【夜叉】翁

■ショートシナリオ


担当:御言雪乃

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2008年06月25日

●オープニング


 怒号と血風が渦巻いている。
 京。
 比叡山。
 平織の軍と延暦寺の僧兵がぶつかりあい、殺しあうこの地は、すでに聖地ではない。怨嗟と苦痛、憎しみと死の溢れる戦場であった。
 その戦場の中、一匹の修羅がいた。
 群がる敵を斬り、はねとばし、踏み潰す。血にまみれたその姿は、まさに鬼を喰らう鬼、修羅そのものであった。
「化け物!」
 畏怖を込めた絶叫を放ちつつ、敵は刃をはしらせた。
 がっきと受け止められた刃のむこう――にっと修羅は血笑をうかべた。
「化け物とは気にいらねえなあ。俺には虎魔慶牙(ea7767)って名前があるんだぜえ」
 刹那、大気に白い亀裂が刻まれた。
 血煙があがったのは、唐竹割りになった敵が、どうと大地に崩折れた後であった。


 らんと小町は顔を見合わせた。これで何度目だろう。
 二人の視線は、一人の少女に注がれていた。さやか、にである。
「変わったね、あの子」
「うん」
 小町は肯いた。
 当初、さやかには、どこか危うげなところがあった。それが先日駿河から戻った来た時、きれいさっぱり拭い去られていた。今、さやかの眼にあるのは、らんと小町の眼にあるのと同じ光である。
「気づいてるかなぁ、あいつ」
「さあ」
 小町は首を傾げ、一人の若者に眼を遣った。
 美しい若者だ。神が人の身をとったとしか思えぬ若者の美影は、らんと小町ですらともすれば見惚れてしまいかねぬほどであった。
 若者は、そのらんと小町の視線など知らぬげに、楽しそうに杯を傾けている。
 名を鬼一法眼。鞍馬流の創始者であり、なおかつ六韜三略兵法相伝者である。
「ね、ねえ」
 小町が法眼に近寄った。頬が熱くなっている事に小町は気づいているが、自分ではどうしようもない。
「わ、わたしたちを何時までここにおいておくつもり?」
「さて」
 小町をちらりと見ようともせず、法眼は杯を口から離した。
「俺が酔うまで、というところか」
「酔う‥‥まで?」
 小町は眉根を寄せた。しょっちゅう酒を呑んでいるような印象があるが、鬼一法眼が酔っ払ったところなど見た事がなかったからだ。
 満面を紅潮させると、小町は足早に法眼の側を離れた。そして水を飲んでくるとらんに断り、小町は庵の裏にむかった。
 その時――
 小町は背後に気配を感じた。
 はじかれたように振り向いた小町は見た。そこに立つ少女の姿を。
「さや、か‥‥?」


 蝙蝠にも似た黒影が空に舞った。薙ぎ下ろされた刃は空を灼き切るように疾り――
 慶牙がすうと身をひいた。前髪が数本もっていかれた。
 同時、慶牙の刃ははねあがっていた。大気に刻まれた白光は黒影の面上を翔け――
 はらり。黒影の覆面が切れて、落ちた。
「白蛇丸、てめえ」
 覆面の下から現れた黒影の正体を見とめ、慶牙の眼に獰猛な光がやどった。
「何のつもりだ」
「久しぶり故、腕が落ちていないか試してやったのだ」
 白蛇丸と呼ばれた男がニヤリとした。すると慶牙は顔を顰めると、
「何が試すだ。殺すつもりであったろう。殺気がこもっていたぞ」
「あれしきで斬られるのなら、生きている資格などない。ところで」
 白蛇丸の眼から笑みが消えた。
「さやかという小娘の件はどうなった?」
「ゆくつもりさ。翁とやらを放っちゃおけねえからな」
「ならば」
 凄愴の風が吹いた。死神にも似た黒影が立っている。
 風斬乱(ea7394)だ。
 さらに三人。
 クリス・ウェルロッド(ea5708)、マリス・エストレリータ(ea7246)、磯城弥魁厳。いずれも一騎当千の冒険者だ。
「私もゆきますよ」
 クリスが天使の笑みを浮かべた。
 マリスはただ肯く。大きな蒼い瞳に、そして小さな身体に、慶牙すら圧するほどの覇気を滲ませて。
「では、依頼の内容を聞かせてもらおうか」
 透徹した眼を慶牙にむけ、魁厳が云った。 

●今回の参加者

 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

楼 焔(eb1276)/ アニェス・ジュイエ(eb9449

●リプレイ本文

 翁追う
 全ての法を
 踏み込えて
 疾走る心の
 赴くままに


 風が吹いている。
 濃い緑の香りを含んだ風だ。
 その風に髪をなびかせて鬼一法眼の庵に現れたのは、四人の冒険者であった。
「久しぶりじゃの、ここに来るのも」
 異形の冒険者が口を開いた。
 磯城弥魁厳(eb5249)。今は伊達家家臣、黒脛巾組の一忍だ。
「ああ」
 と肯いて、しかし虎魔慶牙(ea7767)はセピア・オーレリィ(eb3797)の只ならぬ様子に気づき、眉をあげた。
「何か心配事でもあるのか」
「翁の事よ」
 セピアは血の色にも似た瞳をやや翳らせた。
「翁?」
「そう。動きがなかった事が気になるの。もしかすると動く必要がなかったか‥‥」
「動く必要がない?」
「ええ。例えばさやかちゃんの記憶が戻るのは敵の思う壺だとか、ね」
「‥‥」
 さしもの慶牙が言葉を失った。
 さやかの為を思い、駿河へと連れ立った。が、もしそれがさやかを再び修羅の道に追い込む事になるとしたら――
「ともかくさやかの記憶が戻っているか確かめる事が先決だ」
「もし記憶が戻っていたら、どうする気や?」
 西園寺更紗(ea4734)がちらりと眼をあげた。切れ長のその眼は刃のように鋭い。
 更紗はさらにその眼の光を強めると、
「記憶が戻っていたら、さやかは慶牙殿やうちを仇として殺そうとするかもしれへん。その時はどないするつもりや?」
「どうするも」
 慶牙はニヤリとした。
「守るさ」
「守る?」
「ああ。かかってくるなら、体力が続くまで受け続けてやる。奴等全員事が終わるまで、敵視されようと守ってやる。誰一人死なせない。それがながととの約束であり、俺の誓いだ」
 答えると、慶牙は再びニヤリとした。
 その笑みは恐く、そして優しく――まるで神将像のように更紗の眼には映った。


 翌日の朝。
 上州を目指す三つの影があった。
 二つは騎馬で――といっても、対照的な存在である。一人は白馬に跨った太陽のように眩しく美しい若者であり、一人は人馬ともに闇が凝したようであった。
 そして、残る一人は徒歩である。旅装束に三度笠という井出達であるのだが――
 その三度笠から覗く眼の冷たさはどうであろう。まるで爬虫のそれである。
 クリス・ウェルロッド(ea5708)、風斬乱(ea7394)、氷雨雹刃(ea7901)の三人であった。
「上州、か」
 クリスは苦笑した。
「何の因果でしょうか。またこの面子で、あの地を踏むとは」
「腐れ縁だな」
 雹刃が唇の端を歪める。実は過去、クリスと乱、雹刃の三人は上州において暗躍していた事があったのだ。
 乱はしかし、黒号に揺られながら冷めた顔をあげた。
「つまらん」
 乱は云った。
「おたく達の守役など」
「そうでもないぞ」
 同じように顔をあげ、雹刃はニンマリした。彼の眼は、北の空に広がりつつ暗雲をとらえている。
「上州も震えている。俺達三人の帰還にな」


 江戸外れ。
 商人の別宅という風情の屋敷からその男は出てきた。
 年は六十過ぎであろうか。痩せてはいるが、どことなく貫禄のある老人であった。
 ややあって、一人の少女が木陰から姿を見せた。
 透明感のある青い髪と同色の瞳をもった美少女で、身の丈は一尺強ほどしかない。シフールだ。
 彼女こそ誰あろう、八人目の冒険者、マリス・エストレリータ(ea7246)であった。
 マリスは昨日からずっとこの屋敷を見張っていた。そして、眼前をゆくその老人こそ屋敷の主であると当たりをつけたのだ。
 彼女には人の正体を見通す術はない。よって老人が常人であるか否かの判断はつかないのだが、もしらんと小町の云う事が確かなら、この老人が翁である可能性は高い。
 その後、老人はゆったりとした足取りで足を運び続けた。途中挨拶を交わす者があったので、マリスが後を追って尋ねてみたところ、老人は備前屋の主人である事がわかった。
「知り合いの探し人に似てる気がしましたのでな。ちょっと上州の方に用事がありまして‥‥で、その探し人なら請け負うてくれるかもと思うたのですじゃ」
「おお、それなら」
 マリスが尋ねたその男――商人風の男は破顔した。
「備前屋さんなら上州の方とも取引されていらっしゃるはず。お頼みになられてはいかがです?」
「それは有り難い」
 マリスは可憐に微笑みえした。その眼のみ、ただ冴え冴えとして。


 魁厳達四人の冒険者が鬼一法眼の庵に辿り着いたのは昨夜であった。それは馬をもたぬセピアの足に他の冒険者があわせたからであるのだが――
 ともかく冒険者達はその夜法眼の庵に泊まり、実質彼らがさやか達と顔をあわせたのはこの日が初めてであった。
「これを貴殿らに」
 らんと小町にむかい、魁厳が翡翠のリボンと勿忘草の細工がなされたかんざしを差し出した。が、二人の少女は勝気そうな美しい顔をふんとそらせたきり。それは慶牙が用意した浴衣を見ても同じだった。
「ふふ」
 セピアは、しかし苦笑をもらしている。二人の少女の眼に好奇の色がありありと浮かんでいるのを見てとったからだ。
「ねえ」
 セピアが二人の少女に声をかけた。
「聞かせてもらいたいの。その人‥‥翁様に貴方達は引き取られたんでしょ。どうやって引き取られたの?」
「どうやって?」
 らんと小町は顔を見合わせた。
「そんな事聞いて、どうするのよ?」
「本当は優しい人なんじゃないかと思って‥‥ちょっと興味が出てね」
「優しいわよ」
 らんが、その時ばかりは嬉しそうに笑った。
「まるで本当のおじいちゃんみたいだったもん」
「だからおじいちゃん‥‥翁様の云い付けを守って人を殺めていたのね」
「だって悪い奴らだもん」
「世の為、人の為ってやつよ」
 小町がにっと笑った。

 更紗はじっと視ていた。
 静かに――
 そして、鋭く。錐の先のように。
 さやか、をである。
 おかしい。
 そう更紗は感じていた。
 駿河にゆく前と今、さやかの態度には明らかな違いがある。慶牙が記憶が戻ったのかと確かめたところ、否とさやかは答えたのだが‥‥
 しかし、信じられぬ。それは女の勘としか云えぬ不確かなものであるのだが。
「法眼殿」
 更紗は、柱にもたれて扇子で顔を仰いでいる神々しいばかりの美丈夫に歩み寄っていった。
「お聞きしたいんやけど‥‥さやかの様子でおかしなところは見当たらなかった?」
「ほう」
 法眼が薄く眼を開いた。
「わかるか」
「では、やはり」
「ああ。あのさやかは、俺のところに来た頃のさやかではない」
「そう‥‥」
 鉛のような重い溜息を零すと、更紗は次にさやかのもとに歩み寄っていった。
「あんさん」
 更紗が声をかけると、縁に座っていたさやかがゆっくりと顔を振り向けた。その身の近くには慶牙の浴衣がある。着るつもりはないようだ。
 更紗はさやかの隣に腰をおろした。
「あんさん、随分雰囲気変わりましたなぁ。喩えるなら何かを決意した感じやろか。あんさんが何を考えてるか分からんへんけど、おかしな事考えんときや」
 更紗は何気ない口調で告げた。さやかは黙したままだ。
 そのさやかの黒瞳をじっと見つめると、ゆるりと更紗は口を開いた。もらされたのは、彼女が夜叉の一人であったとういを手にかけた事を謝す言葉だ。さらに更紗はながと達を殺した事に触れた。それでも――
 さやかは黙したままであった。ただ、その眼にゆらりと燃える炎があった。
 殺意の炎――そう更紗は判じた。
 やはりさやかは記憶を取り戻している。そして冒険者に対する復讐の念に燃えている!


 上州。
 国司は新田義貞である。が、義貞が国司の勅を得て上州をしずめたのは最近の事であり、以前は関東における騒乱の中心地であった。故に義貞はその後始末に追われ、今は上州の再興に腐心しているという。
「‥‥と、いう事だそうです」
 クリスが締めくくった。冒険者ギルドで紹介された情報屋から仕入れた情報だ。
 が、そんな事は雹刃にとって既知の事である。彼は新田隠密軍の一人であった。
「それより人攫いについては何かわかったのか」
「特には。上州は物騒な地でしてね。人攫いなどは日常茶飯事だと笑われましたよ」
「なら、やはりバーニングマップの結果を追うしかないか」
 雹刃がぎりと歯を噛んだ。らんと小町の名が産みの親につけられたものであるのか本人に会って確かめてみたかったが、時間の猶予がない故に断念したのであったのだ。
「ところで」
 クリスが愉しそうな顔を乱にむけた。
「さやかという娘、記憶が戻ったと思いますか」
「気になるか?」
「まあ、ね。記憶が戻って寝首をかかれるとしても彼らの方で、私には関係ないのですが」
「過去は取り戻せぬ」
 乱は眼を閉じた。脳裏に過ぎるのは小鬼の一人であった純という少女の面影だ。
 乱の胸を怒りの炎が灼いた。同時に、彼の頭は氷のようにしんと冷えている。
 どのような状況下においても――いや、困難下であればあるほど、乱の精神は冷え静まっていく。それが乱の真骨頂であった。
「俺の眼の前で俺の獲物をヤった。‥‥相手もそれ相応の覚悟はあるのだろう。‥‥しかし、やってやられてまたやり返される。憎しみの連鎖はいつ途切れるのだろうね?」
 乱が無造作に日本刀を抜き打った。ぽとりと蝿が二つに断ち割られて地に落ちた。


「反物商、ね」
 更紗は屋敷に眼をむけた。塀の為に内部の様子は窺い知れないが、マリスの調べにより、すでにその屋敷は備前屋丹兵衛のものと知れている。
「私が見れば、身ごなしなんかを確かめられたのだけれど」
 セピアは唇を噛んだ。そしてマリスに眼を転じた。
「情報屋‥‥確か赤猫といったかしら。そちらからは何か情報は得られたの?」
「心を読んでみましたじゃ」
 マリスが前置いた。
「どうやら翁というのは夜刀衆の一人らしいですじゃ」
「夜刀衆? 何なの、それ?」
「殺し屋集団と赤猫様は考えておられましたじゃ」
「厄介ね、それは」
 セピアは溜息を零した。一人の娘の呪縛を絶つつもりが、藪を突ついて蛇を出しかねない。  
「影でやるんるは不得意やわ」
 物陰から更紗が立ち上がった。上州からの連絡に確たるものはないが、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
 更紗は屋敷の戸をくぐった。玄関と中庭が見えている。
 迷わず更紗は中庭に足を踏み入れた。
「あんた――」
 女の声が響いた。
 更紗が眼を遣ると、中年の女が顔色を変えている。身形は下働きの女中だ。
「何だい、あんた!」
「‥‥」
 応えは返さず、更紗は視線を走らせた。
 座敷らしいところに数名の人影が見えた。すでに臨戦態勢だ。逸早く更紗の気配を察知したものらしい。
 ざわり、と殺気の波がうねった――ように更紗には感じられた。
「すいまへん。間違いやったようどす」
 更紗が踵を返した。が――
 その前に一人の浪人が立ちはだかった。すでに抜刀している。
 反射的に更紗もまた抜刀した。彼女の背は殺到する敵の気配を感得している。
「西園寺更紗、参ります」
 すすっと足を進め――
 更紗の足元から白光が薙ぎ上げられた。
 戛!
 眩い火花散らせ、浪人が更紗の刃を受け止めた。かなりの手練れのようである。
「くっ」
 呻きつつ、更紗は眼を配った。すでに周囲は取り囲まれている。無傷での脱出は不可能に近い。
 その時だ。悲鳴に似た叫びが響いた。
「お役人様、こちらで何か騒ぎが!」
「ぬっ」
 はじかれたように浪人達が顔を見合わせた。そしてすぐさま背を返す。目指すは裏口だ。
 その浪人達を追うように、叫びが大きくなる。お役人様、こちらでございます。こちらで、こちらで――
「こちらでございます」
 戸が開き、セピアの艶やかな笑みが覗いた。
 ふっと息をつくと、更紗は刃を鞘におさめた。そして、額に浮いた冷たい汗を拭った。


「どうだ、魁厳?」
「かわりないのう」
 慶牙に問われ、魁厳はふっと眼を開けた。
 彼の隠密能力は伊達ではない。魁厳の知覚の網にかからずに接近するのは並みの技量ではかなわぬだろう。
「そうか」
 慶牙はニッと笑った。
「まあ、あんたに任せときゃあ心配ねえだろう」
「それよりも心配な事がある」
「何だ?」
「さやか殿の事じゃ。更紗殿も注意を促しておられたが、わしの眼をもってしても同意。さやか殿にとって、やはり我らは――」
「わかっているさ」
 魁厳を遮ると、慶牙は背を返した。

 どかり、と慶牙は縁に腰をおろした。眼前には三人の少女がしゃがんでいる。さやかと、浴衣を纏ったらんと小町だ。
 さやかは普段と同じ着物で、露わになった太腿が眩しいほどに白い。らんと小町は浴衣など気なれぬせいかすぐに着崩れさせ、胸元から桃のような胸元を覗かせている。それぞれに魁厳の装身具を身につけていた。 
「おまえらに聞きたい事がある」
 慶牙が三人の少女を見渡した。
「自由になったら何をしたい?」
「自由?」
 らんと小町は顔を見合わせた。自由などは考えた事もないような顔つきだ。
 そうだ、と慶牙は肯いた。
「おまえらは殺しがしたいのか。そうじゃねえだろう。きっと他にやりたい事があるはずだ。娘らしい何か、が」
「そんなもの」
「ないもん」
 らんと小町が顔をそむけた。その様子に、慶牙の面に微笑がういた。それは憫笑に近いもので。
 らんと小町にとって、したい事はないのではない。わからないのだ。おそらく殺ししか知らぬ世界で育ってきた為だろう。
「ならば、見てみればどうかの、世の中という奴を」
 魁厳が云った。慶牙は、今度は大きく首を縦に振り、
「そいつはいいかもしれねえ。己の眼で見、考え、歩む。その道が間違っててもかまわねえ。そんときゃあ俺が尻を引っ叩いてやるからよ」
 愉快そうにげらげらと笑い声をあげた。
 と――
 魁厳はさやかに眼をとめた。何か云いたそうに見えたからだ。
「どうかしたのかの?」
「ううん、何でもない」
 さやかがかぶりを振った。その眼に哀しみを見た――ように魁厳は思った。


「何故、俺ばかり‥‥」
 乱がごちた。
 上州に入ってからというもの、聞き込みはほとんど乱がやらされていた。クリスと雹刃はといえば、暑さを避けて木陰でやすんでいる。
「もう疲れちゃったんですよ」
「地味に動くのは、俺の趣味じゃない」
「殺すぞ」
 乱の眼に殺気が閃いた。こんな事なら江戸に残り、女達に囲まれていた方がよほど良い。
 が――
 それでも乱は聞き込みを始めた。まさに腐れ縁というしかない。
「この辺りで人攫いなどなかっただろうか。らん、小町、純などという名の女の子なのだが」
「お侍様」
 農家の内儀らしき女が驚いたような顔をあげた。
「どうしてらんの事を知っていなさる?」
「何?」
 乱の眼がぎらりと光った。
「らんという女の子が浚われた事、知っているのか」
「ええ。何しろえらい騒ぎだったからねえ。一度に二人も浚われたって事で」
「二人!?」
 さしもの乱の顔色が変わった。
「浚われたのは、らん一人ではないのか」
「そうだよ」
 女が肯いた。
「さやかっていう双子の姉も一緒に浚われちまったんだよ」