ライアーズ・トリオ

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月23日〜11月29日

リプレイ公開日:2007年11月30日

●オープニング

 昼下がりのウィルの街中。今日も今日とて絶え間なく人々が行き交い、活気に溢れている大通り。その中央を、難しい顔をした一人の騎士が歩いていた。
 手に持った羊皮紙を眼前に広げながら唸っている姿は、見るからに隙だらけで‥‥。実際通行人と何度も肩がぶつかっているのだが、それすらも気付かずに淡々と足を進めている。
 だがしかし――。
「ああっ、もう!! 訳わかんねぇっ!!」
 突然の叫び声と共に、彼は手に持った羊皮紙を上空に投げ出した。そうすれば当然、周囲の通行人達の注目が一斉に集まる訳なのだが、当の本人はそんな事意識の外で、頭をぐしゃぐしゃと掻き毟りながら唸り声を上げるばかり。

 一体何が、彼を悩ませているのか。


 それは、今から数日前の事。
 かねてより地元の村を片端から襲う盗賊団を追っていた彼の騎士団は、この日その一員である3人を捕縛する事に成功したのだが‥‥これが凄まじく口の堅い者ばかりで、こちらが何を尋ねようと黙秘を続けるばかり。
 それでも根気良く尋問を続けていると、ようやくその内の一人が口を開いた。
 そして、告げられた内容は――――なんと、次なる盗賊団の襲撃を予告するものであった。それも、白状したと言うよりはむしろ「捕まえられるものならば捕まえてみな」と言う、挑発的な含みを持った言い方で。
 当然、騎士団とて盗賊に遅れを取るつもりは無い。尋問する騎士達は憤慨しながら、襲撃予定の場所が何処かを聞いてみる。
 すると‥‥3人は互いに顔を見合わせ、にやりと口元を歪ませた。

「そんなに知りたいか? なら、教えてやるよ。しかし、ただ教えるじゃつまらないからな‥‥こうしよう。今から俺達の内一人が、本当の事だけを言う。それが誰か当てられれば、自ずと仲間達の狙ってる場所も分かるだろうさ?」
 ただし、残りの二人の内一人は嘘と本当を織り交ぜて言い、もう一人は嘘しか言わないと言うのだ。

 騎士達としては、彼らのこんな遊び紛いの戯言に付き合う道理は無いのだが‥‥拒否したら拒否したで、また3人は黙秘を続けるだろう。そうなると、村一つを見捨てる結果にもなってしまい兼ねない。と言う事で、仕方なく彼らとの知恵比べに応じる事にしたのだが‥‥。


「‥‥それで、今日まで徹夜で考え続けてた、と言う訳ですか」
 ギルドのカウンターに力なく突っ伏す騎士を労う様な目で見ながら、受付係が言う。どうやら、まんまと3人の思う壺になっているらしい。
「ああ‥‥。それも俺だけじゃなく、騎士団の連中全員がこんな調子なんだ‥‥。頼む、知恵を貸してくれ‥‥」
 言いながら、手に持った羊皮紙を受付係の前に差し出す騎士。それは、盗賊達の発言と、襲撃に関する要点が書き殴られたメモであった。

 受付係がそれに目を通す事数分‥‥。やがて、ハーブティーを啜りながら上げられた顔は、知恵熱で僅かに火照っていた。
「な、なるほど。確かに‥‥難儀な問題ですね」
 これでもし簡単に分かるような謎であれば、代わりに答えてあげようと思ったのだが‥‥そう簡単にいきそうも無い。
 その上、もし答えが分かった所で、目の前で突っ伏している騎士を見る限りだと‥‥騎士団全員がこの調子では、盗賊を取り押さえるどころか返り討ちに遭うのが関の山だろう。
「仕方ないですね‥‥」
 受付係は傍らの羊皮紙とペンを手に取ると、メモの内容を要約した書類を、依頼書とは別にしたため始めた。


***

○襲撃予定日は、依頼期間の4日目から5日目にかけての夜間。
○盗賊団の襲撃候補地は、それぞれウィルの北、北東、南東、南西、北西にある五箇所の村。
○ウィルから各村までは歩いて1日掛かり、それぞれの村から他の村へ行くには、距離的に最低2日の時間を要する。(つまり、はずれの村へ行ってしまうと、そこから他の村へ向かう事はまず不可能)
○盗賊団は神出鬼没な為、足取りやその他の資料から襲撃場所を予測する事は、非常に困難。
○以下の3人の内、一人は全て本当の事を、一人は全て嘘を、一人は嘘と本当を織り交ぜて言っている。
○1人目の発言。
・「北西の村にゃ行かないぜ」
・「南西の村の二つ隣にあるどっちかの村を襲撃する事になってる」
・「北か南東の村が当たりだ」
○2人目の発言。
・「仲間達は北東の村の隣に行くんだ」
・「南西、北西の村には行かないよ」
・「北の村の2個隣はどっちもはずれだよ」
○3人目の発言。
・「ウィルを挟んで北西の反対側にある村は両方はずれ‥‥」
・「南西、北のどれかが正解‥‥」
・「北と北東の村には行かない‥‥」

***


「ふむ‥‥こんな所ですかね?」
 出来上がった書類を確認して貰おうと、目の前の騎士に尋ねる受付係。だが、彼はいつの間にやらカウンターに突っ伏したまま、寝息を立てていた。
 受付係は苦笑を浮かべながら、そんな騎士に毛布を掛ける。そして、依頼書に並べてその書類を貼り出すと、自身も再度謎に挑み始めるのであった。

●今回の参加者

 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb4219 シャルロット・プラン(28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4712 マサトシウス・タルテキオス(52歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb5814 アルジャン・クロウリィ(34歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●悩める騎士団
「それにしても‥‥何とも変わった盗賊も居たものだな」
 依頼人の所属する騎士団の詰所に向かう道中、アルジャン・クロウリィ(eb5814)がふと呟く。
「謎かけねぇ‥‥。騎士団にも冒険者にも頭のいい人はいるからばれない訳ないのに、タカをくくってるんだな」
 アルジャンの言葉に頷きながら言うのはレオン・バーナード(ea8029)。だがしかし、実は冒険者の中で彼だけ、その答えを分かっていなかったりする。
 故に、先程からずっと謎を転記した羊皮紙を睨みながら、考え続けているのだが‥‥。
「‥‥えっと、それで答えはどこ?」
 とうとうお手上げといった感じで、マサトシウス・タルテキオス(eb4712)に尋ねるレオン。だが、彼は苦笑いを浮かべながら、
「それは、後程お教えしよう」
 と言うばかり。レオンは当然の如く不満顔をする。
 そんな二人を横目に見ながら口を開くのは、シャルロット・プラン(eb4219)。
「それにしても、情けない話です。よもや騎士団ぐるみで賊の策にはまり、士気を落としてしまうとは。まずは彼等に喝を入れる必要がありそうですね」
 そう言う彼女は、冒険者と言う立場でありながら、王立空戦騎士団を取り纏める団長でもある。故に、騎士達のモチベーションが下がった状態が如何に危険かと言う事を、良く理解しているのだ。

 やがて、冒険者達が騎士団の詰所に到着すると‥‥宣言通り、シャルロットは扉を勢い良く叩き、高らかに声を張り上げた。
「何時まで呆けていますか! 名誉ある騎士の名が泣きますよ!?」
 流石は現役騎士団長。貫禄十分である。
 突然の事に驚いた騎士の面々も、次の瞬間には思わず背筋を伸ばして顔を引き締めている。
「頼もしい限り、だな」
 言いながら前に歩み出てくるのはアルジャン。
「さて、僕達は冒険者ギルドから派遣された者だ。酷くお疲れの所申し訳ないが、早速迎撃作戦の打ち合わせをさせて貰う」
 彼の言葉に、騎士達は言い難そうに口を開く。
「それは構わないのだが‥‥恥かしい事に、まだ何処の村が襲撃されるのか、分かっていないのだ。奴らの謎を解かない事には‥‥」
「ご安心を。謎の答えの見当ならば、既に付いている」
 マサトシウスの言葉に、驚き目を見開く騎士達。そんな彼らに、微笑を浮かべ。
「戦いこそ騎士の仕事。謎解きは我ら冒険者にお任せあれ」



●謎の答え
「考え方としては、三人の証言の矛盾を洗い出していけば良い。最終的に三人目が真実を、二人目が嘘を言っている場合以外は、矛盾が起こるんだ」
 アルジャンの端的な説明に、分かった様な分からない様な表情を浮かべる騎士達‥‥とレオン。
 そんな彼らの為に、マサトシウスは更に詳細な説明を始める
「宜しいか? 一人目は北か北東に行くと言っておきながら、北か南東が正解と言っている。よって北以外はありえない」
 そう言って、卓上の羊皮紙にセトタ語で『一人目→北』と書き殴り。
「そして、二人目は北か南東に行くといっておきながら南東ははずれと明言。よって北以外ありえない。三人目は南西か北が正解と言いながら北と北東の村には行かないと言っているので、よって南西以外はありえない」
 続いて、『二人目→北』『三人目→南西』と書き記すマサトシウス。だが、実はセトタ語が読めないレオンだけ、この時点で既に首を傾げていたりする。
「さて、ここでのポイントは、誰か一人は必ず全部本当のことを言っていると言うこと。すると、正解は北か南西以外ありえなくなる。ところが、誰かが全部嘘を言っている事も考えると、北では矛盾が生じてしまう。一人目と二人目が、全て本当の証言のみをしている事になるからな。それらから導き出される答えは‥‥」
「南西の村、と言う訳です」
 頷きながらシャルロットが言う頃には、室内の騎士達全員が、合点が言ったとばかりに顔を上げていた。これで、漸く彼等も眠れない日々から解放される事だろう。
「‥‥もっとも、連中が発言の規則性を正直に守っている場合に限るが」
 不安げに言うアルジャン。まあ、確かに当然といえば当然の意見である。
「まあ、でもそれ以外に手掛かりも無い訳だし。取り合えず、南西の村に行ってみようぜ?」
 そう言うレオンの顔は、知恵熱で真っ赤。微妙に締まりは無いものの、異議を訴える者は無く、一同は頷きながら一斉に立ち上がった。
「では、私がサイレントグライダーに乗って先行し、混乱が起こらない様村の方々に話を通しておきます。皆さんは、後から急いで来て下さい」
 そう言うと、詰所を後にするシャルロット。その後間も無く、準備を終えた冒険者達と騎士団合わせて8名は、南西の村へと発って行った。

「奴らは行った様だ‥‥」
「そうか。見張りで残った奴は何人だ?」
「えーと‥‥‥うん、二人だけみたいだよ」
「よし、計画通りだな。奴ら謎にばっか気を取られて、誰も『謎を出した理由』にまでは気付かなかったみたいだぜ。後は、寝不足の見張り共が曝睡するのを、待つばかりだ」
 詰所の奥にある収容所‥‥その中で渦巻く策謀に、気付く者は無く。



●迎撃
 それから3日後‥‥三人の情報が確かなら、盗賊団が南西の村に襲撃する事になっている日の夜。
 柵等によって一箇所に絞られた、村へと通じる入口‥‥その近辺に置かれた樽の陰に潜むのは、レオンとアルジャンとマサトシウスの3名。
 シャルロットは起動準備を終えたサイレントグライダーに跨り、納屋の中で息を潜めている。その周囲では、騎士団の面々がいつでも馬に乗って飛び出せる様準備をしながら、時が来るのを待っていた。
「さて。後は三人組が規則性を守っている事を願おう‥‥」
 アルジャンの言葉が、静寂に掻き消された――次の瞬間。

 ――ガランガランガラン!!

「来たぞ!! 今だっ!!」
 マサトシウスによって仕掛けられた鳴子が鳴ると、同時に響くレオンの声。そして、物陰から一斉に飛び出す冒険者達。
 対する盗賊団は、見るからに多勢。普通に考えれば、迎撃する側に分は無いのだが‥‥そこは流石冒険者とでも言うべきであろう。
 先頭に立っていた大柄な男をレオンがスマッシュEXの一撃で叩き飛ばし、そしてその後ろに居た二人も素早く手負いにさせる。それにより、鳴子によって既に隊列を乱し始めていた残りの者達は、一気に散り散りになった。三人は連携しながら、散らばった盗賊を各個撃破していく。
 浮き足立ち、もはや纏る様子を見せない盗賊団。その中で唯一隊列を崩していない一隊の中心に居る男が、大声で叫んだ。
「てめぇら、落ち着きやがれ!! 相手はたった三人だ!! 纏めて掛かれば、どうって事‥‥なにっ!?」
 直後、高らかな掛け声と共に馬に乗って納屋から飛び出して来る騎士団。
 彼らは松明を手に、逃げ惑う盗賊達の中を駆け回りながら、槍を振り回して更に掻き乱して行く。
「くそっ!! 撤収だ!!」
 やがて、分が悪いと見た盗賊は、来た道を戻ろうと振り返る。
 ――だが。
「引き際が甘いですね。もっと早くに撤退を始めていれば、逃げられたかも知れません」
 サイレントグライダーによって後方に回り込んでいたシャルロットが、剣を構えながら立ちはだかっていた。



●道化
 翌日。一同は一人残らず捕縛した盗賊達を引き取って貰う為、ウィルから馬車が来るのを待っていた。
「それにしても、今までこんな烏合の衆に手を焼かされていたとは‥‥」
 依頼人の騎士が、情け無さそうに呟く。
 そう、昨晩相手にした盗賊達は数こそ多かったものの、戦ってみるとまるっきり素人で、ほとんど無抵抗のままあっさりと取り押さえる事が出来た。下手に苦戦して被害が出るよりは良いものの、余りの歯応えの無さにむしろ怪訝な思いを拭いきれずに居るのは、冒険者達。
「いや、今回襲撃した賊で全員とは限りません。この際、アジトまで潰してしまいましょう」
 シャルロットはそう言うと、盗賊の持っていた物品を取り出し、連れていた忍犬のローゼンの鼻の前に持って行く。するとその匂いを嗅いだ忍犬は一吠えし、そのまま一直線に駆け出した。
 その姿を目で追いながら、サイレントグライダーに飛び乗るシャルロット。
「皆さんは待っていて下さい。私一人で押さえて来ます」
「いや、流石に一人では危ない。僕も‥‥いや、冒険者全員で行こう」
 アルジャンの提案に、マサトシウスは頷いて同意する。
「それが良い。騎士の方々は、捕えた盗賊を逃がさぬ様、見張って居てくれ」
「あ、それと馬を2頭貸して貰えないか? さっと行って、すぐ片付けて来たいからさ」
 レオンの申し出に、騎士達は快く貸し出した。

 そして、空陸から忍犬の後を追う内、冒険者達は外れに佇む一軒の廃屋に辿り着いた。
 だが、その内部はつい最近まで誰かが生活していた様子こそ在るものの、既にもぬけの殻。探せど盗品らしき物さえ見当たらず、残っているのは、卓の上に無造作に置かれた一枚の羊皮紙のみ。
 それを手に取り、目を通したアルジャンは――やがて、憤りに身を震わせながら顔を上げた。
「‥‥やられた。昨日の襲撃自体が、三人組を逃がす為の大掛かりな陽動だったんだ。その為に、奴等は謎掛けなんて回りくどい事をして注意をそちらに向かせ、警備が手薄になった所を逃げ出した。こいつは、その後ここに来た三人が僕達宛てに書いた手紙で、ご丁寧に手口まで全て書いてあるよ‥‥くそっ!!」
 腹立たしげに、卓に羊皮紙を叩き付けるアルジャン。
 それは、他の者も同じで‥‥誰しもが想像以上に狡猾な盗賊達に、憤りを覚えずには居られなかった。

 まんまと三人組の策略にはまってしまったものの、村を護る事には成功した冒険者達。
 また、謎の中で出てきた他の4箇所の村は完全にダミーで、盗賊に襲われる事は無かったそうだ。
 微妙な成果に一同は複雑な思いを抱きつつも、一先ずはウィルへと向けて帰路を辿るのであった。