【新撰組】逃亡
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月11日〜02月16日
リプレイ公開日:2009年02月26日
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●オープニング
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京から江戸にむかう街道を四つの人影が歩いていた。三人は若い侍で、一人は娘である。
「賛之助はん、待っておくれやす」
荒い息をつくと、娘が立ち止まった。賛之助と呼ばれた侍も足をとめ、
「小春、疲れたか」
微笑った。小春は唇を尖らせると、
「うーん、と。‥‥少し」
「では少し休もうか」
賛之助は手近の岩に腰を下ろした。わーいとはしゃぎつつ、隣に小春も腰をおろす。賛之助は小春に水筒を差し出した。
「おおきに」
水筒を受け取ると、小春は美味そうに喉をならして飲み始めた。その飲みっぷりに賛之助の苦笑をもらす。
「おい、そんなに慌てなくても」
「せやけど、早う江戸を見てみたいやもん」
「すぐに見せてやるさ」
賛之助がちらりと眼をやると、残る二人の侍が肯いた。
「そうさ。俺達は絶対に江戸を見る」
「生きて江戸に帰るんだ」
「うん?」
小春が小首を傾げた。
「忠之進はん、何か云いはりました?」
「いや」
忠之進と呼ばれた若者が首を振った。
「生きている事は素晴らしいと云ったのだ」
「そら、そうどすえ」
くすくすと小春は笑った。
「生きてたら美味しいものがいっぱい食べられますさかい」
「食べ過ぎると太るがな。そうなると賛之助に嫁にねらってはもらえぬぞ」
「もう、孫四郎はんの意地悪!」
小春が孫四郎と呼んだ若侍の肩をぽかりとぶった。
その様子を微笑まじりに眺め、しかし眼に凄愴の光を浮かべ、賛之助は独語した。
「そうさ。死にたくはない。俺は絶対に生きのびてやる」
●
「真木賛之助、竹内孫四郎、村松忠之進」
新撰組副長・土方歳三はじろりと一人の男を見た。
野太刀を思わせる男。が、どこかこの野太刀には翳がある。
新撰組十一番隊組長・平手造酒であった。
平手は不審げに眉をひそめると、
「真木、竹内、村松。‥‥確か平隊士ですな。この三人がどうしたってんです?」
「逃げた」
ぼそりと土方が告げた。
「逃げた? この三人が?」
「ああ。昨日から戻ってこねえ。で、調べさせたら、京から出る姿を見られている。女連れだ」
「ほるほど」
平手は肯いた。鬼の副長の調べだ。間違いはあるまい。
それよりも重要なことがある。平手の眼が底光った。
「で、俺を呼んだ理由は?」
「連れ戻せ」
「連れ戻す、ねえ」
平手は溜息を零した。
いまだ新撰組には法度らしきものはない。が、新撰組は仲良し集団でない以上、そこには厳格ともいえる暗黙の了解がある。
逃走をはかった場合、どうなるか。ただではすむまい。それを承知で三人は逃亡したのだ。簡単に戻るとは思えない。
「連れ戻したら、どうするつもりです?」
「斬る」
「なら、もし戻らねえと云ったら?」
「斬れ」
氷の語調で土方はこたえた。
「イザナミの脅威にさらされ、今、京は未曾有の危機に見舞われている。こんな時であればこそ、鉄の団結が必要だ。新撰組の結束を乱す者は許さねえ。見せしめってのが必要なんだよ」
「見せしめねえ」
一升徳利を手に、ゆらりと平手は立ち上がった。それを土方は眼で追い、
「おい、平手。引き受けるんだろうな」
「引き受けますよ。どうせ誰かがやらなくちゃならねえんだから」
「おい」
土方が平手を呼びとめた。そしてひやりとする声で告げた。
「云っとくがな、俺に誤魔化しはきかねえぜ。下手な小細工しやがると、おめえも十一番隊もただじゃあすまさねえからな」
●リプレイ本文
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京に吹く風は、この季節にしては妙に暖かかった。じっとりと湿っており、生ぬるくさえ感じられた。
その風を払うように、三人の侍が街道を歩いていた。朱鳳陽平(eb1624)、眞薙京一朗(eb2408)、平手造酒の三人である。陽平と京一朗の二人は新撰組十一番隊士であり、平手は十一番隊の組長であった。
「‥十一番隊本来の役目、か」
京一朗は寂とした声音で呟いた。
最初から、どこか十一番隊には遊撃隊としての色が濃かった。いや、影の部隊といった方がよいか。そういう意味において、仲間を狩る任務は十一番隊をおいて他にはないのかもしれない。
京一朗は平手に眼をむけた。
「組長は逃亡した三人の顔をご存知か」
「ああ」
平手は答えた。その通り、確かに平手は三人の逃亡者の顔を知っている。
賛之助は爽やかな若者で、生真面目な性格であるように見えた。その真摯な瞳を見て、どこか危ういと平手は感じたものだ。
孫四郎は小太りで愛嬌のある男である平手は記憶している。いつもへらへらしていて、新撰組とは所詮肌があわぬであろうと平手は見ていた。
三人目の村松忠之進であるが、この男とは直接平手は話したことはない。それで何故平手の記憶に残ったか。
それは忠之進の剣技である。
平手と同じ北辰流。おそらく三人の逃亡者中、剣の技量は最も忠之進が上であろう。十一番隊隊士のうち、もしかするとまともにたちあえるのは静守宗風(eb2585)しかないのではあるまいか。
「けっ」
陽平が舌打ちした。
「そんだけの剣の腕をもってやがって。女に迷って隊を逃げ出すとはよ」
陽平が歯軋りした。
彼は三人の最近の任務を調べたのだ。結果、おかしなところは見当たらなかった。代わりに、唯一浮かび上がったのが小春という娘だ。三人がよくいく茶店で働いており、特に賛之助が親しくしていたという。
「まだそうと決まったわけではない」
京一朗が冷えた声音でたしなめた。とはいえ、その声に力はない。寂たる響きが滲んでいた。
そもそも、と京一朗は考えている。暗黙の了解などと形を為さぬもので人を縛れると考えるのは甘くは無いのか。己が心一つで覚悟を決められる者はそう多くもなかろうに。
その京一朗の思いを読み取ったか、平手が陽平に眼をむけた。
「陽平よ」
平手は問うた。
「女に迷うことが、そう悪いことか」
「悪いさ」
陽平は瞳に怒りの炎をゆらめかせた。
「新撰組は国を憂えて集った者達の集団だ。大事の前、一枚岩でなければならねえのは隊士ならば熟知の筈。個は入隊時に捨てたはずだ。それなのに――」
「人は、そう強くはねえよ。おめえや京一朗のようにな」
平手は云った。
「おめえの揺るぎない信念、京一朗の確固たる覚悟。普通の人間にはそんなものはねえんだよ。揺れ、惑い、それでも生きている。それが人間だ。隊士といえど違いはねえ。それにさ陽平、こうは思えねえか。おめえが誠を大事だと思うように、奴らには誠より大事なものができたんじゃねえか、とな」
「思わねえ」
子供がいやいやをするように陽平がかぶりを振った。
「思いたくねえ。俺たちはハンパで誠を背負ってねえ‥だろ?」
「そうだな。だが」
京一朗は言葉を途切れさせた。
逃亡の旅であるならば、本来は身軽であるべきだ。しかるに真木達三人は小春という女を連れている。おそらくは身内か、いずれ身内となる者であろう。
「其を引き裂く俺達は鬼と映るだろうな」
京一朗が昏い眼を伏せた。
かつて彼は一人の若者を斬った。斬らねば、斬られる手練れの相手であった。
そして、その若者には、彼を恋い慕う娘があった。当然、娘は京一朗を憎んだ。それを覚悟の京一朗である。いや、むしろ憎めと京一朗は思った。その憎しみが娘の生きる力になれば良いと。
しかし――
最近、風の噂で彼は知った。その娘が死んだことを。
●
別の街道をゆく冒険者は三人いた。
宗風、所所楽柊(eb2919)、将門司(eb3393)。いずれも新撰組十一番隊隊士である。
その三人のうち、期せずして京一朗と同じ言葉を呟いた者がいる。宗風だ。
「脱走者の追跡及び捕縛か。十一番隊らしいといえば、らしいかも知れん」
「正直気が進まんなぁ」
司は溜息を零した。
「面倒だよな〜」
柊はごちた。
隊を抜けることの意味は隊士ならば十分に知っていよう。その上で三人は抜けたのだ。もし追跡者の手がかかれば死に物狂いで抵抗するのは眼に見えている。
とらえるには、こちらも斬る覚悟が必要だろう。が、進んで仲間を斬ることができるほど柊は冷淡ではない。複雑な想いがある。
「貫く意思を崩す想いは、風だけで手一杯なんだよ、俺は」
低く独語すると、柊はちらと宗風を見た。宗風はそんな柊を一瞬見返し、俺は斬る、と云った。
「斬りたくはないが、斬らねばならぬのなら遠慮はしない。例え非情と蔑まれても、俺は壬生の狼であり続けるつもりだからな。それが俺の生き様だ。今更他の道は選べない」
宗風の眼に強い光がともった。そこに渦巻く想い。
柊よ。
宗風の眼が語った。そんな俺でも追いてくるのか、と。俺はお前に相応しい男では無いかも知れないのに。
宗風は足を踏み出した。後を追うように柊もまた足を運ぶ。
ここにもまた哀しき二人はいた。不器用なまでに、人生に立ち向かう二人が。
先をゆく宗風と柊の背を見つめ、辛そうに司は微笑った。
「あんさんらの手は俺が汚させへん」
●
平手と二人の新撰組隊士は足をとめた。
すでに夕刻。黄昏の光に三人の影は地に長く落ちている。
「どうやら真木達は裏街道をいったようだな」
京一朗の口から重い声がもれた。
寝る間も惜しみ足をすすめてきた。いくら先行していたとしても、真木達は女連れである。そろそろ追いついてもいい頃だ。
が、いっこうに真木達には追いつけない。どころか目撃の噂さえない。考えられるのは真木達が別の道を辿ったということだ。
「引き返すぞ」
平手が踵を返した。が――
ぴたりとその足がとまった。平手は――いや、平手を含めた三人の剣客は異様な感覚をとらえている。
殺気だ。鋭いそれに、瘴気のようなものがまといついている。まるで毒蛇の舌がぞろりと背を這い回っているようだ。
はじかれたように振り向き、陽平はかっと眼を見開かせた。
彼の眼前、二人の女が立っている。一人は血で染めたかのような紅衣をまとった女童だ。そしてもう一人は見忘れもしない――
「おめえは――」
「ふふふ。お久しぶりです」
微笑ったのは、元新撰組十一番隊伍長・神代紅緒であった。
●
いた。
宿場の手前の茶店の縁台で座っているのは人相書きにあった真木賛之助だ。隣で茶をすすっているのは小春であろう。
竹内孫四郎と村松忠之進の顔も見える。こちらもやや離れた縁台に腰掛けている。
「俺がゆく」
宗風が賛之助に歩み寄っていった。すると気配に気づいたか、賛之助が顔をあげた。一瞬後、その顔がゆがむ。宗風が眼で先を示すと、賛之助が立ち上がった。
「もういくん?」
「いや」
無邪気に問う小春に、賛之助は答えた。
「ちょっと所用を思い出した。待っていてくれ」
「ええけど‥‥。すぐに帰ってきてね」
「ああ」
賛之助の顔に強張った笑みが浮かんだ。
●
「紅緒! てめえ、何でここにいやがる!」
陽平が怒鳴った。すると紅緒はころころと鈴のように笑った。
「見物に来たのですよ。新撰組が共食いするところをね」
「てめえ、やっぱり――」
「違いますよ」
紅緒はひらひらと手を振った。
「私は拝見していただけ。新撰組隊士が堕ちていくところをね」
「ぬかせ!」
陽平が抜刀した。落日に赤光をはねたのは魔剣七支刀だ。
「今日こそは決着をつけてやる」
「面白い、と云いたいところなのですが、ところがそうもいかないのですよ」
紅緒が顔を可憐に顰めてみせた。
「三人がどうなるか見にいかなくちやならないものですから。陽平さん、貴方を殺すのが一番面白そうなんですけど」
「てめえ!」
踏み出しかけた陽平の足がとまった。その前に数人の人影が立ちはだかったからだ。
いずれも浪人。物腰から、なりの手練れと知れた。
「ふふふ。今、京では人の命は安くなっているのですよ。酒代程度ほどにね。京一朗さん」
紅緒が京一朗に眼を転じた。
「お利口な貴方ならわかっているはず。誠の一字のもとに死す。聞こえはいいですけど、その覚悟のある者がどれだけいるか」
「待て、神代!」
「鬼道羅漢衆」
紅緒はニッと唇を吊りあげた。
「紅緒とお呼びください。そしてこちらにおわすは」
くるりと女童が背をむけた。そして再び向き直った時、そこには紅色の武具を纏った、とろりと蜜の滴るような艶やかな女が立っていた。
「鬼道八部衆、夜叉王様です」
「ぬっ」
平手の手から銀光が疾った。それは空を一瞬にして翔けぬけ、夜叉王の顔面に――いや、夜叉王のあげた右の掌に吸い込まれた。
「平手造酒か」
掌に突き刺さった小柄を、ぎしりと夜叉王は握り締めた。
「十一番隊。新撰組において最も面白き奴ら。いずれ皆殺しにしてやる故、楽しみに待っておれ」
「さあ!」
紅緒が底抜けに明るい声をあげた。
「平手造酒を撃ち取った方には酒代をはずみますよ。がんばってください!」
「やれやれだぜ」
平手が抜刀した。眼前には餓狼と化した浪人達が迫っている。
「仕方ねえ。やるか」
「おお!」
京一朗もまた抜刀した。必殺の新陰流の剣を。
●
黄昏の中、落日の陽をあびて、六人の侍が相対した。
一方は追っ手であり、一方は逃亡者だ。が、彼らはともに新撰組隊士であった。
「なあ」
夕日に満面を赤く染め、司が口を開いた。
「あんさんら、大人しく京に戻らん? 俺らと斬り合って退けたとしても第二第三の追手はくるで。同じ釜の飯を食った相手を斬りたくはないんや」
「いや」
賛之助の口からしわがれた声がもれた。
「俺は戻らん。戻ったとしても只ではすむまい。ならば、俺は江戸にいく」
「見逃してくれ」
孫四郎が泣くような声で叫んだ。
「俺は死にたくない。毎日斬ったり斬られたりなんか、もう真っ平なんだよ。いつ死ぬのかって怯えながら生きるのは」
「そうだ」
賛之助が光る眼で三人の十一番隊隊士を見渡した。
「俺達新撰組は、この京で何をやった? 後には累々たる屍が残り、前にもまた屍が待っている。死、死、死ばかりだ。そして俺達の手は汚れた。血で真っ赤に。もう洗い落とせないほどに。でも、今ならまだ人間に戻れる。死神から人間に。だから、俺は江戸にゆく。愛する女と一緒にな」
「なら斬るしかねえな〜」
柊の手に、するりと十手が現れた。
「それくらいの覚悟でここに来てんだ〜」
「お、お前達は何の為に生きてんだ!」
悲鳴のような声を孫四郎があげた。
「殺し合いばかりやっていて、何が楽しい? 俺はまだやりたいことがいっぱいあるんだ。恋して、所帯をもって、子供を育てて‥‥お前達はそれでいいのか!」
びくりと柊が一瞬震えた。何故か胸が痛い。柊の眼が宗風の背にむけられた。孤独な広い背を。
「もはやこれしかないようだな」
宗風はすらりと刃を鞘走らせた。
「新撰組の矜持、覚悟。背負い切れなかった以上、覚悟は出来ているな?」
「面白い」
忠之進がニヤリと笑った。そして抜刀した。
「もし追って来る者がいたら、俺は平手さんであってくれと願っていた。千葉の小天狗、剣鬼と噂されていた北辰流の剣豪。同じ北辰流をつかう者として、一度手合わせしたいと思っていたんだ。が、静守、お前でもかまわない」
すうと忠之進の刃が上がった。
「新撰組隊士において、お前は最強の部類だろう。その北辰流の腕前は平手さんに迫っているはずだ。そのお前を斬ることができれば、平手さんを斬ったも同じ」
忠之進の剣先が小刻みに震えた。鶺鴒の尾のように。そして抜き合わせた宗風の刃もまた。
今、相対する静守宗風と村松忠之進。相打つは同門同血の北辰流。
二人から放たれる超絶の殺気は虚空にしぶきをちらし、世界を凍結させた。すでに二人は血濡れたように朱に染まっている。落日の赤に。
「はっ」
「むん」
同時に二人は動き、交差し、一瞬後、立ち位置を変えて制止した。忠之進は袈裟に刃を薙ぎおろした姿勢で。そして宗風はだらりと刃を下げて。
その宗風の腕から鮮血が滴り落ちた。
「宗風サン!」
柊が叫んだ。
その時だ。忠之進がどうと倒れた。胴から血を噴出させて。
「ひいっ!」
孫四郎が背をみせて走り出した。慌てて柊が追う。
「来るな!」
振り向きざま孫四郎が刃をふるった。型も何もない、振り回しただけの一撃。新撰組隊士である以上、孫四郎もかなりつかえるはずだが、動揺故か、その片鱗もない。そのような斬撃が柊に通じるはずもなかった。
ひらりと刃をかわすと、柊は孫四郎は顔面に十手を叩き込んだ。飛び散った白い欠片は、折れた歯であったかもしれない。苦悶しつつ孫四郎はうずくまった。
「く、くそ」
賛之助が刃を抜き払った。
そのかまえを見て、司は誠の一字を刻んだ鉢金をつけた。そしてゆらりと左構えの姿勢をとった。
一瞬で司は賛之助の力量を見抜いている。手加減できる相手ではなかった。
「あんさんらの覚悟は分かった。来いや」
「待って!」
絶叫があがった。
はっしとむけられた司の眼は、身をよじるようにして立つ一人の娘の姿をとらえている。小春だ。
「何やの、これ‥‥」
小春がおろおろと斃れた忠之進を見遣り、そして三人の十一番隊士の顔を見た。
「あんたら新撰組のお人やないの! 何で仲間にこんなことするんや!」
小春が叫んだ。彼女は十一番隊士の顔を知っていたのであった。
刹那である。賛之助が司にむかって斬り込んで来た。
咄嗟に司は賛之助の刃を右の日本刀で受け、ほとんど反射的に天国なる太刀をふりおろした。即ち賛之助の頭蓋めがけて。
ぐしゃりと西瓜のように頭蓋を砕かれて賛之助は倒れた。即死であるのは明白であった。
「賛之助はん!」
小春が泣きながら駆け寄った。そして取りすがる。
「何で!?」
涙でぐずぐずになった顔を小春はあげた。
「何で殺すの! 賛之助はん達は何も悪いことしてはらへんのに」
「俺は十一番隊隊士、将門司や」
孫四郎に止めを刺し、司が立ち上がった。彼は、親の仇であるとはいえ身内であるはずの叔父を手にかけている。今更仲間を殺すことにためらいはない。
「怨むなら俺だけを怨み。こいつらは加勢しただけや」
「鬼!」
血を吐くような声で小春が叫んだ。
「あんたら新撰組は鬼や! 人殺しや! 人でなしや!」
「‥‥」
黙したまま三人の十一番隊隊士は背を返した。その背を打つように、いつまでも小春の泣き叫ぶ声が響いていた。
二日後、浪人達を斃した平手、陽平、京一朗と宗風、柊、司が落ち合った。場所は京の手前である。
時は黄昏。
平手と五人の新撰組十一番隊隊士の前で、京は血に染まったように夕日に赤く濡れていた。