【レッツ樹海防衛!】月精霊救出作戦
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月20日〜05月28日
リプレイ公開日:2009年05月27日
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●オープニング
●交渉者
「‥‥シグラル男爵様、でいらっしゃいますか?」
館の一室、窓の外を見遣る男爵の背中越しに訪ねるのは――流れる様な絹の衣を纏った、大変に美しい女性。
その美貌たるや一目見ただけで、男性ばかりでなく女性までをも虜にしてしまう程‥‥既に実際、彼女の背後の扉は僅かに開かれており、其処から顔を覗かせる数名の使用人達が、まるで魔法にでも掛かったかの様に蕩けきった視線を送っていた。
それを知ってか知らずか、されど男爵は窓の外ばかりを見詰めたままで、彼女の姿を直視しようとはしない。
「‥‥如何にも。私こそこの一帯を預かる男爵、アラド・シグラル。かく言う貴女は何者で?」
淡々と紡がれた言葉も、背中越し。
そんな彼に気付かれぬ様、女性は静かに一歩歩み寄ると。
「私は‥‥‥私はトルク家に遣えております侍女で、名を『アルテ』と申します」
「ほう。ではトルクの方々は貴女の様な絶世の美女を抱えながら、小間使いを言い付けていらっしゃる、と。まったく、人事がなっておりませんな」
「‥‥ええ、一見なさればそうお思いになるのも無理はありません。ですが、私共の真の責務は、別の所に御座います」
「――なるほど。それは即ち、『交渉』ですかな?」
男爵の言葉に、慎ましく頷くアルテ‥‥もっとも、相変わらず男爵の視線は余所に向けられている訳だが。
「ふ、その材料として『使者』を提示するとは‥‥形振り構わないにも程がある。まあ宜しい、それよりも要求を伺いましょう」
「はい、ありがとう御座います。要求と申しましても、そう難しい事では御座いません。‥‥今現在、男爵様が御着手なさっていらっしゃるカオスニアンの討伐、その上で樹海を傷付けず、事を進めて頂きたいのです。彼の森には多くの精霊達が住んでいる、との話も御座います。ですから――」
「――――」
途端に、押し黙る男爵‥‥二人の間を満たす不可解な静寂。
その只中のアルテが戸惑いながら、何と言葉を掛けようかと考えていると。
「‥‥拒否したら、如何する?」
「え――?」
突然の言葉に、驚き目を見開くアルテ。
すると男爵は、ふとその顔に狡猾な笑みを浮かべる。
「くくく、どうやら貴女は私の目的を知らず、此処へいらっしゃった様だな」
「そ、それは‥‥どう言う事です?」
「分からぬか。私が樹海を伐採するのは、酔狂でもなければ無論カオスニアンを討伐する為ではない。その真の目的は、樹海の精霊共を一掃する事にあるのだ」
「な‥‥!!?」
アルテは言葉を失う。
よもや、精霊を害する事自体が目的だったとは、そこまで考え至らなかったからだ。
しかし、それにしても一体何の為に‥‥と、考える間も無く、気が付けば一歩、一歩と歩み寄ってくる男爵。
そんな彼から逃げる様に後退り、気が付けばアルテは部屋の隅の壁際にまで追い遣られていた。
「――無論、貴女も例外では無い。アルテ‥‥いや、月の精霊アルテイラ」
「!!」
「残念だったな。貴女の魅了の『術』は確かに私の心を掴んだ。だが、そうと分かっていれば惑わされる筈が無かろう」
「くっ‥‥!!」
身を低くしながら、彼の横を擦り抜けようとするアルテ。
だが、それよりも男爵が早く行く先に手を伸ばし、彼女の正面に身体を回り込ませる。
「しかし貴女は唯殺すには惜しい。高位精霊ともあろう者が、身体を捧げてまで交渉に臨むトルクの使者などと言う尤もらしい芝居を打ちながら、単身乗り込んできたのだ。今暫く、その芝居に付き合ってやるとしよう‥‥」
言いながら顔を近付けてくる男爵を、反射的に両手で押し退けるアルテ。
だが男爵は動じた風もなく、簡素に居住いを正すと廊下に控える従者達を呼び付けた。
「そのお方を客間へ連れて行け。トルクからの大事な使者様だ、丁重に扱えよ」
――その様子を、屋敷の外の木上から伺っている者が一人。
アルテの姿が見えなくなると、その者は長い髪を翻し、まるで北風に乗るかの様にその場から去って行った。
●捕われの月精霊
「な‥‥何やてえぇぇっ!? アルテんがシグラル男爵に捕まったあぁぁぁ!?!?」
それから暫く後、樹海中に鳴り響かんばかりの大声が上がる。
前回は冒険者達の活躍によって男爵の焼き討ち計画が阻止され、今尚変わらぬ姿を保ち続けている『太古の樹海』。
その後任務を終えた冒険者達がウィルへと戻って行く中、ティーナ・エルフォンスだけは情報収集や諸々の連絡をする為にと、念を押して樹海に残っていた。
そしてそれから三日と経たない内に、寄せられた情報は彼女を仰天させるのに十分過ぎた様だ。
「そ、そらあかん!! 早う助けへんと、一体何されるか分かったもんやあらへん!! すぐ『愉快な仲間達』を集めて助け出さな!!」
しきりに捲くし立てながら、手早く冒険者ギルド宛の手紙を認めて行くティーナ。
そしてその内容が知らされ、依頼書が張り出されるまで一日足らず。
『愉快な仲間達』は兎も角、こうして迅速に連絡を取る事が出来た辺り、ティーナが樹海に残ってくれて居た事は正解だったのだろう。
●リプレイ本文
●闇に紛れて
――深夜になれど、緩まる事の無いアラドの屋敷の警備。
その規模たるや、明らかに以前潜入調査を行った時以上‥‥やはりアルテが館内に監禁されている為、男爵も警戒を強めているのだろうか。
そんな只中、警備の者達の死角を縫う様に蠢く影が複数。
「‥‥うーみゅ、まだ壁の向こうに見張りが居るのじゃ。もう暫し待つ様伝えるのじゃ」
ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)に頷くと、テレパシーを持ってして思念の言葉を送るのはディアッカ・ディアボロス(ea5597)。
するとその視線の先に蠢く人影は、スッと壁の近くの茂みに身体を滑り込ませる。
そうして待つ事幾許か。
(「‥‥人が居なくなりました。今です!」)
『了解、それじゃあバックアップ宜しく!』
途端に人影は茂みから躍り出ると、スクロールを広げ呪文を口ずさみ、そして石壁へとめり込むようにして姿を消して行った。
(「‥‥アシュレーさんは潜入に成功した様です」)
一方丁度その反対方面で、屋敷を囲う柵の外の大きな木の陰からテレパシーを送るのはケンイチ・ヤマモト(ea0760)。
その報を受けた倉城響(ea1466)は大きく頷くと、すぐ隣に視線を向け。
「ティーナさん、此方はどうでしょう?」
「う〜ん‥‥もうちょいやね。あのおっちゃんが中々退いてくれへんで‥‥」
手の中にエックスレイビジョンのスクロールを広げながら、壁の向こうの見張りにもどかしそうなジェスチャーを送るティーナ。
それが伝わったか、見張りが月明かりの差し込む窓から背を向ける。
(「――今です!」)
『おう、任しときな!』
瞬間、窓の下に控えていた人影が近くの茂みの影に消えたかと思えば、屋内の見張りの影からまたヌッと現れ。
「ぐっ‥‥!?」
僅かに漏れる小さなくぐもった声――そして暫く後、見張りの姿は窓から見える位置に無くなった。
「ふぅ、何とか二人とも潜入出来た様ですね♪」
僅かに緊張が解けた為か響は小さく息を吐くと、ティーナの頭を撫で始める。
だが、対するティーナは何処か不服そうで。
「それは良えんけどー、やっぱしウチも潜入したかったで。隠密行動は得意な方やしー」
口を尖らせながら不満を垂れる。これにはさしもの響も困り顔。
「あ〜あ、バックアップなんて退屈でしんどいわ。どうせなら潜入してこう叫んでみたかったで。『大佐、裏切ったn』むぐっ!!?」
ガバッ、と、言葉を遮る様にティーナの顔が何か柔らかい物に挟まれる。
それは響の胸。今からでも飛び出して行ってしまいそうなティーナを押さえつける為、抱き締めているのだが‥‥その圧倒的過ぎる超質量で居ながら溺れてしまう様な柔らかさ、加えて浪人響の並以上の腕力の前に。
「もごっ!? おぐっ、うぐえぎへ‥‥‥‥‥ガッ」
カクン。
「まあまあ、落ち着いて下さいティーナさ‥‥あら〜? どうしたんですか、そんなぐったりして?」
う、羨ましいなんて思ってないんだからね!!(何)
●発見
(「ん? どうかしたかい?」)
『い、いえ、何でもありません‥‥』
一方、屋敷へ潜入したアシュレー・ウォルサム(ea0244)――彼とテレパシーで連絡を取り合うディアッカが何故かうろたえているのもご愛嬌。
『それよりも、気を付けて下さい。ユラヴィカの龍晶球に反応したカオスの魔物が、何処かに居る筈です。私の石の中の蝶は反応していないので、近くには居ないと思いますが‥‥』
(「分かってるさ大佐」)
『た、大佐?』
(「ああいや、こっちの話。それにしても、カオスか‥‥多分ライアーズトリオの首領のリクってデビノマニ辺りだとは思うけど‥‥」)
連絡を取りながら、逐次物陰を見付けては手に持った地図を確認するアシュレー。
先に行ったエックスレイビジョンやユラヴィカによるマッピング等の下準備のお陰で、大体館内の構造は把握出来ている。
とは言え、アルテを連れて脱出するどころかその詳細な位置を探るにしても、余りにも入り組んだ構造‥‥それ故、潜入組を受けて立ったアシュレーとオラース・カノーヴァ(ea3486)は、それぞれ分担して事に当たっていた。
まず、アシュレーは直接アルテに接触する為、出来る限り警備網を掻い潜りつつ彼女の監禁されていると思われる未確認地帯へと最短距離で向かう。
一方のオラースは、アルテを探しつつ気付かれない様見張りを出来る限り無力化して警備を薄くし、アシュレーのサポートをする。
そもそも今回は時間との勝負なので、事を成し遂げるまでしっかり縛るなりして黙らせておけば問題は無いだろう。
インビジブルの効果で姿を消しながら、隠密の勾玉を強く握り締め、再び捜索を始めるアシュレー。
その視界の隅に、ふと同じく気配を忍ばせながら足を進める、見るからに隠密スタイルと言った様相の人物が目に入った。
「‥‥オラース!」
『!』(効果音)
「‥‥アシュレーか。どうした、アルテは見付かったか?」
「いや、少なくとも西棟と南棟の方には居なかったよ。で、これから中央に向かう所だったんだけど‥‥」
「そうか。なら俺は北側に向かうぜ。アラドの寝室や書斎がそっちにあるらしいからな、或いは――」
『男爵、アルテに何かしていたら、許しませんよ』
‥‥ブルッ。
「ま、まあいつものケンイチらしからぬ凄い剣幕だったけど‥‥『その』可能性が高いと言えば高いんだよね、うん」
「だな‥‥ま、兎も角そう言う訳だから、中央は頼んだぜ」
頷き合いながら、互いに歩を別つ二人。
‥‥精霊と言えど、アルテの姿は絶世の美女。普通の男性ならばゲフンゲフン。
(「――それはそれで、タイミングさえよければ美味しかったりして」)
『? 何がですか?』
(「え? あ、いやいや、こっちの話こっちの話」)
流石にこの状況下で煩悩を働かせている訳にも行くまい。と言うか、それはそれで脱出の時が大変だ。
‥‥そして一方。
(「北棟に到着したぜ」)
『了解です、今そちら側にユラヴィカさんも向かっています』
(「そりゃ助かる。見張りの位置とか教えてくれりゃ、随分楽になっからな」)
ケンイチと連絡を取り合いながら――通路の先に佇む見張りの姿を見据えるオラース。
見た限り一人の様だが、先へ進むには余りにも邪魔な位置に陣取っている。
何とか遣り過ごすには‥‥と、ここで取り出したるはマジックブルーム。
これで天井擦れ擦れを飛び越すつもりの様だが、考えとしては割と無茶な感が。
「‥‥ん?」
だが見張りは、頭上を魔法の箒に跨ったオラースが通り過ぎる際、僅かに頬に掛かった風に反応しただけで、彼に気付く事は無かった。
(「ふぅ、やれやれ‥‥っと、どうした?」)
『‥‥いえ、はい。ユラヴィカさんから連絡です。そっちの方面にはやはりアルテの姿は無いそうなのですが‥‥アラド男爵の書斎に男爵はじめ、数名の者達が集まって居るそうです。もし余裕があれば、何を話しているか探る事は出来ますか?』
(「う〜ん‥‥まあ、此処までの調査でアルテの居場所は大体絞れたし、そっちにはアシュレーが向かってるからな。分かった、で、書斎はどの部屋だ?」)
――。
「‥‥やっと見付けた」
「っ!!? だ、誰です!?」
アシュレーが壁を抜けて現れれば、途端に怯えきった様子で薄暗い個室の窓際まで後退りするアルテ。
だが、その顔に見覚えがあると悟ると、僅かにその表情を緩ませる。
「あ、貴方は確か、ベースボールの時の‥‥」
「アシュレー・ウォルサム。捕われのお姫様を助けに来たレンジャーさ」
笑顔を浮かべながらすっとアルテに歩み寄り、跪いて手の甲にキスをするアシュレー。
するとアルテは複雑な表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔付きになると。
「それは嬉しいのですが‥‥ご存知の通り、このお屋敷の警備は非常に厳しくなっております。それこそ、貴方一人ならまだしも、私を連れて逃げ出すなどとても‥‥」
「大丈夫、その辺はきちんと考えてきたから」
言いながら、アシュレーは月明かりの差し込む窓に歩み寄り、そこから眼下の中庭を見下ろす。
視線を左にずらせば、植栽に挟まれた狭く目立たない通路の先に、屋敷の門の柵が見える――此処を通って行けば、そのまま外へ出る事が出来るだろう。
「‥‥ただ、問題は見張りかなぁ」
先程は無人だった筈の中庭には、今視認しただけでも3名ほどの見張りが居た。この只中にフェアリーダストを使って降り立ち、アルテを抱えて脱出と言うのは‥‥中々厳しい気がする。
仕方ない、と溜息混じりに呟くと、縄ひょうを取り出し手に巻きつけながら兵士の一人の首元を狙うアシュレー。
何処からともなく、必殺でプロフェッショナルなテーマでも流れてきそうな雰囲気――――。
「曲者だぁーーー!! 出遭え出遭えーーーーーッ!!!」
「え゙!? で、でも俺、まだ何も‥‥!」
驚き混じりに呟くアシュレー、だが見付かったのは自分ではなく‥‥外で待機していた仲間の誰かの様だ。
途端に館内が騒然とした雰囲気に包まれ、中庭の兵士達も慌てた様子で姿を消して行った――。
●緊急脱走
「すみません、気を付けてはいたのですが‥‥」
アラドの屋敷から樹海へと向かう空路の最中、ムーンドラゴンの背に乗りながら申し訳無さそうに声を漏らすのはディアッカ。
――アラドの屋敷で見張りに発見され、騒ぎを起こしてしまったのは彼であった。
要因としては不運が重なった事もあるが‥‥テレパシーでの多岐連絡をしている最中、厳戒態勢を取る館の敷地内に居ながら自身への注意が十分でなかった事も大きいだろう。
「いや、でもタイミングが良かったお陰で良い感じに陽動になって、アルテも上手い事連れ出せたんだけどね」
「ですね〜、それに誰も欠員は居ませんし‥‥結果オーライですよ〜♪」
グリフォンに跨るアシュレーと、ケンイチの魔法の絨毯に便乗する響に諭され、それでも何処か申し訳無さそうにディアッカは頷く。
ちなみに響も現場では一度バックパックを重みで落としてしまいそうになっていたが、元々注意を払っていた事に加え傍に居たティーナのフォローもありきで、難を逃れていたりする。
更にそのティーナはと言えば――響と同じ絨毯に乗っていながら何やら恥かしそうに目を逸らしてばかりで、決して響に視線を向けようとしない。
そんな様子を怪訝に思うオラースにアシュレー、そしてアルテ‥‥だが、ふとそこでケンイチが向き直り、アルテに向けて口を開く。
「それにしても‥‥アルテ、どうしてこの様な無茶をしたのです? もし貴女の身に何かあったらどうするんですか」
語気は静かだが、それでも厳しく叱りつける様な語調に、高位月精霊のアルテも思わず肩を竦めた。
「‥‥申し訳ありませんでした。精霊達が危機に瀕している中、私にも出来る事があるのではないかと思い立ったのですが‥‥」
だが、彼女の計らいは上手く行かなかった。その理由は――樹海を害しようとするアラド男爵の真の目的が故。
それを知れただけでも、収穫は大きかったとも思えるが‥‥。
「それにしたって、相談さえして下されば他にも手の施しようはありました。もっと自分たち、冒険者を頼って欲しいです。何よりもバードにとって、月精霊は大切ですし」
勿論個人的にもですが、と付け加えるケンイチに、アルテは頭を垂れながらも慎ましい口元に僅かに笑みを湛える。
「はい、私も今後はもう少し自重して事に当たると誓います。何より――大切なお友達であるケンイチさん、それに皆さんにも余計な心配を掛ける訳には参りませんものね」
何ともたおやかな雰囲気に包まれる一同。
これにて一件落着‥‥と思いたい所ではあったが、現状ではそう言う訳にも行かない。
「それにしても、やはりアラド男爵はカオスの魔物と密接な関わりを持っていたのじゃな‥‥分かっては居た事ではあるが、事態は思った以上に深刻な様じゃ」
難しい顔で口を開くのはユラヴィカ。
と言うのも、彼の指示の下で男爵の書斎を探りに行ったオラースが見たものは――。
「ライアーズトリオのテールって言ったか。いつだか『アン』を演じていた時に会った事はあったが‥‥見た目はまるで別人だったぜ。まあ、あいつが居るのは想定内だったとして‥‥」
思い出す様に言う彼が言葉を切ると、途端に胸糞悪そうな表情を浮かべる。
「まさか、『狩人』まで居たとはね‥‥」
対して醒めた目をしながら口走るのはアシュレー。
その表情には浮かぶのは露骨なまでの不快感‥‥されど何処か納得した様な、それで居て僅かに楽しみな様な、とても冷たい笑み。
「アルテの話も合わせ、これで大分はっきりしたのじゃ。アラド男爵が樹海を壊そうとする理由がの――」
即ち、精霊達を根絶やしにし、アトランティスの精霊力のバランスを乱す事――それこそがアラド、と言うよりも正確にはカオスの魔物の目的であった。
或いはカオスに誑かされるに当たり、男爵にも何かしら交換条件の様なものがあったのかも知れないが‥‥それは今となっては些細な要素だ。
「ともあれ、これで男爵に言い逃れできる余地は残されておらんじゃろ。後は今回分かった事を国へ上告すれば良いの」
「‥‥しかし、カオスが関わっているとなれば、いよいよ国からの制止に大人しく応じるとは思えません。それに――」
「‥‥ええ、樹海防衛に当たっている皆さんが心配です。一刻も早く合流しましょう」
空を往く冒険者達は、誰しもが目付きを真剣なものに変えながら、先を見据える。
目指すは、護るべき精霊達の住まう太古の樹海‥‥アルテは空飛ぶ絨毯に揺られながら、祈るような気持ちで、そんな彼等の背を見守っていた。