酒呑童子調略
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月13日〜05月18日
リプレイ公開日:2008年05月21日
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●オープニング
●
揺れる蝋燭の火をはさんで、二人の僧侶が相対していた。
一人は老人だ。落ち着いた物腰から、高徳の僧とわかる。
慈円。延暦寺の座主である。
対する僧侶は青年であった。二十歳半ばに見える。
「慈円様」
青年僧が口を開いた。
「虎長が動き出しましたな」
「ええ」
慈円が肯いた。
尾張平織家は美濃併呑に成功し、伊賀を潰し、大軍による上洛を果たしていた。その裏に蘇った平織虎長が居る事は少し前から都の噂になっている。
「虎長が延暦寺を狙うは明白、何か手を打たねばなりませぬ」
青年僧が云った。慈円の眼がわずかに見開かれる。
「何か、とは? 仏法僧は俗世の事に関わらない方が良いのではないですか」
「これは意外。先年、武田信玄に上洛を唆した慈円様のお言葉とも思われぬ。虎長は神仏を畏れぬ男、命に従わぬとあらば、延暦寺を完膚無きまでに叩き潰しましょうぞ」
「まさか‥‥」
慈円は驚いたようだ。
延暦寺は、権力者には敬われつつも疎まれても居る。尾張平織家という軍事力を持った都が延暦寺攻略に向かうのは理解出来なくもないが、ジャパン全土に多くの信者を持つ天台宗の総本山を本気で襲うとは思えない。
「いくら虎長でも、まさかそのような所業に及ぶとは‥‥」
「座主のお考えは甘いですな」
青年僧がかぶりを振った。
「あの男ならば、それくらいはやりまする。ならばこそ、先手を打たねば滅ぶと申し上げている」
「ふむ‥」
慈円は溜息をついた。
昨今の騒動で延暦寺もだいぶ喧嘩早くなったように感じる。鉄の御所との交渉、ジーザス教徒の弾圧、それらは慈円自ら行ってきた事だ。
平織家との衝突も、不可避なのだろうか。
考えるべき事が多すぎる。
ジャパンの白僧侶として最高位に立つ慈円の表情は深い悩みを抱えていた。
●
冒険者ギルド。
艶やかな黒髪を背に流した、巫を思わせる少女の前に、一人の若者が立った。
身形から素性ははかれない。只の町人に見えた。
「依頼でございますか」
少女が声をあげた。
「はい」
そわそわと周囲を見回し、若者が肯いた。
「これは極秘という事でお願いしたいのですが」
「極秘?」
少女はこくりと首を縦に振った。秘密遵守が条件の依頼は珍しくない。
「それで依頼の内容は?」
「鉄の御所に赴いていただきたいのです」
「鉄の御所?」
筆をはしらせていた少女の手がとまった。
当然である。鉄の御所とは、鬼王酒呑童子の根城であり、無数の鬼がひそむ魔窟といっていい。冒険者にとっては鬼門といってもよい場所だ。その鉄の御所に赴けとは、いかなる魂胆であろう。
少女は問うた。
「何故鉄の御所に赴けと?」
「説得していただきたいのです、酒呑童子を」
「酒呑童子!?」
「はい」
若者は肯首し、そして声を低めると、
「虎長が延暦寺を攻めた場合、味方してほしいと」
本気なのだろうか。少女は当惑を隠せない。上洛した平織家が延暦寺と何かあるという噂を聞いたのはつい先ほどの事だ。いや鬼に味方を頼んだりして、虎長に勝ってもそれでは延暦寺の立場は大丈夫なのか。
「延暦寺の味方!? では、依頼主は‥‥」
「延暦寺座主、慈円様でございます」
若者は答えた。
●リプレイ本文
誘われて
鉄の御所に
再会す
思惑踊る
傀儡に似て
●
ほろほろと。
梟の姿が溶け、人のものとなった。きらきらと、機知に輝く瞳を持つアン・シュヴァリエ(ec0205)姿に。
「いましたよ」
「やっぱり」
夜闇の中に、パラーリア・ゲラー(eb2257)の少女のような微笑みが光った。彼女のブレスセンサーは、京からずっと尾行けてくる存在がある事を感知している。
「ちょっと離れたところ。行商人の姿をしていたよ」
「行商人か」
マクシーム・ボスホロフ(eb7876)の整った、しかしふてぶてしい翳のある相貌に冷笑が浮かんだ。
「平織の間者かなぁ」
やや心配げにミネア・ウェルロッド(ea4591)が眉をひそめた。
「でしょうね」
闇色の髪をゆらし、一条院壬紗姫(eb2018)が云った。冷然たる声音も相貌もいつもの事ながら、その秀麗な姿は夜のみ咲くという月見草のようだ。
「それよりも」
壬紗姫は告げた。酒呑童子と延暦寺の関係を。
「要するに、酒呑童子は元々人間であり、延暦寺とは浅からぬ因縁があるという事だな」
デュラン・ハイアット(ea0042)は楽しげに笑った。
恐猛獰悪なる鬼を束ねる王。それだけでも十分に興味の対象になるというのに、その背後にはさらなる謎が隠されていそうだ。
「なかなかに興味深い」
「それはそうと」
アンが周囲を見回して、問うた。
「宿奈芳純(eb5475)の姿が見えないようなんだけど」
「一人、先にいかれましたよ」
答えが返った。ふっとアンが声の方に眼を転じると、妖精に似た女性が微笑んでいた。シフールの吟遊詩人、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)だ。
「一人で?」
「ええ。あの方にはムーンシャドゥがあるのだわ。月の影をわたっていかれたのだわ」
「へえ」
アンが感心したかのように声をあげた。
「便利だな、魔法って」
「ふふ」
ヴァンアーブルがクスリと笑った。
「羨ましい?」
「うん。悪戯するにの良さそう」
「魔法で悪戯とはな」
デュランが呆れたように肩を竦めてみせた。
「能天気なのはいいが、明日はいよいよ鉄の御所に乗り込む事になる。気を引き締めてもらわなければ困るぞ」
「わかっているのだわ」
ヴァンアーブルが大きく肯いた。
「この世には大切なものがあるのだわ。人も鬼も関係ない、とっても大切なものが。わたくしは、それを守りたいのだわ」
「大切なものを守る? 愛、とでもいうのではなかろうな」
デュランが冷笑を投げた。するとヴァンアーブルは小さく首を横に振った。
「命なのだわ」
「命‥‥ふっ」
デュランの冷笑がさらに深まった。
――俺にも大切なものがある。命よりも、もっと大切なものがな。それは‥‥
「俺は英雄になる」
デュランの唇の端がつっと上がった。
その事は知らず、アンはそっと夜天を見上げた。そして煌々と輝く月に、一人の女性の面影を映す。
アンが育った孤児院のシスター。彼女が母と慕う女性であった。
「汝の隣人を愛せよ、か。無茶云うわよね、主も。けどだからこそ、なんだよね。延暦寺は絶対許せない
けど、だからこそ救う。寛容こそが主の教え。‥‥間違ってませんよね、母さん」
ぼつり、とアンは呟いた。
●
巳の刻あたり。
冒険者は鉄の御所に辿り着いた。すでに平織の尾行者はパラーリアのフォレストラビリンスでまいている。尾行者が一人であったのが幸いした。おそらくデュランの策――偽の依頼で冒険者が動くというもの――が効いたのであろう。
「これが鉄の御所か」
マクシームがある種の感慨をもって鉄の御所を眺めた。
鉄の塀で取り囲まれた砦ともいうべき大建築。この中には何百という鬼が蠢き、さらにはそれらを牛耳る鬼の王が鎮座している。いわば人世中の魔界だ。
「皆様、宜しいですか」
一足先に鉄の御所に辿り着いていた芳純が問うた。
「うん」
パラーリアが肯いた。いつもは長閑に開かれているその瞳に、いいしれぬ恐怖の色が浮かんでいる。
「恐いけど‥‥行かなきゃいけない。虎長サンを蘇らせたソフィア・クライムさんは妖妃モーガン・ル・フェイで強大な月魔法の使い手。数多の白魔法の法力で復活できなかった虎長サンが復活したというならば、それは月道を開いて強大な力をもつ存在を降臨させて復活させたんだと思う。証拠はないけど、悪寒がするの! 何かとてつもなく恐ろしい予感が。‥‥だから、皆に警告しなきゃ!」
ミネアの眼がはっと見開かれた。まさに彼女もまたパラーリアと同様の危惧を抱いていたのだ。
ミネアはぎゅっとパラーリアの手を握り締めた。
「ゆこう。一緒に」
ミネアが促し、冒険者達が足を踏み出した。
と――
その姿を見とめたか、門の前に陣取っていた十数匹の鬼が殺到してきた。
「お待ちを!」
叫び、一瞬後、芳純は思念を飛ばした。門番頭らしき鬼に向かって。
(比叡山の慈円様からの依頼でまかり越しました宿奈芳純と申します。恐れ入りますが酒呑童子様へのお目通りをお願いいたします)
「待テ」
頭らしき鬼が他の鬼を制した。
「慈円‥ノ‥使イ‥宿奈芳純ト‥イウノハ‥オマエカ」
「左様です」
芳純が肯いた。すると壬紗姫が一枚の書状を掲げてみせた。
「これこそ延暦寺座主、慈円様からの書状。酒呑童子殿にお取次ぎ願います」
●
鉄の御所の門が開き、冒険者達は中に足を踏み入れた。
見よ。鉄の御所内部の有様を。
そこかしこに無数の鬼がたむろしている。種も様々だ。
むっとする熱風にも似た獣気とも瘴気ともつかぬものが冒険者達を吹きくるんだ。鬼達から発せられる無意識的な殺気である。
が、この修羅の巷において――
壬紗姫の眼の色だけは、他の冒険者達とは違った。
彼女は、肉親を魔物に殺害されるという過去を持つ。故に魔物を見る時、壬紗姫自身気づかぬ殺意に、彼女の瞳は赤く彩られるのだ。
その時、女が姿を見せた。人間としか思えぬ、妖艶な姿態の娘である。
「酒呑童子様はこちらです」
会釈し、娘が先に立って歩き出した。
●
鉄の御所。
その最奥の一室に、八つの影が座していた。冒険者だ。
その彼らの眼前、 二つの異形が座している。
一つは、様々な獣を組み合わせたような異様な体躯の持ち主であった。遥かな年月を経た叡智にも似た光を眼にためた、その奇怪な姿形の魔物の正体を、冒険者達は知らぬ――いや、ミネアのみは知っている。のみならず、彼女は戦ってもいる。
鵺。名は、確か月王といった。
そして、もう一つ。
こちらは人間とあまり変わらぬ。どころか、貴族的ともいうべき整ったその顔立ちは、男ですら見とれてしまいかねぬほどの美形である。額にぬらりと生えた角さえなければ――
彼こそ酒呑童子。幾百の鬼を従える鬼の王であった。
「酒呑童子さん、お久しぶりなのっ!」
パラーリアが溌剌とした声音を上げた。
鉄の御所は動かず。それがフォーノリッヂの結果だ。
が、未来は変えられる。気落ちしているわけにはいかなかった。
酒呑童子は、一度壬紗姫とパラーリアの献上品をちらりと見遣ってから、口を開いた。
「慈円の使いだそうだな」
「はい」
答えると、壬紗姫は慈円からの書状を差し出した。
「うむ」
手にとると、酒呑童子は書状を広げ、視線をはしらせた。ややあって、
「ほお、虎長が延暦寺を‥‥」
「はい」
鬼とも見劣らぬ巨躯を乗り出させ、芳純が肯いた。
「平織家は神皇の剣となり盾となるを名目に天下布武を宣言した事、そして軍を率いて上洛した事はすでに童子様方のお耳にも達しているかと思われます」
酒呑童子が肯いた。
「その虎長が延暦寺を攻めたというのだな」
「はい」
壬紗姫が答えた。
「軍を進め、延暦寺を包囲しております。平織は数においても優勢、のみならずさらに加勢もあるとの事。故に、延暦寺‥‥慈円様は万一を慮り、酒呑童子殿に援軍を求めていらっしゃるのです」
「書状にも記されているが」
酒呑童子が冷然たる声をだした。
「平織がどうなろうと、延暦寺がどうなろうと、俺の知った事ではない。所詮は人同士の争い。鬼に関係はない」
「さもありましょうが」
芳純が必死の声をあげた。さらに身を乗り出させ、鉄の御所の危機と云った。
「御所の危機か」
「左様」
会心の表情で、芳純が首を縦に振った。
「人の争いなど酒呑童子様には些事であるのは承知しておりますが、平織軍が比叡山を焼き討ちした後、ついでとばかりに鉄の御所へ攻め込む可能性は高うございます」
「さもあろう」
酒呑童子が嗤いつつ、片眉をあげた。
「虎長は天下布武を宣言したと聞いたぞ」
「良く知っている」
ニヤリと笑みをむけたのはデュランだ。彼はすぐに笑みを消すと、
「天下布武とは、文字通り天下を武により手中にする事。従わぬ鉄の御所を虎長が見逃すはずはない。この先、虎長は勢力を東西にのばすだろう。その前に禍根を絶とうとするのは眼に見えている」
「虎長は天下人を目指すか」
酒呑童子が月王と眼を見交わした。
壬紗姫が酒呑童子殿、と呼びかけた。
「平織にとって延暦寺も鉄の御所も等しく敵なら、比叡山を焼く画策をしております。鉄の御所も無傷では済みますまい。せめてこの山を守る為に、攻めてくる人間を追い払う手伝いだけでも叶いますまいか」
「冒険者よ」
酒呑童子がじろりと壬紗姫を見た。
「山を焼かれては、さすがに我らも見過ごせぬが‥‥人間は昨日まで崇めていた寺院と霊峰を焼く生き物か?」
そこまで人は醜いのか。
「それほど恐ろしい都の側には住めぬ。我ら、この地を離れ、いずこかに退散するとしよう」
延暦寺から離れた鉄の御所まで焼くとなると規模が尋常ではない。単なる戦の枠を超え、天台宗に関わる者を皆殺しにする憎悪。
「それは‥」
壬紗姫は躊躇った。虎長が比叡山を焼き討ちにするとは彼女の読みだ。そしてそれは口に出す程、憎悪を拡大させる呪詛になる。
「虎長は、人では無い」
「何っ」
酒呑童子が声の主に視線を走らせた。
「人間ではないだと?」
「そうだ」
声の主――マクシームが肯いた。
「一つ、聞いていただきたい事がある」
と云って、続けて述べたのは虎長復活の顛末だ。
「鬼王であるあなたでさえ腕の再生に難儀したというのに、人の身にすぎない虎長はジャパンの高僧達がこぞって匙を投げる惨殺体から甦えることに成功した。お聞かせ願いたいんだが、人の身でそのような甦りが可能と思われるか?」
「ほう」
酒呑童子の眼に、刃のような光が閃いた。
「虎長は人ではないか」
「確証は無いがな。そういう噂がある。もし真実なら、比叡山を焼くこともためらわないのではないか」
「‥‥」
酒呑童子が沈黙した。
その時だ。ねえ、と大きな声が響いた。
アンだ。
彼女は瞳をくるりと回すと、
「すみません、いきなり大きな声をだして。えーっと‥‥陛下? 酒天様? どうお呼びすればいいのかしら? 私はナバーラのアン・シュヴァリエ。よろしくね、陛下?」
さすがの酒呑童子が苦笑した。
「酒呑童子でよい」
「では酒呑様」
アンは真っ直ぐな、まるで子供のような眼差しを酒呑童子にむけた。
「さっき人同士の争いっておっしゃってましたよね。確かにその通りだけど、鬼も『人』、そう考えた事はないの? 人であってヒトにあらず、差別され恐れられるというなら、私達ハーフエルフも同じ。でも、私達は逃げないわ。定めは時に残酷で、神は無慈悲。私も一度ならずそう思った事がある。でも、人との交わりの中でしか、やはりヒトは生きていけないのよ」
「‥‥」
黙したまま、酒呑童子はじっとアンを見返した。ややあって、月王がニッと笑った。
「鬼もヒトか‥‥。面白い事を云う」
「でしょ。だったら力を貸して」
パラーリアが勢いよく立ち上がった。
「戦いになったら虎長さんは最澄様が築き、皆が守ってきた大切な教えも何もかも破壊すると思う。だから、不滅の法灯だけでも救って欲しい。タケさんの誇り、最澄様の教えが生きているなら」
「そうなのだわ」
ヴァンアーブルも身をふわりと空に舞わせた。そして竪琴の絃を爪弾いた。
「延暦寺が滅びることは、単に宗門が武門に敗れることではなくて、伝教大師以来の数多の人々と幾星霜を経て積み重ねてきた教えと誇りが失われることになるのだわ。だから誇りを力で蹂躙する者との戦いに力を貸して欲しいのだわ」
「ふふん」
酒呑童子は笑った。人の教えも誇りも鬼から見れば笑いごとだが。
「誇りか。では延暦寺は、この酒呑童子に本気で助けを頼むというのだな」
酒呑童子は慈円の書状に再び眼を落とした。文面からは、切々たる慈円の苦衷が伝わってくる。
もし鉄の御所が延暦寺を助け、延暦寺がそれに感謝するのなら、畿内の鬼族の平和が約束されたようなものだ。それは酒呑童子にとって願ってもない話である。
この時、酒呑童子の脳裏を人と鬼との共存共栄という言葉がよぎったかもしれない。
それは儚く空しい夢だ。事が終われば、延暦寺は平然と酒呑童子を裏切るであろう。その夢をちらりとでも思い描いたとすれば鬼こそ哀れであった。が――
「よかろう。鉄の御所は延暦寺につく」
酒呑童子は云った。
●
やや、後。同じ一室。
酒呑童子の姿がある。が、すでに冒険者のむ姿はない。いや――
ミネアの姿のみ、ある。
「人払いしてまで、話とは何だ?」
酒呑童子が問うた。するとミネアはニンマリと微笑んだ。眼に剣呑な光を浮かべて。
「尾張武将が一、ミネアがやる、虎長暗殺に力を貸して欲しい」
「ほう」
酒呑童子の口から声がもれた。
「虎長を暗殺する、だと」
「うん」
ミネアが大きく肯いた。
「虎長は、その悪魔の代表だと思うんだ。その虎長を野放しにしていたら、きっとこの国は悪魔のものになってしまう。だからミネア、そうならないように虎長には消えてもらおうと思って」
ぞろりと、他の者が聞けば背筋を凍りつかせそうな言葉を、ミネアは事も無げに云ってのけた。
「協力して貰えるんなら、酒呑さんの配下になってもいいと思ってる。あは♪ 尾張にも、新撰組にも通じてるから意外に便利だと思うよ、ミネアは♪」
くすり、と。微笑みながら、ミネアは片目を瞑って見せた。
すると酒呑童子の眼が、次第に妖しく光りだしてきた。
「よかろう。虎長本陣に攻め入り、戦場をかきまわしてやる。その隙に、虎長を殺せ」
同じ頃だ。
ヴァンアーブルは月王と対していた。
「女」
月王の獣の口が開いた。
「何故、八部衆を知っている?」
「酒呑童子さんは――」
「酒呑は知らぬ。あまりに古き事‥‥先代酒呑童子の頃の事であった故な」
「そのような昔‥‥」
息をひき、ややあってヴァンアーブルは問うた。
「八部衆とは何なのか、教えてほしいのだわ」
「奴らは‥‥」
月王の眼が凄絶に光った。
「我らの敵であった」