【道教大神】哀剣士
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月14日〜09月19日
リプレイ公開日:2009年09月30日
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●オープニング
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京の都のはずれ。
無縁の墓地には妖々と夜霧が流れていた。薄蒼く見える光は鬼火であろうか。
その無縁の墓地に、すっと人影がわいた。
笠にマントに似た衣服。異様な井出達であった。
その笠の内からしわがれた声がもれる。何かの呪のようであった。
そして――
人影が抜刀した。月光に濡れ光る刃の切っ先をのばす。
「目覚めよ、伊集院静香」
人影が云った。
すると――
どれほど時が流れたか。ぼこりと土がもりあがり、何かが土をかきわけて現出した。
それは、骨と化した手であった。
●
そして、別の夜。
荒れ寺の一角に、その人影はあった。何かの呪がその口から流れ――
ややあって人影が云った。
「目覚めよ、金熊童子」
返答はない。が、代わりに地が揺れた。
●
三日後の夜。
人影は小さな卒塔婆の前に立っていた。
「目覚めよ、さやか」
人影が云った。
そして――
卒塔婆が倒れた。
●
その夜、人影の姿は壬生寺にあった。
「目覚めよ」
人影が云った。そして――
墓がぐらりと揺れ、骸が土中より立ち上がった。
芹沢鴨。
墓には、そう記されていた。
●
関白である藤豊秀吉は悩んでいた。加藤清正に対してである。
清正は所用あって大阪にむかうことになっていた。その供についてであるが、小数でゆくといってきかぬのだ。
先日の大禍津日神のこともある。まだ大禍津日神が清正抹殺を諦めたと決まったわけではないのだ。
「冒険者に頼むしかあるまいのう」
秀吉は疲れた声で呟いた。
「この前はまんまとしてやられたが」
人影が笠をあげた。
覗いたのは異様なものだ。金色の髑髏。大禍津日神であった。
「のう、石丸兵部」
大禍津日神はちらりと横を見た。着物をまとい、刀を腰におとした骸が座している。
先日、大禍津日神は数体の剣客の骸を蘇らせ、加藤清正暗殺を目論んだ。が、結果は彼の意想外であった。
五体の死霊侍のうち、四体までが討たれた。手練れぞろいの死霊侍達が、だ。
どうやら加藤清正もかなりの使い手を用意しているようであった。となれば、こちらも使い手を用意するまでだ。
大禍津日神は新たに蘇らせた四体の死霊侍を慰撫するように見た。
「魔天に蘇った者ども。殺せ。そして無念を晴らすがよい」
大禍津日神は云った。
と、深淵のような眼窩に光が揺れた。不審の光だ。
伊集院静香、金熊童子に比べ、さやかと芹沢鴨の動きが鈍い。魂など宿っておらぬはずの死霊侍に迷いが見えた。
「ほほう」
大禍津日神の口から感嘆の声がもれた。
さやかの骸の頬が濡れている。それは涙に見えた。骨と化した骸にそれはありえようはずもないが。
「よほど殺しは嫌とみえる。が、それは許さぬ」
大禍津日神の眼窩に鬼火に似た光がともった。
刹那である。さやかと芹沢鴨の骸が硬直した。そしてがくりと項垂れた。
「ふふふ。それでよい」
大禍津日神はくつくつと嗤った。
●リプレイ本文
●
「藤豊氏も苦労が絶えんようだ」
呟いたのは静かな表情の男だ。が、その眼のみ鋭い。炯と光っている。
備前響耶(eb3824)。冒険者である。
「しかし厄介ですね」
僧形の男が溜息を零した。
名は雀尾嵐淡(ec0843)。冒険者で、腕はからっきしなのだが、呪法にかけては鬼も避けて通るほどの使い手である。
嵐淡は顔を顰めつつ依頼書を取り上げた。中に一文がある。
加藤清正は助力を好まぬ武将である。故に悟られぬように守るべし。
「頑固な御仁ねーえ‥ホント」
苦笑したのは女言葉の浪人だ。名は渡部不知火(ea6130)といい、その手弱女ぶりからは想像もできぬが、恐るべき手練れであった。
「打つ手はある」
響耶は云った。
「大禍津日神の手の内は垣間見た。もし此度も襲撃してくるとなれば。またもや死霊侍を用いてくるだろう」
「死者を用いて生者を殺す、か。良い趣味してるぜ、全く」
一人の男が吐き捨てた。
美しい男だ。それでいて虎の如くふてぶてしい。尾上彬(eb8664)という名の忍びであった。
その時だ。響耶は懐から紙片を取り出した。
「何だ、それは」
彬が紙片を覗きこんだ。
「墓が荒らされてはいないかと京都見廻組に調べてもらった。その回答だ」
響耶は紙片に眼をはしらせた。
「荒らされた墓は‥‥金熊童子」
「金熊童子? なんだ、それは」
奇妙ともいえる名に興味を覚えたか、一人の巨漢が問うた。
バーク・ダンロック(ea7871)。この男はパラディンであった。
「酒呑童子四天王の一体です」
答えたのは少女に見えた。小柄であり、可憐な面立ちによるのだが、その実彼女は三十をとうに越していた。
和泉みなも(eb3834)。彼女は過去に新撰組十一番隊と因縁があり、それ故に十一番隊が斃した金熊童子のことを知っていたのだ。
「他には‥‥伊集院静香」
「えっ」
立ち去りかけたみなもが立ち止まった。
「今、なんと?」
「伊集院静香。確か新撰組の」
「元十一番隊伍長です」
みなもが答えた。当然のことながら、みなもは静香のことも知っている。かつて十一番隊を裏切り、処刑された者であるが、驚嘆すべき使い手だ。
「依頼を受けるのかい」
みなもの後ろに、そっと寄り添う影があった。
橘一刀(eb1065)。みなもと同じくパラであり、かつ夫であった。
「あ、あの」
「いいさ。伊集院殿を放ってはおけないのだろう。拙者もいくぞ」
「俺もいこう」
バークが快活に笑った。
「相手がデビルやアンデッドなら放っておけんからな」
「これで六人か」
響耶が紙片に眼をもどした。
次の瞬間、響耶の眼がかっと見開かれた。
伊集院静香の横に記された名。それこそは――
「芹沢鴨!」
呻きに近い声が響耶の口からもれた。
この京に住む者で、およそ芹沢鴨の名を知らぬ者があろうか。新撰組局長にして端倪すべからざる剣客。その技量は天才沖田総司に匹敵するという。
ややあって響耶は四つ目の名が記されていることに気づいた。
「さやか?」
知らぬ名だ。が、その名を耳にし、雷に撃たれたかのように反応した者がいる。
不知火と、そして異国人の冒険者だ。名はセピア・オーレリィ(eb3797)という。
「な、何て云ったの?」
「あ‥‥さやか、だが」
「さやか――」
セピアと不知火が顔を見合わせた。
さやか。二人にとって、この名は忘れられぬものだ。
暗殺者として育てられ、そして自由を求めて死んだ。さやかの哀しき瞳を不知火は今も覚えている。
「私は依頼を受けるわ」
セピアが云った。不知火もまた肯いた。
そのわずか後のことである。
不知火の姿は古着屋が軒を連ねる通りにあった。
その不知火に寄り添うように歩くもう一つの人影がある。
リュー・スノウ。不知火の妻である。
「確か大禍津日神といえばイザナミとの縁持つ神の御名。藤豊公を狙ったとしても不思議ではありませんね‥」
ふっとリューの薔薇色の瞳に翳がおちた。
「これを」
リューが不知火の手に身代わり人形を握らせた。
「何を。心配はいらぬさ」
苦笑しつつ、しかし不知火は身代わり人形を懐に入れた。
●
京、西洞院通。
そこに加藤清正の屋敷がある。
その屋敷を二人の女が訪れた。セピアと女に変形した彬である。
秀吉の書状を携えた二人は清正に同行を願って出たのだが――
清正は大喝した。
「この清正の眼を節穴と思うか。うぬら二人、とても死霊を恐れるとは見えぬ。おそらくは関白殿のたくらみであろう。ええい、関白殿はこの加藤清正を腑抜けとお思いか」
清正は二人の冒険者をぎらっと光る眼で睨みすえた。
「もしうぬらの面、再び見たときは斬る」
●
加藤清正は京を発した。
供の数は十。鳥羽街道を辿り、大阪へ。
その後を冒険者達も追った。が、清正は行列の前後に供侍一人ずつをはしらせ、誰も近寄らせなかった。いかに不知火の用意した巡礼の衣服を身につけていようと、これでは冒険者も近づけない。
「ますます厄介なことになったな」
嵐淡がぎりっと歯を軋らせた。彼の人並みはずれた知力が見えぬ不安要因の糸をたぐりつつあったのだ。
その背後でみなもも溜息を零している。
「大変なことになりましたね」
「まあな。うん?」
彬が首を傾げた。
「どうした? 頬が赤いぞ。風邪でもひいたか」
「いいえ」
みなもが慌てて首を振った。
「一刀殿との旅行は久しぶりなので‥‥不謹慎でしょうか」
「そんなことはないさ」
彬が片目を瞑ってみせた。
その時だ。声が響いた。
誰の声かはわからない。山道にさしかかっており、道がくねっているために見通しはきかなかった。
セピアが叫んだ。
「雀尾さん、わかる?」
「いや、わからん!」
嵐淡が叫び返した。
彼のデティクトアンデットの射程はおよそ一町。清正一行はその射程外にあった。
●
襲撃は清正の意想外のところから来た。
ひやりとする殺気を供侍達が感得した時、すでに樹上から五つの影が舞ったいた。影が音もなく地に降り立った時、五人の供侍が真紅の鮮血にくるまれている。
「ふふん」
笑う声は空でした。
黄金髑髏。大禍津日神だ。
「どうやら先日の手練れどもはおらぬようだな。よかろう。加藤清正を殺れ」
命じた。
それが聞こえたか、一瞬影は立ち止まった。その影をあらためて見とめ、生き残りの供侍達の口から呻きがもれた。
影は人ではなかった。多少の肉はこびりついてはいたが、骨だ。着物をまとった骸が抜刀しているのであった。
「化け物め」
供侍が怒号した。が、そこまでだ。
怪骨達から放射される殺気の凄絶さはどうであろう。闘将加藤清正に愛されていた手練れの家臣達が魔に魅入られてしまったかのように指一本動かせずにいた。
そうと気づいたか、どうか。するすると芹沢が進み出た。もつれかかるように一人の供侍が斬りかかった。
次の瞬間だ。供侍は袈裟に斬られて地に崩折れている。
一合も刃をうちあわせることのない、それはあまりにも無造作な殺戮であった。
「やるな」
駕籠の戸が開き、加藤清正が姿をみせた。
「化け物ども。この加藤清正が討ち取ってくれる!」
●
「待てい、どこへゆく!」
供侍が立ちはだかった。
「ええい、邪魔をするな。主の危機がわからぬか」
響耶が一喝した。何、とばかりに凄みかけた供侍であるが、さすがに異変に気づいたようだ。
その供侍を追い抜いて冒険者が馳せた。嵐淡のレジストデビルの施呪を待ってからにしたいところだが、その余裕はない。
その冒険者の存在に大禍津日神も気づいた。
「さやか、金熊童子、兵部」
大禍津日神が呼ばわった。
「お前たちはよい。奴らを近づけるな」
刹那だ。芹沢と静香が動いた。一瞬後、二人の供侍の首が空に舞った。
「お逃げください」
唯一生き残った供侍が絶叫した。が、清正は馬鹿めと叱咤し、槍を繰り出した。
あっ、という声は清正の口から発せられた。彼の足元に転がっているものがある。斬り落された槍の穂先であった。
「ば、馬鹿な」
恐怖にかっとむき出された清正の眼に芹沢が振り下ろす刃が映った。
戛然!
夜空の星にも似た火花が散り、鎧が砕け散った。清正を庇って立つバークのアルティメットアーマーが。
●
飛ぶように地を走り来たった冒険者の足がとまった。
その前に立ち塞がる異形がある。いうまでもなくさやか、金熊童子、兵部であった。
「さやか‥‥」
さやかを見つめ、不知火は呻いた。今、彼の前に立つさやかには、かつての哀しい瞳をもつ美少女の面影はない。ただ無残な姿をさらしているだけだ。
ぎりっと不知火は唇を噛んだ。
「‥良い趣向してやがるぜ、胸糞悪ぃ。あんなに必死だった娘を汚すのだけは‥容赦しねえ! さやか」
不知火の眼に炎が燃え上がった。これ以上さやかを汚させぬために一撃で決するつもりであった。
「来い、さやか」
●
「よくもやりやがったな!」
バークが吼えた。が、その顔からは血の気がひいている。
パラスプリントにより一瞬にして間合いを詰めたバークであったが、その身には芹沢の斬撃の壮絶さが刻み込まれていた。彼にはわかる。剣技において、バークは芹沢に遠く及ばない。
これが芹沢! これが新撰組局長か!
「来い、芹沢」
恐怖と陶酔に沈むバークの手からオーラソードがのびた。
その瞬間、芹沢が動いた。袈裟に刃が疾る。
バークがわずかに身動ぎした。急所を避け、後にオーラソードを――
バークの身から鮮血がしぶいた。芹沢の斬撃のあまりの凄まじさに急所をはずすことができなかったのだ。
ばたりとバークが倒れた。もはやそれには興味はないのか、芹沢は清正に向き直った。
冒険者達は動けなかった。道幅は狭く、三体の死霊侍を斃さぬ限り清正のもとに辿り着くことは不可能であったのだ。
鋭い剣気を発しつつ、兵部の剣が地をするようにして薙ぎあげられた。同時――いや、一瞬早く一刀の腰から白光が噴出した。大気を横に亀裂が走る。
空に骨片と刀が舞った。兵部の腕と刀だ。
続けて斬撃を送り込みながら、一刀が叫んだ。
「ゆけ、みなも殿」
「はい」
みなもが駆けた。阻止するように動く金熊童子であるが――
「どこへゆく」
響耶の身から闘気が迸り出た。見廻組として芹沢と決着をつけたかったが、もはやそうもいってはいられない。
酒呑童子四天王と響耶、今剣をもって相対す。
触発されたかのように金熊童子が袈裟に刃を叩き込んだ。
カッと音して金熊童子の刃は響耶よって受け止められている。獅子王がびきりと軋んだが、そこまでだ。
とはいえ反撃も行えない。受けに使った得物で瞬間応撃は不可能であるからだ。
反射的に響耶は飛び退った。
力は金熊童子が上だが、技においては俺が上だ。すでに響耶は悟っている。
ふらり。蝶のように、蜂のように。響耶は襲った。
●
芹沢の刃がすうと上がった。清正は断ち切られた槍をかまえてはいるが、それで芹沢をとめようはずもない。
きら、と剣先が煌き――
その輝きが生まれでたように人影が現出した。彬だ。
「ええいっ」
彬が芹沢の懐に飛び込んだ。虎徹が芹沢の身体を貫く。が、骨の間をすりぬけただけだ。
対する芹沢の刃は彬の胸を刺し貫いていた。あまりの激痛に彬は身動きもならない。絶命しなかったのは嵐淡のレジストデビルのおかげである。
その時、芹沢の身で何かがはじけた。忍犬巴の放ったソニックブームであるが、それ自体はさしたる威力はない。
が、一瞬、芹沢の気がそれた。その隙をついて彬が後方に飛んだ。
その彬の背後に影があった。最後の供侍を屠った静香だ。今の彬では静香に抗するべくもない。
と――
静香の足がとまった。彼女の左腕の一部が砕け散っている。
「静香殿」
嘆くがごとき声が流れた。みなもの口から。
「斯様に操られるとは哀れな。‥‥死者は死者の国へと帰られよ」
みなもの手からダガーが飛んだ。流星のように疾るそれを、しかしあえて静香は避けなかった。左手を砕かせつつ受け、一気にみなもとの間合いを詰めた。
閃く剣光。
並みの使い手ならば胴を真っ二つにされていたであろう一撃をみなもは避けた。が、あまりの剣の鋭さに完全には避け得なかった。
みなもの胴を静香の剣が刎ねた。肉と内臓が裂ける。
もともと耐久力のないみなもにはそれで十分であった。手元に戻ってきたダガーを放つ余力もない。
死ぬの?
みなもの面を絶望の翳がおおった。
さやかの身が空に舞った。以前と同じ――いや、それ以上の跳躍力である。
が、かまわず不知火は上段からの渾身の一撃をぶちこんだ。
交差する二影。
さやかの刃は不知火の胸を貫き、不知火の刃はさやかの鎖骨、肋骨を断ち切り、その身体半ばを粉砕した。
「ぬっ」
不知火の足元に身代わり人形が落ちた。
その時だ。いったん刃を抜いたさやかが再び殺到した。今度はその刃を不知火が受ける形となった。
「さやか、すぐに逝かせてやる」
不知火が叫んだ。
と、急にさやかの力が緩んだ。気づけば暁のような白光が世界を覆っている。
「私の刃じゃ貴方には届かない。でも‥‥眠らせてあげる」
セピアが云った。そしてさよならと告げた。
次の瞬間、さやかは消えた。夢のように。
静香は動かない。いや、動けなかった。
静香の前に一人の男の姿があった。――おお、一刀だ。
「静香、退れ」
突如、声が響いた。空から――大禍津日神だ。
はじかれたように一刀は眼をむけた。そして、見た。地に伏した血まみれの清正の姿を。そばには血刀をだらりとさげた芹沢が立っていた。
「大禍津日神」
ホーリーフィールドを展開し、じっと大禍津日神を見上げていた嵐淡が声を発した。
「何故、死者を甚振るような真似をする?」
「我を牽制していた小僧。その度胸に免じて答えてやろう。我は死者の恨みを晴らしてやっただけよ。恨みのないものは魔界へは転ぜぬ」
「ぬかせ」
血を吐くような叫びとともに衝撃波が空を疾りぬけた。が、大禍津日神には届かない。
刃を振りぬいた姿勢のまま、不知火が大禍津日神を睨み据えた。
「俺の面ァ、よっく覚えとけ。さやかを汚した罪、俺が必ずてめえの命を償わせてやる」
「面白い」
くつくつと黄金髑髏は笑った。
●
大禍津日神は去った。芹沢鴨と伊集院静香も。
後にのこされた兵部の骸に歩み寄ると、嵐淡は印を切った。ややあって嵐淡は顔をあげた。そして不審のこもった声で呟いた。
「松永久秀。死者の残留思念にあった言葉だが‥‥どういうことだ?」
それから数日後のことだ。
不知火とセピアの姿は駿河に近い宿場外れにあった。
小さな墓標が三つ。そこに一つ、墓標が増えた。
「ながとたちと一緒だ。これで寂しくはなかろう」
花を供え、不知火は立ち上がった。
「なあ、さやか。ほんの短い自由の中だったが‥お前も大切な何かを、選べたか?」
「選べたわよ、きっと」
セピアが云った。
消え去る前、さやかの声が響いた。
ありがとう。
さやかはそう告げていた。