)
レオたんとキルゼフルは一つ頷き合い、瞬間身に纏っていた服を抜け出る様に脱ぎ捨てると、ミノさんへと向かって行く。
若干小柄ながら意外と逞しいレオたんは褌一丁、対して口に銜えた短刀を駆使して最低限の蔦を取り除いていたキルゼフルは、何とか上着を脱ぐだけで済んでいた。
そのレオたんよりも更に小柄ながら更に筋肉質で逞しい身体付きに、世の女性はメロメロとか何とか。――今はそれどころではないけれど。
そして、今まで顔を真っ赤にして俯いていたフルーレも。
(「‥‥お婿を貰う前のこの身なれど、乙女の貞操が掛かっているとあらば致し方なく!」)
もはや開き直ったか、彼女も身を捩り――。
そして、露になったのは透き通るような白い柔肌、普段背筋をピンと伸ばしている為か、そのラインはもはや美しいと表現する他無く。
「見 な い で 下 さ い ッスーーーーーー!!!」
左腕と唯一つの相棒たる天界製下着(こんな事もあろうかと、ギルド側が用意して下さいました)で色々隠し、半狂乱になりながら剣を振り被って突撃して行くフルーレ。
少し離れた所では思わず目を見開き、かと思えば努めて視線を逸らす天界人男性の姿があったりもしたが。
ともあれ、半裸で駆け付けた三名が辿り着く頃には。
「ブギャアァァァァ!!!?」
「男女見境なしか。所詮畜生」
あ‥‥ありのまま今起こった事を話すぜ!
新年早々牛男が、鎧越しでも分かる程にナイスなバディを持ち合わせている上に、今はその白い肌を存分に晒しているであろう半裸の騎士団長を襲ったら、実は彼女はイケメン化していて逆襲の急所蹴りを(以下略)。
‥‥いえ、もう、何と言うか。
禁断の指輪、恐るべしと言わざるを得ない。
「そ、そんな、それじゃあおいらが女体化までした意味って‥‥」
‥‥はい?
レオたんの居た筈の場所を見れば、そこには何やらチョコンとして可愛らしい容姿の割に、矢鱈に豊満な体型で裸同然の少女が――――え、何、MA☆SA☆KA。
「うわぁ、おっきぃですね〜」
その様子を見ながら、洋服の上に着ていたボロの服(2着目)を切り剥がし、蔦からの脱出に成功していたソフィアが感心した様に呟く。
いえ、人の事を言えないと思いますが、貴女は特に。
何にせよ、禁断の指輪、恐るべし。(大事な事なので二回(ry))
そして、こんな状況に雄なミノさんが反応しない訳が無い。
蹴られた痛みさえも乗り越え、ブォンと腰巻を逆巻かせるその気迫の正体は煩悩か、それとも煩悩か、はたまた煩悩か。
スパッ。
「!?!?!?!!?」
瞬間、白に近い肌色の風が過ぎったかと思えば、ミノさんの(ゴニョゴニョ)が、持ち主の身体から綺麗に切り離されていて。
惨い、惨すぎる。
(「またつまらねぇモンを斬っちまったぜ」)
フッと息を吐きながら、右手に携えた凶刃を振るって血を払うのはキルゼルフ。
「‥‥せめて、最期くらいは」
「苦しまない様‥‥」
痛々しさ余りに目を塞ぎながら、並んで弓を引くのはジャクリーンと、彼女の助けにより蔦から脱出する事の出来た鳳。
二人の放った矢は、見事に無慈悲にミノさんの眉間と失った『アレ』の部分に命中し‥‥。
かくして、女性の敵たるミノさんは生涯一度にして至上の眼福と言う冥土の土産を胸に、息を引き取るのであった。
●着痩せ万歳
「お待たせしました、ティーナさん。ミノタウロスは無事――」
「‥‥!?!?」
あ、そういえばまだ禁断の指輪の効果時間が残ってたような。(シャルロット談)
と言う訳で、改めてティーナを迎えに洞窟の前に集まった冒険者達‥‥の中に、何だかどんよりしているメンバーが2名程居るものの、掛ける言葉が見当たらない‥‥。
ともあれ、行き掛けに着換えを渡した筈なのに、どう言う訳か彼女は未だ一糸纏わぬ姿のまま震えていた。
「だって、どれもこれも胸んトコがスッカスカなんやもん! 嫌味かっ、嫌味なんかっ!!」
洞窟の中から響いて来るのは、半泣きなティーナの声。
「う〜ん、やはり私の服ではサイズが合いませんでしたか‥‥」
顎に手を当てながら言うジャクリーンに、全く悪びれた様子は無い。
‥‥実は彼女、普段の中性的な洋装とは裏腹にとっても着痩せするタイプらしく‥‥。
\(^o^)/ ←ティーナの心境。
「あ、でもこれなんかサイズぴったりじゃないですか〜?」
そう言うソフィアがティーナに勧めたのは‥‥。
「そ、それって‥‥」
ジャクリーンの影に隠れる様にして、洞窟から出て来たティーナの身を包んでいたのはチャイナドレス。
そのスリットは何だか不自然な程に深く、健康的な生足が見え隠れしてしまっている。
どうやらこれだけはジャクリーンの私物では無い様で、だとすると一体誰が――。
「‥‥いや、一応万一の為にだな‥‥」
何やら目を逸らしながら、しどろもどろに弁明するのはキルゼフル。
あ な た で す か。
「うぅ、めっちゃ恥かしいけど、背に腹は代えられへんし‥‥とりあえずウィルまではこれでっくちゅん!!」
ティーナの言葉はくしゃみで遮られる。
そんな彼女に、キルゼフルはついっと毛布を差し出し。
「‥‥しっかりしろ。てめぇにはまだやんなきゃいけねぇ事があんだろが?」
――そう、彼女には『精霊の瞳』なるものを探し出すと言う使命がある。
例え風邪をひこうと、牛男のせいで散々な新年を迎えていようと‥‥カオスの魔物の動向が激化した昨今、それだけはどうしても為さなければならないのだ。
「お前はあんまりツイてないんだから、必要ない時までリスク犯すなよ」
鳳がそう諭しながら頭を撫でれば、ティーナは小さくなりながらもしっかりと頷いた。
かくして、無事ティーナを救出し、ミノタウロスの討伐にも成功した一同。
新年早々に解決した依頼の間抜け振りを思い返しながら、誰しもが苦笑いを浮かべつつも‥‥その表情はどこか晴れやかで。
「――本年もこの世界に幸多からんことを」
何だかすっごい爽やかに輝きながらのシャルロットの言葉通り、今年もきっと良い年になるだろう。