【レッツ樹海防衛!】翼の折れた騎士
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■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月19日〜06月25日
リプレイ公開日:2009年06月27日
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●オープニング
「‥‥定時連絡、此方ドラグーン。上空からの視認では敵影を確認できず」
『チャリオット了解。引き続き現航行速度を保ちつつ進軍せよ』
「了解」
風信器に向けて声を掛けると、制御胞の中で「ふぅ〜」と息を吐くのは、ウィルの女性鎧騎士アレミラ・クラディア。
――思い起こすのは今から数日前。所属する騎士団が国の命の下アラド男爵の討伐の任に就く事が決定し、その編成を発表された時の事。
『えっ!? わ、私がウィングドラグーンを!?』
『うむ、この中で貴公程にゴーレムを乗りこなす事の出来る者は居らぬからの。それに以前空戦騎士団の演習に同行した際、その動きを見ているじゃろう? その経験も考慮した上で、白羽の矢を立てさせて貰った』
『し、しかし私の様な若輩者が‥‥』
『――アレミラよ。貴公は本当にアステル・クラディアを助け出したいと思っておるのかの?』
『えっ‥‥‥そ、それは勿論、出来るならば今すぐにでも‥‥!!』
『ならば貴公がドラグーンを駆るのじゃ。それが我に出来る最良の采配故、な』
「そうは言われても‥‥」
実感が沸かない。
何しろ、未だ鎧騎士となってから二年と経たない自分が、数多くの先輩や団長までをも差し置いて、ゴーレム騎兵隊のエースとして選ばれるなんて‥‥。
ふと自分の手を見遣れば――ウィルを発ってから随分経つと言うのに、まだ手の震えが止まらずにいた。
「‥‥っ、いけない。集中しないと‥‥!」
雑念を払う様に首を横に振り、前方の空を厳しい目付きで見据えながら‥‥。
ふと思い浮かぶのは、カオスの魔物に誑かされ、攫われてしまった双子の姉、アステル・クラディアの顔。
「‥‥もし姉さんが居たら、何て言ったかな? いや、姉さんの方が私よりもよっぽど実力が上だったし‥‥もし居れば、ここに座っているのは私じゃ無かったわよね。
‥‥‥。
‥‥‥‥姉さん。必ず、助け出して見せるから‥‥!」
ぐっ、と拳を強く握ると、空から眼下に広がる森林地帯を見下ろす。
――と、その時、道沿いの茂みの至る所が、不自然に轟いた気がして――。
「ッ!? 団長、待ち伏せです!!」
『何じゃと‥‥ぬぅっ!!?』
直後、風信器を通じて聞こえて来るのは仲間達の慌しい声と、そして到底人間のものとは思えない様な怒号。
見れば先まできちんと整列して行軍していた地上の仲間達は、今や唐突に現れた恐獣やゴーレムらしき影に襲われ‥‥陣形を乱し切ってしまっていた。
「いけない‥‥!! 助けに――ッ!!?」
次の瞬間、アレミラの目の前に立ち塞がるのは、漆黒の騎体に獣の様な頭部を持ち合わせた巨人。
「カオスゴーレムッ‥‥!!」
その禍々しい姿を焼き付ける様に厳しい目付きで見据えながら、ゴーレム剣と盾を構えるドラグーン。
対するカオスゴーレムも両手に携えた二本の曲刀を構え、臨戦態勢を取る。
そうして互いに睨み合う事数秒――――先に動き出したのは、カオスゴーレムだった。
突然急降下をして視界を晦ませると、間も無くドラグーンの眼下から襲い来る斬撃。
それをアレミラは横に動いて避けながら、急制動により盾を構えながら突進を繰り出す。
だがそれは左腕の一振りで払い落とされ、同時に振るわれるのは互いの右手の剣。
――ガァァァァン!!
アトランティスの空に、けたたましい金属音が響き渡った‥‥。
●顔の見えない戦士
『どうだ、やったか?』
「くふっ‥‥は、はい、ドラグーンを撃墜しまし、たっ‥‥」
『そうか、良くやったぜ。で、騎体は?』
「そ、それが‥‥ッ、最後の力を振り絞って‥‥逃げられてしまいまして‥‥ッ」
『ほぉ〜。なるほど、確かにお前がその様子じゃ、追うのはきつそうだなぁ』
「うぅっ‥‥も、申し訳‥‥ありません」
『別に良いさ、こんな事もあろうかと、捜索隊を編成しておいたからな。
それよか、お前もあんま無理できねぇだろ。ほら、さっさと戻って来い』
「は、はいっ‥‥アステル、帰還します‥‥」
先までの激しい戦闘がまるで幻であったかのように、空陸共に閑散とした森林地帯。
その只中を、カオスゴーレムがよたよたと覚束無い動きで飛んで行く。
「‥‥アレミラ、ちゃん‥‥」
取り残された言葉に応える者は、誰も居ない――。
「‥‥ッ、ぅうっ‥‥」
その頃、森林には動きを止めたドラグーンの騎体が、木々に埋もれる様にして横たわっていた。
所々の装甲板を穿ち剥がされたドラグーン‥‥その制御胞からのそりと這い出てくるのは、撃墜されたそれ以上に傷だらけのアレミラ。
――敵は出来るだけ此方の騎体を傷付けない様に、と気遣って戦ってでも居たのだろうか。
振り返れば、装甲板の損傷こそ激しいものの、起動さえ出来ればまだ普通に戦えそうなドラグーンの姿が目に入る。
「くっ‥‥‥知らせ、無いと‥‥ッ、冒険者にっ‥‥‥!」
一歩‥‥二歩‥‥三歩‥‥。
ドサッ――。
それ以降、アレミラの意識は途切れ、深い闇の中へと沈んで行ってしまった。
●リプレイ本文
「ドラグーンとパイロットの回収か‥‥‥‥‥‥何っ?
パイロットはアレミラだとっ!?」
●遭遇
ドラグーン墜落現場付近に到着すると、二手に分かれそれぞれ空からの捜索を始める冒険者達。
その内の3名は、キルゼフル(eb5778)が緑の布を被せて偽装を施した空飛ぶ絨毯を持ってして、先発の討伐部隊が襲われた現場へと赴いた。
‥‥その凄惨さの余り、一同は思わず顔をしかめる。
所々には、かつてチャリオットやバガンであったのだろう石片や木片――そして、それらに余す事無くこびり付いている血糊。
それで居ながら、人の姿をしたものは何一つ残っていない‥‥恐らくは全て、飢えた恐獣に貪り尽くされてしまったのだろう。
「‥‥始めますね」
ケンイチ・ヤマモト(ea0760)は上空を見上げ、極力地上には目を向けない様にしながら過去視の魔法、パーストを発動する。
――やがて小さな息を吐くと共に顔を下ろした彼は、そのまま視線を西方向へと向けた。
どうやら事前にティーナや精霊達から得た情報通り、ドラグーンは其方へ向けて逃げて行った様だ。
森の只中を走る街道、それを挟んで西側はもう一方の班の者達が捜索に当たっているものの、或いは此方側の近くに墜落している可能性もある。
「アレミラの事も心配だしな、一刻も早く見付けないと‥‥」
鳳レオン(eb4286)が呟く中、彼らを乗せた絨毯は再び空へと舞い上がり、木々に引っかからないギリギリの位置を滑る様に飛んで行った。
それ故、目標の方角を見失ってしまう事も多く‥‥その度に一旦地上に降りてはパーストで再度ドラグーンの行った先を確認、と言った事を繰り返しながら捜索を進める。
――そんな中、彼らの前に突然現れたのは。
「ッ!!?」
「お、お前はア‥‥むぐっ!!」
出掛かった言葉を、キルゼフルに口を塞がれた事で何とか飲み込むレオン。
と言うのも、目の前に居るのが探していたアレミラとは限らない‥‥双子の姉で殆ど同じ容姿をしたアステルが敵方に居る以上、早合点で名前を叫んでしまっては替え玉作戦をされる可能性があるからだ。
もっとも、相手方にドラグーンの操縦者がアレミラだったとは気付かれては居ないだろうし、この状況で咄嗟に演技が出来るほどアステルの機転が利くとも思えないが‥‥。
互いに気まずい雰囲気で睨み合う中――ふと、キルゼフルが何を思ったか両手に得物を構え、殺気を放ちながら言い放った。
「よう、この前は世話になったな」
「ッッ!!!」
次の瞬間、慌てて踵を返し逃げ出す――アステル。
そう、彼の掛けた発破に対しこの様な反応を示すのは、アレミラでは考えられない。
「待て、アステル!!」
その後を、木々を掻き分けながら追い掛ける三人。
だが、彼らに比べて比較的軽装な相手の足は速く‥‥後姿を見失わない様にするだけでも、精一杯であった。
●発見、そして
その一方で、二騎のグリフォンを駆り街道の西側の捜索に当たっていた他の冒険者3名。
アシュレー・ウォルサム(ea0244)は、自らのグリフォンに同乗する倉城響(ea1466)による視界のサポートを受けつつ、何度も地上へ降りてはテレスコープのスクロールを用いて上空からの捜索に当たる。
そうする内に、早い段階で木々の薙ぎ倒された痕跡を見付け出し、其処に横たわるドラグーンとアレミラを発見する事に成功していた。
早速とばかりにエリーシャ・メロウ(eb4333)は、ドラグーンの損傷具合を確認して一安心。
深刻なダメージは負っていない、これなら自らが起動すれば十分に自力で離脱する事が出来そうだ。
だが、問題はアレミラ‥‥響がざっと診た限りでも、全身を打ち付けたのか相当に酷い怪我を負っていた。肩を揺すれど意識を取り戻す様子も無い。
「これは‥‥アレしか無いかな?」
と言う訳で、ドラグーンの方を向いて腕を組み、赤面した顔を伏せるエリーシャと、それでも尚朗らかな笑みを崩さずに居る響。
そんな彼女達の背後では、アシュレーがポーションを口に含み。
「んっ‥‥」「‥‥‥っ」
口移しでアレミラに飲ませていた。
無論この状況を鑑みれば適切な方法ではある。薬が効いて段々と顔色に生気が戻り、尚僅かな反応を返し始めた彼女に、アシュレーは残った薬を全部――。
――ガチャン。
音の聞こえた先を見ると、息を切らせたアレミラ‥‥と同じ顔をした女性が、目を白黒させたまま立ち竦んでいた。
「え‥‥えぇっ? ど、どどどうしてアレミラちゃんがこんな所で男の人とキ、キ、キキキ、キスをっッ!?!
って言うか寧ろ覆い被さってるし! これから先に進むのかなって言うかちょっとだけツンデレ気味なアレミラちゃんが何だか抵抗してないしこれって私もファーストキスを奪われたことになるのかなって言うかどうしてドラグーンがこんな所に――――」
困惑やら羞恥やら嫉妬やら色々と詰め込んだ表情を浮かべる彼女‥‥その背後から足跡を鳴らし、更に現れたのは彼女を追っていた3人の冒険者。
――彼らもまた、固まった。
しかし、対してにわかに冷静さを取り戻したアステルはぶんぶんと首を振ると、そのまま足の向きを変えて茂みの中へと駆け込んで行く。
そんな彼女を追うべく、冒険者達が一斉に駆け出そうとした所を‥‥響が制止した。
「待って下さい! このまま全員で追って、ドラグーンとアレミラさんを放って置く訳には行きません。何人かは残らないと‥‥」
彼女の進言通り‥‥アステルを追うレオンとケンイチを見送った一同は、周囲に警戒しながらアイスコフィンで凍結したアレミラをグリフォンに括り付け、それを響が味方のフロートシップまで送り届ける役割を担う事となる。
そしてエリーシャは改めてドラグーンに乗り込むと、手早く起動を始めた。
――そうしている間に、敵方が放った捜索部隊と思わしきカオスの魔物達が、彼らの妨害をするべく集まって来る。
そんな相手を矢で射抜き、或いはマジカルミラージュの魔法で作り出した幻影で惑わしながらアシュレーとキルゼフルの二人が食い止める中――ドラグーンは巨体をむくりと身体を起こすと、そのまま一気に上空へと飛び上がって行った。
他の仲間達の事も気になるが、ドラグーンを起動した以上すべき事は一つ。
即ち、敵前線拠点への攻撃を既に始めている、別働の者達の援護。
ある程度の高空まで上昇すると、敵味方二隻のフロートシップの姿、そしてその間近に認められる僅かに開けた場所が目に入った。
其処へ向けて身を低く屈めると、ドラグーンは空を裂く様に一気に飛び出す。
見る見る内に、交戦する二隻の船が近付いて。
「うぐっ‥‥!!?」
――突然、脳を揺さぶる様な轟音と衝撃に襲われ、くぐもった声を上げるエリーシャ。
そのままドラグーンは地面へと向かって斜め下に降下して行き‥‥森林の中へと盛大に突っ込んで行った。
世界が回る様な感覚に見舞われながら、ふと感じた殺気に騎体を横に転がせば、元居た場所へと鋭く振り下ろされるのは巨大な片刃の剣による斬撃。
その主を睨めば――エリーシャは息苦しさを感じながら、唇を強く噛み締める。
「カオスゴーレム・アビス‥‥! 背後からの不意打ちとは卑怯な!!」
どうやら相手は、奪えなくば止めを刺すつもりで居たらしい。
続く斬撃を盾で受けると、もう片腕に握り締めた剣を振るい上げるドラグーン。
その鋭い太刀筋は相手の胸部の黒い装甲を抉り‥‥堪らず飛び退いたままの動作で、アビスは上空へと逃れた。
その後を追う様に自身も飛び上がり、漆黒の巨人の後を追うドラグーン。其処へ、唐突にケンイチから風信器による声が届く。
『気を付けて下さい! そのカオスゴーレムを操っているのは‥‥アステルさんです!!』
「えっ‥‥!?」
エリーシャがうろたえた瞬間――突然、背を向けて逃げ回っていたカオスゴーレムが振り返り、そのままの動作で両手の剣を勢い良く薙ぎ払う様に振るって来た。
それを咄嗟に盾で受け、もう一方は寸での所で裂け切ると、ドラグーンはそのままの動作で剣を思い切り振り抜く。
獣の様な頭を狙っての斬撃は、されど身を捩って受け止められ、左腕を大きく傷付けるに留まった。
そのまま返す刃で放たれた攻撃は後方へ翔ぶ事で空を切り、二騎の間合いが大きく開かれ――。
「‥‥アステル卿! 貴女はご自身が一体何を為したのか、分かっているのですか!?
元々このドラグーンを駆っていたのは、他でもない貴女の妹のアレミラ卿! それを貴女はあろう事か打ちのめし、挙句にドラグーンをも‥‥ッ、恥を知りなさい!!」
すると、憤りの篭もったエリーシャの声が届いたのか、途端にぐらつくアビス。其処へ更に一撃を加えようと、ドラグーンが剣を構え―――突然、二騎の間を巨大な炎の塊が横切った。
『アステル、無理すんな。相手は例の資料にも載ってやがった、空戦騎士団の一角‥‥一騎打ちの相手にゃ分が悪ぃ。一旦こっちに戻って来るんだ』
「は、はい‥‥!」
エリーシャが今の砲撃を放った敵のフロートシップに気を取られている間に、一目散に拠点へ向けて逃げ出すアビス。
その後を追おうとして――思い止まった。
何しろ、元から被害の大きかった装甲板に加え変形した盾に先の背後からの急襲のダメージ‥‥このまま単機で追撃するのは、余りにも危険過ぎる。
無言でアビスを見送りながら、エリーシャが思う事。
――竜騎士位は、経験も実績も不十分な鎧騎士に授けられるほど軽くは無い。
しかし、もしアレミラがアステルと同等の実力を持っているのだとすれば‥‥。
『エリーシャさん、此方のフロートシップが襲われています! 急ぎ救援をお願いします!!』
風信器から聞こえる響からの呼び掛け――それに応じつつ、エリーシャは傷だらけのドラグーンを駆り、味方のフロートシップへと向けて飛び立って行くのであった。