山彦

■ショートシナリオ


担当:御言雪乃

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月07日〜03月12日

リプレイ公開日:2006年03月17日

●オープニング

 お願い。もう許して。
 美代のその叫びはごぼごぼという水音にかき消された。
 それよりも嬉々とした歓声が高く。
 一人の少女が美代の頭を川の水に押しつけている。じたばたともがく美代の様が面白いと、さらに嬌声をあげる少女は五人いた。
 その中でも一際綺麗な少女――村長の孫娘の亜紀は涙を拭うと、他の少女にむかって顎をしゃくってみせた。
 それが合図。
 亜紀を除く少女達が一斉に美代を川から引きずり出し、殴る蹴るの暴行を加え始めた。が、美代に抵抗する素振りはない。
 いつものこと。この一年ばかりずっと続けられていた暗黒の儀式である。
 所詮村長の孫娘に逆らうことなど許されず。美代はただ甘受してきたのであった。
 痛みや悲しみなど、今となってはもはや感じることもない。ただ底無しの虚無感のみが胸を汚泥のごとく塗りつぶしている。
「あー面白かった。母様に怒られてむしゃくしゃしてたけど、これで気分が良くなった」
 花のように微笑むと、亜紀は美代の背中をどんと蹴った。

 哀しくなんてないのに、どうして涙が零れるんだろう。
 頬を伝わる雫を拭いながら、美代は山道を歩いていた。濡れた服のことは川に落ちたと誤魔化せるが、今のままではとても家には帰れない。何気なさを装うには、もっと落ちつかないと――。
 その時。
 ふっと美代の前に大きな影が立ちはだかった。
「‥‥お前、今――」
 そのけむくじゃらのものは、云いかけていた言葉を途切れさせた。
 かつて見たことのない想い。人という生き物は恐怖と欲望しか持たぬはず。が、この小さな人は――。
 それの表情が戸惑ったように揺れた。

 それから三日後。
 一人の少女が行方知れずとなった。名をたきといい、美代を苛めていた少女の一人である。
 そして、その五日後。
 今度は母娘が行方知れずとなった。云うまでもなく、その娘というのは亜紀の取り巻きの一人であり――
 さらに、その三日後。また一人の少女が姿を消した。
 ここに至り、ついに村長の使いが冒険者ぎるどを訪れることとなった。曰く――
 神隠しの謎をとき、行方知れずの少女を探し出してほしい。

「美代、どこへ行くんだい?」
 飛び出そうとする美代を見咎め、母親が問うた。
「うん、ちょっと」
 応えを返すと、美代はにっこりと笑った。すると母親はふっと吐息をつき、
「遅くまで遊んでちゃなんねえぞ」
「はーい」
 今度こそ美代は家を飛び出し、ぱたぱたと駆ける音が遠ざかっていく。その足音を耳に、母親の顔にも柔らかな笑みが浮いた。
 どこかに良い友達でもできたのかねぇ。
 

●今回の参加者

 ea7049 桂照院 花笛(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0983 片東沖 苺雅(44歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2004 北天 満(35歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb2918 所所楽 柳(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3513 蛟 清十郎(26歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3773 鬼切 七十郎(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

琳 思兼(ea8634)/ ナセル・ウェレシェット(eb3949

●リプレイ本文


 村長は神隠しに心当たりはないかという冷えた眼差しの少年剣士――蛟清十郎(eb3513)の問いに首を振った。
 しかし――と、鏡面すべるかのように静やかな声音で口を開いたのは一見したところ少女にしか見えぬ娘。パラの陰陽師、北天満(eb2004)である。
「物事には必ず元になるものがあるはずです。その結果として神隠しに見える現象が発生したものと――」
「そう云われましても‥‥」
「では過去に似たような事は起こらなかったのですか?」
 問うたのは片東沖苺雅(eb0983)。が、彼に小動物のものに似た眼を転じた村長はまたもや首を振った。
 その渋面を見遣りつつ、しかし苺雅はひそかに思うところがある。
 行方知れずとなった四人。そのうち三人までは十歳前後の少女である。偶然と云えなくもないが、その点に何か意図的なものを感じずにはいられない。
 と、気配を感じた清十郎が素早く視線をめぐらせると――
 障子戸から顔が引っ込んだ。
 童。こんな村には珍しいほどの美しい面立ちの少女である。
 そのことに桂照院花笛(ea7049)も気がついたのか、
「あの女の子は?」
 と、村長に尋ねた。すると村長は顰めた面をゆるめ、
「孫娘の亜紀と申します」
「お孫さん‥‥」
 花笛が柳眉を寄せた。なぜか亜紀のことが気になる様子である。
「消えた娘さん達と同じ年頃のようですね」
「はい。亜紀と芳達とは年が近うございます。が、見ての通り、亜紀はあの器量。いつ神隠しにあうかと心配でたまらず――」
「なるほど」
 ――そういうことか。
 えるふの呪法者、 ローガン・カーティス(eb3087)の口が微かにゆがめられた。
 村人を思いやって助けを請うたと見えたのに、実のところは我が孫娘可愛さの依頼。消失みすてりーに惹かれて受けた依頼だが、俄に生臭さが匂ってきた‥‥


 ここ数日温かかった反動であるかのように雪が舞っている。
 それでも通常ならば寒風突っ切るような童の声音が村中にはねているはずだが、今はさすがにそれもない。所々にかたまって遊んでいる童の姿が見えてはいるのだが。
 その中で、棒切れで地面に絵を描いていた数人の童が、薪の上に腰をおろして団子を頬張っている巨漢を見とめ、おずおずと近寄って行った。
 そうと気づき、侍が振り向いた。
 その瞬間――
「熊鬼だ!」
 一人の童が叫び、その声にうたれたかのように一斉に他の童達が反転して逃げ出した。と、そのうちの一人――熊鬼と叫んだ童が優しく抱きとめられる。
 抱擁の主――細身の侍はすっと小腰を屈めると、にこりと微笑んで見せ、
「恐がらなくても良い。あれは熊鬼じゃなくて熊だから」
「誰が熊だ、柳」
 熊鬼‥‥じゃなくて熊‥‥じゃなくて鬼切七十郎(eb3773)がむくれた顔を細身の侍――所所楽柳(eb2918)に向けた。対する柳は片目を瞑ってみせ、再び童を見つめると、
「ほら、熊さんが蜂蜜をくれるよ」
「糖蜜じゃ!」
 七十郎が怒鳴った。

「山の神?」
 ローガンが問い返すと、皺の中に眼を埋もれさせた老人がこくりと頷いた。
 村長から紹介された古老宅。神隠しの伝承についての問いに古老がこたえた直後の事である。
「そうじゃ。ある者は山の神といい、ある者は鬼という。昔から山で行方知れずとなった者は山に喰われたと云われておった」
「では、此度の神隠しも」
「いや」
 古老は否定した。
「行方知れずといっても、それは山の中の事じゃ」
「‥‥」
 ローガンは肩を落とした。そう簡単に真相に辿り着けるとは思っていなかったが――
「では、誰も山の神を見た者はいないのか?」
 念のためとローガンは問うた。すると――
「そう‥‥たった一人を除いては、な」
「!」
 冷水の雫うちつけられたようにローガンは瞠目した。


 眼に痛いほど光の斑を散らす小川の側に清十郎はいた。
 行方知れずとなった少女達がよく遊んでいたところ。神隠しが人の仕業であれ妖しの悪行であれ、それが突如発生した原因は少女達の足取りの範囲にあると睨んでの探索行だ。
 が――
 見渡す限り寂たる冬景色。そこには染みひとつ見当たらぬ。いや――
 小さな違和感。
 川の辺の童。おそらくは浮浪の者。
 清十郎が近づくと、童は泥のついた芋を洗う手をびくりととめた。
「驚かせてすまぬ。少し訊きたいことがあるのだが――」
「‥‥」
 清十郎の問いかけに、童は無言のまま小首を傾げる。その様子に、ややあって清十郎ははたと思いあたった。
 ――この童、耳が‥‥。

 強張った表情で童達は頭を振った。
 見下ろす七十郎はさらに眼をぎらつかせて、
「心にやましいことがあると、次はあンたらが神隠しにあうれ‥‥」
 れ、は書き間違いではなく。柳が背後から七十郎の眼と口を指で横に引っ張ったから生じたもので。
「にゃ、にゃにをしゅる!」
「ほーら、恐くないぞ」
 童達を安堵させると、柳は真顔を向け、
「それはそうと神隠しにあった三人の女の子、友達か何かかい?」
「うん」
 童の一人がこっくりと。
「いつも一緒に遊んでたよ」
「ふーん」
 ――見つけた。点と点を繋ぐ線が。
 柳と七十郎はちらと視線を交わした。
「で、遊んでいたのはその三人だけか?」
 と、問うたのは七十郎だ。すると童は瞳をめぐらせ、
「ううん。あとは亜紀ちゃんと小夜ちゃんとえいちゃんと、それから美代‥‥」
 とん、と。隣の童に肘で突かれ、童は慌てて口を閉ざした。
 その様子に不審を覚えたものの、敢えてその事には触れず、
「では普段独りでいる子はいるかな?」
 柳が問うた。次に狙われるかも知れないからね、と付け加えて。
 すると、また別の童が、それなら美代ちゃん、とこたえた。
「美代?」
 かげろうのように再び浮かびあがった名。妙に気になるが――。
 その名を胸に刻みつけると、柳は童の頭に白く細い手をおいた。
「キミらぐらいの年の子ばかり被害にあっているらしい。キミ達も気をつけるんだぞ」
 くしゃりと髪を撫でると、柳はよく光る眼を童の青く澄んだそれに合わせ、
「何かあれば力になる。そのために僕らは来たんだから」
「‥‥」
 まるでお天道さまを仰ぎ見たように、二人の冒険者を見つめる童達は眩しそうに眼を瞬かせた。


「おっと」
 飛び出してきた少女を、慌ててシルフィリア・ユピオーク(eb3525)がかわした。
 その拍子に羽織っていただけの防寒服が翻り、たわわに実った胸の双丘が大きくゆれる。偶然目撃した農夫が呆然として手にもった鎌を足の上に落とし――ああ、シルフィリアのまわりはいつも事件だらけだ。――それは、ともかく。
「ごめんなさい」
 ぺこりと頭を下げて再び駆け出した女の子。その背を追うように、
「美代、村から出るんじゃねえぞ」
 おそらくは親のものであろう大きな声が飛ぶ。すると少女――美代は後も見ずに元気良く、
「はーい」
 という返事ひとつだ。
 その後姿を見送りつつ、シルフィリアは小さく微笑った。


「七星!」
 満が呼ぶと、いや実際に声に出して呼んだわけではなく、それは常ならぬ空間を常ならぬ波となって伝わり――茶色のもこもこが振り向いて尻尾を振った。満の愛犬、七星である。
「おいて行かないでください」
 今度は声にだして。駆け寄ると、満は七星の鼻先に丸めた布を差し出した。
 それは神隠しにあった母子のうちの母親の方の衣服。遺族から借り受けて犬の臭覚をもって跡を追ってきたものである。
 一声鳴いて再び駆け出した七星であるが――樹間に飛び込んだとたん七星のけたたましい鳴声が響き、満の心中に痛いほどの警告の叫びが轟いた。
 慌てて七星の後を追って樹間に踏み込んだ満は――見た。ずたずたに切り裂かれ、血にまみれた衣服が投げ出されているのを。

「数人の女の子が‥‥一人の女の子を川に沈めて嬲っていた‥‥」
 おーらてれぱす。浮浪の童と心話をなした苺雅がやや青ざめた顔を上げると、清十郎はふむと頷いた。
「その女の子達は誰かわかりますか?」
 清十郎が問うと、それを苺雅が心訳し――再び応え。
「名はわからぬそうですが‥‥一人は村長の孫娘――」
「なにっ!」
 ものに動ぜぬはずの清十郎の面が、揺れた。


 夜。
 村長宅の離れの中で冒険者達は車座になっている。
 その中――
「追儺の形代に‥かい、むごい事をするもんだよ。そんな事じゃ決して心から笑ったり出来ないのにさ‥‥」
 薔薇も時には夜露に濡れる。
 苺雅と清十郎から美代という少女が亜紀達数人の少女達から苛められていた事実を知り、普段陽気なシルフィリアも、さすがにこの時ばかりは顔色をなくしている。
「子供は幼さ故に残酷なもの。相手がどう感じるかは考えませぬ、己中心、まして権力者の娘であれば尚更の事」
 ぽつりと花笛がもらせば、シルフィリアはさらに深い溜息を零す。
 誰にも打ち明けられず、小さな女の子がいったいどれほどの刻を、どれほどの辛さを胸に抱いて生きていたのだろう。
「親は全く知らぬようだな」
 行方知れずの者達の家族に会ったローガンが云った。すると今日一日童達を見守っていた七十郎が軋るような声で、
「知っているのはガキどもばかりってな」
 嗤った。
「おや」
 と柳眉をあげたのは花笛だ。
「七十郎様、ご機嫌が悪いようですね」
「ったりめーだ。俺ァ怒ってんだぜ。ガキどもではなくて大人の無関心さによ!」
「あんたはやっぱりいい男だよ」
 シルフィリアが七十郎の背をぱんと叩いた。が、すぐに小首を傾げて、
「でもおかしいねえ。あたいが見た美代って子は、とても苛められていた感じじゃなかったよ」
 何かある。
 ぎゅっと握り締めたシルフィリアの手を、別の――苺雅のそれが包んだ。
「小さな我々の存在が、どれだけの小さな幸福を生む事が出来るのか‥‥やるに値する試練です」


 井戸端で足を洗っていた亜紀は、ふっと差した影に顔をあげた。
 一輪の百合にも似た娘。確か花笛という‥‥
「亜紀、さんですね」
 花笛は静かに微笑いかける。
「お友達がいなくなって心細いでしょう。同年代で仲の良いのは小夜さん、えいさん‥‥それと美代さんかしら?」
「‥‥」
 見る間に亜紀は顔を硬直させた。美代という名に反応したのは明らかだ。
 その亜紀の前に、花笛は血濡れた衣服を差し出した。
「話して貰えないか、あなたが怯えている訳を」
「えっ」
 うろたえ、はしらせた亜紀の視線の先――柱に背をもたせかけた清十郎がうっそりと佇んでいる。と、その傍らの尖った耳の異国人が、かつて、と口を開いた。
「――いぎりすでは森を火の手から守るために命をかけた者達がいた。故にこそ神の国への道は開かれた――どうだ。キミにもし思いやりの心が残っているなら、本当の事を話してはくれないだろうか」
「うっ」
 嗚咽をもらす亜紀の眼に、その時雫が溢れだし――菩薩のように花笛がかき抱いた。

 呼びとめられ、美代は立ち止まった。
 声の主を見とめて首を傾げはしたものの、すぐに眼を見開く。
「昨日のお姉ちゃん」
「覚えててくれたんだね」
 声の主――シルフィリアが身を屈めた。
「遊びに行くの?」
「うん」
 子犬のような満面の笑み。
「友達と?」
「うん」
「そうか」
 笑み返したシルフィリアの眼の光が微かに強まり、
「友達がいるのは良いことだよ。あたいも子供の時からの友達がいるんだ」
「僕もその友達に会ってみたいな」
 シルフィリアに代わって話しかけたのは柳だ。
 が、お美代はうーんと困った顔で、
「恐がるから、だめ」
 こたえると、再びばたばたと小鳥のように駆け出して行く。
 その後姿を見送り、シルフィリアと柳は沈痛な眼を見交わした。
 すでに美代の母親から、美代に友達がいるらしいことは聞き出してある。のみならず――その友達の出現と神隠しの時期が重なり合っている事実も。


 霹靂のよう。
 美代の後を尾行る冒険者の前に、それは突然現れた。
 けむくじゃらの異形。すでに美代の姿は遠くなりつつある。
「みよになんのよう――ぼうけんしゃ?」
 けむくじゃらの眼がぐりぐりと動いた。
「さとり、よな」
 ローガンが問うた。
 たった一人の山神の目撃者――古老の目撃談、そして山に棲む妖しや魔物に関して調べたナセル・ウェレシェットの文。さらには琳思兼の忠告により、冒険者はすでに神隠しがさとりの仕業と推察していたのだ。
「神隠しはお前の仕業だな。何故、やった?」
「げひげひ」
 問う柳に、さとりが黒い石のような眼を転じた。
「みよのため、だ」
「美代嬢のためだと?」
「そうだ。おらはみよのともだちだ。だからわるいともだちを食ってやった」
「なにっ!」
 七十郎がうめいた。血染めの衣服が見出された時からその事あるは予期していたが――
 ほとんど反射的に七十郎は名刀「一文字」を鞘走らせた。それは剣影すら残さぬ迅速の一撃で――
 が、その刃先の軌道をさとりは紙一重でかわしてのけている。
「だめだな」
 げひげひ。さとりが嘲笑う。
「おのれ」
 続いて斬撃を送ろうとした苺雅であるが。清十郎が片手をあげて制した。
 入れ代わるように前に進み出たのは、ローガンの炎気により心身を賦活化させた満だ。
「さとりよ。あなたならわかるはず。私達の心が」
 満が叫び、両の手を、そして心を開いた。
「私達はあなたを弊そうとは思っていない。何故なら美代という童を悲しませたくはないからです。それはあなたも同じはず。‥‥どうか、この山から去ってください」
「‥‥」
 さとりの硬玉のような眼がじっと満を凝視め――見えぬ手が冒険者の心を撫でるように過ぎていく。
 ややあって――
 げひげひ。
 さとりが後退った。
 げひげひ。
 さらに、また一歩。
 げひげひ。
 げひげひ。
 げひげ‥‥
 げひ‥‥
 ‥‥。
 
 冒険者が深い吐息をついたのは、さとりの姿が完全に山陰に没した数瞬後のことであった。
「‥‥これで、良かったのでしょうか」
 自問するかのように苺雅。と、シルフィリアが肩を竦め、
「わからない。でも美代は寂しい想いをするだろうねえ」
「では美代にはこれでもあげようか」
 ローガンが七色に染められたりぼんを取り出した。
「いいね。虹は希望への掛け橋だから‥‥ところで村への報告は手筈通りでいいかい? 山の神が心穢れていく娘達を罰した。如来が時には明王という憤怒の相をとるように‥‥ってな具合にね」
「あめえ、な」
 七十郎の唇の端が大きくめくれあがる。それはさとりなどよりもっと不気味で――
「村長以下、大人は全員正座で反省会やらせてやるぜ」
「――」
 言葉もなく冒険者達は頭をおさえた。
 ああ、山から恐怖が下りていく‥‥
 
 その時――
 幽魂の調べが。
 
 失われた命を星の高みに――
 美代の明日に陽の煌きを――
 
 柳の鉄笛が哭く。