火車が来る
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:7〜13lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月28日〜04月02日
リプレイ公開日:2006年04月08日
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●オープニング
かわいた風に土埃が舞いあがる中、その男は足を踏み入れた。
そこは白茶けた地。寒い村。
人影もまばらなその地にあって、男は明かに異分子であった。
胡散臭げに凝視つめる村人の中を、しかし男を気にするふうもなく。ふと寄った無住の破れ寺。そこに男は住みついた。
それから数日後。
村人は男が畑を耕しているところを目撃する。
その土地は村人達ですら見向きもしない涸れた土地。
しかし男は黙々と畑に鍬を入れる。雨降る日は蓑を濡らし、風吹く日は袖をゆらし、雪降る日は笠を白くし、炎天の下ではしとどに汗を滴らせ――
どれほどの月日が流れただろう。
朽ち葉を土に混ぜ、川から水をひき――畑に緑の斑が散った。
次に男は山道を切り開きはじめた。それは山に閉ざされた村と他の土地とを容易に結ぶためであり――しかし村人は嘲笑った。
今まで村人達も幾度となく道を開こうと試みてきた。しかしその度毎に頓挫してきたのだ。それをたった一人で何ができよう。
それでも男は黙々と作業を続け――またもや長い月日が流れた。
男が道を切り開いた時、そこには多くの村人の姿があった。
さらに月日は流れ――
「その男――草心様の寿命も尽きようとしております。もって、あと数日かと」
言葉を切ると、嘉助と名乗る若者はほっと息をついた。冒険者ぎるどの手代もしばし声もない。
ひとつ咳きをはらい、ようやく手代が訊く。
「――で、ご依頼というのは」
「はい。草心様をお守りいただきたいのです」
「その草心という方を‥‥守る?」
手代の面が怪訝げにゆれた。
話を聞いたところでは、その草心という男はなかなかの人物である。とてものこと、命を狙われるとは思えない。
その疑問を手代が口にすると、嘉助は喉にからまる声を押し出すように、
「知っているのは弟子の私だけですが、草心様は昔、博徒でありました。その折に多くの者を手にかけたそうでございます。しかし自らそのことを恐れ、刀を捨てて仏の道に」
「そのような仔細が‥‥」
呟きはしたものの、しかしまだわからない。あと数日の定命の者を誰が狙うというのか。そして、その理由は。
が、その理由はすぐに氷解することとなる。
「火車という妖しがいるそうで」
「はい」
手代は肯首した。冒険者ぎるどの手代を生業としている関係上、妖しのことなら多少ならず心覚えがある。
火車。
巨猫に似た姿をしており、嵐とともに現れて死者を連れ去っていくという妖しだ。その死者は悪行を重ねた者だと――。
はっと手代は瞠目した。
「それでは、守るというのは――」
「はい。火車の手から、草心様の骸を守っていただきたいのでございます」
「しかし――」
「いや」
嘉助が手代を遮った。
「不審に思われるのは承知しております。が、何としても――もし火車が現れたのなら、草心様の骸をお守りいただきたいのです。村人に草心様が悪の道に分け入っていたことを知られぬように。人生のすべてを村のために費やされた草心様、せめて安らかに逝っていただきたいのでございます」
●リプレイ本文
いってらっしゃい。
亀さん、手足ぱたぱた。
それを支えるキルト・マーガッヅの手の中で、しかし亀さんの首はうにうに。あまりご機嫌は良くない。
その様が可笑しいというわけでもなかろうが、珍しく所所楽林檎の頬には柔らかな微笑がういている。といつても、そのとびっきりの宝石が送られるのは姉の所所楽石榴(eb1098)限定なのだが――勿体無い。
●草心逝く
「やりかた?」
百合の花が微風にゆれるように。桂照院花笛は小首を傾げた。
その眼前、伊珪小弥太(ea0452)は彼らしくもなく真面目くさった顔つきだ。
「ああ。ちょっとばかし説法つうか、話をつけなきゃならねえことがあってさ」
草心の血濡れた過去。捨て去りたいものであろうが、それもひっくるめて、その人自身だ。嘘は火車にも村人にも通用しないだろう。
ならば――
要は伝え方だ。嘘ではなく説法でいく。
しかし花笛は静かな声音で、
「説法にやりかたなどありません」
「ない?」
「ええ。でも――」
花笛は柔らかく口元を綻ばせた。
「こつならあります。それは――」
花笛は白魚のような指をのばし――つっと小弥太の胸をついた。
「小弥太様はもう得ていらっしゃいます」
出発前の花笛とのやりとりを思い出し、小弥太は伏した草心に近寄っていった。元来うだうだ思い惑うのは得手ではない。
「開拓者かぁ。男の浪漫だよなー」
笑いつつ、どかりと草心の枕元に腰をおろす。が、すぐに真顔になると、
「村にはありのまま伝えるぜ。だから安心して往生してくんな」
「そんな! それでは約束が――」
思わず腰を浮かす嘉助であるが。
ゆっくりと上げられた草心の手が嘉助を制した。
「よいのだ。お前の心遣いはありがたいが、私は村の衆に隠すつもりなどないのだよ」
云って、草心はゆったりと笑んだ。
なんと心地良い笑みか。そして、なんと澄んだ瞳か。
胸奥からわきあがるものに衝き動かされるように、陸潤信(ea1170)は口を開いている。
「人は還るべき所に還らなければなりません。罪業を償おうと努力された草心さんならなおのこと。我が一族、土守の名にかけて力を尽くしましょう」
「そうだぜ」
草心を見守る者の一人、伊達正和(ea0489)も不敵に笑う。
「あんたは極楽へ行くべき人だ。その邪魔はさせねえ」
すっと。彼の左手は無意識的に脇においた霞刀へとのびる。
変幻自在の陸奥流といえど。鍛えぬいた刃といえど。それは所詮は業、物にしか過ぎぬ。されど正義の光帯びた今なら、冷たき鋼は妖しすら退ける力を得るだろう。
「儂が若い時――」
草心は懐かしむように眼を細めた。
「もしこのような方々にお会いしていたら道を踏み外すこともなかったやも知れぬのう」
ふうと息をつき、
「暇を告げる刻が来たようじゃ」
云って、草心は手をのばした。
誰に――右手は、深い湖のような瞳にどこか憂いをたたえたテッド・クラウス(ea8988)に。左手は、爬虫のように瞬かぬ瞳の持ち主である理瞳(eb2488)に。
「善哉」
頷き――
草心は逝った。
●それぞれに
春霞のかかった、それでも冬とは明かに違う蒼穹。
その下。草心が亡くなったと知って訪れる村人のすべては悲嘆にくれ――通夜の手伝いをする石榴は、草心が村人にいかに慕われていたかをあらためて知る思いであった。
と、同じく通夜の支度に余念のない嘉助の顔色の青白いことに気づき、桶にのばした彼の手を石榴がおさえた。
「疲れているようだね。少し身体を休めたほうがいいよ」
「いや、私は――」
「だめ」
すっと石榴が手をあげた。触れれば折れそうな繊手であるのに――いかなる業があるのか、男であるはずの嘉助に抗うことはできぬ。
「キミは倒れちゃいけないの。草心さんを最後まで見送るんでしょ」
雲が迅いな。
一人見上げ、そう独語したのは十歳そこそこの少年だ。名をアーク・ウイング(ea3055)といい、風水二柱の魔道をあやつる呪法師である。
「ここしばらくは生業と勉強に専念していて冒険に出なかったから、気を引き締めていかないとね」
自戒をこめて、再び独語。
若年ながら卓越した化生に関する知識の持ち主であり、村に至る前にすでに火車に関する情報を他の冒険者に披露し終えているこの少年に油断などはあり得ぬのだが――。
と、がさりとした叢を踏む音に、びくりとしてアークは振り返った。
「なんだ‥‥」
アークの口から詰めていた息がもれた。
「ヴィゼルさん、脅かさないでください」
「すまねえ」
こたえ、苦笑したのはイギリスの闘士・ヴィゼル・カノス(eb1026)である。
彼は通夜の準備や村人の対応などは仲間に任せ、火車撃退の準備として庫裏周辺の様子を調べていたのであるが――達意に達した彼の戦闘能力は無意識的に彼自身を隠形と成なさしめているようだった。
「‥‥で、あんた、こんな所で何をしている?」
「空を」
アークは再び顔を仰のかせた。
「空?」
「ええ。空を眺めていました。草心さんが亡くなった以上、いつ火車が現れてもおかしくはありませんから。‥‥この蒼い空が暗くなった時、奴は来ます」
「面白い」
ニヤリ。左の黒瞳に刃の光をゆらめかせ、ヴィゼルは腰におとした刀の柄を掴んだ。
――俺の使う剣流は我流。故に無型。火車に剣筋が読めるかどうか、試してみるのも一興だ。
本堂の屋根に梯子を立てかけている瞳を見つけ、草心を葬る際の柩に遺品等を入れることを提案し終えたテッドが歩み寄っていった。
「何をしているのですか?」
「梯子ヲカケテイマス」
背をむけたまま瞳がこたえた。
「それは見ればわかります。僕が聞いているのは、何故梯子をかけているのかということです」
「アア」
ようやく瞳は振り返り、見開いたままの金茶の瞳をテッドにむけた。
「屋根ニ上ルツモリデス。飛ビ道具ガアリマセンカラ、コレデ」
云って、瞳はじゃらりと鎖分銅を揺らして見せた。
それは何故か手枷のように見え――
本能的に眼をそらしたテッドだが、ややあって、
「善哉ってどういう意味なんだろう?」
ぼそりと問うた。
「ヨキカナ?」
瞳が繰り返す。
確か草心が臨終前に彼女とテッドの手を握り締め残した言葉。他の冒険者にではなく、彼女達二人のみにむけられた想い。
「ワカリマセン」
「そうですか‥‥」
項垂れて踵を返しかけ、ふとテッドは足をとめた。
「瞳さんも気づいていると思うけど、僕ははーふえるふなんです。禁忌を破った結果生まれた存在。‥‥その僕が死んだとしたら、その時も火車は現われると思いますか?」
「ワカリマセン」
瞳の応えは先ほど同じだ。が、すぐに彼女はケレドと続けた。
「ケレド、ソノ時ニハ、俺ガ守リマス」
「そうですか。ならば――」
今度こそテッドは背をむけた。そして力強く一歩を踏み出しながら云う。
「此度は草心さんを何としても守らなければなりませんね」
●嵐が来る
夜。
潤信は、防寒着を身にまとい本堂の床下に潜んでいた。
草心と交した約束。それを守る為に。
冒険者として――いや、その前に彼が彼である為に、約定は守らなければならぬ。命にかえることになろうとも。
と――
潤信が眼をあげた。
強くなりはじめた風に木々がざわめき、垂れこめだした暗雲に月も隠れ、天は漆黒に塗りつぶされている。
――嵐が来る!
●火車が来る
天と地を雷が貫いた時。
それの姿が青白く浮かび上がった。
風に乗る、雷獣を小ぶりにしたような巨猫の妖し。冥府の使い――火車だ。
「来たね」
豪風に文字通りの濡れた黒髪翻らせ、草薮の陰からすっくと石榴が立ちあがった。彼女は自ら編み出した鉄扇を用いた舞に似た動きの闘術「舞扇」を使うのだが、今、その手には破邪の木剣が一振り。袖ゆらしたその姿は雨にうたれる白鷺の如く見えたかも知れぬ。
「さぁ、お披露目の時間だよっ♪」
すうと、石榴の木剣が青眼にうつった。火車との戦い方についてはキルトと林檎から教えを受けている。
「一指し、舞ってみせようか?」
「主ラニ用ハナイ。我ガ用アルハ、草心ノ骸ノミ」
「そうはいかないんだよ」
荒ぶ風に響く火車の応えにこたえるように、石榴が木剣を振り上げた。
それが合図であったか。
突如闇に亀裂を刻みつつ紫電が疾った。それは避けもかわしもならぬ火車を撃ち――
煌!
闇が仄紫に染め上げられ、小蛇の如く雷が散った。
あとに残るのは爛と光る双眸――火車の獣の口がゆがんだ。
「ソレデハ我ハ弊セヌ」
「なにっ!?」
うめき、石榴が呼子笛を口に運ぼうとした、その時――天が哭いた。
雷霆がうちおろされ、それは天誅であるかのように石榴を貫いた。さすがの驚忍もこれにはたまらず――がっくりと膝を折った。
ぶれすせんさーも威力をおさえたらいとにんぐさんだーぼるとも効かないか‥‥
冷静に状況を分析するアークの口から、ふと呟きがもれた。
「過去にかさねた悪行については云い訳できないだろうけど、悔い改めて村に尽くしたっていうのに容赦しないんだね、火車は」
「おい」
アークの肩をぐっとヴィゼルが掴んだ。
「あれを――」
「えっ」
慌てて振り向いた先――村人達がざわめいている。
――何なんだ、あの化物は?
――草心様の骸に用があるとか云ってたぞ。
――過去の悪行!? まさか――。
吹き乱れる嵐にも似て。本堂の中にも疑念という黒い奔流がうねりはじめている。
刹那、立つ。銀糸なびかせて。
「騒ぐんじゃねえ!」
小弥太が叫んだ。
「草心サンは過去、間違いを犯した。だから火車が現れた。それがどうした!」
「ど、どうした、だと!?」
村人の一人が顔色を変えた。
「もしそれが本当なら、俺達は騙されて――」
「馬鹿野郎!」
小弥太が一喝した。そして外に――今は闇と風と雷鳴に閉ざされて見えぬ田畑の方を真一文字に指差し、
「誰も何も騙しちゃなんかいねえ。あれが真実だ!」
「し、真実?」
「そうだ。草心サンが耕した田畑、拓いた道、流した汗――それこそが真実だ。その真実を、ずっとお前らは見てきたんじゃなかったのか」
「!」
村人達が息をひいた。その眼前、小弥太はさっと背をむけた。
「云っとくがな、火車が人の価値を決めるんじゃねえ。人が人の価値を決めるんだ」
「そうだ」
正和は愉しくてたまらぬような笑みを口の端に刻み――白刃をテッドの眼前に閃かす。
「こいつに、おーらぱわーを頼む」
その間、火車は本堂めがけて翔けていた。アークの放った沈黙の呪をはねのけつつ。
そして――
その火車を見下ろす本堂の屋根の上。青光を抱いた雷雲を背にむくりと瞳が身を起こした。そのまま毒蛇が這うように屋根瓦の上を疾り、一気に空へ――火車の背に躍りかかった。同時にその手からは鎖のついた分銅が噴出し、火車の胴に巻きついている。
「グッ」
「あっ」
只ならぬ声は同時にあがった。
ひとつは瞳の奇襲により態勢を崩した火車のもらした愕然たるうめきであり、もうひとつは鎖にぶら下がった瞳のあげた苦鳴である。彼女は今、帯電した火車から鎖を通して流れいる電流に身を灼かれているのであった。
刻にして、現代日本でいうなら二十秒ほど。さすがに堪らず、瞳が手を放した。
が、それで十分。じっくり練り上げ威力を増したアークの電撃が龍が吼えるに似て再び。さらには――
「秘剣・風切りぃっ!!」
絶叫しつつ放たれた正和の刃波は薄紅色をおびて空を斬り、のみならず火車の皮膚すら断ち斬った。
おおんっ!
初めて――
火車の獣様の口を割って苦悶の咆哮が迸り出た。そうと見てとって、アークの右手は複雑な印形を形作る。
「本能か、使命か、信念かは知らないけど、遺体を奪っていくなら討たせてもらうよ」
三度の呪唱。
そのアークを庇うように、すうと紅陽炎たつ剣携えたテッドが立つ。
迎え撃つ。護る。今はその想いだけ。
が――
空が爆ぜた。
としか思えぬほどの暴風の炸裂。それが火車の呼んだ風精の仕業と知るより先に、冒険者達ははるか後方に吹き飛ばされている。
ある者は地に、ある者は樹木に、またある者は本堂の柱に――
なんでその隙を火車が見逃そう。
しゃあ!
鋭い呼気を吐き散らし、火車が本堂に迫った。それは一陣の疾風のようで――しかし、その眼前に躍りあがった影がある。本堂床下に潜んでいた潤信だ。
「輝牙!」
潤信が叫び、その一声にうたれたかのように犬――輝牙がとんだ。鏃すべるよう真っ直ぐに。火車にむかって。
ぎゃん!
火車の刃状の爪が空を薙ぎ、輝牙の身は血飛沫しぶかせはじきとばされている。
「おのれっ」
憤怒をのせ、潤信が拳を唸らせた。
かすめただけで火ぶくれができそうな一撃――しかし、火車はその烈拳をかわし、のみならず潤信の腕を掴みとめている。
「ぐわぁ」
からみつく小雷に潤信が身をよじらせた。
ライトニングアーマー。火車の帯電化はまだ効力を残していたのだ。
と――
じり。
じり。
潤信の残る左拳があがっていく。その身を紫電に灼かれていながら――火車を撃つ為に。この一瞬を後悔せぬ為に。
火車の眼に不審の波が揺れ、自らその事に恐怖するかのように潤信を放り捨てると――火車は一気に本堂に駆け上がった。
が――
ぴたりと火車の動きがとまった。
突き出された右の爪は盾に流され、逆にギンッとのびた刃は火車の喉に凝せられ――
「お前の動きは、もう見切ってるんだよ」
ヴィゼルがニンマリと笑った。
そのふてぶてしい笑みを――いや、しかし火車は見ていない。
火車が見ているのは本堂の中央。草心を護るように立つ村人達だ。
老人が、いる。女も。若者も。中には子供すらも。
「ナゼ――」
「わからない?」
火車にこたえたのは、崩折れそうになる身を本堂の柱にもたせかけた石榴である。
「人はやりなおすことができるんだよ。いつでも、どんな闇の底からだって。そして輝く今を、未来を築くことができるんだ。大切な人達と」
それは希望だ。冒険者が求めてやまぬもの――
「キボウ?」
火車の眼がぐるりとまわり――
何の予備動作も無しに数間の距離を火車が飛び退った。そして地を跳ね、さらには空に舞いあがる。
「待てっ」
追いすがる冒険者であるが――見下ろす火車の眼が三日月のように吊りあがった。
「主ラ、面白いノォ」
●
火車は去り――それは草心を見逃したのか、はたまた勝ち目無しと悟ったのかは定かではないが――
嵐もまた去り、嘘のように晴れ渡った夜空には無数の銀光が瞬いている。
「何とか‥‥終わりましたね」
アークが溜息とともに肩を落せば、正和は本堂を振り返り、
「明日は草心さんを見送ってやるか」
「僕も手伝います。‥‥ところで、瞳さんは?」
慌ててテッドが周囲を見まわし――ある一点で眼がとまった。
地に倒れ伏したままの瞳の手が力なくもちあがり、ゆらゆらと揺れて命ある事を誇示してい――ぱたり。あっ、死んだ?