沼田城戦雲
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:08月02日〜08月09日
リプレイ公開日:2008年08月13日
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●オープニング
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絶叫があがった。そして幾十かの人影が殺到する。
白刃を振りかざすその姿は、まるで悪鬼のように見えた。
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「何っ!」
はじかれたように上げられたその面は蒼く強張っている。それでも、その若者の相貌は女と見紛うばかりに秀麗であった。
名を北条三郎。沼田城城主である。
「新田の兵が沼田に?」
「はッ」
肯いたのは剛直そうな侍であった。こちらは名を宇佐美定満といい、上杉家家臣である。現在は三郎につき従い、沼田城家老職にあった。
定満は困惑の色を浮かべた眼を三郎にむけた。
「国境において小競り合いがあった模様」
「ううむ」
三郎は唸った。
「宣戦布告も無しにか? 上杉と新田はいわば同盟の間柄、この時期に上杉に戦を仕掛ける利もあるまい。‥‥そもそも、新田義貞殿は上野国国司に就任したばかりで争乱で荒れた上野国の統治に腐心していると聞く。有り得ぬことぞ」
「されど新田が仕掛けたは事実のようでございます」
「それはそうであろう」
三郎は苦い表情で答えた。
ここ沼田は上杉にとって飛び領。いわば敵地内に築かれた城砦も同じ。こちらから戦を仕掛ける事などない。
重い声で三郎が問うた。
「それで被害の方はどうなっている?」
「双方死傷者は少ないようで。ただ戦場となった村に被害が出たとの報告が」
「何っ!」
再び三郎が呻いた。顔色を変えて、
「村を巻き込んだのか! そ、それで被害とはどのような――」
「死傷者多数と聞き及んでおります」
「死傷者多数‥‥」
三郎が息をひいた。が、すぐに、
「その中に女子供もまじっておるのか?」
「そこまでは、まだ報せを受けておりませぬ」
「すぐに調べよ!」
三郎が叫んだ。その声には怒りが滲んでいるようである。三郎は医者を用意せよと続けた。
「怪我人がおるはず。兵と医者を向かわせ、救うのだ」
「御意」
定満が面を伏せた。
三郎はついと眼をそらし、上方を仰いだ。そして胸の内で呟いた。兄上、と。
●
それよりやや後日。
江戸の冒険者ギルドの中で、落ち着いた物腰の一人の女性が口元を手で覆っていた。が、それでも抑えきれぬのか、女性の口からは嘆声がもれている。
彼女の手には一枚の紙片が握られていた。そこには上杉と新田の小競り合いの事が記されている。さらには巻き込まれた村の者数十名に死傷者が出た事も。
「これは本当の事なのですか」
「はい」
暗鬱な顔で手代は肯いた。
「上州より報せがありました。カーラ・オレアリス(eb4802)さんが沼田に赴いておられた事を思い出し、それでお伝えした次第」
「ありがとうございます」
女性――カーラは小さく微笑み返した。さすがのカーラにとっても、それが精一杯だ。
一月ほど前、カーラは上州沼田に赴いた。その際、カーラは一つの危惧を抱いた。沼田に戦禍が及ぶのではないかという恐れだ。
「とうとう始まった」
カーラは唇を血の滲むほど噛みしめた。憤怒の炎がその胸を灼いている。
侍達が領土争いで命を落とすのは勝手だ。が、その戦に巻き込まれ、踏みにじられた無辜の民はどうなるのか。
カーラははっとして振り返った。ギルドの表を駆けていく数人の子供達が見えている。
年の頃なら五、六歳。まだ人生を歩みだしたばかりの命だ。
「同じ命が沼田で‥‥」
カーラの眼が蒼く燃えた。そして告げたのである。決然たる声音で。
「依頼をお願いします」
「沼田にゆかれるのでございますか」
「ええ。人と人の争いがあり、聖と魔の争いがあります。現実に生きる人たちには判らないことでしょう。また誰にも認められることはないでしょう。それでも歩き出さねばならないのです。この世の善と正義を信じて」
カーラは云った。
見つめ返す手代は眩しそうに眼を細めた。まるでカーラの言葉そのものから光が溢れ出てでもいるかのように。
●リプレイ本文
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流れる雲が迅い。
今頃沼田城にかかる雲は、いかなるものか。血の滲んだ闇雲であるかもしれぬ。
空にあげていた眼をおろしたカーラ・オレアリス(eb4802)の表情はかたい。玲瓏たる彼女の相貌はそのままだが、いいしれぬ昏い翳がおちている。一つの噂が彼女の耳に届いていたからだ。
――新田家には嘗て華西虎山と言う四天王がいて、その正体は華国渡りの虎人だそうな。新田は魔物と手を組み、何かしようとしているのではなかろうか。
「あなたですね」
カーラは振り向いた。そこに一人の異形が立っている。河童の忍び、鳴滝風流斎だ。
「新田の噂を流したのは」
「さあて」
風流斎はとぼけた。カーラの面を怒りの色がよぎった。
「どういうつもりなのですか。新田を煽るような真似をして」
はっとしてカーラは瞠目した。
「もしやあなたのお友達の方も‥‥その方は、今どこに?」
「上州沼田」
風流斎が答えた。
「叔母様」
フィーネ・オレアリスが気遣わしげな眼をむけた。
「大丈夫?」
「え、ええ」
カーラは肯いた。
「鳳さん」
カーラは一人のシフールに眼を転じた。すでに彼女の眼からは動揺は拭い去られている。
「鬼道八部衆に関わりのある神社について、何かわかりましたか」
「それなんだが」
鳳令明は野性味をおびた相貌をやや曇らせた。
「今のところ全く情報はないんだ」
「そう」
肯くカーラの肩を、その時そっと叩いた者がいる。
カーラと同じく落ち着いた物腰ながら、艶めいた美しさと豊満な肢体をもつエルフの女性。シェリル・オレアリス(eb4803)だ。
「いきましょう、沼田へ」
「ええ。すでに戦端は開かれています。この上は何としても九鬼花舟の陰謀である事を明かさなければなりません」
「そうね」
シェリルは肯いた。
「おそらく新田義貞は事を知らない。これは私の予想だけど。問題は、私達が犯人を捕まえない限り、真相は闇に葬られて更に大きな戦争へと発展するって事よね。そして、私達だけが真実に辿り着ける位置にいるのよ」
「そうですね」
カーラの表情が、彼女らしくもなく強張った。
無理も無い。シェリルの云う通り、沼田の命運は彼女達の双肩にかかっているといっても過言ではないからだ。
「そんな事はさせません」
カーラは宣言した。
そして、ゆく。悲しみの涙を拭う為、戦乱の雲を斬り裂かんと、今、冒険者が。
上州沼田。陰謀と悪意の渦巻く地へ。
●
カーラの不安は的中した。
依頼に参加した冒険者中、沼田の戦雲を払うより、むしろ雷鳴響かせんとする者がいたのだ。
その名は各務蒼馬(ec3787)。忍びである。
「沼田に戦か」
蒼馬は冷笑をうかべた。
「それもありなん。盗人に関東を支配されていながら平和になると思っているのなら正に笑止」
蒼馬が独語した。
その言葉通り、彼はカーラの憂慮するような只乱を呼ぶだけの者ではない。
蒼馬は、彼なりに関東の未来を案じているのであった。それは彼の反骨心の現れでもあったが。
そして、その蒼馬の怒りは一人の武将へとむく。
新田義貞。上野国の国司となった、知将と噂される男だ。
「新田め」
蒼馬が吐き捨てた。そして思う。そもそもはこいつが出てこなければ華の乱は起こらなかった、と。
「元凶は新田だ。だからこの機会に立場を悪化させてやる」
黒瞳に蒼い炎ゆらめかせ、蒼馬がむかったのは外桜田にある伊達屋敷であった。
一人の侍が縁に立っていた。伊達家重臣である。
その手には一枚の文が握られていた。
新田に乱の気配あり。その野心は上州のみに留まらず、何れは関東を狙う心積もりなり。用心なされよ。――文の内容である。差出人の名は記されてはいなかった。
「ふん」
重臣は紙片を握りつぶした。
今や伊達は江戸の主である。そのような者には毀誉褒貶や怪文書などが付きまとって当然。いちいちかかわっていてはきりがない。
そして、この重臣はすぐさまこの文の事を忘れた。この男にとっては良く冷えた西瓜を喰らう事の方が大切だったのである。
●
その村は沼田と新田領の境近くにあった。
新田兵に火をつけられたのか、家の幾つかは黒々と焼けていた。辺りには、未だ木と肉の焦げたような臭いが漂っている。
「何者だ」
突如とんだ声に、カーラとシェリルは振り返った。
そこに一人の男が立っている。侍だ。
「異国人か」
怪しみつつ、しかし侍は刀の柄にかけていて手をはずした。女とみてわずかに殺気をほどいたのだ。
カーラが会釈した。
「私はカーラと申します」
「私はシェリル。冒険者です」
「冒険者?」
侍が眉をひそめた。
「冒険者が、何故このような場所におる? まさか新田の――」
「いえ」
慌てて否定すると、カーラは事情を説明した。村が新田兵に攻められたと聞き、怪我人を救いに来たと。
すると侍はやや顔を顰め、
「冒険者風情の助けなどいらぬ」
背後に眼を遣った。
「殿が逸早く指図を下されての。医者を寄越し、怪我人を救われた」
その時だ。一軒の家から悲鳴に似た声がはじけた。
「あれは!?」
反射的にカーラが駆け出そうとした。が、その眼前に侍が立ちはだかった。
「待て。どこにゆく?」
「あの家へ」
カーラは必死の形相で声の響いた家を指差した。
「もしやすると怪我人の容態が急変したのかもしれません。ならば私に助けられるかも」
「ならぬ!」
侍が叫んだ。
それきり侍の動きがとまった。まるで凍りついてしまったかのように。
「ごめんなさいね。怪我人を救ったら術は解いてあげるわ」
云うと、シェリルはカーラに目配せした。
●
「さて、新田が上杉の沼田を攻めたのが本当なら、ひとつ煽ってみるか」
ニヤリとすると、どこか無頼の気風の漂う浪人が一人、村へと足を踏み入れた。五人目の冒険者、八城兵衛(eb2196)である。
「よお」
一人の村人の姿を見つけ、兵衛が声をかけた。
「新田に攻められた村というのは、ここか」
「へ、へい」
怯えた眼で村人が肯いた。
「大変だったな。しかし、上杉領の村がこんな目に遭うというのは、あの噂は本当のようだな」
「う、噂?」
「そうだ」
兵衛は肯いた。その眼が獣のそれに似て、底光りしている。
「新田には、嘗て部下に新田四天王というのがいてよ。その中の一人、華西虎山という奴の正体は華国渡りの虎人だっていう話を知っているか? おまけにその華西という奴の配下には妖狐までいたっていうじゃねぇか。俺が睨むところ、新田は妖怪と手を組んでいるね。だから同盟を結んでいる上杉に簡単に手を出すのさ。このままじゃ新田とその背後にいる妖怪に関東が食い荒らされないか心配だぜ」
「お待ちを」
凛と澄んだ声が響いた。
その涼やかさに、ふっと眼を転じた兵衛は、そこに二人の仲間の姿を見出した。即ち、カーラとシェリルである。
カーラは怒色の滲んだ声で問うた。
「八城さんですね。今の話は本当なのですか」
「さあて」
兵衛はとぼけた。
「噂さ、噂。付け加えるのなら伊達もそうさ。華の乱での伊達軍の行軍経路は黄泉人と妖怪が蠢く常陸であり、そこを無傷で通過した伊達も同様に胡散臭い――」
「本当か、それは」
先程の侍が呻いた。今、カーラとシェリルには、侍の正体が上杉兵と知れている。
カーラとシェリルの表情がゆがんだ。
兵衛の話を、上杉の侍は北条三郎へと伝えるだろう。そうなれば三郎はどう動くか。
「八城さん、その話は証のある事なのですか」
「だから云ったろう。噂だって」
兵衛は嘯いた。そして冷然と背を返した。
その兵衛の眼に命を賭した者のみが持ちうる白銀の光がある事を、しかしカーラとシェリルは知らぬ。兵衛がひたすら探し求めているものが己の死に場所である事も――。
●
その夜の事である。村に騎馬が辿り着いた。
雪のような純白の毛並みの馬にまたがった、豹を思わせるしなやかな体躯の男。蒼馬である。
「ここか」
馬からおりると、蒼馬は灯りのもれる一軒の家に歩み寄っていった。彼の知らぬ事であったが、この時、すでにカーラとシェリルの姿はない。
と――
蒼馬は手綱を引いた。鋭敏な彼の感覚は背後に忍び寄りつつある殺気をとらえている。
「誰だ?」
「とは、こちらの台詞だ。何者だ、貴様。新田の間者か」
殺気の主が答えた。どうやら上杉の侍であるらしい。
「冒険者、各務蒼馬」
「何っ」
上杉侍の殺気が揺れた。
「またも冒険者か。何用あって、この村に参った?」
「村の者を救う為に来た。新田との戦に巻き込まれたと聞いてな。すぐ秋が来て冬になる。今の状態では、村人は飢えて死ぬだろう。ならば慈悲深いと噂の北条三郎殿に頼ってみてはどうかとすすめにきたのだ」
「余計なお世話だ」
侍は嘲笑った。
「すでに殿は手をうっておられる。冒険者風情に心配してもらう必要などない」
「そうか」
蒼馬はぽつりと応えを返した。
どうやら北条三郎という男、思ったよりも出来物であるらしい。小さな村の為にここまで、そして迅速に手をうてるなど並みの大名には不可能であろう。
ともかくも見込みは外れた。そう判断し、蒼馬は馬首を返した。
その蒼馬に、呼び止める声がしたのは、村からやや離れたところであった。
「もし、冒険者様」
「うん?」
馬上で蒼馬は眼を眇めた。
闇の中に大小二つの人影がある。女と子供だ。
「何だ、お前ら」
「村の者でございます。村で冒険者様のおっしゃられていた事を耳にしまして‥‥それで冒険者様のおっしゃられたように沼田城主様におすがりしたいと」
「ほう」
蒼馬の眼に喜色がわいた。
「よかろう」
蒼馬の馬からおりると、女と子供を馬にあげた。
「俺が必ず沼田城まで送り届けてやる。そして城主殿がどう出ようと、俺が当面の生活費を出してやろう。だから案ずるな」
「はい」
女が滲んだ涙を拭った。その手の陰で、女がニタリと笑った事を蒼馬は知らぬ。
ただ――
命に代えて、この二人を守る。その決意のみ、蒼馬の胸には燃えていた。
●
銀盆のような月の下、沼田城が淡く浮かび上がっている。
見上げる影は三つ。カーラ、シェリル、そしてシフールの吟遊詩人であるヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)であった。
「う〜ん、ニンゲン同士を争わせるとして何か腑に落ちないのだわ」
首を傾げると、ヴァンアーブルは湖面の如き澄んだ蒼の瞳をカーラにむけた。
「それで、九鬼と会っていた侍が何者かわかったのかだわ」
「いいえ」
カーラは残念そうにかぶりを振った。沼田と新田領の境においてカーラとシェリルはファンタズムを用いて侍の身元について聞き込んでみたのだが、知る者には行き当たらなかったのだ。
シェリルも沼田神社まで赴いてみたのだが、巫女は侍については何も知らず、未だその正体は霧の彼方である。フォーノリッヂを試みてもみたのだが、新たな戦の様子を垣間見ただけで、それが何時どこであるのかの特定までには至っていない。
「あなたの方はどうなの。沼田神社や久佐奈岐神社、それに巣守神社に祀られているモノを調べるとか云っていたけれど」
「それなのだわ」
ヴァンアーブルは眉を曇らせた。久佐奈岐神社はその名から連想される通り日本武尊を、巣守神社は天香語山命と刈谷田姫命を祭神としており、それぞれに繋がりは見受けられない。
「そう」
吐息をもらしたものの、しかしカーラには落胆の色はない。
メタボリズムにより助けた村の少女。息をふきかえした時、彼女は母親と間違えてカーラの手を握った。その小さな手の温もりは今も彼女のそれに残っている。その温もりがある限り――
「まだ戦えるわ」
カーラはヴァンアーブルを見つめた。
「テレパシーは使えそう?」
「やってみるのだわ」
ヴァンアーブルの身が妖精のように空に舞った。沼田城の西目指して。
そこは断崖。三郎がいるはずの本丸までの距離は近かった。
沼田城本丸。
蝋燭の炎すら凍りつきそうな静寂の中、北条三郎はかっと眼を見開いた。その脳裏に声が響いている。
(静かに‥落ち着いて‥思うだけでいいのだわ)
声はそう囁いていた。
(何だ、お前は?)
(私はムージョ。冒険者なのだわ)
答えつつ、ヴァンアーブルは舌を巻いていた。
若年でありながら、突然の異様事に対するに何という落ち着きぶりだろう。上杉謙信ほどの武将が沼田城を任せたのもむべなるかな。
ヴァンアーブルは続けた。
(今、沼田で起きてる事で貴方の力になりたくてこうしてお話しているのだわ)
そしてヴァンアーブルは事の真相を告げた。即ち鬼道八部衆の一人たる九鬼花舟の陰謀の影を探っている事を、である。
(ではその九鬼‥‥乾闥婆王とやらが此度の騒動の背後で暗躍していると? 証は?)
(う‥‥)
ヴァンアーブルは詰まった。未だ陰謀の証たるものは掴んではいない。
(わかったのだわ。きっと証を見つけるのだわ。だから私を三郎さんの御伽衆にして欲しいのだわ。そうしたら円滑に事が運ぶし、堂々と会いにいけるのだわ)
(だめだな)
三郎の応えは鰾膠も無かった。
(な、何故――)
(お前が信用ならないからだ)
三郎が答えた。
(お前が冒険者のふりをした悪魔でないと断言できるか。または悪魔の手先の人間であると)
(ち、違うのだわ)
(自らそうだと白状する悪魔もおるまい)
三郎はふっと笑った。
(が、お前の話、興味がないわけではない。もし証を手に入れる事ができれば知らせるがよい)
(わかったのだわ)
三郎の脳裏から、唐突に声が消えた。
「どうかなさいましたか」
問う側仕えの娘――風魔の蛍の問う声に、三郎は夢から覚めたような眼をむけた。
「いや‥‥それよりも村から来たという者達はどうした?」
「はい。城下の宿屋にひとまずは」
「そうか」
ぎりと三郎は唇を噛み締めた。彼の身体を流れる正義の血が沸騰している。
村の女の話では、新田兵はかなりの悪行を村で働いた様子である。村に遣わした者からの報告では、新田は妖怪と組んでいる節があるとの事だった。
上杉謙信から沼田城を任されている以上勝手な真似はできぬ。が、これ以上新田が無辜の民に暴虐の刃をふるうのであれば――
●
ヴァンアーブルのテレパシーが途絶えたのには理由があった。
襲撃。
突然、三人の冒険者は悪魔に襲われたのであった。
その悪魔は三尺ほどの大きさで、毛むくじゃらの犬といったような姿形をしていた。そして牙をむき、ヴァンアーブルに襲いかかったのである。
その襲撃を感知する事ができたのは、殺気を読み取る術のあるシェリルのみであった。が、彼女は高速詠唱なる技能はない。
慌てて呪唱するシェリルであるが――
間に合わない。
絶望の闇がシェリルの面をどす黒く染めた。その時である。
突如、白光が閃いた。そして悪魔がはじきとばされた。
「あ、あなたは――」
カーラは、月を背に立つ人影を眩しそうに見つめた。
人影は抜き払った一刀をだらりと下げ、颯爽たる笑みを返した。
「俺は青木新太郎。お前達と同じ冒険者だ」