【華の乱】牛若丸
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:06月16日〜06月21日
リプレイ公開日:2007年06月30日
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●オープニング
城から見下ろす町は黄金色に染まっていた。
黄昏。
見つめる若者の面は花のように秀麗だ。が、その眼は昏い。
そのことに気づき、隻眼の男は眉をひそめた。
「どうかしたか?」
「いや」
若者はかぶりを振った。
が、その胸にある鬱屈をかかえていることは透けて見えた。隻眼の男の口辺に太い笑みがうく。
「そのようには見えないがな」
云って、隻眼の男もまた若者にならって町を見下ろした。
それは隻眼の男にとって夢見た町だ。いや、夢の足がかりといったほうがよいか。
それをようやく手にいれた。おいそれと手放すつもりはない。
が――
その為には、何としても若者の力を借りねばならなかった。だから若者のすべてを把握しておくことが不可欠なのだ。
隻眼の男の眼が動いた。町から若者に視線を転じる。その眼に刃の如き光が閃いた。
「何か、迷いがあるのか」
「いえ、そのようなことは‥‥」
若者がこたえた。しかし、すぐに、
「ただ江戸の民を見ていて思うのです。私はこれで良かったのか、と。また私に何ができるのか、と」
「ふむ」
隻眼の男の眼の光が強まった。
若者が時々城を抜け出していることは承知している。仮にも源氏嫡流。あまりがんじがらめにしてもどうかと思い知らぬ振りをしてきたが、どうも江戸の民の現状に憂いをもち、己の立場に迷いが生じてきたようだ。
隻眼の男は、ふと危惧を抱いた。
その日、ふらりと冒険者ギルドを訪れた者があった。
若者だ。女のように、いや女以上に美しい。
その若者を、ギルドの手代は良く知っていた。一度見たら忘れられない顔であったからだ。
「鬼一法眼様」
手代が声をあげた。その頬は彼自身気づかぬうちに赤らんでいる。
「依頼でございますか」
「ああ」
若者――鬼一法眼は肯いた。その頬には、菩薩像に見られるあるかなしかの微笑がたゆたっている。
「弟子に会おうと思っている」
「お弟子様に?」
「ああ。俺が奥州をうろついていた際に出会った。奴がもっと年若い頃であったがな。剣を教えたのだが――その奴が、最近江戸に出てきたらしい」
「それでお会いになると?」
手代は小首を傾げた。弟子に会うのに、わざわざ冒険者ギルドを訪れるとはいかなることであろう。
その疑問を手代が口にすると、鬼一法眼は微笑を深くした。
「奴は夜に江戸の町をうろついているようなのだが‥‥会わぬうち、奴にはずいぶんと取り巻きが多くなった。会おうとすると、きっと取り巻きが邪魔をするだろう。そこでだ、冒険者に取り巻きをおさえてもらいたい」
「冒険者に取り巻きをおさえさせる‥‥」
釈然としないながらも、手代は筆をとりあげた。
「承知しました」
と答え、依頼書に筆をはしらせながら、手代は考える。
奥州からの来訪者。取り巻きのつく鬼一法眼の弟子とは、そも何者か。
その疑念に魂をとらわれ、手代が気づいた時、鬼一法眼はすでに背を返している。彼の目の前には、これも何時の間におかれたものか金子が――
遠くなる鬼一法眼の姿は、まるで舞い降りた花の精のように華やかだ。が、その白麗の背を見送りつつ、何故か手代は胸が騒ぐのを覚えた。
●リプレイ本文
●
昨夜から振り続けた雨も今朝方止み、空気は洗われたように清々しかった。
そして、その雨に散り舞った花が凝ったような白麗の影が一つ。
「また会ったな、鬼一法眼殿」
「九竜鋼斗(ea2127)といったか」
鬼一法眼の問いに、鋼斗が肯いた。
「ああ。覚えていてくれたか」
「覚えている。お前の夢想流は面白いからな」
「ほお」
鋼斗の眼に好奇の色が動いた。が、鋼斗は己の興趣を無理やり抑え込み、当初問うべきであった話題を口にした。
「あの時の童、覚えているか? あの後、俺はもう一度童に会った。自分の身の危険を顧みず、俺たちを、江戸を助けようとしてくれたよ」
「ほお」
鬼一法眼の白磁の頬に、微かな笑みがよぎった。
鋼斗のいう童の正体は座敷童子であった。その大自然の精霊が危険をおかしてまで人間を救おうとする。それは本来有り得ぬはずの出来事であった。
「奴は、よほどお前達のことが気にいったとみえるな」
楽しくてたまらぬといった口調で鬼一法眼が呟いた。
その鬼一法眼を眺めつつ、感心しきりの様子は日向大輝(ea3597)である。
「どうしました、大輝さん」
柔らかな微笑とともに問いかけたのは、まるで少女かと見紛うばかりに可憐な風貌の浪人。名を瀬戸喪(ea0443)という。
大輝は勝気で真っ直ぐな瞳を転じると、腕を組んでふうむと唸った。
「鬼一法眼、噂に違わぬすごい人だなと思ってさ」
「すごい人?」
「ああ。だってそうだろ。昔稽古をつけた弟子が取り巻きをつけないと出歩けない位の大大出世をしたんだぜ。剣や兵法だけでなく、人を見る目もばっちりってわけだ」
「確かにそうだな」
声がした。
はっとして振り向けた喪と大輝の視線の先、その男はいた。
夜が人の姿をとって現れたような――しんと冷えた気をまといつかせた男だ。風斬乱(ea7394)といい、浪人である。
「鬼一法眼。噂通りの‥‥いや、噂以上の使い手だ」
乱の黒曜石にも似た瞳がきらりと輝いた。
彼の眼は、すべてを見通す。乱の常人を遥かに凌駕する剣技を成り立たせているのは、いわばその眼にあるといっていい。生と死の狭間を見切って、乱は剣をふるうのである。
その乱をして、鬼一法眼の底はしれなかった。全く隙が見当たらない。
「だろう」
大輝は真一文字に唇を引き結んだ。
あの鬼一法眼に、自分はどのように見えているのだろうかと大輝は思う。
強くなりたい。その一念を抱いて、大輝はひたすら駆けてきた。
が、ふと立ち止まった時に思うのだ。自分はどれほど遠く、そして高くゆけるのかと。
昇るべき雲を求め、蒼空を翔ける竜――云わば、それが大輝であったのだ。
「その弟子のことだが」
大輝の夢想を断ち切るかのように、ふっと口を開いた者がいる。
こちらも浪人だ。が、女である。胸元を押す二つの膨らみを見るまでもなく。
印象としては乱に近いものがある。即ち夜の属性。――考え込みつつ、霧島小夜(ea8703)は続けた。
「弟子に会う為だけに依頼をか。‥‥言葉だけ聞けば、ひどく大げさだな」
「人目を忍んでの夜歩きだからな」
獣を思わせる、しなやかな肢体の若者が呟いた。
双海一刃(ea3947)。八人の冒険者中、唯一の忍びである彼は影のように漆黒の瞳をあげた。
「順当に考えれば昼間見回れない人間なんだろうが、な」
あまり表情が動かぬ一刃には珍しく、彼は皮肉めいた笑みを口の端に刻んだ。
一刃は後ろを振り向かない。闇の道程で全てを捨ててきたのだ。その彼が、過去との邂逅を手助けする。その皮肉な巡り合わせを彼は嘲笑ったのであった。
「となれば厄介だ」
木賊真崎(ea3988)が云った。
怜悧な――いや怜悧すぎる彼は見抜いている。今、江戸において日中出歩く自由を良しとされぬ人物とは誰か。すでに源徳なく、残るは奥州の者のみ。その奥州の者で思い当たるとなると、真崎は二人しか知らぬ。
あまりものに動ぜぬはずの真崎の顔色が変わったのだろう。そのことに気づいたのは、真崎とは馴染みの御影涼(ea0352)である。
「気づいたようだな」
「御影もか」
「ああ」
涼が肯いた。
「推測がもし当たっているとなると、下手をすると俺達は江戸城主に喧嘩を売ることになりかねない」
「それは楽しみだな」
小夜の笑みがさらに深くなった。しかし真崎は肩を竦めてみせたのみだ。
その時、するりと陰から人影が忍び出た。葉隠紫辰である。
「その弟子とやらのこと、俺が探ってみよう」
「良いのか」
「双海殿‥‥否、一刃」
紫辰は一刃に良く光る碧の瞳をむけた。
「俺もその弟子とやらを見てみたいが、おそらくできるのはそこまでだろう。事の始末はまかせる」
「拙者も」
続いて歩みだしたのは異形の忍び――河童の鳴滝風流斎であった。彼は続けて、
「必ずや目撃した者がいるはずでござる。夜中にも行動する者達が。その者達に片端から当たれば、もしやすると情報を得られるかも知れないでござる」
「大人数で出歩いたんじゃ目立つだろうからな」
ニッと大輝が笑った。
「大輝さん、すごいですね」
喪が表情を輝かせ、 大輝の手をとった。
「あっ、ごめんなさい」
頬を赤らめて、慌てて喪は手をはなした。手を握ったこと――それは喪の無意識的行動であったろう。が、年下の男の子も良いかも、と思ったことは事実である。
当の大輝はきょっとんとして――
喪の不可解な行動より、大輝はむしろ己のもらした言葉に注意を吸い寄せられている。
「もしかしたら、船とか使ってるのかもな」
「船?」
真崎の眼がかっと見開かれた。
●
情報を求め、江戸各地に散った冒険者のうち、真崎はふらりと外濠を歩いていた。
大輝の船という発想から、もしや鬼一法眼の弟子は襲撃を防ぎ易い川沿いを選んでいるかもしれないと思い至っての道行きであるが――。
当たりだ。微風にそよぐ柳葉に触れていた真崎の眼がきらりと光った。
●
黄昏。
降り染みる光は黄金の色をおびている。
その光をあびて、凛とした美しい娘は厳しい口調で告げた。
「だめだ、涼兄」
「そうか」
さすがに落胆した表情で、涼は鉄笛をおろした。
その様が可笑しいと、彼の妹――御影祐衣は思わず微笑をもらした。御影一族の若き当主である兄は出来物である。尊敬し、なおかつ好きでたまらぬそんな兄の消沈している様など、そう簡単に見ることはできないだろう。
「では、あらためて最初から」
「わかった」
力強く肯くと、涼は再び笛をとりあげた。
その時、彼の脳裏をちらりと別の思考がよぎった。
涼は鬼一法眼なる者の噂を聞いている。もしその噂通りの人物ならば、一人で弟子と邂逅する程度のことはやってのけるだろう。それなのに冒険者に依頼を出した。そこに何か理由がありはしないだろうか。
――わざと俺達と会わせようとしている?
「なかなか大変ですねえ」
鳴り止まぬ笛の音を耳に、喪はころころと笑った。
舞に関しては彼もかなりの域にある。同じ芸事だ。一朝一夕にゆかぬ難しさは理解できる。
ふっと優しげに口元を綻ばせ、ヨシュア・グリッペンベルグは冒険者を見渡した。
すでに真崎から鬼一法眼の弟子が常盤橋に現れたという情報を得ている。後少しの情報があればバーニングマップを施呪することができる。
「他の情報は?」
「俺は一石橋辺りを探ったんだが」
口を開いたのは大輝だ。
「どうやら、その弟子ってのは呉服橋に現れたらしいぞ」
「呉服橋?」
真崎が眼を眇めた。
日を確認したところ、常盤橋の次に弟子は呉服橋に現れている。順当ならば次は鍛冶橋辺りだが、其処より下るとすれば八見橋――一石橋の異名である――か日本橋‥‥
「何れにせよ、江戸城からの道筋に沿い動いているようだな」
「だめだ」
小夜がかぶりを振った。
「次の出現場所を特定しなければ、私達は何手かに分かれなければならなくなってしまう」
「それは拙いな」
乱が呟き、一刃と刃の如き視線を交し合った。
彼ら二人は、共に取り巻きの人数が十五人前後と探り出している。それは紫辰と風流斎の調べにもあって――
「何手にも分かれてしまえば、取り巻きを抑えきれなくなるかもしれない」
腕を組み、一刃はぼそりともらした。が、ヨシュアに動じた風はない。
「では」
複雑な印形を指で組み始めた火の魔術師の身体から、その時血の色に似た光が噴き零れ始めた。
●
亥の刻。
鍛冶橋付近の川岸に一艘の船が着いた。乗っているのは十数名の侍だ。
と――
突然、岸にあがった侍集団のうち、一人が足をとめた。水干をまとった、他の侍達とは異風の若者である。笠から覗く横顔は夜目にも花のように美しい。
「どうかされましたか?」
「静かに」
問う侍を黙らせ、若者は柳眉をひそめた。
聞こえる。笛の音が。これはどこかで‥‥
はじかれたように若者は走り出した。その後を慌てて侍達が追う。
「あっ」
見えぬ壁にぶつかったかのように若者は足をとめた。眼前、鍛冶橋の上に人影が見える。
その者は、羽で織られたかのような薄絹の単衣を被っていた。為に顔は見えない。そして、笛がその手に――どうやら笛を奏でているのはその者であるらしい。
柳花苑。
その者が奏でている曲を若者は知っていた。そして、かつてその曲を彼に聞かせてくれた者を――
「あ、あなたは‥‥」
頑是無い子供のように手を差し伸ばした若者の前に、その時わらわらと侍達が立ちはだかった。
「何者だ? 怪しい奴、被り物をとれ!」
侍の一人が叫んだ。すると無言のまま、笛手は単衣をはずした。
「一つ目の白き鬼が、月夜に陽をみたくなった‥‥といえばわかるだろうか」
「一つ目の白き鬼‥‥」
呟いた若者がはっと顔をあげた。
彼の耳には一つの声が届いている。俺はここだ、という声が。それはとても懐かしい‥‥
若者が侍を押しのけた。
「そなた‥‥まさか、あの方の遣いか」
「然り」
笛手――涼が肯いた。
その背後には、いつの間に現れたか声の主――一刃が立っている。
誰が知ろう、声を真似たのが彼であることに。
声色。千変万化の隠密戦闘に長けた一刃には容易い業であったのだ。
さらにもう一人――
真崎が進み出た。
「さる御方に頼まれました。此度の縁、繋ぐ気はあられますか」
「あ、ある」
若者が喘ぐように云った。
「ど、どこにあの方はおられるのだ?」
「俺はここだ」
声がした。
鍛冶橋の中程。そこに月の光にぼうと浮かび上がる白影があった。
「牛若――。いや、今は義経と呼んだ方がよいか」
「ほ、法眼様!」
若者――源義経がまろぶように駆け出そうとした。が、再び侍達が若者の行く手を阻んだ。
「なりませぬ。軽々しく正体も知れぬ者と話をなされるなど」
「馬鹿な!」
愕然として義経は叫んだ。
「法眼様は私の剣の師だ!」
「されど、この者達は――」
「私達は冒険者だ」
闇を抜けるように小夜が現れた。
「鬼一法眼に弟子との邂逅の手助けをするよう頼まれた。他意はない」
「な、何を――」
侍達は呻いた。
冒険者の事は伊達兵である彼らも知っている。江戸城攻略の際、どれほど苦しまされたことか。君主である政宗からお構いなしとの沙汰がおりているが、しかし実際に刃を交わした伊達兵達にとってみれば冒険者は敵と同義であった。
一斉に伊達兵達が抜刀した。が――
伊達兵達の荒ぶる殺気が一瞬にして静まった。吹きつける一点の氷の如き殺気によって。――乱だ。
「どうしてもというのなら手荒くゆくぞ」
「悪いが、大人しくしていてくれないか」
鋼斗もまた刀の柄に手をかけた。夢想流抜刀術は、すでに刀の柄に手をかけた瞬間から修羅風の圏内だ。
それだけで、ざざっと伊達兵達が後退った。それほど圧倒的な鋼斗と乱の殺気であった。
その時――
修羅の場にそぐわない、快濶な一人の少年が進み出た。
「騒ぎを起こしちゃ拙いんじゃないのか」
「!」
少年――大輝の言葉に、伊達兵達の殺気が揺れた。
確かにそうだ。義経の見回りはあくまで隠密裏に行われねばならない。もし刃傷沙汰でもおかそうものなら、彼らの切腹は必至だろう。
その伊達兵達の動揺を見てとって、喪が口を開いた。
「鬼一法眼さんは義経さんとただ話がしたいだけ。許してはいただけませんか?」
「どうしてもいうのなら二、三人一緒に来てもらっていいからさ」
「そ、それは――」
大輝の言葉に、ようやく伊達兵達は刃をおろした。
●
「久しぶりだな、義経」
「法眼様!」
義経は子供のように顔を輝かせた。が、すぐさまその表情が曇る。
「お会いしとうございました。お会いし、御教授いただきたいことがあるのです」
そして義経は吐露する。源氏嫡流として、この先どうあるべきかという懸念を。
が、鬼一法眼は答えない。薄く微笑を口辺に浮かべたまま、じっと義経を見つめているのみだ。
その鬼一法眼に代わり、答えたのは小夜である。
「何をするにしても、自分がすべきと断じたものが最善だろう。己に逆らう由はないさ」
「自分がすべき‥‥」
義経が唇を噛んだ。
「しかし私にはわからないのだ。自分が何を成すべきか」
「迷い留まる暇などありますまい」
真崎が云った。それは叱咤にも似た一言で。
実は、彼は以前に陸奥の守――藤原秀衡との密約時に口を添えた経緯がある。今の江戸を見るに、彼は否応無く己の責を感じないではいられなかったのだ。だから――
「すでに石は投げられた。ならば広がる波紋の先を見極め、其の流れを正すのは石を投げた者の務めではありますまいか」
「しかし――」
「それで良いのさ」
ようやく鬼一法眼が口を開いた。
「俺は安堵したぞ。お前が迷うことのできる利口者に成長できたことを知ってな。が――」
鬼一法眼がふっと笑った。
「お前の世界はあまりにも狭い。お前が知るのは奥州のみの世界であろう。それでは足りぬのだ。もっと色々なものを見なければならぬ」
「見る‥‥」
眼を伏せ、義経が呪文を詠唱するかのように繰り返した。その耳に、まずは江戸を良く見ることだと言葉を発したのは涼だ。
「江戸を見るなら夜でなく昼に見るといい。動かぬ眠った“町”を見るより生きた“人”の動きや声を見て己が考えを見極めるんだな」
「あっ」
愕然とした義経が眼をあげた。が、彼の視界の中、すでに鬼一法眼の姿はない。
その時、義経は翻然と師の本心を悟った。何故鬼一法眼が冒険者に依頼を出し邂逅を遂げようとしたのかを。
鬼一法眼は――師は義経と冒険者を会わせようとしたのではなかったか。
と、立ち去りかけた冒険者の内、大輝のみが足をとめ、振り返った。
「一つ聞きたいことがある。江戸の街は気に入ったか?」
「まだわからぬ」
義経は正直にこたえた。
「しかし、だからこそもっと良く見るつもりだ。江戸の町を。そして――」
お前達、冒険者を。答えを見出す為に。
遠くなる冒険者の背を見送りつつ、義経は密かに思っていた。
こうして――
義経と冒険者が初めて相見えた夜は終わりを告げたのであった。