●リプレイ本文
●新年会開催
「新年会ですか。楽しそうですが、場所と主催者に不安があるのって私だけですかね?」
ウィルの街中、珍獣屋敷ことウルティム・ダレス・フロルデンの館へと続く街道を歩きながら、ボソリと呟くのはルエラ・ファールヴァルト(eb4199)。
彼女と並ぶソフィア・カーレンリース(ec4065)やシャリーア・フォルテライズ(eb4248)もその気持ちは分からないでも無いと言った感じではあるが、表情には不安など微塵も窺えない。
いや、ソフィアに関して言えば、そうでもない?
「颯君、どんな衣装を発注したのか結局教えてくれなかったからなぁ‥‥」
困った様な表情で言う彼女は、大分前に知り合った天界人の韋駄天小僧こと颯から強引に誘われ、今回の会に出席する事になっていた。
‥‥正確に言えば『コスプレコンテスト』に。
「ソフィアさんもですか‥‥」
かく言うルエラもコスプレコンテストに出場する事になっている一人だが、彼女も同じくコスチュームの発注を他者に任せていた。
‥‥それが誰かって?
少なくとも、助平とは言えまだ十一歳の少年に過ぎない颯よりも、余程危険な人物(失礼)である事は確かである。
――その頃の珍獣屋敷。
「っくしゅ! ‥‥うーん? 風邪かなぁ」
「違うと思うんだぜ」
――――。
「まあまあ。お二方ともどんなコスチュームが来るか分からない分、出来上がりが楽しみではありませぬか、ええ♪」
「そ、それはそうですが‥‥」
「何て言うか‥‥すっごく嫌な予感がするんですよ〜」
シャリーアの言葉にも、やはり二人は不安を隠し切れないと言った様子で、おどおどしながら応えるばかり。
‥‥だがしかし、かく言うシャリーアは別件で、問題のコスチュームを既に目の当たりにしていたりする。
「‥‥ナニヲニヤケテイルノデスカ、シャリーアサン?」
「え!? あ、いや、その様なことありませぬぞ、ええ!!」
据わった目のルエラに尋ねられれば、慌てて視線を逸らし誤魔化すシャリーア。
まあ、笑ってしまうのは何となく分からないでも無い、うん。
けれどシャリーアさん、貴女にとっても割と人事ではなかったりするのですが――。
「いや、その、なんだ。しかし、新年会とは、アシュレー殿も粋な事を考えなさる。此度の会を皆と大いに楽しみ、アレックスとの仲を更に深めたいな」
「あ〜、やっぱりシャリーアさんはアレックスさんと一緒に出場するんですか〜?」
「ん、勿論そのつもりだ。男役がアレックスで女役が私で‥‥‥‥」(/////)
「――〜し? もしも〜し、シャリーアさーん?」
‥‥‥‥。(顔の前で手をヒラヒラ)
――その頃の珍獣屋敷。
「‥‥ゴファシャッ!!!」
「は?」
「あ、否、失礼した。しかし、風邪でも引いてしまったか‥‥」
‥‥くしゃみだったらしい。
「アレックスさんに限って、それは無いと思うよー」
「だね。女三人集まれば、とも言うし、大方『彼女』が噂してるんじゃないかな?」
「む‥‥そ、それはそれで嬉しいやら困ったやら‥‥」
「おぉ? アレックスさん、顔真っ赤―♪」
此方には、主催者のアシュレー・ウォルサム(ea0244)をはじめとして参加者陣より一足先に審査員や裏方等を務める者達等が集まっていた。
その中でもアレックスは弄られ役で‥‥茹蛸になっている彼の表情を、アシュレーはすかさずデジタルカメラでパシャリ。
――後でシャリーアに見せるつもりなのだろう。
「‥‥アシュレー殿、分かっているな? 一先ず返しはしたものの、また自重しない使い方をした時には‥‥」
「う、うん、肝に銘じておくよ‥‥」
「分かれば良しです〜」
――人目を憚りながらそんな遣り取りがあった事実は、知らぬが華。
●(自主規制)メイクアップ!?
「さて、今年も集まってくれてありがとう。では皆存分に楽しんでいってね〜、乾杯!!」
「え? あ、か、乾杯!!」
「乾杯〜♪」
そんなアシュレーの挨拶と共に、今回で二度目となる遅めの新年会は始まった。
乾杯の合図が不意打ち気味なのもご愛嬌。(ぁ)
聖夜祭以来、これで使われるのが二度目となる珍獣屋敷のダンスホール。
流石に当時程の規模では無いが、今まで誰からも(住人達さえからも)その存在を忘れ去られていた場所なだけに、こうして定期的に使って貰える日が来た事を心の底から喜んで居る事だろう。‥‥もしこの空間に精霊がいたら、の話ではあるが。
ホールに並べられた卓上には、ウルティムの経営する喫茶店ミスティ・フォルトレス店主ウェリス・フォルトナムが腕によりをかけて用意した料理の数々。
そして屋敷のセラーから引っ張り出してきたヴィンテージワイン(放置されていただけとも言う)の他、冒険者達の持ち寄った黄金の蜂蜜酒に魅酒「ロマンス」、蜜酒「ラグティス」と言った珍しい酒類が揃い踏み。誰しもが舌鼓を打ちながら、宴を堪能していた。
「‥‥って、ちょっと待った」
ウィルの港の看板嬢こと藍芳蕾は、アシュレーの持ち寄った魅酒「ロマンス」を取り上げる。
と言うのも、これは酒に強くない者が呑むとたちまち異性が魅力的に見えてしまうという魔法の逸品で‥‥‥‥あ。
「コンテストの前なのに、審査員がこれを飲んだら拙いんじゃないかな?」
「あ〜、それもそうかもね。ゴメンゴメン、それじゃあこれはファンファン(芳蕾の事)の為に」
「ちょっ、ま!? わ、私も審査員だってばーーーーー!!!」
「大丈夫だよ、だって出場者は皆女の子だもん♪」
いえ、男性のアレックスも出場するのですが、一応。
「って、かえでさーーーーーーーーーーーーーん!?!?」
止めを刺すのは、冒険者街の顔たる天界人の彩鈴かえで。
ファンファンの肩をポムと叩く彼女は、まるで巣から飛び立つ小鳥を見守るかの様な、生暖かく、そして何処か憂いを含んだ眼差しを向ける。
‥‥ファンファンをスケープゴートにし、かえではまるっとアシュレーの魔手から逃れようとしているらしい。
だがしかし、相手は(ある意味)セトタ最強たる『西萌不敗・マスターウィル』の称号を冠す、その名もアシュレー・ウォルサム!
真っ赤に萌えてうら若き少女を(文字通り)掴むのは、なにも右手だけとは限らないッ!(←本人談かも知れない)
「それじゃあ、三人で仲良く飲もうか。かえでも女の子だし、問題ないよね?」
「‥‥へ? ちょ、私未成年っ!?!?」
天界日本では、お酒は二十歳になってから☆
「会場の方は盛り上がってますねー」
一方、此方はコスプレコンテスト出場者の為の控え室。
今回衣装全般を用意したマリ・ミストレインとその部下のアリサの手を借りながらドレスアップをする中、ソフィアが心底羨ましそうにボソリと呟く。
「あーあ、僕ももう少し飲んでおきたかったなぁ‥‥」
「いえ、そうは言っても先程ワインを一本開けていたではありませんか」
「あれだけじゃ全然足りませんよ〜」
その言葉通り、今のソフィアには余り酔った気配が無い。
何しろ、正体を失う程に酔った時の彼女は‥‥‥‥‥うん、こんなものじゃぁない。
その様子を、傍らのシャリーアも一度体験している‥‥筈なのだが。
「コンテストの準備もあるから、仕方無いんですけどね〜。終わったら浴びるほど飲もうっと」
「ワクワク♪」
「ん? 何か言いました?」
「いえ、別に」
‥‥気のせいだと思いたい。
ちなみに、今までに何度も『その場』に居合わせた事の在るルエラはと言うと。
「‥‥‥‥‥‥」
もはや達観さえも感じさせる様子で、会話から意識を背けている。
背けて、向けられるのは必然的に自らのコスプレ衣装‥‥発注者はアシュレー。
「やあやあ、遅くなってゴメン。皆ちゃんと着こなせた様だn‥‥むぎゅ」
ガシッ。
「アシュレーサン、コレハ一体ドウイウ趣向ナンデスカ?」
グリグリグリゴリ。
「いだっ、いだだだだだだ!!!?」
用意された衣装を着込むや、さしものルエラも顔真っ赤でお冠のご様子。本当はある事の『対価』として、何が来ても拒まず着こなすつもりではあったのだが‥‥これは流石に、と言った感じで。
不意打ち気味にガシッとアシュレーを捕まえると、こめかみを両の握り拳で挟んでグリグリと‥‥あれは痛そうだ。
けど、彼女に恥じらいのポーズ等を教え込もうとしていたアシュレーとしては、既に自然体でそれをマスターしていた為、痛がりながらも満足気。
そして其処に。
「おーい、アシュレーくん。アレックスくんの方も‥‥‥‥ウホッ!? これはイイ堕t」
ターゲット:アシュレー・ウォルサム⇒ウルティム・ダレス・フロルデン。
「再ッ教ッ育がッ! 足りッないッようッですッねッ!!」(←手加減なし)
「――戦友(とも)よ、君の犠牲は決して無駄にはしない」
先の仕打ちは何処吹く風、ルエラの他の出場者達に仕上げのメイクを施しながら呟くアシュレーの背中には、戦地から一人生還する戦士の様な哀愁が漂っていたとか何とか。
ちなみに、例のお酒は危険物として、閉会までギルドが預かる事になりました。
‥‥もしかすると哀愁の正体は、これだったのかも知れない。
●コスプレ四天王
「さあさあ、お待たせしました! これよりコスプレコンテストを開催するよー! 司会はこの俺、アシュレー・ウォルサムが務めさせて頂きます♪」
ペコリ、と仰々しくお辞儀をする彼は、何時の間に着替えたやら道化師衣装。
あれでも十分出場者足り得る気がしないでも無いが‥‥まあ、コスプレコンテストの司会者たるもの、その位の余興は用意できなければ、と言った彼なりの姿勢だろう。
ともあれ、今回の出場者は四名。
その内一人は先日の蔦騒動の際に名乗りを上げた飛び入り参加者。その為、思い通りの衣装を用意する事は叶わなかったが‥‥。
「私が幾つかのパターンをマリ殿にお願いしていたからな。‥‥この間で殆ど駄目になってしまったが、二組分の体裁が整う程度には無事で良かった」
「そうですね、シャリーアさんには感謝しています。こんな可愛い服を貸して頂けて‥‥」
「なに、礼ならば我侭に応える為、徹夜して全ての衣装を仕上げてくれたマリ殿に‥‥と、言えないのが人情と言う物か」
「‥‥そう言う事です」
何があったのかは――別件参照と言わざるを得まい。
ちなみに審査員席にも、何だか物凄い勢いで鬱になっている少女が一名(以下略)。
「では、最初に‥‥皆に知らせないといけない事があるんだ。と言うのも、今回の新年会は冒険者ギルドの後援もありきで行われている訳だけれど‥‥その記録に残る形で、冒険者同士による多額の金銭の取引があってはいけない、と言う決まりがあったらしくてね。要するに、優勝賞金はどどんと100G‥‥と言う訳にはいかなくなっちゃったんだ。申し訳ないけど、ご了承をお願いするよ」
まあ、言われて見れば100Gは途轍もない大金である。それ程の金銭を依頼人から受け取る冒険者が居たとなると‥‥色々と制約が設けられてしまうのも仕方が無いだろう。
と言う訳で、優勝賞金は規制に引っ掛からない限度額の20Gと決められ――。
「それじゃあ気を取り直して。トップバッターは、この方です!」
アシュレーの声と共に、即席のステージ上に現れるのはソフィア。
そしてその格好たるや‥‥。
「1番、ソフィア・カーレンリース! コスプレタイトルは‥‥ええと、『魅惑の女教師』です!」
と言う訳で、デザインのモチーフは天界で曰く女教師。
足下から見ていけば、まず目に付くのは赤いハイヒール。そして深いスリットが入り、妖艶で上品な色気を醸し出す黒のタイトミニスカート。
更に上着はと言えば白のワイシャツ‥‥無論襟が大きくV字に開けており、そこから覗かせるメロンは特盛。(ぁ)
極め付けにアシュレーのメイクによる真っ赤なルージュ。そして銀縁の眼鏡をクイッと片手で持ち上げれば、御堅そうな女教師の出来上がりだ。
‥‥それにしても、『魅惑の女教師』なんてタイトル、一体誰が付けたんだろう‥‥。
「うぅ、颯く〜ん、やっぱりこの服のサイズ、ぎりぎり過ぎるよ〜」
「仕方ないよ〜♪ それにしても似合ってる似合ってる。良い仕事してくれるぜ、マリ・ミストレイン!」
ビッ、とサムズアップ。
‥‥恐らくはこの少年こそが、ソフィアの格好の元凶と言うか考案者なのだろう。
子供への正しい情操教育は大事ですよ、うん。
しかし颯に限らず、審査員席の男性陣はもうしどろもどろと言うかてんやわんやと言うかウホッと言うか鼻血と言うか――。
「わーっ! わーっ!? メディック、メディーーーーック!!!」
――――。
「2番、シャリーア・フォルテライズ&アレックス・ダンデリオン。コスプレタイトルは、『月に代わtt(ギルドにより規制)』!!」
次にステージに現われるは、アレックスとのペアで出場するシャリーア。
彼女の格好は天界で人気のアニメーションと言う物をモチーフにしたものらしく、白を基調とした改造セーラー服に、見えそうで見えない神掛かった絶対領域のミニスカート、そして白いニーソックスが、そのすらっとラインの整った美脚を強調する。
そして髪はツインテール‥‥本当はウィッグ(かつら)を用意して貰うつもりだったのだが、マリでは専門外だった事と、髪色や長さを鑑みても元のイメージとそう違わないと言う事で、そのまま結って行く事となった。
そして仕上げに背中には小さめの白い羽の飾り、これで可愛さを演出し、シャリーアのコスプレは完成である。
「‥‥先程のソフィアさんが胸であれば、シャリーアさんは脚と言った所ですね」
って、普段は真面目なジャイアントの青年の審査員が、真面目な口調でとんでもない評論をしているのですが。
いや、無理も無いといえば無理も無い‥‥と言うか、二人ともそれを強調しているのだから、其処から目を逸らすのはかえって失礼‥‥?(混乱)
「‥‥おや? かえでさんも似た様な衣装を召していらっしゃいますよね?」
教会の神父、ヨアヒムがボソリ。
「い、いやいやいや!? 私のはコスプレじゃないから! 現役女子高生だから!!」
懸命に否定するかえで‥‥そんな彼女の肩を、マリがぽむり。
同じ天界人として、同類相憐れむといった所か‥‥と言うか、そこから開き直ると本当にマリと同類になってしまうと言う罠。
‥‥コスプレの方に話を戻そう。
シャリーアに並ぶアレックスの方はと言えば、最近ではアトランティスでも時たま見かけるようになった、タキシードと呼ばれる天界風の礼服‥‥それにシルクハットと妙な仮面と言う、一風変わった格好をしていた。
無論タキシードにも改造が施されており、細身に見えながらもアクティブな動きに耐えられる造りで、更には胸には一輪の薔薇が挿されていたりする。
これはシャリーアの衣装とセットで意味を成すコスプレらしいのだが‥‥アトランティスやジ・アースの者達にとってはそれらがどの様な関連性を持っているのか、考えれば考えるほどシュールな光景が思い浮かんで仕方なかったとか。(ぉ)
と言うかそもそも、何故シャリーアがその様なネタを周知していたのか‥‥謎は尽きない。
ともあれ、天界人のかえでや颯、そして唯一の男性要素を含んだコスプレと言う事で、女性審査員達からの評判も上々。
何やら詳細不明な加点もあったりもしたが‥‥良い具合に場を暖めながら、二人は舞台の袖へと去って行った。
「さ、3番、ルエラ・ファールヴァルト‥‥。コスプレタイトルは‥‥」
次いで登場したルエラは、アシュレーとマリに尋ねる様な視線を向ける。
(「や、やっぱり言わなきゃダメなんですか、アレ‥‥?」)
二人からのGOサインに、思わず顔を伏せるルエラ。
そして、出て来た言葉は――。
「だ、堕天使じゃ無いんだZE☆」
キラッ、と言う効果音が聞こえてきそうだ。特に意味は無いが。
このコスプレタイトル、実はアシュレーが口走ったものをマリがいたく気に入ったらしく‥‥その言葉をそのまま衣装でも表現する形となったのだ。
ルエラのコスプレを一言で表現するならばミニスカ天使メイド服。
悪魔的な色合い、即ちゴシック調のメイド服をベースに、スカートをギリギリまで短く、その他の細部も彼女自身のスタイルの良さを強調する形で改造を施している。
そして何と言っても、最も目を引くのは背中に付けられた純白の大きな翼。これは羽毛を集めて骨組みに一枚一枚張り付けて行くと言う‥‥何とも手の掛かる工程の末に作り上げられた、マリ・ミストレイン渾身の逸品である。
‥‥余談だが、これが万一先日の蔦騒動で台無しになっていたら、マリは二度と立ち直れなかったかも知れない。
ともあれ、全体としてゴシックとロリータが調和し、それに胸元や脇腹などの適度な露出に元の容姿も相まって‥‥ルエラの格好が誰の目から見ても最も整ったコスプレである事は、疑う余地も無かった。
「ルエラ殿、美しいな‥‥。騎士としても尊敬する方ではあるが、同じ女性としても彼女には憧れを抱いてしまう程だ」
審査員の一人が、思わず溜息を吐きながら口走る。
そう言う彼女の出身もアトランティス‥‥即ち神や天使と言った存在とは無縁の世界の住人。にも関わらず、『神々しい』と言う言葉の意味を納得させてしまう。
それ程までに、彼女のコスプレは審査員達に対し訴えるものがあった。
―――――。
「‥‥うん、集計結果が出たね。では、発表します! 優勝者は――――」
司会者アシュレーの声に、会場内の注目が集められる。
何処からともなくドラムロールが響く中、それが止んだと同時に、彼の口が開き――。
「――エントリーナンバー3番、ルエラ・ファールヴァルトっ!!」
「‥‥えっ? わ、私‥‥!?」
会場内の者達から盛大な拍手が贈られる中、当のルエラは呆気に取られながらしきりに目を瞬かせるばかり。
集計の内容を分析してみると、美しさの票は圧倒的多数を占め、アイディアの票においても僅差でシャリーア&アレックスを上回っていた。
他の萌えとネタに関しても、そこそこ‥‥いや、それらの要素は他の参加者が強烈過ぎて、大分譲ってしまってはいたが。
ともあれ、総合得票数はルエラが一番。この結果に異論を唱える者は誰も居ない。
かくして、主催者であるアシュレーから、優勝賞金が手渡され――。
「‥‥と、俺からしてみれば確かに優勝はルエラだけど、それだけじゃあ面白くない。そこで、俺の独断と偏見による『西萌不敗特別賞』を決めさせて貰うよ。皆、構わないよね?」
何とも突発的な提案ではあるが、こう言ったサプライズはあった方が盛り上がる。
満場一致で賛成の声が上がる中、アシュレーは再度大きく息を吸い込み。
「それじゃあ、発表するよ! 西萌不敗特別賞、対象者は――」
「悩ましい女教師のコスプレで、男性諸君を虜にしたソフィア・カーレンリースっ!!」
わっ、と、再度盛大な拍手が上がる。
‥‥いや、内容からして拍手して良いものかどうか、悩んだ者も少なくなかったが。
ともあれ、これも一つの名誉である。
「ソフィアには独断と偏見により、ドワーフリングをプレゼント!」
‥‥しかし、何だろう。
審査員の一人が鼻血を出してダウンしかけた事以外では大した滞りも無く、比較的スムーズに進行されたコスプレコンテスト。
‥‥そう、不気味なくらいに、何事も起こらなかったのだ。
何処かの誰かがダイブして粉砕されると言う事も無く、メロンや美脚を褒め称え過ぎて玉砕するでもなく‥‥最後の表彰式に至るまで、無事に済ませる事が出来てしまった事。
それ自体が、不気味で仕方ないと言うか‥‥。
「ああ、ウルティムさんなら‥‥」
「事前に僕とルエラさんで、教育的指導をしておきましたよ〜」
‥‥納得。
きっと後の彼にとって、デジカメを用いコンテストの一連の様子を撮影していたアシュレーは、救世主となる事だろう。
●嗚呼酒乱
「天空魔法少女ソフィア、見参♪」(酔)
‥‥‥‥。
えーと、何が起こったかと言うと。
コスプレコンテストの結果発表の後、そのまま会のプログラムはダンスパーティーへと移行した。
この際、ルエラはアシュレーに一緒に踊って貰う為、その『対価』としてコスプレコンテストに出場していたのだが‥‥。
優勝もしてしまったことだし、その時となってはその様な約束などどうでもよく‥‥ごく自然な流れで気付けば二人は共に音楽に合わせ、ステップを踏んでいた。
‥‥問題はその後である。
一頻りダンスパーティーが終幕の様相を催すと、そのまま参加者達は思い思いに杯を取り、再び酒宴が始まった。
この時を待っていたとばかりに、奮い立つソフィアの飲むこと飲むこと‥‥。
そんな彼女の様子を傍目から見ていた素面(未成年なので当然)の颯は、ソフィアの袖を引っ張ってセトタ語を教えて欲しいと願い出てくる。
‥‥無論、確信犯で。
ころっと騙されたほろ酔いソフィア、真面目に勉強をする(振りをする)颯の姿についつい嬉しくなり、差し出された予備のコスプレ衣装を何の疑いも無く着込んでしまった。
本人は「魔法少女の衣装」と言いつつ、その実態は‥‥天界で曰く、幼稚園児の衣装を改造した様な、凄まじいフェティシズム内包のコスチューム。
だが、ソフィアは身に纏ってもそれに気付かず、その結果が‥‥。
「天空魔法少女ソフィア、見参♪」(酔)
と言う訳で。
‥‥本気で颯少年の情操教育、やり直した方が良いと思います、うん。
「う、うわぁ、あれは流石に‥‥‥‥」
その様子をちらちらと戸惑いがちに見るシャリーア。
‥‥傍らのアレックスが万一見とれでもしていたら、文句の一つでも言ってやろうとしたが、視線を向ければ彼は寧ろ努めて其方を見ない様にしていたり。
安心したなような、それでいてちょこっと残念なような‥‥。
「ひっく‥‥何をジロジロと見ているか、シャリ〜ア?」
「‥‥はい?」
気が付けば、ソフィアがシャリーアのすぐ目の前に立っていた。
その目付きは、据わっていながら上から視線‥‥いや、本当はシャリーアの方が身長が高いのだが、そう感じてしまう辺りの威圧感はただ事では無い。
「‥‥どうやら、魔法幼女モードから急遽女王モードに移行してしまった様ですね。さ、皆さん。此処は危険ですので、どうぞ此方へ」
何事かと群がる他の参加者達を、いそいそと避難誘導するのはルエラ。
‥‥心の中でシャリーアの命運を祈っていた事は、言うまでも無い。
「さっきから見ておれば、連れ合いのツンデレ騎士に寄り添ってばかりで‥‥全く酒が進んでないではないかっ! 宴に酒を呑まぬ者! 人、それを『無粋』と言う!! 特にシャリ〜ア、お主は今日まで量産し続けてきた砂糖の総量の3倍は飲むべき義務があるッ!!!」
「そ、そんな無茶苦茶な‥‥。そもそもこの所は、アレックスもイムンに帰ってしまっていて‥‥」
「い、否、然らば私に非があろう。此処はシャリーアの代わりに私が――」
「黙れ黙れぃッ!! 私はシャッリ〜〜〜アに話しておるのだっ!! どうしてもと言うのならば仕方あるまいッ、その対価、身体を持って‥‥うぃっく、払って貰うっ!!」
ピッチピチの園児服から、何処からとも無く取り出したるは――銀のトレイ×2。
いや、本当に何処に入っていたんだろう‥‥って、ソフィアはそれらを両手に構えると。
「天空酎身剣奥儀! 重ね紅千鳥!?」
「あーーーーれーーーーー!!??」
「シャリ――ッ!!!」
バッチィィィン――――!!!
●スウィート?タイム
「‥‥やれやれ、もう少し早く止めるべきだったかもね」
ソフィアを背後から押さえ付けながら、苦笑を浮かべるのはアシュレー。
彼自身、こんな事もあろうかとレジストライトニングのスクロールを用意しておかなければ、とてもこの様な芸当できたものでは無かっただろう。
そして当のソフィアと言えば‥‥一頻り「HA☆NA☆SE」と暴れに暴れた末、何時しかそのまま寝息を立ててしまっていた。
普通ならば如何したものか困る所ではあるが‥‥アシュレーにとっては願ったり叶ったりなこの状況。
「仕方ないな、それじゃあ俺はソフィアを別室で寝かせてk――ゴフッ!!?」
ガゴッ!! と、突然跳ね上がったソフィアの後頭部が、アシュレーの顔面に直撃する。
かと思えば、彼女は口元に手を当てがい。
「颯ーーっ! 颯はおらぬかぁーーーーっ!!!」
「え、お、俺!? う、うん、此処に居るけど‥‥」
いつの間にか人混みの中に紛れ込んでいた颯。
きっとルエラに引っ張り出されなければ、そのまま居ない振りを決め込もうとしていたのだろう。
彼にしては珍しく、颯は心底怯えた様子でソフィアに歩み寄る。逃げ出そうにも、背後ではルエラが眼を光らせており‥‥まさに前門の虎、後門の狼。
そして射程範囲内に入った颯の腕を、ソフィアはガシッと引っ掴み。
「は〜や〜てぇ〜! お主、まだ勉強の途中であったろう!! 何をぐずぐずしておる、別室で続きをするのじゃっ!!」
「え、ちょ、ま、あれは‥‥アッーーーーーー!!!!」
‥‥‥‥‥。
「――っ、ぐ‥‥」
「あ、気が付かれましたか?」
その頃、女王ソフィアにより撃沈させられたアレックスは、別室でシャリーアに介抱されていた。
暫し思考を巡らせ、現在の状況を把握した彼は、慌てて起き上がろうと身体を揺する‥‥が。
「あ、無理はなさらず。電撃をまともに受けてしまったのですから‥‥まだ身体が動かないでしょう?」
「う、うむ、恥ずかしながら‥‥済まぬ、シャリーア」
「いいえ、謝るのは私の方です。私を庇って下さったばかりに、この様な‥‥」
――二人の間を、暫しの沈黙が流れる。
そして、出て来た言葉は
「‥‥その、いつもと違うあなたも新鮮で素敵ですよ」
「う、うむ。貴女もその、何だ‥‥普段とはまた違った魅力を垣間見る事が出来た。色々あったが、此度の会に招いて貰えた事、とても嬉しく思っている」
「そんな、此方こそ‥‥」
気が付けば、会話と共に漏れる息が互いに感じられる程、二人の顔と顔が近付いていて。
そしてそのまま――唇が触れ合った。
‥‥‥‥‥。
「っ、痛ぅ〜‥‥‥‥参ったね、ああなると流石に俺でも手に負えないや‥‥」
一方、ダンスホールにおいてソフィアの姿が見えなくなると、涙目で鼻頭を摩りながらむくりと起き上がるアシュレー。
あわよくば押さえ込んだまま、恒例のお持ち帰りにしようかと企んでいただけに‥‥釣り逃した魚は大きい、と言った気分である。
「仕方ないな、今回は他の誰かを‥‥」
文字通り獲物を探すような目付きで、会場内を見回す――と、目に入ったのは、会の最中も終始落ち込んでいて、ずっと隅っこに蹲っていた新米冒険者ミーヤ・フルグシュタインと、彼女の様子を見兼ねて励ましていたかえでにファンファン。
「‥‥一石三鳥、っと♪」
先程までの様子とは一転、アシュレーは鼻歌交じりでさも愉快そうに、三人の少女達に歩み寄って行った。
「‥‥止めた方が良いと思います?」
「‥‥そうですね、出来る事ならば」
そんな彼の様子をずっと見据えていたルエラが、傍らのヨアヒムに尋ねる。
けど、本当に『出来る事なら』。考えられるパターンは、三つに一つだ。
1:ルエラが身代わりとなってお持ち帰り。
2:止める事叶わず三人纏めてお持ち帰り。
3:一石四鳥。
‥‥‥‥‥。
「喉が渇いたの〜」
此方はソフィアと颯の部屋。
しきりにそう言って水を要求してくるソフィアに、颯は何を思ったかワインを並々と注いだゴブレットを手渡した。
(「頼む、このまま酔い潰れてくれっ‥‥!」)
‥‥甘かった。
一気にそれを飲み干すや、目尻がトロンと垂れるソフィア‥‥かと思えば、近くの椅子にどかっと腰を掛け、豪快に上着を脱ぎ捨てた。
――見れば、そこには天界風デザインの下着、ランジェリーセット「聖夜」のブラが絡み付いていて‥‥‥‥‥ってぇ!!?
「前よりきつくなったのぉ」
呆気に取られる颯、視線は無論たわわに揺れる二つのメロンから離せない。
かと思えば、ぎゅむっと唐突にその視界が塞がれ。
「メロンも美味いぞ?!」
(※以下の表現はギルドにより検閲が掛かりました)
●翌朝のアレックス
(「‥‥あ、ありのままに今起こった事を話そう。目覚めて早々、傍らに無いシャリーアの姿を探すと‥‥飛び込んできたのは、真っ白なsブポッ」)
「ふふ、新妻には素肌にエプロンなんて‥‥天界人も粋な事を考える。アレックス、どんな顔するかな‥‥」
「‥‥って、アレックス!? ど、どうしたのです、そんなに血を流して!! ‥‥はっ、もしや昨晩の傷が‥‥!? 待ってて下さい、今人を呼んでっ――!!」
年も明けて久しく。
気付けばもうすぐ春ですねぇ。