【沼田城風雲記】悪鬼跳梁

■ショートシナリオ


担当:御言雪乃

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月19日〜09月24日

リプレイ公開日:2008年10月02日

●オープニング


「入れ」
 剛直そうな侍が命じた。
 彼の名は宇佐美定満。上杉家家臣であり、現在は三郎につき従い、沼田城家老職にあった。
 はッと答え、顔を上げたのは痩せた壮年の男である。
 名は塚原内膳。定満の家人である。
 定満はじろりと内膳を見遣ると、
「話があるそうじゃな」
「はッ。新田の事でござります」
「新田?」
 戸惑うと同時に、定満は苦いものを呑んだような顔をした。新田兵が沼田領に攻め入ったのは、わずか一月ほど以前の事であったからだ。
「新田がどうした?」
「妖と手を組み、良からぬ事を企んでいるとの噂あり」
「それはわしも聞いておる」
 定満が肯いた。
 新田義貞の配下に新田四天王があり、その中の一人が妖怪であるという。そんな噂が沼田城下に流れているという報告を定満は耳にしていた。
「このままに捨て置いてよろしいのですか」
「それだが‥‥」
 定満が語尾を濁した。
 沼田城主――つまりは彼の主である北条三郎は、今新田が上杉に戦を仕掛けて利はないと云う。聡明な三郎の言に間違いはあるまい。
 が、現実に新田は沼田を攻めた。そこに利があるとするなら、それは尋常でないもの――新田が妖と手を結んでいるというのも、あながち馬鹿げた話ではないのかもしれぬ。
「定満様」
 ずっと内膳が身を乗り出した。
「沼田の為、定満様に是非お会いいただきたい者がおります」


 定満と内膳が言葉を交わしているのと同じ時、上州前橋の蒼海城城下のある家屋の内で、二人の男が相対していた。
 一人は新田軍足軽組頭の一人である中川助蔵であり、もう一人は幽鬼蔵人という侍であった。その蔵人の傍にはとてつもない大きさの槍が横たえられている。
「幽鬼殿」
 助蔵が口を開いた。
「沼田を攻めたが、やはり幽鬼殿の申された通り」
「だんまりを決め込んでおるであろう」
 蔵人がニヤリとした。
「俺が見るところ、沼田城主である北条三郎という若造には気概がない。そのような者の為にこのまま沼田を捨て置いては、上杉が沼田を領有するを新田が暗黙のうちに認めた事になる。そうならぬ為に攻め続ける事が肝要」
「しかし、もし沼田が大々的に反撃してきたなら」
「それこそ望むところ。何の沼田如き、新田が本気でかかればあっという間におとせるはず。して、丹羽内記殿には?」
「今具申しているところだ。すぐに話は決まろう」
「それは重畳。が、その前に」
「その前に?」
「もう一度、沼田を攻めておいた方が良うござろうなあ」
 蔵人が云った。その瞳が一瞬金色に煌いたのに、しかし助蔵は気がつかなかった。


 落ち着いた物腰の、しかしどこか華やいだ美しさもあわせもった女性が、経巻を開いた。
 フォーノリッヂ。未来を観る為の呪法文字の記された経巻である。
 が――
 ややあって女性は経巻を再び巻いた。鍵となる言葉が思い浮かばなかったのである。
「どうされた?」
 声がした。はっとして振り向いた女性は、そこに一人の若侍の姿を見出した。
 颯爽たるその笑みには見覚えがある。沼田において悪魔の襲撃から救ってくれた若者で、名は確か――
「青木新太郎様でしたね」
「ああ」
 青木新太郎と呼ばれた若者が肯いた。
「そなたはカーラ・オレアリス(eb4802)と申されたな。この広い江戸で会うとは奇遇」
「そうですね」
 女性――カーラは微笑んだ。
「あなたとは、もう一度お会いしたいと思っておりました」
「俺もだ」
 新太郎が微笑み返した。
「沼田で跳梁する悪魔の事が気になっていてな」
「ちょうどいい!」
 カーラの顔が輝いた。
「また沼田にゆこうと思っていたのです。力を貸していただけますか」
「ああ。俺でよければ」
 新太郎が答えた。
 その時だ。叫びに似た声が響いた。
「新田が沼田を攻めたぞ!」
「えっ!」
 愕然としてカーラが振り向いた。
 そこに一人の男がいた。手に数枚の紙片をもっている。どうやら瓦版屋であるらしい。
「また新田が‥‥」
 呆然とするカーラの口から呟きがもれた。
 新太郎にも告げたように、カーラは沼田に赴こうと考えていた。全ては九鬼花舟なる者の陰謀を挫き、沼田に平安をもたらさんが為だ。
 が、新田はその先を越し、沼田を攻めた。おそらくは此度も小競り合い程度の戦であろう。しかしこれが度重なれば、いずれは大戦となる可能性がある。そうなれば、もはや一介の冒険者にどうこうできるものではなくなってしまう!
「急がなければ」
 カーラは駆けた。冒険者ギルドにむかって。
 闇を切り裂く為。光ある未来を招く為――。

●今回の参加者

 eb2196 八城 兵衛(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 eb4802 カーラ・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb7679 水上 銀(40歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文


 カーラ・オレアリス(eb4802)の求めに応じて駆けつけた冒険者は五人――いや、正確には青木新太郎という若者を含めて六人の冒険者であった。
「依頼を受けていただき、ありがとうございます」
 眩い黄金色の髪を後ろで結い上げた、落ち着いた物腰の美しい女性が微笑んだ。この女性こそ依頼主であるカーラであった。
「なんの」
 気さくに笑い返したのは八城兵衛(eb2196)という浪人者である。
 三十ほどの年配であろうか。渡世人であるというのも肯ける、どこか眼に凄みのある男であった。
「この前の依頼ではすまなかったな。新田が危険な存在であると指摘したかっただけなのだが‥‥いや、もう少しマシなやり方があったかもしれねえと思う次第だ。面目無い」
「いえ」
 カーラはゆったりと首を振った。
「わかっていただけたのなら結構です」
「そうか」
 兵衛は表情を和らげると、
「ところで、まず聞いておきたい。此度の沼田の騒動の裏に九鬼花舟なる者が暗躍しているそうだが、いったいその男は何者なのだ」
「乾闥婆王」
「乾闥婆王!?」
 兵衛の眼がすっと細められた。カーラは肯いて、
「はい。鬼道八部衆の一人です」
「鬼道八部衆‥‥」
 苦々しく声をもらした者がいる。
 どこか女豹の如き印象のある、切れ長の眼が鋭く美しい女侍――水上銀(eb7679)であった。
 その声を耳にし、カーラが顔を振り向けた。
「ご存知なのですか、鬼道八部衆を」
「ああ。一人‥‥緊那羅王って奴をね」
 銀は忌々しげに吐き捨てた。
 その脳裏には二人の男女の面影がある。一人は朱美という娘で、もう一人は青井新吾という若者だ。
 その青井新吾の正体こそ緊那羅王であった。そして朱美は青井新吾を信じ、裏切られ、おそらく今頃は‥‥
「だから、この依頼は弔いなのさ、あたしなりのね」
 銀は遠い眼をあげた。
 その憂いを含んだ横顔をじっと見つめ、やがて兵衛はカーラに眼を戻した。そして溜息を零した。
「どうやら、その鬼道八部衆って奴らはいろんなところで暗躍していやがるようだな。で、その鬼道八部衆ってのは何者なんだ」
「よくわかりません」
「わ、わからない?」
「はい。ただ‥‥」
 カーラが眼を転じると、空を映しているかのような蒼い髪と瞳のシフールの女性が肯いた。
「とてつもなく古いモノたちである事は確かなのだわ」
 シフールの女性――ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)が告げた。
 彼女が鉄の御所に赴いた際、酒呑童子の傍らにある月王なる鵺が云っていた。鬼道八部衆は我らの敵であったと。
「月王さんでも警戒する鬼道八部衆。上州がめちゃくちゃにされる前に何とかしたいのだわ」
「そうね」
 肯くと、カーラと驚くほど良く似た相貌――太陽と月の如く、印象はまるで違うが――の女性が三枚の紙片を取り出した。
「これは?」
 紙片の一枚を受け取った銀が問うた。
「九鬼花舟の似顔絵です」
 女性――カーラの姉であるシェリル・オレアリス(eb4803)が答えた。
「ほう、これが」
 覗き込んだマクシーム・ボスホロフ(eb7876)が声をあげた。
 紙片には一人の男の顔が描かれている。総髪で、人形めいた端正な相貌だ。
「‥‥確かに野放しにしておいてはいかぬ者のようだ。が」
 紙片から眼をあげ、マクシームはカーラを冷めた眼で見た。
「その連中を捕らえたところで、俺には新田が沼田に手出しするのをやめるとは思えないがな」
「何故ですか」
 カーラの表情がやや変わった。
「九鬼の陰謀を暴きさえすれば、沼田の燃え上がりつつある戦の火は消えるはず」
「いいや」
 マクシームは首を振った。その面には皮肉な笑みがうかんでいる。
「違うぞ、それは。何故、戦が起こったか。それは九鬼が火をつけたからであろう。しかし何もないところに火はつかぬ。火種はあるのだよ」
「火種?」
 怪訝に問い返すカーラに、マクシームは肯いてみせた。
「そうだ。土地だよ。領地といっていいだろう。版図への執着は今に始まった事では無い。その人間の欲望に九鬼はつけこんだにすぎんよ。新田が沼田を欲している限り、争いは遅かれ早かれ、いつかは起こる」
 不吉な予言めいた言葉をマクシームは吐いた。さすがのカーラも声もない。
 が、すぐにカーラは微笑んだ。その眼にあるは希望の光だ。
「でも、私は戦います」
「何故」
「信じているからです、人々を」
 カーラは答えた。
「昨日、人は争ったかもしれません。今日、人は傷つけあうかも。でも、明日は‥‥いいえ、明日がだめでも」
 カーラが眼を転じた。
 そこに少年がいた。以前見た、足の不自由な少年だ。
 周囲にいるのは、その少年の友人達であろうか。何の違和感なく、ただ楽しそうに、互いを気遣いあっている。
「彼らの時代になれば、人はもっと素晴らしき存在になっているかもしれません。その為の道を切り開いておいてあげたいのです」
「よかろう」
 兵衛の面に、楽しくてたまらぬような笑みがういた。
「ガキの為か。死に場所としちゃあ、面白そうだ」


 沼田街道を北へ。
 四人の冒険者達は冒険者ギルドが用意した早馬車を駆り、沼田を目指した。要した時は予想外に少なく、ほぼ一日で冒険者達は沼田に辿り着いた。

 兵衛の姿は沼田との国境近くにあった。
 丘の上に立ち、彼は視線を飛ばしている。その傍らに立っているのは新太郎であった。
「あれか‥‥」
 兵衛が呟いた。
 彼が眺めているのは小砦である。対上杉用に作られたものであった。
「さて、どうするか」
 沼田を攻めたのは、あの砦の兵であるとの調べはついている。この後の動向を探る為、是非とも接近したいところなのだが、これがなかなか上手くいかない。
 さすがに沼田との緊張状態故、砦付近には兵が配置されている。隠密能力のない兵衛が近づこうとしたなら、新田兵との戦闘は避けがたいだろう。
「動きと兵の数など知りたいところだが」
「ならば忍び込むか」
 平然たる声音で新太郎が云った。
 その横顔をちらりと兵衛は盗み見た。
 カーラの紹介故、信用しての同行となったのであるが、兵衛は今一つ新太郎を信用してはいなかった。カーラとの再会に違和感を覚えている。
(偶然てのは賽の目と同じで、良い目が出過ぎる時には何か裏があるもんだが)
 との思いがある。その為に、新太郎の言葉をそそのまま受け入れる事には抵抗があった。
「もう少し様子を見た方がいいな」
「悠長な。それでは兵が動き出してしまうかもしれんぞ」
「だがな」
 云いかけた兵衛であるが、その時気づいた。新太郎の口元に小さな笑みが浮いている事に。

 同じ頃、砦よりさらに国境の近く、涼やかさを増した風の中にマクシームはいた。
「待て」
 呼び止められ、マクシームは足をとめた。
 すると三人の侍が駆け寄ってきた。身形からして足軽らしい。
「見慣れぬ奴。何者だ?」
 侍の中の一人が問うた。
 対するマクシームには動揺はない。狩人としての卓越した感覚は、すでに侍達の存在を感知していたのである。
 マクシームは平然たる態度で答えた。
「私はマクシーム・ボスホロフ。冒険者だ」
「冒険者?」
 侍達は顔を見合わせた。冒険者という存在は彼らも知っている。
「その冒険者が、何故赤城の砦近くでうろついている?」
「仕事にあぶれていてな」
 マクシームが肩を竦めた。そしてちらりと侍達を眺め遣り、
「それで揉め事はないかと探していたのだ」
「それは生憎だったな」
 侍がせせら笑った。
「先日沼田を攻めたところよ。今しばらく戦はあるまい」
「そうか」
 マクシームは肯いた。そして背を返した。
 長居は無用。下手に止まれば怪しまれてしまうだろう。
 と、マクシームは足をとめた。そして背をむけたまま、
「ところで赤城砦の主はどなただ」
「中川助蔵様だ」
「中川‥‥助蔵」
 その名を胸に刻み、再びマクシームは足をすすめた。


 その村に異常はなかった。少なくとも見た目だけは。
 が、そこには死があった。荒廃があった。悲しみがあった。
 新たに戦に巻き込まれた村。死者は十数人に及んでいた。
 その村に、今、笛の音が流れていた。
 舞い散る桜花、紅色の吹雪。
 村にはその時、確かに安らぎが満ちていた。

 ヴァンアーブルが奏でる笛の音を背に、銀は墓前に花を手向けていた。卒塔婆だけの簡素なそれは、戦に巻き込まれて亡くなった村人達の墓だ。
「すまないね。辛い思いをしたろうに‥‥」
 銀の口から陳謝の事葉がもれた。
 もとより彼らが亡くなったのは銀のせいではない。が、花を手向ける事しかできぬ己が、銀は歯痒かったのだ。
「もうよいであろう」
 と、銀の背に声をかけた者がいる。侍だ。沼田城より遣わされた者である。
「我らは忙しい。そろそろお帰りいただこう」
 侍は云った。
 その面は寒風に吹かれているかのように厳しい。再びの新田の襲撃に殺気立っているのである。その心には
さすがのヴァンアーブルの笛の音ですら届かない。
 銀はやっくりと向き直ると、
「少し村の方々と話をさせてもらえぬだろうか」
 問うた。襲撃した新田の指揮者について少しでも情報がほしい。
 が、冷たい眼で侍は首を振った。
「ならぬ。村の者を慰めたいというので村に入るを許したが、これ以上は、な。云っておくが、我ら上杉の者は冒険者を信用してはおらぬ」
 馬鹿な――と云いかけて銀は思いとどまった。ここで上杉の侍に冒険者の何たるかを説いてみたとてはじまらぬからだ。
 それよりも時が惜しい。次なる悲劇を食い止める為に。
「ではお暇させてもらおうか」
 銀が告げた。鎮魂の意を込めて。


 四人の冒険者が待ち合わせの神社に着いた時、すでにカーラとシェリルはそこにいた。
 予定していた戦死者の法要をかねての炊き出しは終えていたが、九鬼の聞き込みにまでは手が回らなかった。江戸において瓦版屋を探していたからである。
「で、何か聞き込めたのですかだわ」
 ヴァンアーブルが問うた。するとシェリルは空しく首を振った。情報源となる者はいるにはいるが、それは瓦版屋の知り合いで、特に九鬼と繋がりがあるとは思えなかったのだ。
 さらに炊き出しの際、シェリルはリヴィールエネミーなる呪法を発動させていた。が、彼女達に敵意ある者は存在せず、その点においてもカーラ達は成果を手にする事はできずにいたのだった。
「ふーん、九鬼の見張りがない、ねえ」
 銀が呟いた。何か違和感がある。
「どうして見張りをつけないのか。それともつける必要がないのか‥‥」
「見逃しただけではないのか」
 新太郎が云った。
 確かにその可能性はある。リヴィールエネミーの効果範囲はおよそ八間。その効果範囲外に敵がいれば、その存在を感知することはできない。
「青木‥‥新太郎さんていったかね」
 じろりと見つめ、しかしすぐに銀は眼をそらせた。
「どうしたのだ?」
「祖父っさまの遺言で、美形には気をつける事にしてるのさ。それより中川助蔵をどうする?」
 新太郎から眼をそらしたまま、銀が問うた。
 兵衛の調べで、赤城砦の兵数はおよそ五十とわかっている。もし新田が動いたなら、すでに国境の様子を地図に記した銀にはおおよその進軍先は予見できるはずであった。
「が、新田は動かぬ。しばらくの間はな」
 マクシームが云った。
「でも、ゆかねばなりません。何としても中川助蔵を捕らえねば‥‥」
 カーラは云った。それは叫びに近い声音であった。


 赤城の砦は、あくまでも沼田を見張る為のものであり、戦略的防衛線の一つであった。よって砦としての規模は大きくはない。
 その赤城砦は今、月の光に蒼く濡れていた。
「‥‥砦付近の見張りは三人か」
 木陰から顔を覗かせ、兵衛が砦を見つめた。するとヴァンアーブルがにこりと微笑んだ。
「わたくしに任せてなのだわ」
 そのヴァンアーブルの言葉が消えた直後の事である。見張りの一人が崩折れた。続いて一人、また一人と。
「ほう、スリープの呪法か」
 眠りこけている三人の見張りを見下ろし、マクシームが感嘆の声をあげた。
 その瞬間だ。新太郎が見張りの侍の一人を蹴り起こした。
「中川助蔵のところにまで案内してもらおうか」
「う、うぬらは何者だ。上杉の者か」
「そうだ」
 新太郎は答えた。
「さあ、早く連れていけ」
「俺がおとなしく従うと思うか」
「従わねば、この通り」
 新太郎が抜刀した。煌く白光は隣で眠っている侍の一人へと疾り――
 新太郎の腕をがっきとマクシームが掴んだ。
「何の真似だ」
「殺す。さもなければ、この男は云う事をきかぬ」
「そんな事はさせん」
 極星を宿したかのように光る眼で新太郎を見返し、すぐにマクシームは侍に眼を転じた。
「わかったはずだ。案内しなければどうなるか。次は俺もとめられん」
「くっ」
 がくりと侍は項垂れた。

 冒険者達は砦に潜入した。
 中には長屋のような建物が幾棟か。それと櫓を大きくしたような建物が一つ。それぞれに見張りが一人いる。
「今度は私がやるわ」
 シェリルの手が祈りを捧げるかのように胸の前で組まれた。
 刹那だ。見張りの者達が凍結した。コアギュレイトにより不動となったのである。
「中川助蔵はどの建物にいる?」
 兵衛が問うと、案内にたてた侍が櫓を大きくしたような建物を震える指で指し示した。


 揺り起こされ、助蔵は眼を開いた。霞む視界はすぐに明瞭となり――
 がばと助蔵は身を起こした。見慣れぬ者達がいる事に気がついたのだ。
「曲」
 者、と叫ぼうとして、助蔵は口を閉ざした。
 その首に槍の穂先が凝せられている。兵衛の修羅の槍だ。
「静かにしてもらおうか」
「ぬっ」
 呻く助蔵を、兵衛がじろりと見下ろした。
「中川助蔵だな」
「ならばどうする」
「一緒に来てもらおうか」
「馬鹿め」
 身を翻し、助蔵が刀へと飛びついた。そして振り向きざま抜刀し――
 刃を半ばまで抜いた姿勢のまま、助蔵はばたりと倒れた。その首筋に銀が手刀を叩き込んだのを見とめ得た者がいたか、どうか。
「さて、南無毘沙門天っと♪」
 ニヤリとすると、銀は助蔵を抱き起こした。


 沼田城、近く。
 蒼い空を背に、空を舞う者があった。空の申し子のような蒼き飛翔人、ヴァンアーブルである。
 昨夜のうち、冒険者達は助蔵の心を読み、幽鬼蔵人なる者の存在を突き止めていた。助蔵が沼田に手を出したのは、その幽鬼蔵人の入れ知恵によるものであった事も。
 が、助蔵は九鬼の事は何も知らなかった。その点に関しては冒険者達の見込み違いであったといえる。
(三郎様)
 ヴァンアーブルは思念を飛ばした。
(冒険者のムージョなのだわ。この前お話した陰謀についてわかった事をお報せにきたのだわ)
(お前達)
 三郎の思念から怒りに近い波動が伝わってきた。
(赤城砦で何をした? 赤城砦の者達が皆殺しになり、それが上杉の仕業であるとの噂が飛び交っておるぞ)
「えっ!?」
 ヴァンアーブルは愕然たる声をもらした。が、その事実にすら気づかぬかのように、ただヴァンアーブルは呆然として空にあった。