披露宴への追い込み準備!〜珍獣激怒〜

■ショートシナリオ


担当:深洋結城

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月17日〜06月22日

リプレイ公開日:2009年06月25日

●オープニング

 ――バキィッ!!
「ぐっ‥‥!?」

 鈍い音と共に、色白な頬にめり込む拳。
 予想を遥かに上回る勢いで飛んできたそれに、鎧を身に纏っている筈のエルフの騎士アレックス・ダンデリオンは堪らず壁にまで吹き飛んだ。
 そんな彼にのっそのっそと歩み寄るのは、拳を振るった張本人――なんとイムン系子爵のウルティム・ダレス・フロルデンだった。

「何をやってるんだよキミは!! プロポーズしておきながら指輪を用意してなかったなんてッ!!」
「‥‥‥‥」

 普段温厚な彼らしからぬほどに、荒々しく声を張り上げるウルティムに――されどアレックスは、真っ赤に腫れた所在無さげに視線を泳がせるばかり。
 するとウルティムは、そんな彼の肩を掴んで無理やり立ち上がらせる。

「良いかい、結婚はある意味人生で一番の『華』なんだ!! キミがそう言うのに疎いってのは分かってるつもりだったけど、まさか此処までとは思わなかったよ!!」
「‥‥‥‥申し訳ありません」
「何言ってるんだ、謝る相手は僕じゃないだろ!! さあ、今すぐ彼女の所へ――いや寧ろ、今からでも指輪を探してくるんだ!!」
「し、しかし‥‥」
「しかしでも案山子でも無いよ!! これは命令だ、アレックス・ダンデリオン!! 不言実行、誠意を見せてみろッッッ!!!!」



 ―――なんて事があってから数日後。
 それから暫くの間は珍しく重苦しい空気の漂っていたウィル東端に佇む珍獣屋敷ことウルティム邸も、すっかり元通りになっていた。

「‥‥しっかしウルティム様、何か今回のイベントに限ってやけに気合入ってない?」

 家事傍ら屋敷内の広大なダンスホールに赴き、披露宴会場の準備を進めるメイド達、その中のレモン(実質メイド長を勤めるパラメイド)がぼそりと呟けば、傍らのミルク(毒舌で正体不明なパラメイド)も訝しげに首を傾げる。

「そうなんですよね〜、最初は色々と良からぬ下心がウザったいくらいに見え見えだったのに〜‥‥ここん所はどうも熱心で、気味が悪いです〜」
「うーん、それもこれもあれからじゃなかったかしら? ほら、アレックス様にウルティム様がマヂギレして‥‥」
「あ〜、そう言えばそんな気もします〜。‥‥思えば、その日にはサマエル様も来てたんでしたっけ〜?」
「うん、だから私はあの切れ者な義弟様から、何か吹き込まれたんじゃないかって思ってるんだけ‥‥ど‥‥」

 不意に言葉を淀ませるレモン。その視線は、チラチラとミルクの胸元に注がれていた。
 ――そう、かつて無いほどの存在感(ボリューム)を湛えた、その双丘へ。

「‥‥それよりあんた、一体何を詰めたらそんなにゃぎゃモッ」



 ――――。
「あれ? ミルクたんミルクたん、レモンたんを見なかったかい?」

 羊皮紙片手に椅子の配置等を検討していたミルク、そこへふと現れたウルティムに、彼女はとっても可愛らしい笑顔を作って見せながら。

「さぁ〜、知りませんよ〜♪ 大方お庭の池辺りでドザエモンになってるんじゃないですか〜★」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 ――さしものウルティムにも、このライトニングトラップを踏む事は出来なかった様だ。

「と、ところでさ? ついさっき、発注してた花が届けられたんだけど‥‥どんな感じで飾り付けるとか、決まってるかな?」
「う〜〜ん、そうですね〜。まだ決めていないって言うか〜、その前に大きな物の配置とか決めちゃわないと〜。花はずっと後です〜」
「そっか。参ったなぁ、このままじゃ当日までに間に合うか‥‥」
「だったら〜、そろそろ冒険者の手を借りましょうよ〜。前に手伝ってくれるって言って貰えてるのに〜」

 ミルクがそう言うと――何故か腕を組み、脂肪に埋もれ切った首を傾げるウルティム。
 何やら悩んでいる様子だが‥‥。
 そうして一頻り唸った後、彼はふとダンスホール内を忙しなく駆け回るメイド達を見遣ると。

「そう、だね。これ以上君達に苦労を掛ける訳にも行かないし‥‥それじゃあ、依頼申請には僕が行って来るよ」
「え? あ、ああええ、いってらっしゃいませ〜」

 ミルクに見送られるまま、のそのそとホールを後にするウルティム。

「‥‥本当にどうかしたんでしょうか〜?」

 その様子がどこかおかしい事に、それなりに彼との付き合いの長いミルクは気付いていた。
 しかし、その理由の心当たりがある訳も無く‥‥訝しく思いながらも、彼女は会場設営の現場へと戻って行くのであった。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb4248 シャリーア・フォルテライズ(24歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec5004 ミーティア・サラト(29歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●結婚式に思う所
「教会で式‥‥まぁ。教会では傷を治したりお祭りをしたりするだけではなくて、結婚式までするのね」

 依頼に応じ、披露宴会場となる予定の珍獣屋敷に集合したのは7名の冒険者達。
 その中のミーティア・サラト(ec5004)は先日に決めたプランの説明を受けながら、感心した様に声を漏らす。
 アトランティスの者にとって、天界の行事と言うのは得てして珍しいもの。神の御許で夫婦の誓いを交し合う結婚式の儀礼も例外ではない。

 と、今回のコンセプトの『花咲ける門出』と言う案件を提案した張本人ジュディ・フローライト(ea9494)――彼女は顔を赤らめながら、嬉しげにおでこを摩っていた。

「伝えたい事も伝える事が出来、答えも頂きましたし‥‥祝福するに迷い無し、ですっ! 花咲ける門出、実現させましょう♪」

 ビクッ!
 何事かと彼女に近付こうとしていた者達が、突然の挙動に肩を震わせながら一歩下がる。
 普段は何処か儚げな雰囲気を漂わせるジュディ‥‥されど今この時ばかりはそんな姿は影も無く、表情にもとてつもないバイタリティが満ち溢れていた。

「それにしても、半年前に天界の癒しの精霊のお祭りをやったお屋敷で、今度は天界風結婚式後パーティ? ホント、太っ腹って言うか開けっ広げな貴族様ねー。変な趣味が無ければいい人かもー?」

 ラマーデ・エムイ(ec1984)が言えば、傍で聞いていたウルティムは恥ずかしげに頭を――って、居たんですか。

「‥‥異常ね」

 ボソリ、と漏らすのは加藤瑠璃(eb4288)。
 そう、居たなら居たで、このウルティムが! 珍獣貴族たる二つ名(蔑称)を持つ彼が!! 此処まで存在感を薄めた事など、殆ど無かった‥‥筈。

「‥‥ねぇ、ウルティムさん頭打ったか何か悪い物食べた?」

 ボソリ、と真顔で、されどサンソード並に切れ味鋭い発言をするのはディーネ・ノート(ea1542)。
 しかしそれで怒ったり慌てたりするどころか、「何の事?」と言わんばかりに立ち竦むウルティムに、ディーネはわたわたと両手を振りながら付け加える。

「いや。いつもなら『ディーネたんッ!』言いながら、飛びついてくるのに、と思って」

 ――今回集まった冒険者7名。いずれも女性。それも皆が皆、ウルティム的にはストライクな。
 それなのになりを潜める珍獣の毒牙。成程、どうやら違和感の正体はこれだった様だ。

「ウルティム殿、一体どうされたのです? アレックスから話は聞きましたが‥‥サマエル殿に、一体何を言われたので?」

 ついでに言うと、シャリーア・フォルテライズ(eb4248)はウルティムが彼女への婚約指輪の事でアレックスに激怒した事も聞き及んでいた
 その事自体は複雑に思いながらも、自分達の幸せの事を真剣に考えてくれていると言う事に心から感謝し――だからこそ同時に、彼の事を心配もしていた。
 けれど、ウルティムはあくまで平静。暴走(煩悩的な意味で)が無い以外は至っていつも通りの様子で、何事も無いと言い張る。
 どうやら、今この時だけでは事態のを究明する事はできなそうだ――冒険者の一人フォーレ・ネーヴ(eb2093)は、その事を悟りながらもやはり物憂げな表情を隠せずに居た。

「‥‥豊かでないとか、そ〜んな事言っちゃって、デフォルトの私よりスペック高いってど〜言う事ですかぁ‥‥」
「あ、いえ、決してそう言った意味ではっ‥‥!」

 一方で、床に「の」の字を書きながら拗ねるミルクと、しどろもどろになって弁明するジュディ。
 何があったのかはお察しとしか言いようが無いが‥‥重苦しい雰囲気漂う中で、それが良い感じに空気を解すきっかけにはなっていた。

 ――庭の池に浮かぶドザエモン、涙目。



●披露宴は派手に
「やっぱり派手にゴンドラでいきましょう!」

 詳細を纏める談義が始まって開口一番、そう提案するのは瑠璃だった。
 彼女の話によると、天界(勿論チキュウの方)の披露宴では新郎新婦が入場する時に、ゴンドラに乗って派手に入場すると言う趣向があるらしい。

「やっぱりひとつぐらい派手なイベントが無いと、他人の結婚式なんてそんなに盛り上がれるものでもないしね。というわけで、そんな演出を取り入れてみたらどうかしら?」
「成程ねー、悪くは無いかも? フロートチャリオットでそれっぽく見えるかしら?」
「けど、流石に其処まで作るには時間と人手が足りないんじゃないかしら? それに、チャリオットを借りるにも工房から許しが出るかどうか‥‥」
「それならウルティムさんのコネに頼れば良いとして」

 あっけらかんと言ってのける瑠璃さん。まあ、今の彼なら快く交渉を引き受けてくれそうではあるけれど‥‥。

「でも確かに人手不足は問題ね。ただでさえ屋敷のメイドさん達も根詰めてくれてるのに、これ以上仕事を増やすとなると‥‥」

 すると、傍らで談義に耳を傾けていたジュディが、やがて何やら決意した様に立ち上がる。

「‥‥でしたら、わたくしに一計が御座います。それは――」

 ――――これだけは言っておこう。
 彼女の一計、それは明らかに茨の道を歩む選択であった、と。


「う〜む、両親や兄弟姉妹。そして義父上となるリチャード殿、エルガルド様やらベルドーラ殿、それから‥‥‥‥」

 一方その頃、ぶつぶつと呟きながら招待者の名簿を作っているのはシャリーア。
 と言っても、今は一先ず自分の知り合いの中に限ってはいるが。

「それにしても、少し多すぎないかしら?」

 後ろからそれを覗いたミーティアの意見ももっとも。何しろ、其処には先に挙げた者達以外にもナーガの特使やらルーケイ関係者やら‥‥様々な人物の名前が連ねられていたのだから。
 するとシャリーアは、少し気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

「それは承知している。色々とお忙しい方も多いし、さすがに全員に来て頂くのは無理だと思うが‥‥招待状はやはりお送りしたいのでな」

 それだけ招待する相手が多いというのは、人脈が厚いと言う事でもある。
 仲間達の感心した視線を浴びながら、招待客の予測数を割り出すシャリーア。そしてその資料と前回練った計画を基に、ラマーデが図面を興していく。

「基本方針が『花咲ける門出』で花が大量に用意してあって、花嫁さん代表(仮)シャリーアの希望が『皆で自由に楽しくにぎやかに騒げる』‥‥ふむふむ。それじゃ会場全体も花をイメージさせる意匠で天井・壁の布飾りやテーブルを放射状に、っと‥‥」

 ――そうして出来上がった配置図、そして会場の完成イメージ画に、一同は本気で舌を巻いた。
 何しろ、あらゆる工作技術に通じながら、他に類を見ない設計技能を生かし、尚且つ卓越した美術的センスをも持ち合わせた彼女の提示したそれは‥‥最早完璧、と言うか即興で書き起した物とはとても思えないからだ。
 意見等、誰の口からも出よう筈が無い。

「よーしそれじゃ、これで問題なければ作業開始ー!」
「そうね、ジュディさん達が帰ってくるまで、出来る限り作業を進めておきましょう」

 そうして一同は、メイド達の手も借りながらダンスホールを披露宴会場へと仕立てる作業に取り掛かっていった。
 ――そしてその頃。



●嫉妬団、再び
「半年前の聖夜祭の『嫉妬団』‥‥その時のみの集まりではありましたけれど、もし再び集い、ご助力を得る事がかなえばそれはとても心強いでしょう」
「それは、わかるんだけど‥‥さぁ」
「もーディーネ、まだ恥ずかしがってるのー?」

 ウィルの街中を練り歩くのは三人の淑女――もとい、ミニスカサンタ衣装の冒険者達。
 その内一人、先頭を歩くジュディは頬を朱に染めながらも堂々と。
 また一人、ディーネは足に自信が無いと自称しつつこそこそと。
 そしてもう一人、フォーレは寧ろノリノリで捉え所無いステップを踏んでいる。
 ――うん、三人とも並んでみれば何とも眼福、nice feet☆

(メキョリ)

「この『みにすかさんた』は、関連が判り易い様に、そして目を引く様にと言った意図の下で用意したものだったのですが‥‥やはり恥ずかしいですね‥‥」

 ジュディもそう言いながら恥ずかしげに縮こまってしまう。
 屋敷を出る時には「わたくし皆様の幸せの為なら脱ぎます!」と力強く宣言していた彼女。あ、勿論『一肌』的な意味らしいが‥‥その場に某神父が居なくて本当に良かった。色々な意味で。
 ともあれ、皆が皆恥を忍んで季節外れのミニスカサンタに扮した甲斐あってか、嫉妬団の面々は着々と彼女達の下に集まり、気が付けばほぼ全員が集合する形になっていた。
 しかし首領格の男性の消息が掴めず(噂によると山篭り中らしい)それ故聖夜祭の時に比べて若干人数は少なめになってしまったが‥‥それでも作業をする上では十分な面子だろう。


 ――――。


 かくして、新たな労働ry‥‥もとい協力者達を得る事の出来た三人は、絶対領域から悩ましげに太腿をちらつかせながら、珍獣屋敷へと帰還する。
 そして『聖夜の奇跡をもう一度』――その合言葉の基、作業を始める彼らの勢いは鬼気迫るものがあった。
 それは『嫉妬団』と言うネーミングと相反する目的、夫婦となった者達の新たな門出を祝う為。

 ‥‥‥‥いや、良く見るとそうではないらしい。

「ディーネさんは言っていた! 黙々と、見返り無く奉仕する姿は素敵ーって!! 俺、そう言うの嫌いじゃ無かったんだぜ‥‥」
「粋な奴は救われる! フォーレたんの貴族料理も食べられるッ!! そして作業が終わったら言うんだ、毎朝僕の為にこんなご飯を作って(ry)」
「なぁに、すぐ終わる。だから俺達への労いの言葉を用意して待っていてくれ、メイド諸君!!」

「‥‥声に出すなです〜」

 まるで死亡フラグの見本市。
 ダメだこいつら、早く何とかしないと‥‥などと思いつつ、他の冒険者やメイド達は無理ない範囲で作業を進めていく。

 ――そして翌日、到底一日で仕上げたと思えない様な勢いで、すっかりラマーデのデザインした通りの披露宴会場へと変貌を遂げたダンスホール。
 見渡せば目に入るのは、当初予定していた通りの色とりどりな花を中心とした装飾――それらは細い木枠やロープの細工によって支えられる事で、賑やかながらも喧しくなく、何処か厳格さを感じさせるまでに整った風景を生み出している。
 後は作業途中のチャリオットの花道(流石に天井近くを走らせるのは無理があるので、相談の末会場中央を通す事になった)の飾り付けが終われば、設営に関してはほぼ完了‥‥と言った所なのだが。

「あ、貴方達‥‥大丈夫?」

 何しろ其処には、徹夜の力仕事により力尽きた嫉妬団の屍山血河が築き上げられていて、とてもそれどころでは無い。
 瑠璃は彼らを助け起こしながら、そう問わざるを得なかった。



●悩める珍獣
「‥‥あれ? フォーレたん‥‥どしたの? 忙しかったんじゃ‥‥」
「うー、今はだいじょーぶ。演奏する曲もジュディねーちゃんと打ち合わせてイメージ固めたし、料理の試食も嫉妬団のにーちゃんたちに頼んでおいたから。と言っても、皆まだ食べられそうな状況じゃ無かったけどねー♪」

 ちなみに、嫉妬団の介抱はディーネが主立って行っているらしい。そう、『食い倒れ淑女』の二つ名を持つディーネが。
 ――深くは考えるまい。

 されど、ウルティムから浮かぶのはやはり苦笑いばかり。
 気が付いたらホールから消えていた彼、皆の前でも目に見えて様子がおかしかったが‥‥。
 自室に戻っているのかと半開きの扉の隙間から覗き込んでみれば、目に入ったのは虚ろな目で溜息を吐くウルティムの姿。
 流石に普段が普段だけに、今の様子は異常すぎる。いや、瑠璃の話だと以前にも同じ様な事があったのだそうだけれど‥‥その時はまだ煩悩が生き残っていたらしい。そしてその為に以下略。

「‥‥ねぇ、良かったら話してみてくんないかな? そしたら、少しは気が楽になるかも‥‥」
「‥‥‥‥‥」

 暫くの沈黙の後、ウルティムはゆっくりと首を横に振る。
 どうしても‥‥何だかんだで心の底から信頼している冒険者にさえどうしても、話す事の出来ない内容の様だ。
 彼を悩ませるもの、その正体など比較的最近に知り合ったフォーレには、分かるべくもない。無いのだが――。

 ふわり。

「!? フォ、フォーレたん!?」

 驚きの声を上げるのはウルティム。と言うのも、彼が目を伏せている間に、フォーレがその膝の上にちょこんと腰を掛け、優しくその巨体を抱きしめていたからだ。
 普段の珍獣ウルティムに対してならば、自殺行為と言うか度し難い行動ではあるのだが。

「良いの。今だけ、こうしていてあげるね‥‥。特別、だよ?」

 フォーレはと言えばそんな事気にするまでも無く、優しく彼の頭を撫で上げる。
 そんな彼女の暖かさに、ウルティムは身を委ねながら‥‥いつしか、目頭に熱いものが込み上げて来るのを感じていた――。


「〜〜♪」
 一方その頃。
 昨晩アレックスに呼び出されていたシャリーアは、自身の左手の甲を見詰めながら頬を緩ませていた。
 その薬指には、質素ながら強い存在感を放つ‥‥表面に蒲公英の花の絵が彫られた小さな指輪。

「シャリーアさん、ご結婚おめでとう‥‥というのは少し早いかしらね」
「いえいえ、そんな事はありませぬぞー♪♪♪」

 ミーティアに対する受け答えにも、鼻歌が増し増し。
 そんな彼女に自身も思わず顔を綻ばせながら、ふと視線を他へ向け。

「他の皆さんもお年頃だけど、そういうご予定は無いのかしらね?」
「え、あたし? まだ色々勉強する方が楽しいのよねー」
「ラマちゃんはそう言うと思ったわ。工房でもバリバリのキャリアウーマンって感じだものね」
「‥‥そう言えば、ディーネ殿は故郷にお相手が居るのでしたな。良ければ今回のイベントの主役に参列してみては如何でしょう?」
「うえぇえ?! いやっ、私はそんな‥‥アイツとはまだそーゆー事にはなってないしっ!!」

 耳まで真っ赤なディーネ、そんな彼女の様子に笑い声を上げるのは既婚者のミーティアをはじめ、シャリーアにラマーデ、ジュディと言った余裕な方々。
 女性がこれだけ集まれば何とやら‥‥ちなみに、瑠璃だけは我関せずと言った様子でお茶を飲んでいる。
 と、其処にいつから居たのかフォーレがひょっこりと顔を出し。

「うー。某所ではウルティムにーちゃんとくっつけば、良い感じの世話焼き奥さんになるんじゃないかなーって話もあったみたいだけど♪」

 ‥‥‥‥。(凍結)

「――それは無い、絶対ないから!!」
「そう? 寧ろボク的には、ディーネたんなら大歓gみげぽっ」
「『たん』付けすんなっつってんでしょがぁあんたわーーーーーーーーッ!!!」

 ゴロゴロゴロガッシャーン!!!
 うん、いつものウルティムだ。
 冒険者達はそんな彼らの遣り取りに苦笑しつつ、何処か胸を撫で下ろしていた。