忍び狩り
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月16日〜05月21日
リプレイ公開日:2007年05月24日
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●オープニング
江戸城陥落。
源徳家康は戦に敗れ、三河に落ち延びたという。
その報は江戸市民を震撼せしめた。それは冒険者にとっても同じことである。また冒険者ギルドにとっても。
何故なら、此度の戦において冒険者は伊達との敵対行動をとったからだ。伊達にとって、江戸市内における冒険者ギルドの存在は、まさに獅子身中の虫に等しい。
が――
冒険者ギルドの存在は許された。のみならず、何の咎めもなかったのである。少なくとも今のところは。
人々は政宗の心中を図りかねたが、その真実は明かされることなく数日が過ぎた。そして今――
冒険者ギルドに一人の娘が訪れた。どこか悲しげな眼をした娘である。
「‥‥盗賊を斃してくださりませ」
「盗賊?」
「はい」
手代の言葉に、娘がこくりと肯いた。
「親の仇でございます。何卒‥‥」
縋りつくような眼で娘が打ち明けた内容はこうだ。
四人の盗賊が娘の家に押し入り、家族を皆殺しにし、娘を凌辱して去っていったのだという。そしてつい最近、その内の一人を娘は見かけた。
「荒れ寺に入っていったのでございます」
泉空寺、と娘は寺の名を云った。
「盗賊と申しましても、賊は怪しげな術を使います。一人は炎、一人は稲妻、一人は地にもぐるとか。その他にも術を使うかも知れませぬが、私は知りませぬ」
「はあ」
知らぬといってはいるが、それだけ知っていれば十分だ。手代はやや不審な思いをだきつつも、問うた。
「それでは残る一人は?」
「頭目でございますが、この者の得意な術はわかりませぬ。ただ霧を使うとか」
「霧?」
手代は小首を傾げた。が、すぐに筆をとりあげると娘を見返した。
「四人の術を使う盗賊の退治でございますね」
「はい。憎い仇でございます。命を絶っていただきたく――」
こたえる娘の眼に、この時微かな光がゆらめいた。しかし、それは針の先のような光で手代が気づくことはなく‥‥
「お待ちを!」
手代が冒険者ギルドから飛び出してきた。依頼人の娘の名を聞き忘れたためだ。
手代はどこか不穏の気配を漂わせた通りを見渡した。が、たった今冒険者ギルドを出たはずの娘の姿が見えぬ。
「‥‥おかしいな」
手代が呟いた。
その呟きが聞こえるはずはないのに――
冒険者ギルドの向かいの家の屋根の上で含み笑う声がする。
誰か。
娘だ。いや――
違う。娘であったものの輪郭が霞むようにぼやけ、あとに精悍な若者の姿が現れた。
「‥‥これでよし。冒険者ならば、必ず仕置きしてくれよう」
屋根の上で身をかがめた若者の眼が、この時ぎらりと光った。
「才蔵め。江戸に火を放って無辜の民を焼き、のみならず魔性の者と組んでの度々の行い。‥‥幸村様の怒り、とくと思い知るがよい」
ひっそりと独語すると、若者はましらのように身を躍らせた。
●リプレイ本文
●
「術を操る賊か‥‥。厄介だな」
呟いたのは、岩を鑿で彫ったかのような表情の浪人だ。こ、恐い‥‥とギルドで働いている娘も思わず避けて通るが、そんなことには慣れているのか、浪人は顔色も変えない。
名を大蔵南洋(ec0244)といい、彼は続ける。
「だが、娘の訴えが真実ならば、奴等には相応の報いをくれてやらねばなるまい」
「そうですね」
去る娘の背を見送りつつ、飛麗華(eb2545)は苦笑をうかべた。
「でも、何か裏がありそうなんですけど」
「だよなぁ」
モードレッド・サージェイ(ea7310)が形の良い唇をゆがめた。彼のよくきく鼻は、この件の裏で蠢く危険の匂いを嗅ぎつけている。
「依頼人が名乗らねぇ依頼っていうのも、何か怪しいつーか、よ」
「確かに妙な話ではあるさね」
腕を組んだまま壁に背を預けていた渡部夕凪(ea9450)が口を開いた。ぬかりない彼女もまた、この依頼の異常性を嗅ぎ取っている。
その第一は依頼の娘だ。
手代から聞いたところでは、娘の態度はいやに冷静である。手篭めにされた娘が、手篭めにした相手のことを話すのだ。そこに動揺があって当然である。が、娘にはそれがない。
と、夕凪は眼を転じた。彼女の眼は、もはや旧友といえなくもない片桐惣助(ea6649)の眼にゆらぐ光を見とめている。
「惣助さん、何か云いたそうだねぇ」
「‥‥ええ」
躊躇い。しかし、惣助はすぐにそれを振り切った。
「霧、が気になるのですよ」
「霧?」
彫刻的な顔立ちの娘が小首を傾げた。限間時雨(ea1968)といい、華奢な身体に似合わぬ抜刀術の使い手である。
「霧がどうかした?」
「はい」
惣助が小さく頷いた。
手代に対し、娘は賊の頭目が霧を使うらしいと云ったという。が、何故、らしいなのか。
「頭目が術を使うのを見ていなかっただけではありませんか」
ルーフィン・ルクセンベール(eb5668)が、女性的ともいえる滑らかな頬に薄い笑みをよぎらせた。
何を考えているか、よくわからない――どこか謎めいたルーフィンの笑みに、ぴたりと惣助は視線をとめると吐息をついた。
「そうなのですが」
「霧隠才蔵、といえばいいじゃないですか」
「!」
はっとして冒険者達が視線をめぐらせた。その先、平山弥一郎が破顔している。
「ちょっと待ちな」
水上銀(eb7679)が弥一郎の前に立った。勝気そうな眼を彼の面上にすえて、
「もし何か知っているなら吐いてもらおう。その霧隠才蔵ってのは何モンなんだ?」
「真田十勇士、最強の一人ですよ」
弥一郎に代わって惣助がこたえた。
はじかれたように銀が振り向いた。
真田十勇士。噂だけなら聞いたことがある。が、何故真田十勇士が盗賊となっているのか。
その疑問を銀が口にすると、惣助は苦しそうにかぶりを振った。
彼自身、何故霧という言葉から霧隠才蔵を導きだしたかはわからない。ただ、予感がある。卓越した彼の忍びとしての予感が。
その時、夕凪がふふっと笑みをもらした。
そうかい。霧隠才蔵かい。――そう夕凪は思っている。
炎に稲妻、土を操る盗賊。その上頭目が霧使い。
当初、手代から依頼の内容を聞いた時、どこか胸の奥に棘のようなものが刺さる感触があった。それが何かわからなかったが、今はっきりと夕凪にはわかった。
が――
ここに一つ疑問がある。盗賊の正体が霧隠才蔵とその配下であるとして、ならばその霧隠一党を狙う娘は何者なのか。第一に考えられるのは、真田と敵対勢力である源徳の手の者であるが――。
「どうであろうな」
疑問の声をあげたのは南洋である。
「源徳の手の者にしては手がこみすぎている」
と――
すっくと時雨が立ち上がった。その眼には迷いの色はない。
「まあ、いいんじゃない」
時雨が云った。その手は慈しむように腰の備前長船にそえられている。
「相手がチンケなコソ泥だろうが手練れの忍者だろうが、斬るのがお仕事。胡散臭い術を使うっていうなら、私は変幻自在の夢想の刃で打って出るさ」
「そうだな」
モードレッドがニヤリとした。
「何がでるかわからねえが、そこは蓋を開けてのお楽しみってことにしとくか」
「退屈だけはしないですみそうだな」
銀が舌なめずりした。
人生とは、所詮は博打であると彼女は思っている。生か死か、丁か半か、ふたつにひとつ。命ぎりぎりの勝負がそこにはある。
賽の目が悪くても、待っているのは死だけだ。何を恐れることがあろう。楽しめばいい。
「なにはともあれ、彼らを逃がさないで退治しないといけませんね」
麗華が冷静に注意を促した。錯綜する事象は彼女の眼を曇らせない。
そして――
麗華の言葉に、冒険者達はぎらりと眼を光らせた。
敵が何者であれ、依頼は受けた。あとはただ、斃すのみ――。
●
泉空寺。
名のみで、今は本堂のみが残されている。周囲には石塀が築かれていたようだが、今は粗方崩れてしまっていた。
それを――
時雨と惣助は遠くから見遣っていた。本堂近くに罠がないか確かめられないのが残念だが、迂闊に近づくのは危険だ。惣助は何としても賊の頭目の顔を確かめたかったのだが、それもどうやら不可能のようであった。
ただ、彼らは見張りらしき者を見とめている。
隻腕の男が一人。身形は六部のものだが――違う。身ごなしが只者ではない。
その時雨と惣助の報告を、他の冒険者達は一町ほど離れた林の中で聞いていた。
傍に、彼らの馬はいない。馬蹄の響きを敵に聞かれぬ為――夕凪の忠告を受け、途中の木につないできたからだ。
「――そうですか。寺の周囲に視線を妨げるものはなかったのですね」
そう云いながら、相変わらず微笑しつつルーフィンは周囲を見回している。
彼の使うオークボウの最大射程はおよそ一町。となれば、攻撃箇所はこの近辺だ。できれば見通しの良い高所からの狙撃が望ましいのだが――
ルーフィンの笑みが深くなった。それは死神の微笑みのように、氷の冷たさをもっていた。
●
陽光に凶暴ともいえる光を反射しているのは鏃だ。
夕凪とルーフィン。ともに矢をつがえた二人の鋭い視線の先、二つの殺意の渦は接近しつつある。
すなわち、時雨、モードレッド、麗華、南洋の四人と隻腕の六部。
泉空寺近辺に身を隠すものがない為、四人の冒険者は表から堂々と乗り込むことにしたのだが――
「すまぬが、少し道をたずねたい」
南洋が口を開いた。すると六部は何気ない素振りで杖らしきものを持ち直した。
「道?」
「そうだ」
南洋が肯いた時だ。風を切る唸りが響いた。
矢だ。夕凪の放った一矢が六部の胸へと疾る。
「ぬっ!」
六部が数間の距離を飛燕のように飛び退った。地に降り立った時、六部の肩には深々と矢が突き刺さっている。夕凪の矢のあまりの剛さに、致命の一点をはずすのが渾身の業であったのだ。
次の瞬間、六部の口から化鳥のような絶叫が迸り出た。それは笛の音にも似て蒼空高く轟き――
「させない!」
モードレッドと南洋の背後に身を隠していた時雨が飛び出した。豹のように身を躍らせた時雨が一気に六部との間合いを詰める。
きらり。
一瞬、白光が閃いた。時雨の抜き打ちの一閃だ。
ほとんど反射的に六部が杖をかまえた。かっと音して、木片が飛び散る。六部の杖――仕込みが時雨の刃を受けとめたのだ。
が――時雨の剣圧に、六部の仕込がはじき飛ばされた。
そうと見てとり、さらに時雨が踏み込んだ。
「待って!」
麗華の制止の声が飛んだ。
慌てて足をとめた時雨は見た。本堂が霧に包まれつつあるのを。
いや、それだけではない。普通の霧でない証に、それは急速に、かつ確実にその領域を増しつつある。
「くっ」
夕凪が本堂に矢をむけた。
が、遅い。すでに霧の為に才蔵を射ることはできぬ。いや、霧がなかったとて、破れ戸の閉められた本堂の中に射線を通すことは難しい――。
その時、六部が飛んだ。その姿が霧に埋没する。
そうと知りつつ、しかし冒険者達は追うことはできなかった。霧中は敵の領域であるからだ。
「Mierda!」
樹上のルーフィンの口から罵りの言葉が吐かれた。
今や本堂は銀灰色の霧に覆われ、見通すことは困難だ。いくら達人級の彼の技量をもってしても、見えぬ敵を射抜くことは不可能である。
「これほど早く霧を使ってくるとは思いませんでしたねぇ」
ルーフィンが苦く笑った。
それは惣助と銀も同じ。本堂の裏に潜み、機をはかっていた彼らであったが、突如わきだした霧の為に身動きできなくなっている。
――これでは才蔵を奇襲することはできない。
きりりと歯を軋らせる銀の顔も、すでに霧の為にけぶっている。
「このままじゃ拙い。霧から出るぞ」
「わかりました」
白茶けた顔色で、小さく惣助が頷いた。
●
惣助と銀が後退を始めるより少し前、時雨、モードレッド、麗華、南洋の四人はすでに霧の領域から逃れるべく後退をすませていた。
「敵は――敵が見えるか?」
南洋が叫んだ。
「見えない!」
とは、夕凪の応えだ。彼女の猛禽にも似た視力をもってしても敵の姿を捉えることはできない。
「うん?」
その時、夕凪は恐るべきことに気がついた。
霧が――霧の領域が増しつつある。もしかすると才蔵は移動しつつ術を発動させているのかもしれない。
「気をつけるんだ! 才蔵が動いているよ!」
夕凪が叫んだ。刹那――
時雨、モードレッド、麗華、南洋の四人はぴたりと足をとめた。
彼らは感得している。霧の彼方から熱風の如き凄絶の殺気が吹きつけてくるのを。
とんでもない手練れがいる。そこに――
麗華がオーラを身にまとわせた。
意識的ではない。それは武道家としての彼女の本能がなさしめた行動だ。
もう一人――
モードレッドの背を、つつうと冷たい汗が流れた。
恐怖。彼の感じているものは、それである。
が、モードレッドは笑っている。嬉しくてたまらぬかのように。
と――
突如、問う声がした。
「うぬら、何者だ?」
「冒険者だよ。お前ら盗賊を退治しにきた!」
「冒険者? 盗賊?」
時雨のこたえに、声が不審げに揺れた。同時に気配が遠ざかっていく。
「待てよ!」
モードレッドが呼びとめた。
「ちっとばかし、俺の“祈り”に付き合っちゃくれねえか? お前らの断末魔が、天上におわす神まで届くように。‥‥イイ声で啼いてもらうぜ!」
叫びざま、祈りを捧げるように掲げていたクルスソードをモードレッドが薙ぎ払った。瞬間、刃から不可視の衝撃波が迸り出て空を裂く。
「ちっ」
モードレッドが舌打ちした。
ソードボンバーに手ごたえはない。ということは、敵は効果範囲である一間半より遠くに逃れ去ったということだ。
刹那、四つの気配が四方向に同時に動いた。
●
一つ――
「邪に堕ちた非道の数々をしる者としても、我が主御影に連なる者としても逃すつもりはありません」
惣助が叫んだ。
その刹那だ。惣助と銀の眼前、一つの影が躍りあがっている。
迅い。のみならず、その影は女と見まがうばかりに美しい。
「ほっ」
銀の口から溜息がもれた。影のあまりの躍動美に、彼女は一瞬見惚れてしまったのだ。
が、銀の狼狽とは別に、素早く横に飛んだ彼女がふるう小太刀のみは、まるで別種の生き物であるかのように影にむかって薙ぎあげられている。
戛然!
澄んだ音を響かせて、両の刃が噛みあった。銀の陸奥宝寿と影の忍者刀が。
影はそのまま惣助と、彼の召喚した大蝦蟇の頭上を飛び越え――
「おのれ!」
惣助が施呪し、己の脚力を増大させた。そして尋常でない迅さで疾り去る影を追走しようとする。が――
すぐに惣助は追跡を断念した。
疾走の術を用いることができるのは自分一人。もし追いつけたとしても敵が霧隠才蔵であった場合、一対一の戦いでは勝ち目がないからだ。
ぎりっと唇を噛み締めた惣助の眼前、見る間に影は小さくなっていく――。
一つ――
四人の冒険者達の足元で火球が炸裂した。そして、それを追うように影が霧から飛び出してくる。
咄嗟に火の粉を飛んで避けた冒険者のうち、麗華が地を蹴った。かすめただけで火ぶくれのできそうな一撃を影に叩き込む。
それを影はかわしてのけた。いや――正確には完全にかわしたわけではなく、麗華の攻撃の余波により地に片膝ついている。
はっと見上げた影の眼前、するすると立ちはだかるのは――
「穢らしい盗賊ども。襲われた商家の者達の恨みを知るがよい!」
南洋の渾身の一撃は、袈裟に影を斬り下げた。
一つ――
はじかれたように時雨とモードレッドが殺到する。その眼前、馳せる影は隻腕の六部だ。
「ちぃぃ!」
モードレッドの口から苛立ちの声がもれた。
六部との距離がありすぎる。このままでは追いつけない。
と――
突然、六部がよろけた。その胸を真っ直ぐに貫いているのは一本の矢。ルーフィンの矢だ。さらに飛来したもう一矢が六部の背に突き立ち――
が、断末魔の六部の指は迫る時雨にむけられている。
次の瞬間、六部の指先から紫電が放たれた。稲妻のようにのたくるそれは、一直線に時雨に疾り――
時雨の前に立ちはだかったモードレッドの身に吸い込まれた。
「俺にかまうな。やれ!」
ぶすぶすと衣服から煙をあげながらモードレッドが叫んだ。
その叱咤を受け、時雨の腰から白光が噴いた。流れる光は空に亀裂を走らせ――六部の首を刎ねた。
一つ――
銀が鳴いた。夕凪の鷹だ。
はっとして夕凪は視線をめぐらせた。まだ見ぬ四人目の敵を追って。
と――
影が地に没入するのが見えた。夕凪が狙撃の体勢をとる。
が、矢は放たれることなく――夕凪の眼前、すでに影は地に消失していた。
●
「どうだった?」
問う南洋に、本堂の前に戻ってきた惣助が項垂れた。
「取り逃がしました」
こたえ、惣助が地に倒れた二つの骸に視線を落とした。冒険者達が斃した賊の二人だ。
「‥‥やはり」
夕凪が呟いた。
彼女は、彼女のみはその骸の顔を見知っている。かつて東叡山寛永寺を焼き、江戸を大火に巻き込んだ彼ら二人と夕凪は対峙したことがあったのだ。
「‥‥才蔵は逃したが」
しかし夕凪の胸は、どこか晴れやかだ。蒼空の彼方、炎にまかれて命をおとした幾多の人々の微笑みが夕凪には見えている。
その事実を知らされたモードレッドが、胸の前で十字を切った。
「仇はとった。安らかに眠れ」
●
疾る風に雲が流れた。降る蒼い月光に一つの影が浮かび上がる。
霧隠才蔵だ。
今、その美麗な面には陰鬱な翳がおちている。
雷電と紅蓮。二人の霧隠衆が冒険者に討ち取られてしまった為だ。
何故か――
才蔵は見抜いている。全てを仕組んだ、陰で糸を操った者の正体を。
「おのれ、幸村」
才蔵の眼がぎらりと怒りに燃え上がった。
「もはや、ここまで。これからは俺のやりたいように、やる」
軋るようにもらされた言葉は、呪詛の如く闇に響いた。
それは一匹の魔獣が野に放たれた瞬間であった。