その身に纏う者 〜珍獣支援〜
|
■ショートシナリオ
担当:深洋結城
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月26日〜12月01日
リプレイ公開日:2007年12月04日
|
●オープニング
街の最端部の街道沿いに立ち並ぶ、貴族達の屋敷。
その中に、一際大きな豪邸がある。
広大な敷地に聳える、まるで城の様な外観の建物は、一見するだけならどれ程立派な人物が住んでいるのだろうかと、誰しもが推して止まないのだが‥‥。
必ずしも、家の立派さとその主人の性質と言うものが噛み合うとは、限らないもので。
「失礼致します。先程、ご主人様宛にこの様な荷物が‥‥」
そう言って、自らの背丈よりも遥かに大きな箱を二人がかりで運んで来る幼女‥‥もとい、パラのメイド達。
すると‥‥。
「おおぉぉぉーーーっ!!! 待ってたんだよ〜、ボクの宝物〜♪」
奇声を上げながら、その肥満した身体ごと荷物に飛び込んでくる珍獣‥‥もとい貴族の青年。そしてメイド達は当然、反射的――と言うよりむしろ本能的に、広い部屋の右端と左端に飛び退く。
(「まったく‥‥どうにかならないかしら、この珍獣の品行」)
(「でも、仕方ないよ〜。クビにされた前の仕事とは比べ物にならないくらい、待遇もお給料も良いんだから〜」)
(「それはそうだけど‥‥まったく、この間冒険者達が乗り込んで来た時に、ここに残る選択をした事を、今でも後悔する時があるわ」)
(「それは、私もだよ〜。でも、珍獣にさえ我慢してれば、私達が食いっぱぐれる事は無い訳だし〜」)
心の中で会話するメイド達‥‥と言っても、別にテレパシーの魔法を使えたりする訳では無い。何と言うか、互いが大まかに考えている事を、嫌でも察せてしまうのだ。便利云々よりも、むしろ悲しい。
「ねぇねぇ二人とも?」
突然に珍獣男に声を掛けられ、ビクッと身を震わせる二人。視線を向けると、彼は先程運び込んだ箱の中から、丸い顔をひょっこりと覗かせていた。
――趣味の悪いビックリ箱?
「は‥‥はい、何でしょうか?」
思わず込み上げて来る笑いをこらえ、上ずった声で応えるツリ目のメイド。ちなみに言うと、もう一人のタレ目のメイドは彼の後ろで声を殺しながら、腹を抱えている。
そんな二人の様子には気付かずに、珍獣はガサゴソと足下を漁ると、何かを引っ張り出し‥‥。
「これ、着てみてくんないかな?」
「「――――はい?」」
目を丸くする二人のメイドの視線の先には――最近天界から流出して来て、その機能性とヴィジュアルから一部の者達の間でまことしとやかに人気を集めていると言う‥‥‥濃紺色で胸の所に長方形の白布が貼り付けられた、天界製の水着が揺れていた。
「『スク水』って言うんだってね、こー言うの?」
端的に言えばそうなのだけれど、それでは何の為にこんな遠まわしな表現の仕方をしたのか分からない‥‥。
どうやら、天界出身の知り合いから譲って貰ったらしいそれを、メイド達はワナワナと震えながら見据え。
「「ぜ、絶対にイヤですっ(です〜っ)!!」」
声を揃えてキッパリと言い切った。当然と言えば当然だ。
だがしかし、珍獣も食い下がる。
「えぇ〜? 良いじゃん良いじゃんちょっとぐらい〜。大丈夫だよ〜、着た所で僕にしか見られないんだからぁ〜」
「「ソレがイヤなんですっ(です〜っ)!!」」
これまたキッパリと言い切る二人に、残念そうに肩を落とす珍獣。まあ、この男は角が出ないと言うか穏やかと言うか‥‥何を言われても権力を笠にして怒ったりしないから、多少は性質が良いのかも知れない。
「‥‥!! そうだっ!!」
次の瞬間、高らかに声を張り上げながら、箱から信じられない程の身軽さで飛び出してくる巨体。思わずメイド達二人は悪寒で身震いする。
「だったら、冒険者達に頼んでみよう!! 丁度仕事も溜まっている事だし、家事手伝いって言う名目で、スク水を‥‥ううん、他にもあんな格好とかこんな格好とかしてもらって‥‥うん、それが良い!!」
前言撤回。彼は穏やかと言うよりは、懲りない性らしい。現に前回冒険者達に散々痛めつけられ、あわや去勢までされそうになった事でさえも、堪えていない様子だ。
まあ、あれから彼曰く『健気な天使たん』との約束通り、非合法手段に走る事は無くなったのだけれども‥‥。
呆れるを通り越して目を点にするメイド達を余所に、嬉々と室内の卓に向かうと、羊皮紙に何やらしたためる珍獣男。やがてツリ目のメイドに手渡されたそれは、冒険者ギルドへの依頼状だった。
‥‥どうやら本気らしい。
「それじゃ、お遣い頼んだよ〜ツンたん♪」
「は‥‥ツンたん?」
目を丸くして聞き返すツリ目メイド。もしかしなくても、それは彼女の事を言っている様子で‥‥。
「ちょっ、わ、私そんな名前じゃ‥‥‥!!」
必死に抗議する彼女を尻目に、珍獣ともう一人のメイドは部屋の外へと出て行ってしまう。哀れにも彼女の呼び名は確定してしまった模様。
「うぅ‥‥分かったわよ、行けばいいんでしょ行けばっ!!?」
もはや自棄になりながら、依頼状を手に屋敷を飛び出してギルドへと向かうツンたん。
そんな彼女をタレ目のメイドは二階の窓から見送り‥‥その姿が見えなくなると同時に、抱腹絶倒していた。
●リプレイ本文
●珍獣再び
郊外に佇む、広大なフロルデン邸。その一角の廊下を、一人のメイドがガシガシと磨いていた。
他の(比較的普通な)メイド服とはデザインや色合いなどが違う、所謂『エース仕様』的な格好をしているのは、この屋敷の家事手伝いに応じた冒険者の一人ディーネ・ノート(ea1542)である。
‥‥が。
「っあーーっもう!! どうしてこうなんのよっ!!」
手を止めたかと思うと、突然に叫び出すディーネ。その頭上では、ヘッドフリルと一緒にウサギの長い耳が揺れていた。
事の初めは、その日の朝。
ウルティムと言う貴族の依頼を承った総勢8名の冒険者達は、一度ギルドに集まった後、現地へと向かっていた。
ところが、辿り着いた場所は、メイベル・ロージィ(ec2078)とゾーラク・ピトゥーフ(eb6105)、そしてディーネにとっては見覚えのある場所で‥‥。
「おおーっ、来てくれたんだねっ!? 会いたかったよ〜♪」
案の定、冒険者達を迎えるべく直々に現われた屋敷の主人を見て、彼女達は硬直した。
「あれ? 三人とも、この人に会った事があるんですかぁ?」
ソフィア・カーレンリース(ec4065)が尋ねると、ゾーラクが本人には聞こえない様、以前自分達の解決した幼女誘拐事件の事を説明する。
まさか今回の依頼人が、その事件の犯人であった珍獣男だなんて、一体誰が予測出来ただろう。
「‥‥嫌な予感がしますね」
ニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)の呟きに、引き攣り笑いを浮かべる冒険者達。
だが、取り合えずはこれも仕事‥‥一同は一通り珍獣男に挨拶すると、促されるまま屋敷の中へと入って行った。
そして、嫌な予感と言うのは間も無く現実化した様子で‥‥制服と言って差し出された衣装の数々を見た冒険者達は、思い思いに珍獣に鉄拳制裁を加えるのであった。
「この様な事をなさると、迷惑が掛かるという事が‥‥」
淋麗(ea7509)が彼に超越級の説法を延々と説く傍ら、それぞれがある程度妥協した格好で彼の前に現われ‥‥そしてお約束。
そう言う訳で、希望通りのエース仕様メイド服は選ばせて貰ったものの、ついでにウサ耳着用を義務付けられたディーネは、掃除する事で憂さを晴らしていた。
「せめて‥‥せめて猫耳が良かったのにっ!!」
そう言う問題だろうか‥‥。
何やら不敵な笑みを浮かべながら、床やら窓やらを無駄な程綺麗に磨き始めるディーネ。
――そこに。
「バニーなディーネたんもかっわいいよ〜〜!!」
突然飛び掛ってくる珍獣。
「っ! 『たん』付けすんなあぁぁぁっ!!」
どげしっ!! ゴロゴロ‥‥‥。
丸い巨体は、ピカピカに磨かれた廊下を何処までも転がって行った。
だが、彼女は色々な意味で、まだましな方だったりする。
●危険な二人?
一方、水周りを中心に掃除をするのは、小題目通り最も危険な格好をしていると思われるルエラ・ファールヴァルト(eb4199)とソフィアの二人。
と言うのもルエラは、ある意味珍獣に対する囮役というか‥‥むしろ生贄的な意味で、ゾーラクにより半強制的に格好を決められていた。で、スク水姿。
普段の格好よりは露出が少ない気がしないでもないが、細身ながら豊満なその体型が、妙に浮き出ていたり。
「ただの家事手伝いで、どうしてこの様な格好を‥‥」
伏せた顔は赤い。それは、傍らで同じくスク水を着させられているソフィアも同じだ。ただ、彼女に至っては某冒険者の提案で、その上から更に白地のエプロンを着せられている訳だが。
「うぅ、僕もメイド服が良かったなぁ‥‥」
溜息を吐くと、動作に合わせて揺れる。何がかは‥‥まあ、言うまでもない。
そのお陰か、そのせいか‥‥彼女はある意味倒錯的とも言える雰囲気を放っていた。
――かしゃっ。
物陰で響く音。鼻歌混じりで携帯電話のカメラ機能を使い、二人の姿を撮影しているのは、某冒険者こと執事姿のアシュレー・ウォルサム(ea0244)だ。
「スレンダー美女に、はちきれんばかりのメロンカップ‥‥グッジョブ!!」
グッ! と親指を突き立てながら、もう一度かしゃり。
そしてその隣には、先程蹴り転がされた筈の珍獣男も居た。
「良いよねー、ルエラたんにソフィアたん♪ 希望通りスク水を着てくれる辺り、献身的だしさ〜♪」
息を荒くする勘違い男。普通に見れば気色悪いのだが‥‥アシュレーは何となく通じ合うものがあるのか、そんな彼とやたら打ち解けていた。
「でも‥‥タレ目のあの子も胸大きいから、絶対似合うと思うのに‥‥どうしても着てくれなくて〜」
「それは惜しいっ! 折角の目の保養が‥‥うわっ!?」
――しゅたっ、と二人の肩の上に降りてくる影。次の瞬間、それぞれの顔面が小さな掌で掴まれ‥‥。
「そぉんな事考えていると〜、裏社会最強と謳われる暗殺拳で〜、確殺しちゃいますよ〜?」
ギチギチギチッ!! と締め上げられる二人の顔面。色々達人なアシュレーでさえ、それを振り解くことは出来ず‥‥かと思うと、ゆらりと近付いて来る殺気。
「‥‥二人纏めて、再教育して差し上げますっ!!」
「アシュレーさんのエッチ〜ッ!!」
スク水メイドな二人から、珍獣ズに魔法とか交えた結構本気な制裁が加わる。
そんな彼等からいち早く飛び退き、断末魔を背にしてパタパタと服の埃を払うタレ目メイドは。
「そう言えば〜、ツンたん何処行ったんだろ〜?」
●ニルナとツン
その頃、ツンたんは自分とお揃いのメイド服(猫耳付き)を着たニルナを監督指導しながら、各部屋の整理に当たっていた。
とは言え、最初は謙遜していたものの、ニルナの手際はかなりの物。なのでそちらは任せ切りにして、自分は他の作業をしながら不機嫌そうにぶつぶつ呟いていた。
ちなみに原因は、出会い頭ソフィアに「人形みたい」と言われた事だったりする。彼女に悪気はないとは分かっているものの、パラ故の子供の様な体型を、ツンたんはかなり気にしているらしい。パラなのに豊満な同僚も居たりするから、尚の事だ。
そんな彼女に、ニルナはそっと近付き‥‥・
「ふふ、貴女は目元が素敵ですね」
「‥‥はいっ!!?」
驚き飛び退くツンたん。考えていた事が事なだけに真っ赤な彼女の顔に、ニルナはすっと手を伸ばし。
「あらあら、赤くなってしまって‥‥可愛いです」
「え、あの‥‥ちょっと‥‥!?」
「? 今、何か聞こえた様な‥‥?」
白いリリー(ゆり)の造花を運んでいた割烹着姿の麗は、廊下で立ち止まって首を傾げた。
●白衣の天使?
「痛かったら言ってくださいですの」
そう言って、珍獣の手当てをするのはメイベル。小突き回され過ぎて流石に傷だらけな彼を心配し、介抱してやっているのだ。
だが、彼女に付き添っていたゾーラクは終始不満顔で‥‥専ら目を回して失神しているアシュレーの処置ばかりをしていた。
「それにしても‥‥メイベルとのこの間の約束、守ってくれててとっても嬉しいですの♪」
そう言ってにっこり微笑むメイベルは巫女姿。これはアシュレーの持参したものだそうだ。
天使(?)の様なメイベルに、珍獣は飛び掛か‥‥れなかった、ゾーラクに睨まれて。
ちなみに、そんなゾーラクは唯一人制服の貸与を頑なに断り、普段通りの格好をしていた。なんでも医者としての仕事に専念する為だそうだ。
「そうそう、ゾーラクたんにはこんなの似合うんじゃないかと思って♪」
珍獣が取り出したるは、これまたどこから仕入れて来たのか、天界において看護師と呼ばれる者達が身に纏う白衣だった。それも、スカートの丈がやたらに短く‥‥。
「‥‥ウルティム様、お選び下さい」
にこやかに、けれど目が笑っていない笑顔で言うゾーラクは‥‥。
「1、無かった事にする。2、前言撤回。3、死 ん で 詫 び ろ」
全身で殺意を放っていた。
●再会
そんなこんなで、依頼の3日目となるこの日。
ディーネやソフィア、ルエラの公募に応じて来た侍者志望の女性達(何故か大半は子供)は、一室に集められていた‥‥のだが。
主人であるウルティムが挨拶をしに現われた直後‥‥その数は、半分以下にまで減ってしまっていた。
まあ、これが第一関門であったりする訳で。
ともあれ、残った者達から採用者を面接で選別する事になり、超越した話術と対人鑑識を持ち合わせる麗は、ウルティムと一緒に面接官を勤めていた。
「では、次の方どうぞ」
麗の呼び掛けに、現われたのは一人の少女。
年は10歳前後だろうか。今までの候補者と比べても、一際小柄な彼女に‥‥。
「あれっ? 君は‥‥」
「お久し振りです、えっと‥‥ウルティム様」
●残ったものは
そして、依頼最終日。色々とあったものの、兎にも角にも冒険者達の尽力により、溜まっていた家事は全て片付けられ、ついでに屋敷全体は見違える程綺麗になっていた。後でそれを維持するのは、正規のメイド達の仕事である。
「では、皆さんお元気で」
「ノラさん、頑張ってね♪」
屋敷の玄関前に集まった一同の中、恭しくお辞儀をする麗と、新しくメイドとして働く事になった者達‥‥その一人であるノラの頭を、ぽむぽむと撫でるディーネ。
彼女は何か目的があり、戻って来たらしいのだが‥‥それが何かを聞くと、下を向いて口籠るばかり。まあ、やましい事ではないだろうと言う麗の判断により、採用される事になったのだ。
一方、傍らに癇癪を起こしている者が一人。ツンたんだ。
彼女は相方の呼び名がメイベルの提案した『ミルク』で確定した事に、どうしても納得がいかなかったらしい。‥‥まあ、正直な所どちらかと言えば『毒入り』だが。
絶えず地団駄を踏む彼女だったが。
「まあまあ、宜しいではないですか」
ニルナがそう言って微笑んだ途端、顔を赤らめて大人しくなる。‥‥深くは突っ込まないで置こう。
ともあれ、勤めを終えた冒険者達は、フロルデン邸の住人達に見送られながら、足取りも軽くギルドへと向かうのであった。