でっかいにゃんこっ!
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月18日〜11月23日
リプレイ公開日:2007年11月24日
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●オープニング
――ふな〜〜〜〜〜〜ん。
長閑な村に響く、気の抜ける鳴き声。その原因は、今期収穫されたばかりの麦藁に巨体を横たえ、ゴロゴロと地面を転げまわっている。
じゃれているのか、はたまた寝苦しくてうなされているのか。もっとも村人達にとっては、そんな事どうでも良い。
取り合えず、自分達が目にしている現実を受け入れる事に、皆精一杯で‥‥言葉が出なかった。
――ふにぃ〜〜〜〜〜〜。
そんな彼らを嘲笑うかの様に、またもや響く気の抜ける声。
ごくごくありふれたこの農村は今、とっても愉快でもの凄く深刻な大問題に直面していた。
「大きな猫‥‥ですか?」
目をパチクリさせながら聞き返すのは、冒険者ギルドの受付係。
と言っても、深刻な顔をして現れた青年から開口一番出てきた言葉がそれでは、無理も無いだろう。
「え、ええっと‥‥それは、どの位の大きさで?」
ハーブティーに手を伸ばしながらの質問に、青年は腕組みする。
「そうだな‥‥大体、大人の熊くらいの大きさだな、ありゃぁ」
「ぶっ!? ゴホゴホッ!!」
思わず口に含んだハーブティーで噎せてしまう受付係。それはそうだろう、そんな生物がこの世に存在していては堪らない。
「堪らないったって‥‥居るもんは居るんだから、仕方無いだろ。実際、あんなのに居座られてるうちの村の連中は、皆怖がって来年に向けた植付けをしようとしないんだから」
話す青年の表情はいたって真面目。どうやら、嘘では無い様だ。
「ふむ‥‥まあ確かに。いくら猫とは言え、そんな大きくては餌を与え続けるのも大変でしょうし‥‥」
と言うか、『餌を与え続ける』と言う発想は何処から出て来たのだろう。気になりはしたものの、何となく青年は突っ込まずに流した。
「‥‥気の毒ですが、追い払うしかないですね。分かりました、冒険者を募ってみましょう」
何となく残念そうに言う受付係。それでも青年は、取り合えずは対応して貰えると言う事に満足げに頷くと、踵を返してギルドを去ろうとした。
「あ、ちょっと待ってください」
そこを呼び止められ、受付係の方を振り返る青年。
「ちなみに伺いますけれど、その猫の毛色は何色でした?」
「へ? 毛色? あー、えーっと‥‥確か三毛だったかな?」
「そうですか、分かりました。‥‥熊並みの三毛猫‥‥‥‥♪」
呟きながら、楽しそうに依頼書をしたためる受付係。その顔にはニマニマ薄ら笑いなんか浮かべていて‥‥。
何だか気味が悪くなった青年は、逃げる様にギルドを後にした。
●リプレイ本文
●擦れ違い
巨大猫(?)の居座って居ると言う郊外の農村へ向け、足を進めるのは6人の冒険者達。
だが、出発の時点での彼らの思惑は、見事なまでに食い違っていた。
その中で特に顕著なのは、村人の為と猫(?)の為を思うならば村から追い出すしかないと主張するティス・カマーラ(eb7898)と、追い出すつもりならば猫(?)を護る為、依頼を放棄し皆と敵対する事も辞さないと言うルリ・テランセラ(ea5013)の二人。
双方とも猫(?)や村人達を思う心は同じなのだが‥‥こうなってしまうのは、考え方の違い故なのだろう。
目的地に着く前から、何やら不穏な空気の立ち込める一行。テュール・ヘインツ(ea1683)はそんな空気に耐え兼ねたのか、努めて明るく話題を振った。
「まあまあ、取り合えずどうするかはねこさん次第って事でさ! それよりも、僕お腹が空いて来たんだけど、この辺でランチにしない?」
「あ、それは良い考えなんだよ。うちお弁当持って来たから、皆で食べるんだよ。」
江月麗(eb6905)が言いながら、人数分の弁当をバックパックから取り出す。見た限り普通なそれは、フェリス・ペンデュラムが彼らの為にと早起きして作ってくれた物であった。
「わぁ、おいしそうですね。それでは、いただきます〜」
倉城響(ea1466)が手を合わせ、籠の中のそれに手を伸ばす。
――阿鼻叫喚が木霊した。
●猫と村人
個性爆発な弁当に苛まれながらも、何とか村に辿り着いた冒険者達は‥‥一番、驚くべき光景を目の当たりにした。
「ふな〜〜〜〜〜〜ん♪」
民家の裏に積まれた麦藁、その中でのた打ち回るのは、紛れも無い三毛猫‥‥多少白地が灰ばんでいたり、暖色部分が茶色に近かったりするが、汚れの範疇だろう。
それにしても、ギルドで話は聞いていたが、実物を前にするとこれがまた‥‥。
「大きいですね‥‥」
青い顔色(彼も弁当に手を付けた)のイコン・シュターライゼン(ea7891)が、感慨深げに呟く。
確かに、見た感じと鳴き声は猫そのものなのだが、大きさは熊か、下手をすればそれ以上。
しかも‥‥。
「子供達に懐いてますね〜」
そう、巨大猫の周囲には数名の子供達が群がり、猫と遊んでいるのだ。対する猫の方はと言うと、それを迷惑がっている様子は無く、むしろ楽しんでいる様にさえ見える。
「どうやら、凶暴な猫さんでは無い様ですね」
猫の様子に安堵の息を吐くルリ。そんな彼女を横目に、微笑みながらイコンが言う。
リーヴィルエネミーで敵意の有無を確認しようとしていたテュールも、その必要が無くなった事を悟り、僅かに表情を綻ばせた。
だが、周囲には猫と遊ぶ子供達を不安げな視線で見守る大人が数人。どうやら子供達の親御らしく、猫から我が子を引き離したいのだが、怖くて近付け無いと言った絵面の様だ。
「猫さんは、何も悪い事していないのに‥‥」
目を伏せながら言うルリ。そんな彼女を、複雑な表情で見据えながら。
「何にしても、村の人と猫さんの両方の意思を確認しないとね。それじゃあ、村長さんに会いに行こう」
ティスの言葉に促されるまま、何時の間にやら子供達と一緒になって猫とじゃれているテュールと月麗の二人を除いた冒険者達は、村長宅へと向かって行った。
●孤独のお嬢さん
やがて日もすっかり暮れた頃、この時期特有の肌寒さを感じながら、一件の民家の前に集まる冒険者達。
取り合えずは、村人達がやたらに怖がる余りに農作業が捗っていない事と、麦藁が片っ端から潰されている事(これも大して深刻では無いらしい)以外には、際立った被害も出ていないと知り、彼らは皆安堵に表情を緩ませていた。
そして、村の厚意で、今夜はこの民家に泊めて貰う事になっている‥‥のだが。
「るりは‥‥遠慮します」
ぞろぞろと建物の中に入っていく一同の後ろで一人、足を止めて言うのはルリ。
彼女は万一猫を追い出す事になった場合、依頼を放棄するつもりでいるので、村からの援助を受ける事に抵抗を感じているのだ。
そこまでに真剣に猫の事を考えるルリの志は、立派と言う他無い‥‥が、しかし。
「って、野営道具も保存食も持ってないじゃないか!? 無茶だよ!!」
慌てて引き止めるのはティス。何の用意も無い状態で、冬が近い寒空の下野宿するなど、いくらなんでも無謀過ぎる。
だが、ルリはそれでも首を横に振り。
「平気です‥‥ペットいるから‥‥」
そう言う問題でも無いのだが‥‥。
すると、響はそんな彼女の前に歩み出て、じっとその目を見据えながら肩に手を置いた。
「あらあら、大丈夫ですよ。もう、無理してまで巨大猫さんを追い払う必要は無くなりましたから。後は双方の納得できる解決策を講じるだけですので、ルリさんが依頼を辞退する事も無いでしょう?」
「そうだよー。明日から皆で力を合わせて猫と村人を説得するんだよ。だから今日は、ゆっくり身体を休めなきゃだよ」
響と月麗の言葉に、ルリはしばらく悩んだ末‥‥やがて、小さく頷いた。
――そこまで猫の身を案じる彼女の想いを、無下にする訳にはいかない。
それは、冒険者達の誰しもが思った事。
各々が新たに固めた決意を胸に、彼らの夜は静かに更けていった。
●会談
『ミーは大好きな麦藁の匂いにつられて、ここに来ただけにゃ。食べ物をくれてたりしたので気付かなかったけど、迷惑掛けてたなら謝るにゃ』
「‥‥だそうです」
オーラテレパスにより、巨大猫の言葉を通訳するのはイコン。
同時にペットのケットシーを介して猫と意思疎通を図るルリも、こくりと頷く。
「そりゃふかふかの麦藁は気持ちいいんだよ、お昼寝したくなるんだよ、羨ましいんだよ‥‥。あ、いけないいけない」
思わず漏れた月麗の言葉に、苦笑する一同。その中で、一人腕を組む響は。
「う〜ん。餌を与えていたとなると、やっぱり追い出すのは難しそうですね〜」
聞こえよがしに言う。それに続く様に、隣に居たテュールがふと口を開いた。
「だったら、いっそのこと村に置いといちゃえば? 人懐っこくて害も無さそうだしさ」
だが、そんな彼の提案に、周囲に集まっていた村人達の一部から不満の声が上がる。それはそうだろう。あんな大きな猫を養おうとしたら、どれだけの餌が必要になるか考えられたものではない。
「でしたら住まわせる代わりに、野鼠等の農地を荒らすものの駆除を行って貰えばどうでしょうか?」
イコンの提案に上がる「えっ?」と言う声。
「それは良い考えだと思います‥‥。エジプト‥‥ジ・アースのとある国にも‥‥」
ルリが話すのは、猫の姿をした豊作と家庭を守る女神の伝承。とは言っても、彼女の知識上大して詳しい説明は出来なかったが‥‥それでも猫と言う生き物が、農作業において如何に役に立つかを伝えるには十分であった。
「それに、これだけ大きな猫さんが居てくれれば、盗賊とかも襲って来なるでしょうね〜」
響の言う通り、こんな得体の知れない生物の居る村を襲撃しようとする盗賊など、そうは居ないだろう。
懸命な冒険者達の説得により、漸く折れた村人達。彼らは猫が望むのであれば、村に留まらせても構わないと言う事で合意した。
「それじゃあ、猫さんはどうしたいのかな?」
ティスの問い掛けを、イコンがオーラテレパスで通訳する。
『ミーは麦藁にじゃれて居たいだけにゃ。その為に手伝いをしろと言うのなら、喜んでするにゃ』
それが猫の答え。かくして、双方合意の下交渉は成立した事になった。
「良かったですね。村の為に、頑張って下さいね」
にっこりと微笑みながら、握手をしようと猫に手を差し出すイコン。そんな彼に、猫もその巨大な前足を差し出‥‥。
「ふなぁぁぁぁぁ〜ん」
「ふぎゃっ!?」
‥‥す筈が、勢い余ってイコンにネコパンチを見舞ってしまった。爪を立てていなかったのが不幸中の幸いか。
顔面に肉球模様を浮かべながら目を回すイコン。そんな彼を、一同は生暖かい目で見守っていた。
●別れは唐突に
「はぁ‥‥この村には結局胡瓜がなかったんだよ‥‥。胡瓜が食べたいんだよーーっ!!」
農村の中心で胡瓜を叫ぶ河童の月麗。長らく好物を口にしていない為、我慢の限界だったのだろう。
集まった冒険者達はそんな彼女に苦笑しながら、各々の捜索の首尾を伝える。
「あらあら‥‥それじゃあ、何処にもいなかったのですね。一体何処に行ってしまったのでしょうね〜」
響の暢気な声が、静かに響いた。
この日は依頼最終日。冒険者達はウィルに向けて発つ前に、一目巨大猫に会っていこうと思ったのだが‥‥朝になって探してみると、その姿は何処にも見当たらなくなっていたのだ。
残されていたのは、村のあちこちに散在する枯れた麦藁。どうやら、巨大猫は一通り遊んだ末、麦藁の状態が悪くなったと見るや、何処かに行ってしまったらしい。
「折角、村の人達に受け入れて貰えたのに‥‥」
悲しげに目を伏せるルリ。ティスはそんな彼女の肩をポンと叩く。
「やっぱりどんなに大きくても、猫は気紛れな生き物なんだね」
彼の言葉に、ルリは力なく頷く。
「でも、きっとまたいつか会えるよ。そんな気がする」
そう言うテュールの手に抱えられたボールは、彼の思い出が詰まった宝物。
ここで新しく巨大猫との思い出も詰め込んだそれを、テュールは微笑みながらバックパックに押し込んだ。
そして、冒険者達は村人達に見送られながら、ウィルへ向けて帰路を辿るのであった。