鬼が来る
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月11日〜04月16日
リプレイ公開日:2006年04月21日
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●オープニング
血のように鮮やかな緋色の衣をまとった女童は、己の背丈の倍以上もある子鬼の首を踏みつけた。
いかに子供であろうとも、鬼からすれば人の童などはりついた小蟲、と見えたはずなのだが。
身動きならぬ。まるで磐石の重みにおしつぶされているかのように。
くわっと牙むいて、二匹の鬼――おそらくは親であろう――の一匹が女童に襲いかかった。鋭利な刃に似た爪が女童の首にかかる。
が――爪がたたぬ。透けるように白い肌には傷ひとつつくことなく。
「馬鹿め」
女童の繊手が翻り、鬼がふきとぱされた。
轟音をあげて地に叩きつけられる鬼――を眺め遣りつつ、女童が嗤った。
「うぬら如きがかなうものかよ」
嗤いを美しい顔にへばりつかせたまま、子鬼を踏みつける足に、さらに女童は力をこめた。
「化生の分際で、人と仲良う暮そうなどと片腹痛し。そのようなもの、身につけおって」
嘲る眼で、女童は鬼のまとう僧衣に似た衣を見つめた。それは村の者が鬼の為に作ってくれたものだが、どうやらその事実を女童は承知しているらしい。
「せめてもの罪滅ぼし。人の首、百もってこい。さすれば此奴の首、返してやろう」
鬼二匹が消えた闇を見つめる女童の肩に、その闇が凝結したような烏がとまった。
まるで囁いてでもいるかのように。烏は嘴を女童の耳に寄せ、かくかくと動かす。すると、女童は独語するかのように、
「――確かに百の首もってくれば鬼の餓鬼の首、返してくれようさ。じゃが、まだ腕がある、足がある。鬼の餓鬼一匹で、どれほどの人の身体が集められようか。楽しみじゃのう」
云って、女童は口の端を鎌のように吊りあげた。
まるで悪夢の中のように。
もがけど足は動かず。
よろめき倒れた娘の眼が恐怖にかっと見開かれ――その先、二匹の化生がぬっと佇んでいる。
身の丈は七尺を越え、赤銅色の皮膚の下には鋼を寄りあわせたような筋肉がうねり――二本の角、肉食獣を想起させる牙。鬼だ。
二匹とも槍を携え、そのうちの一匹の槍には人の首が二つ並んで貫かれている。そして、もう一匹。そいつの槍が今まさに娘めがけて――
戛!
横からのびた刃が鬼の槍をはじき返した。
かるくうったとしか見えぬのに、しかし槍のみならず鬼の身までもが大きく仰け反っている。それは刃の威力というより、むしろ刃の主から放射される凄愴の殺気のなせる業のようで。
ふと、鬼が怯えた。
ほとんど反射的に背を返し、鬼が闇の奥に駆け去っていく。そうと見てとって、しかし刃の主は追おうとはしない。
「娘、大丈夫か」
「は、はい」
震える声でこたえ、娘は刃の主を見返した。
鈴懸に結袈裟。身なりから、どうやら山伏であるらしい。
「お、お助けいただき、有難うございます」
「いや――」
短く応えを返し、山伏――鬼の一字を性に持つ美丈夫は小首を傾げた。
「あの鬼、泣いておったように見えたが‥‥」
●リプレイ本文
「おられぬ!?」
鬼一法眼が、である。依頼を出した後、孤影飄然と立ち去っていたのだという。
呟いた御影涼(ea0352)はさすがに冷厳たる面に落胆の色を滲ませている。
此度の依頼の詳細を訊くことは勿論だが――
陰陽道に関して造詣が深く、のみならず鞍馬流の創始者であり、なおかつ六韜(文、武、龍、虎、豹、犬の六巻から成り立っており、中でも虎の巻は兵法の極意として慣用句にもなっている)三略兵法相伝者であると噂の鬼一法眼なる人物に一目会ってみたいと思っていたのだが‥‥
涼は同じ想いの冒険者と眼を見交わした。
冒険者――白峰虎太郎、朱鳳陽平の二人である。彼らは御影一族に仕える身であり、さらには共に鬼一法眼の依頼に関係した過去を持つ。
「いらっしゃらないものは仕方ありませんわね。では、わたくしは鬼一法眼様が関わっていた報告書に目を通すといたしましょう」
ふわり。云って、銀光を散らすかのように背を返したのはエルフの魔道師・アデリーナ・ホワイト(ea5635)である。さらに、その流麗な背から声が――
「鬼の眼にも涙‥もしや、何か鬼自身に本意ではない想いがあるのでしょうか」
「ふうむ」
涼が腕を組んだ。鬼が泣いていたようだとは鬼一法眼が残した言葉であるが――
「確かに単なる襲撃とは違うようだ。泣いていたのが真実であるなら、余程に強い感情があるに違いない。恨みか。それとも」
「それとも?」
「いや――」
御影一族主家の若者は頭を振った。
「まだわからぬ。しかしその想いとやらを探ることが、俺には此度の依頼を解決する鍵であるように思える」
「わたくしにもそのように。けれど――」
ぴたとアデリーナが足をとめた。ちらと振り向かせた彼女の眼には真っ白な憐憫の光が揺蕩っている。が、語調のみは厳しく、
「鬼は既に人を殺めています。もはや野放しにしておく訳にはいかないでしょう」
「だろうな」
ふうと涼は息をついた。冷然たるように見えて、その実彼ほど心の振幅が大きい若者も少ない。
「あの――」
鈴の鳴るような声音に。
夢から覚めたように涼が眼を転じた。
その先――狩衣姿の可憐な美少女が真摯な眼差しで見返している。名を所所楽柚といい、彼女もまた鬼一法眼とは浅からぬ因縁があった。
「ホワイトさんの鬼の本意ではないというお言葉で思い至ったのですけれど」
前置きし、柚が告げたのは緋の衣をまとった女童のことだ。鬼一法眼の依頼で一度対峙したことがある恐るべき魔性。それがもし此度も拘わっていたなら‥‥
●
ぎし、ごと。
ぎし、ごと。
眠りを誘う単調な音が漂う――村の外れの水車小屋。中央に焚かれた焚火の炎明かりをうけて、八つの影がゆらと揺れている。
そこは鬼と縁をもつ村。主に所所楽苺(eb1655)と緋神一閥(ea9850)の働きにより見出したもので――
「鬼?」
問われ、野草を摘んでいた男はびくりと身を震わせた。
その態度に、何か知っていると感じた苺がさらに眼を真ん丸く見開き身を乗り出し――
「そうなのだ。最近槍をもった鬼が暴れているって聞いたのだ」
「番いで、おまけに僧衣のようなものをまとっているという」
男装の麗人かと見間違うばかりの美丈夫――一閥が付け加えれば、ああ、と男は忌々しげに舌打ちした。
「赤熊であろ」
「知っているのか、なのだ」
「知っているも何も――」
この辺りでは有名な話だ、と男は云った。
「有名?」
いかに口の重い一閥もさすがに捨ておけず、
「どういうことか、仔細を教えてはいただけまいか」
「あ、ああ‥‥」
苦いものを噛んだ顔つきで男が話し始めた内容は――
一年ほど前、山に鬼が棲みついた。そのことを知った山裾の村の者は恐れ、その山に近寄らなくなった。が、生活の方便を猟に頼る猟師においては恐れてばかりもいられない。そこで一人の猟師が山に分け入った。ところが熊に襲われ――あわや食い殺されると思ったところ、その猟師を救ったのは、なんとその鬼であった。その後猟師は鬼に村まで送り届けられ、そこから鬼と村人達との交流がはじまったという。
「わしらは止せというたんじゃ。鬼と仲良うするなど。そうしたら」
案の定じゃ。男はせせら笑った。
すると一閥がよく光る眼を男に据え、
「その鬼と交わりのあった村はどこにありますか」
「ああ、その村は」
背に負った籠をゆらすと、男はある一点を指差した。
――という次第。
その後冒険者達は件の村に辿り着き、仔細を求めて散った。そして待ち合わせの水車小屋に一人二人と参集し――
今。
「気の良い、おとなしい鬼であったそうで」
そう口を開いたのは、楚々とした風情には似合わぬほど凶暴的に胸の隆起が目立つシルフィリア・カノス(eb2823)である。
彼女は村の者に事件前の鬼の様子など尋ねたのであるが――
村の者達にとって此度の鬼の所業は衝撃的であったらしく口は重かったのだが、それでもぽつりぽつりと口の端にのぼらせたのは、いずれも鬼を誹謗するものなどひとつもなく。――どころか友を悼むかのようで。それは一閥と苺が耳にした風聞の通りだ。
「私達が聞いたのも同じでした」
云って、金糸波打たせた騎士――セイロム・デイバック(ea5564)は同意を求めるかのように調査に同行した鳴神破邪斗(eb0641)を見遣った。すると闇に半身を同化させた忍びはただ黙然と頷いたのみで――実のところ、破邪斗にとっては鬼の事情などどうでもよい瑣末事であった。彼にしてみれば調べとは目的を果たす為の段取りでしかなく、今も――仲間の思惑など余所に、破邪斗は鬼の槍を防ぐ算段に余念がなかった。
その時――
いきなり戸が開き、でも、と声をあげつつふらりとひとつの人影が滑り込んできた。
「それなら、なおさらおかしいわね。そんなおとなしい鬼が、どうして突然殺戮を始めたのか」
人影が云った。
人影――それは火灯りの中でも息をのむほど美しい女であった。どこぞの姫君であるかのような上品な面立ちで、しかし着物の上からでもわかるほどしなやかな肢体はくっきりと――
「何者ですか、貴殿は?」
セイロムが問うた。するとし美女はくくくと笑うと、流し目をくれて、
「何云ってるの、あたしよ」
「あ、あたし?」
「そう。百、目、鬼、女、華、姫(ea8616)」
「ああ、女華――女華姫殿!?」
セイロムがかっと眼をむき出した。周囲では幾人かが手にしていた兵糧をばったと地に落としている。さしもの破邪斗ですら驚愕のあまり腰を浮かせかけ――
あまりの反響に、女華姫は苦く笑った。
「そんなに驚かなくて良いでしょう。 人遁の術よ、 人遁の術 。聞き込みに都合が良いように変装したってわけ」
「それにしても――」
冒険者――とりわけ男連中は肌をそそけだたせて顔を見合わせた。
彼らの知る女華姫は筋骨隆々たる体躯に岩を切り出したようなごとりした面相をしている。とてものこと眼前の美女と同一人とは思えない。化粧は化けるということだが、これはもう人知を遥かに越えた不可思議現象で――
こほんとシルフィリアが咳払いした。
「確かに女華姫さんのおっしゃるとおりです。この異変事には何か裏でもあるのでしょうか‥‥」
「人を食べるためじゃないみたいだしねー」
苺が口をへの字に結んだ。アデリーナもを憂慮に吐息をつき、
「襲われた娘さんも鬼に襲われる心当たりはないようですし‥‥」
「それに消極的な感じがするのよね、その鬼の行動って」
「やはり注目すべきは、鬼一法眼殿が申されていた、鬼が泣いていたということでしょうね」
セイロムが女華姫に頷いて見せた。すると破邪斗が皮肉に口元をゆがめた。
「確かに鬼が泣くなど、聞いた事が無いな」
「鬼が泣く、か‥‥」
自問し、ややあって涼は瞠目した。
「そういえば鬼は番であったな。子はどうしているのだろう?」
「そのことなんですけど」
セイロムが身を乗り出した。
「不可解な事はないかと問うてみたところ、村の者が云っていました。近頃鬼の子の姿が見えぬと」
「もしかすると、泣いていたってのは寂しいからじゃないのかなのだ」
ぼそりと苺がもらし――セイロムが片眉をあげた。
「寂しい?」
「うん。一緒のはずの子鬼がいなくって‥‥あっ、今思いついたんだけど、もしかしたら子鬼のことで、嫌々鬼は殺戮を行っているのかなのだ」
「馬鹿な」
破邪斗が冷笑を浮かべた。
「どこぞの誰かが鬼の餓鬼を人質にとり、親鬼どもを脅迫しているとでも云うつもりか。どこの人間にそのような真似ができる?」
「人間でないとしたら、どうだ?」
「!」
はじかれたようにむけられた七対の眼。その前で、涼の瞳が深い海の色に輝いた。
●
「どうですか?」
地に屈み込んだアデリーナにむかい、シルフィリアが問うた。
そこは彼女が探り出した鬼達の住まう山の麓。そして今、アデリーナは幾度目かの水との会話を試みている。
「見たようです」
地に片膝ついた姿勢のまま、アデリーナが顔をあげた。
「見た? 何を?」
「緋の衣をまとった女童を、です」
「やっぱり、なのだ――」
苺が蕾のような唇を噛んだ。
女童が現れたとなると、もはや間違いはない。おそらく鬼達の凶変の裏には彼の魔性の手がからんでいるのだろう。
ぎりっ、とセイロムが歯を軋り鳴らせた。
「外道‥‥。許せぬ」
「然り」
一閥が睫を伏せた。そして嘆くが如く、
「己が子の為とあらば、親は鬼ともなる。それは人であろうと化生であろうと同じこと」
それでも――人を殺めた鬼を見逃すことはできぬ。その事実は免罪符とはなり得ぬのだ。しかし――
「彼らがそうせざるを得なかった事情こそ許し難く、そして哀切極まるのですよ‥‥」
云った。それに対し、すぐに応ずる声はなく――ややあって、セイロムがぎゅうと棍を握りなおした。
「裁くつもりはありません。ただ何処かでこの負を止めなければ‥‥。そして、止めた者が彼らへの罪を背負っていく。それだけです」
その時――
物音がした。
樹間の彼方。まだ遠いが、明かに何者かが争っている。
そして――
近づいてくる。ゆっくりと。確実に。
刹那。
樹間をぬって影が飛び出してきた。一瞬遅れて弧を描いた銀光がその残影を薙ぐ。次いで小枝がはねとばされ、ふたつの巨影が現出した。
それこそ――囮となって山に分け入っていた破邪斗と、彼を追ってきた件の鬼達の姿であった。
「同情はします‥‥ですが、容赦はしません!」
破邪の薄紅光曳きつつ、セイロムが躍りかかった。闘気により賦活化された棍の一撃は常よりもさらに鋭さを増し――ぶんと唸りをあげた鬼の槍が彼を貫くより先に、その肩肉をひしゃげさせた。
おおん。
鬼の咆哮が響く。
その嘆声に耳を塞ぎたくなるのを必死におさえ、涼がするするともう一匹の鬼の前に進み出た。呼応するかのように鬼が槍を閃かす。横薙ぎの一閃は空を灼き斬りつつ――すうと涼が身をひいた。切られた彼の前髪が数本宙に舞い――猫族の俊敏さで涼が襲った。ぽっかりあいた鬼の懐に飛び込むように。
「お前達の無念は必ずはらす!」
すまぬ。心中に叫び、涼の刃は袈裟に白光の亀裂を走らせている。
が――
涼は読み違えていた。鬼の筋肉の強靭さを、そしてその反射速度の迅さを。
肉を浅く切り裂かれた鬼はすぐさま槍を返し、それは飛び退さろうとする涼の胸めがけてびゅうと突き出された。空にある涼は避けも躱しもならず、流星のように疾る槍先は彼の心の臓を過たずつらぬ――かなかった。
やや上方にそれた槍先から逃れた涼は見届けている。鬼の巨躯がはじけた水球によって傾いでいるのを。
「これ以上の殺戮は哀しすぎます」
慨嘆するアデリーナの繊手は、まるで筒口のようにのばされていた。
その前――庇うかのように焔立つ。
炎の志士、一閥。
紅蓮の刃を光背のようにぐるりとまわし、彼は血を吐くように宣言する。
「我が剣は未熟にて、断ち切る以外の術を知らない。拳に剣を以って応えるしか。されど‥‥いや、だからこそ我が受け継ぐ。貴方が罪を犯しても護ろうとしたものを。その無念を」
ぴた、と。日輪を描いていた一閥の刃がとまった。
「我紡ぐは葬送の焔。いずれ辿る、全ての者の道行を照らさん!」
轟!
鬼が吠え、槍を振った。疾風をまいたそれは目にもとまらぬ迅雷の突撃であるが――巧みに女華姫は躱してのけている。それは一切の攻撃を捨てた防御専心の賜物であるのだが。
戛!
女華姫が無理やりこじあけた隙をついて迫った苺が、左手のダガーで鬼の槍を受けとめた。
ぎいんと火花が散り、鬼の膂力に押された苺の足がすずうと地を滑る。
「苺さん!」
「大丈夫なのだ!」
結界を張ろうと駆け寄るシルフィリアを制し、苺は鬼に向き直った。
「子供はどうしたのだっ? 殺めた事実は変えられないけど、理由もわからなきゃ‥‥」
云いかけて、苺は言葉を途切れさせた。
鬼が、泣いている。金茶の妖瞳から滴るそれは、人のものと変わらぬ澄明さに煌いて――
言葉は通じぬ。が、想いは別だ。
切々と押し寄せる哀情に、苺の目からもまた雫が溢れ出した。
「‥‥わかったのだ」
彼も生きて、ある。愛を胸に。
ならば我もまた生きる者として、誠実なる精根を込めて立ち向かおう。
――苺の右手の得物が光塵を散らした。
●
ある者は心中にのみ、ある者は頬に滴らせ――
涙と涙、哀と哀との戦いは幾許かの後、終わりをつげた。二匹の鬼は事切れて地に横たわり、満身創痍の冒険者達は言葉無く薬水の、あるいはシルフィリアの治療を受けている。一人、破邪斗のみはどこか怒った声音で、
「鬼としての性に逆らって人と交わった。‥遅かれ早かれ、此度の様な事が起きたろうよ」
と呟いていたけれども。
その時だ。
ばさと羽音が響いた。
反射的に顔を振り向けた涼であるが――一瞬後、彼はあっと声をあげた。
木の梢から飛び立った巨鳥。それをどこかで見たことはなかったか。
いや、見たのではない。聞いたのだ。かつて虎太郎より。
女童が操る魔犬。それは巨鳥に変化するという。ならば――
「しまった!」
涼の口からひび割れたようなうめきがもれた。
●
「お、おのれ」
噛み裂かれた一閥の唇から鮮血が滴り――
落ちた先、子鬼の骸が転がっている。
急ぎ鬼の住処へと駆けつけた冒険者であるが一歩及ばず、巨鳥の報せを受けたと思しき女童は子鬼を始末してのけ、すでに姿を晦ませた後であった。
くわっと見開かれた子鬼の眼を閉じさせると、ぼろぼろと泣きじゃくりながら苺が骸の下に手を差し入れた。
「せ、せめて埋葬してあげるのだ」
「手伝おう」
涼とセイロムもまた骸をもちあげた。そして住処から外に子鬼を運び出しつつ、身中で彼らは誓っている。
告げよう、哀しき鬼達のことを。
あれほど悲しい涙は見た事が無かった、と。
鬼達はやはり、気の良い鬼達であった、と。