禊ぐ者、救う者、繋がる心
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月05日〜04月09日
リプレイ公開日:2009年04月14日
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●オープニング
●拘留生活
ウィルの一角に佇む、とある騎士団の詰め所。
そこの拘留所の一室では、一人の男が頭を垂れて居た。
――過去の因縁を晴らし、盗賊との関わりも経ってからと言うもの、彼を待っていたのは薄暗い独房での生活。
公の判決でこそ、一部貴族や冒険者ギルドからの支援活動に加えて彼自身の謙虚な態度もあり、極刑こそ免れたものの‥‥。
その後に行く当てがある訳でも無く、加えて彼自身もかつての同胞たる盗賊衆から命を狙われる身の上であると言う事実‥‥その他諸々の事情も踏まえて、現在ではこの様な扱いの下に落ち着いている訳だ。
無論、彼の所在は機密事項。
故に、この拘留所の住人は今や彼一人だけ。
話し相手と言えば、一日何度来るとも知れない女性鎧騎士アレミラ・クラディアばかり。
そんな生活が幾日か続いたある日――相も変わらず項垂れながら床の石畳ばかり見詰める彼の下に、一人の客人が訪れた。
「これはこれは、暫くお会いしない内に随分とお窶れになられて‥‥」
「‥‥‥‥この声は‥‥」
「お久し振りです――リチャード・ダンデリオンさん」
●思惑
「お話は概ねお伺いしました。貴方の身の上から、過去に犯してしまった罪、そして今に至るまでを」
「‥‥」
詰所の一室でリチャードと向かい会うのは、ウィルに佇む教会の神父ヨアヒム・リール。
部屋の外ではもしもの時の為にと騎士が張っているが‥‥室内の会話を窺い知る事叶わない。
つまりは、二人がそれだけ込み入った話をしていると言う事‥‥そして、リチャードの信頼たるや、この会談の為に音の漏れ難い部屋を用意して貰える程度であると言う事。
「‥‥‥‥今更その様な事、説き直すまでもあるまい。我の為してきた事、それは到底許されるべき所業ではあらぬ‥‥」
「――ですが、貴方は盗賊として罪を重ねながらも、決して主への信仰だけは失わなかった。だからこそ、大いなる父は今尚貴方にそのお力を授け賜うていらっしゃるのでしょう」
「‥‥‥‥‥‥」
「道こそ違えれど、信念ばかりは易きに流れず、それを悔いる心を持つ。そんな貴方だからこそ――是非とも、お願いしたい事があるのです」
●封じられた少女
「‥‥‥‥」
教会の一室、窓が少なく薄暗い部屋の片隅に、少女は佇んでいた。
テーブルの上に置かれた食事には手をつけず、蹲ったまま微動だにしない彼女の名は――フレイ。
先日、冒険者達がとある事件を解決した際に助け出された、年端も行かない少女である。
その後に教会に預けられ、今に至る訳だか‥‥心に負った傷は余りにも深く、ずっとこの調子でいるのだ。
ずっと慕い続けていた兄を失った‥‥いや、正確には既に死んでしまっていると認識しただけなのだが‥‥その事実を、未だに受け入れる事が出来ずにいるらしく。
「ジャック‥‥」
虚ろな視線は宙を泳ぎながら、紫色の唇で紡がれた言葉は――静かな室内に、寂しく響き渡るばかり。
「‥‥つまり、フレイさんの心のケアを、リチャード氏にお任せしたのですか」
所変わって冒険者ギルド、受付係の問いにヨアヒムは大きく頷く。
「ですが、リチャードさんは自身が説得するばかりでは、彼女を救う事叶わないと言っておりまして‥‥。そこで、直にフレイさんと接する役目は冒険者の皆さんにお任せしたいとの事なのです。‥‥そしてその間に、例の『古城』へ行って来る、と。そう言い残し、彼はウィルを発って行きました」
「な‥‥!?」
思わず目を見開きながら身を乗り出す受付係。
例の古城とは、かつてフレイが捕われていたウィル近郊の森の中に佇む廃墟である。
後に国から派遣された騎士団によって調査が行われ、事件はほぼ解決したものとされているが‥‥それでも、元はカオスの魔物が住処としていた場所である。
今でも何が起こったものか分からない上、ましてや狙われる身の上であるリチャードがその様な場所に一人で足を踏み入れよう等‥‥危険極まりない。
「ええ、私も止めはしたのですが、フレイさんを救う為にはどうしてもと聞かず‥‥どうやら、彼なりに何か考えがあるそうなのです。なので、恐縮ですが何名かにはリチャードさんの後を追い、彼の手助けをして頂きたいのです」
「成程‥‥確かに彼を一人にはしておけませんし、それが良さそうです。では、至急手配しましょう」
こうして、冒険者ギルドにまた新たな依頼が、張り出される事となるのであった。
●リプレイ本文
●閉ざされた心
「――如何でしたか?」
礼拝堂に現れた冒険者達、その姿を認めるやヨアヒムが尋ねれば‥‥ジュディ・フローライト(ea9494)は小さく横に首を振る。
「神父様の仰った通り、フレイさんは完全に心を閉ざしてしまってる様子でした‥‥。わたくし達が話しかけれど、眉の一つも動かしては頂けず‥‥」
彼女の言葉に、残念そうに顔を伏せるヨアヒム。
ジュディに並ぶアシュレー・ウォルサム(ea0244)も、流石に苦笑を禁じえないと言った様子だ。
「念の為、チャームを掛けてみたりもしたんだけどね‥‥それでもこっちを見向きさえしなかったよ」
「それだけ、フレイさんの心の傷は深く根を張っているのでしょう。目覚めたら時は流れていて、周りは知らぬ者ばかり‥‥心細いでしょうね」
彼女に同情する様に、悲痛な表情で胸の前で手を重ねるジュディ。
すると、その斜め後方に居た白銀麗(ea8147)は、言い難そうに口を閉じたり開いたりしながら、やがて言葉を紡ぎ。
「‥‥本来黒の教義に従うなら、肉親を失った悲しみもまた天の与える試練の一つであり、過剰な助力は禁物です。調べた所では、アシュレーさんのチャームを除いては特に魔法等も掛かっていなかった様子でしたし‥‥」
「それはそうなんだけどね。けど自力で立ち直れる位だったら、きっと神父のメンタルリカバーでも直せてるさ」
「御尤もですよ。‥‥もしかすると、既にカオスの魔物によって呪いを掛けられていたのかも知れませんね。それこそ、魔法でも無く御仏の力を持ってしても取り払いきれない様な、陰湿な言葉の呪いを‥‥」
「ええ‥‥フレイさんの過去の経験も相まって、そうそうに解ける物では無いでしょう。やはり魔法に頼るのではなく、じっくりと時をかけて癒すべきという事なのでしょうね」
「そうだね、焦っても仕方ない。まだ時間はあるのだし、ゆっくり解き解して行くさ」
そう、如何にフレイの置かれた境遇が『試練』であったとしても、その傷口を広げて立ち直れない程にまで悪化させたのは、他ならぬカオスの魔物である。
アシュレーはふと思い出す。それはフレイを助け出す間際、幾ら説こうともその娘の心の闇が晴れる事は無いと言われた事――。
「‥‥あの忌々しい狩人の言葉を、徹底的に否定してやらないとね」
ボソリと呟かれた言葉は、いつの間にやら寄り添っていたヨアヒムとジュディの和気藹々とした会話の渦に掻き消され。
――――教会の一角で、悲鳴が響いた気がした。
●漆黒の騎士の真意
ウィルの郊外へと続く街道、それをなぞる様に空を駆けるのはニ騎のサイレントグライダー。
「――見えたわ。あの人かしら?」
その中腹で木々の合間に見える人影を指し、加藤瑠璃(eb4288)が声を上げる。
「ああ、あの出で立ち‥‥間違いない」
言いながら、自らのグライダーをその人物の前方に降り立たせるシャリーア・フォルテライズ(eb4248)。
すると人影――黒い外套を身の纏った男は、驚いた様に目を見開いた。
「‥‥貴女は‥‥」
「間に合ったようですね。お久し振りです、リチャード・ダンデリオン殿」
瑠璃とシャリーアの二人を前に、リチャードは顔を伏せたまま沈黙する。
「探したわよ、貴方が目的も言わずに出て行ったものだから‥‥。取り敢えず何事も無くて、良かったわ」
「‥‥」
瑠璃が言えど、相変わらず顔を伏せたままのリチャード。別段彼女と初対面だからと言って、遠慮している訳ではない。
どちらかと言えば、その言葉尻から真意を探っている様な、そんな雰囲気だ。
「リチャード殿、お答え頂けませぬか? 一体何が目的で、古城跡へと向かっておられたのか‥‥」
代わって尋ねるのはシャリーア――と言うのも、かつてリチャードが行動を共にしていた盗賊‥‥その首領が、カオスの魔物と深い関わりを持っていたからだ。
ともすれば、行き先以外にほとんど何も言わずウィルを発った彼の行動は、不審と取られる恐れさえもある。
まずはその嫌疑を晴らしておかない事には、どうしようも無い。
迫る二人の女性騎士、リチャードはじっくりと間を置いた後‥‥やがて口を開き。
「‥‥別段、大した事ではない。神父から話を聞き‥‥少女の兄の遺品でも残されていない物かと思っただけだ‥‥」
「あ‥‥!」
思わず声を上げるシャリーア。同時に、表情を安堵で緩ませる。
「‥‥加えて、もう一つ気になる事もあったのでな‥‥。かの娘がカオスの魔物の手の内にあったと言う事は‥‥」
「もしかして、フレイの生命力がデスハートンで奪われてないか‥‥かしら?」
瑠璃が尋ねれば、大きく頷くリチャード。
「‥‥尤も、お前達の事だ。その如何をとうに調べた上で、尋ねているのだろう‥‥?」
「そんなこと無いわ。私達二人は依頼を請けて、ほとんどすぐにウィルを出発したのだもの」
首を横に振りながらの瑠璃の言葉に――リチャードは首を傾げる。
「‥‥依頼‥‥?」
「ええ。私達は貴方の手伝いに来たのよ、ヨアヒムさんの依頼でね」
「そう言う事です。貴方の目的が真にフレイ殿を元気づける為と知って、安心しました。どうか私達も、お力添えをさせて頂きたい」
「‥‥‥。神父め、余計な事を‥‥」
毒づくリチャード、だが拒む事もしない。
こうして三名はフレイの心を開く為の品を求め、一路件の古城へと向かって行くのであった。
●フレイの真実
ノックの音が響く。
続いて開かれた扉から、最初に姿を見せるのはアシュレー。
三日目に至り、彼女は漸く冒険者達に視線を向ける様になっていた。
最初は全く手を付けていなかったお粥も、この日は器の中身が空っぽになっていて‥‥亀の様な歩みながら、フレイのケアが着実に進みつつある事を窺わせる。
ところが、光に関しては相変わらず。アロマキャンドルの灯りさえも怖がる彼女に、一同は頭を抱え――。
「‥‥あれ? ちょっと待てよ?」
ふと何かを思い出した様に腕を組むアシュレー、かと思えば。
「う〜ん、ちょっと試してみようか。二人はそのままフレイの様子を見てて」
そう言い残し、部屋を後にする。
やがて戻って来た彼の手には、ヨアヒムから借りてきたのだろうか、ランタンが煌々と灯りを灯していた。
だがしかし、どう言う訳かフレイがその光に怯える様子は無く‥‥。
「あー、やっぱり」
「どう言う事でしょう?」
「いやね、フレイを助け出した時の事を思い出したんだけど、この子が閉じ込められていた部屋に油式のランプがあったんだよね。それで、もしかしてと思ってさ」
「‥‥そう言えば、今にして思えば古城の地下のその部屋以外の場所には、ほとんど燭台が設置されて居ましたよ。恐らくは、彼女の忌まわしき記憶の舞台となっている儀式場も‥‥」
「詰まる所、フレイ様は蝋燭の光を怖がっていらっしゃったのですね。そうとも知らず‥‥‥‥‥ごめんなさい、フレイ様」
初めて光の下、はっきりと互いに合わせた顔、表情。
ジュディはフレイの幼さの色濃く残る顔の赤い頬を撫でると、きゅっと優しく抱き締めた。
「フレイさんの様子は如何ですか?」
夕暮れの光が差し込む礼拝堂で、銀麗に尋ねるのはヨアヒム。
「はい、大分打ち解けてきた様ですよ。今日の昼頃からは、少しずつですが自分から話をしてくるようにもなっていました」
「そうですか、それは良かった‥‥。明日にはきっとリチャードさん達も戻ってくるでしょうし――」
「それまでには、外の光の下に出れる様にしてあげたいですよ。‥‥けど」
「――そうですか。お兄様はかつて、精霊さんとお友達だったのですね」
その頃、フレイの話し相手を務めていたのはジュディとアシュレー。
二人が何気なく尋ねたジャックとの思い出話、最初は下手に刺激しない様にと取り留めの無い日常の話題から始めたのだが‥‥。
途端にフレイの表情が生き生きと輝きだし、今までとは比べ物にならない程良く喋る様になっていた。
アシュレーはそんな彼女の頭を兄がする様に優しく撫でながら、笑顔で相槌を打つ。
「よしよし。フレイは本当にジャックの事が大好きだったんだね」
「うん! 優しくて頼もしくて、私にとっては最高のお兄ちゃん! 本当に優しかったんだよ、だってさ――」
「私に殺されても、私の事大好きだって」
「「――っ!?」」
思わず硬直するジュディとアシュレー。
「ジャックと殺し合えって言われた時は、本当に困ったけど‥‥腕を広げて受け入れてくれたの。お前に殺されるなら本望だって」
「フ、フレイ様‥‥?」
「それに私も、ジャックの事大好きだったから‥‥だから、最初は殺さないであげたの。殺さない様に左腕を切り落としたら、それでも笑顔を向けきて‥‥本当は痛かっただろうにね」
「フレイ、止めるんだ! その話はもう良いから――」
「でもね」
アシュレーとジュディが制しても、フレイの口は止まらない。かと思えば、すっと伸ばされた右腕が。
「きゅって首を絞めてあげたら、もう何も言わなくなっちゃったの。‥‥こんな感じでっ!」
「っ!?」
「アシュレー様!!」
首を掴む寸前、小さな指はアシュレーの元居た場所の空を切り――次の瞬間、フレイは泣声とも笑い声とも取れない声を上げながら、そのまま意識を失ってしまった‥‥。
●義娘?
「流石にカオスの所業と言った所でしょうか。とても一般の者に見せられる様な所ではありませんでしたね‥‥」
「そうね、何度行ってもあの場所は‥‥。フレイが病んでしまうのも、無理が無いわ」
ウィル郊外の宿屋、他に人の気配の無い食堂で顔を向き合わせるのは瑠璃、シャリーア、リチャードの三人。
何処か顔色の悪い様子の二人、そんな彼女達には目もくれず、リチャードは黙々とクルセイダーソードの手入れをしていた。
「あの、リチャード殿‥‥?」
ふと話題を変える為と言った感覚でシャリーアが声を掛ければ、作業をするその手が止まる。
「‥‥なんだ‥‥?」
「いえ、その‥‥アレックスとはその後、どうなっていますか?」
「‥‥‥‥それは寧ろ、我の質問では無いか‥‥?」
「ごもっともね」
――――。
「なるほど、アレックスはリンゴチップスなるものが好きだったのですね?」
「‥‥そうだな。母のレナがそれを作ると、少し目を離した隙にごっそりと――」
気が付けば、リチャードからアレックスの諸々を聞き出す形となっていたシャリーア。
対する彼も、表情には出さないものの何処か嬉しそうな様子でシャリーアの事を見据えていた。
‥‥それは所謂子を見る様な父の眼差しと言うか何と言うか。
「しかし、リチャードさんって‥‥話してみると意外と気さくな人なのね」
苦笑を浮かべつつ言いながら、ふと自身の手元に目を向ける瑠璃。
包まれた手の中で輝きを放つのは――今回の古城の探索の末、見つけ出したもの。
きっとこれこそが、フレイを元気付ける『切り札』と成り得るだろう。
「――早く、フレイに届けてあげないとね」
●兄の遺した光
‥‥フレイの深い深い心の闇、その奥底にあるものの一端を見出した一同。
彼等の推測によれば、兄のジャックはフレイに殺されかけながらも、最後の力を振り絞ってアイスコフィンを行使した――フレイを、愛する妹の身を護る為に。
「‥‥きっと、離別する事となっても貴女に生きていて欲しかったから」
依頼最終日、昨日の事を気に病んで再び塞ぎ込んでしまったフレイ。
そんな彼女に、ジュディはそれでも優しく、朗らかに微笑みながら、語りかける。
「せっかく、お兄様が命を賭けてまで救ってくれた、大切な命なのですもの」
そんな彼女の健気な姿、そして何事も無かったかの様にまた頭を撫でるアシュレーに、段々と立ち直ってくるフレイ。
――けれど。
「部屋の中でずっと蹲っていたらもったいない、ですよ?」
どうしても、自ら外に出ようとする事は無かった。
会話の末、これはカオスの魔物による脅しによるものだと突き止めた冒険者達。
それを否定する事で、何とかフレイの意志を外に向けさせる事は出来たものの‥‥やはり、潜在的な恐怖心が勝ってしまっているらしく。
「かと言って、無理に連れ出す訳にも行かないし‥‥参ったね」
困った様に呟くアシュレー。
するとその時、ノックの音が不意に響く。
扉が開くと、中に入って来たのは銀麗。
「――戻って来ましたよ。古城へ向かった皆さんが」
「本当ですか!? 良かった‥‥」
「で、結局何か見付かったのかい?」
期待の眼差しを向ける二人に微笑むと、銀麗はフレイの方を向き直り。
「確かお兄様は、精霊とお友達だったのですよね?」
「う、うん。こんぐらいのちっちゃい子。でも、攫われた時に居なくなっ――――!?」
すっと差し出された銀麗の手、その上では陽のエレメンタラーフェアリーがパタパタと羽ばたいていて。
「フレイ! フレイ!!」
嬉々とその顔に飛び付くフェアリー。
対するフレイは、何が起こったか分からないと言った様子で目を瞬かせていた。
「フレイさんのいた場所で、氷漬けのまま眠っていたそうです。きっとお兄さんがフレイさんの事を案じて、一緒に凍らせたのでしょう」
銀麗は続ける。
「‥‥気休めの様ですが、御仏の教えに輪廻転生と言う言葉があります。一度死んであの世――精霊界に召された生物は、いずれまた違う命を授かって生まれ変わる、と。フレイさんも一生懸命生きていたら、お兄さんの生まれ変わりに会えるかも知れません。その時には、きちんと謝れるように‥‥」
気が付けば、フェアリーを抱き締めるフレイの瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。
「――どうやら、もう大丈夫な様ですね」
その様子を窓の外から窺っていたのは、古城に向かって居た3名‥‥に加えて、イムンは一地域の領主エルガルド・ルオウ・フロルデン伯爵の養子サマエル。
彼の言葉に、一同は大きく頷く。
「それにしても、リチャードさんの身柄をエルガルドさんが引き取ってくれる事になるとはね。確かにトルク縁の人から見れば流刑同然、世論もそう悪い方向には流れない‥‥」
「ただ、やはりどうしても前歴が前歴ですし、万が一にも父上の身に危害を及ぼす事があってはならないと思い、今回の依頼を通じて意志を試させて頂きました。‥‥同時に皆さんをも試す事になってしまい、申し訳ないです」
「いえ、お気になさらず。結果としてフレイ殿に加え、リチャード殿を救う事にもなったのですからな。それにアレックスの事をいろいろと聞けましたし――」
と、そこでシャリーアが言葉を止める。
「――まてよ? エルガルド様の直近にリチャード殿が就く事になると、アレックスはどうなるのでしょうか?」
「ああ、彼ならば‥‥」
アレックスは、ウィルに滞在するウルティムの下に遣え、彼の身を護る任に就く事になるらしく。
――春空の澄み渡るウィルに、驚嘆とも歓喜とも取れる声が響き渡った。