【駿河】白隠抹殺計画
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■ショートシナリオ
担当:御言雪乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:8人
サポート参加人数:11人
冒険期間:12月04日〜12月11日
リプレイ公開日:2007年12月13日
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●オープニング
冒険者ギルドの手代は、先ほどからずっとギルド内を覗き込んでいる少年がいることに気がついた。
年の頃なら十二、三。薄汚れた少年だ。浮浪の子供かもしれない。
が、手代は妙にその少年の事が気になった。
何故、と問われてもわからない。強いていうなら、少年の眼の光とでもいってところか。子供とは思えぬほどの真剣な眼をしている。
手代は立ち上がると少年に歩み寄っていった。
「何か用かい?」
手代が問うた。すると少年は一瞬びくりと身を竦め、しかしすぐに顔をあげると、
「冒険者ぎるどに依頼を出しにきたんだ」
「ぎるどに依頼?」
「うん。村の者は嘘吐きだって、誰も俺のいうことを信じてくれないんだ。だから頼みにきたんだ」
「そう。で、お前の名は何ていうんだい?」
「太吉」
「太吉か。で、どこから来たの?」
「駿河」
「す、駿河!?」
手代は眼をむいた。
駿河といえば北条早雲が治めている国で、江戸からだと大人の足でも三日はかかる。そこを、この少年は歩いてきたというのだろうか。
そう思って見てみれば、確かに頷けるところはある。足は泥だらけで、おまけに爪もはがれかけているようだ。
そうまでして頼みたい依頼とはいったい何なのだろう。
興味をかきたてられて手代は問うた。
「それで依頼の内容というのは何なんだい?」
「白隠さんを守ってほしいんだ」
「白隠さん?」
問い返し、すぐにあっと手代は声をあげた。
駿河で白隠といえばあの人物しかいない。今まで幾度なく冒険者にかかわったことのある原の白隠だ。
しかし、その有名な白隠を守れとはどういうことなのだろう。
そのことを問うと、太吉は聞いたと答えた。
「村はずれの荒れ小屋の中で寝てたんだ。そうしたら話し声が聞こえてきて」
「話し声?」
「うん。白隠さんを殺すっていってた」
「殺す‥‥。で、話していた人を見た?」
「うん。金色の髪をした異人さんだった」
「異人?」
手代は首を傾げた。異人が白隠を狙うとはどういうことなのだろう。
「で、もう一人は?」
「いない」
「いない?」
とは、どういうことなのだろう。その異人は独語していたとでもいうのだろうか。
ともかく、この少年のいうことが真実とするなら事は重大である。手代は少年をギルド内に招じ入れた。
「依頼を出すから」
「いいの? おいら、お金もってないんだ?」
「心配いらないよ。冒険者によっては金なんかに目もくれない変わった‥‥いや、奇特な人もいるから」
「でも‥‥冒険者、おいらのいうことを信じてくれるかなあ」
「信じるよ」
声がした。はっと振り向いた太吉は、そこに彼と同じ年頃の少年の姿を見出した。
「お前、誰?」
「俺、雄太。冒険者見習いなんだ」
「冒険者見習い?」
「うん。お師匠様は鬼一法眼様なんだぜ。それから――」
雄太は八人の冒険者の名を告げた。
「皆、すごい人達なんだ」
「そんなにすごいのか?」
「うん。だって村一つ救っちゃうんだぜ」
「へー」
感心する太吉に微笑を送りつつ、手代は帳面に筆をはしらせた。
●リプレイ本文
●絵札
雄太の顔が輝いた。駿河へむけての出立の日、冒険者の中に天乃雷慎と小野麻鳥の姿を見出した故である。
「久しぶりだね」
雷慎が微笑みかけた。うん、と雄太は頷き、傍らの太吉の手をぐいと引っ張った。
「この人達だよ」
「この人達? 誰?」
小首を傾げる太吉に、雄太はぷっと頬を膨らませ、
「云っただろ。すげー人達なんだぜ」
「ふーん」
太吉がじろじろと雷慎と麻鳥を眺め回した。そして再び小首を傾げると、
「そんなに強そうには見えないけどなー」
「馬鹿。何、云ってんだ!」
雄太がぽかりと太吉の頭を小突いた。
「すげー人、ですか」
声がした。振り向いた雷慎は声の主の正体を見とめ、泣き笑いのような表情を浮かべた。
「雷慎さん」
声の主――観空小夜(ea6201)は雷慎の肩にそっと手をおいた。
「雷慎さんの頼みで江戸までやって参りましたが‥‥雄太さんの事、どうやら雷慎さんの杞憂であったようですね。雷慎さんの想いは、確かに雄太さんの胸に届いているようですよ」
「そういうことですか」
蛟静吾が小さく頷いた。京にいるはずの空長を江戸で見かけて最初は驚いたものだが、事情を聞けばなるほど、空長らしい。もののついでとばかりに、静吾は小夜に耳打ちした。内容は彼がかかわった富士樹海での一件だ。
「駿河って、初めてで内情詳しくないんだけど、なかなかに大変なところみたいだね」
静吾の声が聞こえたわけではあるまいが――どかりと冒険者ギルドの上がり框に腰をおろした者がいる。僧兵の大泰司慈海(ec3613)だ。
すると渡部夕凪(ea9450)が組んでいた腕を解き、瞑目していた眼を開けた。
「駿河を捨て置けぬ誰ぞが、やはり何処ぞに居るらしいねえ‥」
「駿河を捨て置けぬ誰ぞ?」
夕凪の言葉を聞きとがめ、シターレ・オレアリス(eb3933)が疑念に眼を眇めた。
「何か思い当たる事でもあるのか?」
「ありすぎて、かえってわからないくらいさ」
「ありすぎるか‥‥。難儀な話じゃのぅ」
シターレが溜息を零した。これでは白隠を狙う者の特定は無理だ。
「裏で何が蠢いておるのかのぅ」
「わからないが」
夕凪の眼が凄絶にぎらりと光った。
「何が蠢いていようと、禅師殿には一方ならぬ恩がある。髪の毛一筋たりと妙な奴等に渡す訳にゃいきやしないさね。‥瑚月、私の分も務めは頼んだよ」
「貴女の恩人ならば俺にも同様です。捨て置く筈も無いでしょう?」
ふっ、と。気配がわいた。
まるで、影。無音なる男―答えたのは、静かなる男だ。
城山瑚月(eb3736)。忍びである。
その時――
他の冒険者には聞こえぬように、ひっそりと呟きをもらした者がいる。
カーラ・オレアリス(eb4802)。信康を出奔させた事により、源徳家から手配を受けている僧侶だ。
「禅師が命を狙われるとは、只事ではなさそうね」
「何か、心当たりがあるのですか?」
問う声に、はっとカーラが振り返る。そこに、菩薩像のような笑みを浮かべている男が立っていた。
「平山弥一郎(eb3534)といいます。片桐惣助から話は聞いていますよ」
「ああ、惣助さんの」
カーラは頷いた。惣助はカーラにとって仲間ともいえる存在である。
「この間の上杉謙信との会談が何か関係しているのかも、と思ったのです」
「ふむ」
弥一郎が首を傾げた。上杉謙信ほどの大物との会談は、確かに命を狙われる理由としては十分だが‥‥
「太吉さん」
弥一郎が太吉を呼んだ。
「姿の見えぬ相手の声は聞いたのですか」
「ううん‥‥うん」
太吉は曖昧に答えた。
「すぐに異人さんはわけのわかんない言葉を使ったんだ。そうしたら、別のわけのわかんない言葉が聞こえてきたよ」
「別の!?」
弥一郎の顔から笑みが消えた。
太吉のいうわけのわからない言葉は異国の言語であろう。しかし、別の異国の言語を操るモノとは何か。
「では最後に。その異人はどのような服装をしていましたか」
「黒い服を着てたよ。見た事のないもの格好の」
答え、ふっと太吉は不安そうに眼を伏せた。
「あの‥‥おいらの話、信じてくれる?」
「信じますよ」
小夜がニコリと微笑んだ。それにつられるように、太吉の眼から涙が溢れ出した。
「どうして泣くのです?」
小夜が問うた。すると太吉はぐいと手で涙を拭うと、
「おいら、ずっと前に嘘ついたんだ。おっかあの形見をなくしたって。そうしたら白隠さん、日が暮れてもずっと探してくれて‥‥だ、だから、おいら白隠さんに――」
後は言葉にならない。抱きしめた小夜の眼に、この時決然たる光がやどった。
「やっぱ信じてくれただろ」
突然雄太が割り込んできた。そして木剣をかざすと、
「悪い奴を斃すぞー!」
「ならぬ」
木剣をぎゅっと握り締めた者がいる。麻鳥だ。
「まだ木剣を振り回すのは早い。お前はまず観なければならぬ」
「み‥‥る?」
「そうだ。冒険者の動きを観るのだ。眼ではなく、心でな」
「心、で?」
雄太は戸惑ったような表情をした。麻鳥の言葉の意味が良くわからないのだ。
「まあ、いい」
雄太の髪をくしゃりと撫でた者がいる。
鳳翼狼。混血の武道家は、雄太の眼を真っ直ぐに見つめた。
「ついて行くのは良い。ただし、約束しろ。勝手な行動はしないと」
「わかった」
こくり、と。雄太が大きく頷いた。
それを待っていたかのように、鷹司龍嗣が一枚の札を手にとった。彼は先ほどから神秘のタロットで占いを行っていたのだが、今、その結果が出たようである。
「白隠禅師を狙う敵のことを占ってみた」
云って、龍嗣が一枚の札をおいた。そこに描かれているのは――
悪魔を意味する絵柄であった。
●剣鬼
焚き火の炎が闇を焦がすように揺れている。
傍には簡易テント。子供達の為と瑚月が用意したものだ。中では慈海のものである毛皮の敷物にくるまった太吉と雄太が眠っている。
「何か太吉さんから訊き出せましたか」
欠伸を噛み殺し、問うたのはまるで少女にしか見えない若者――桐乃森心(eb3897)だ。
「いいや」
慈海はかぶりを振った。太吉や雄太の相手をしながら話を聞いてみたのだが、弥一郎が聞き出した情報以上のものは得られなかった。
「そう」
頷いて振り向けた心の視線の先、一人の男が腕を組んで樹にもたれている。
「まだ寝ないのですか」
「忍者小僧‥‥気づいていたか」
一筋の長い銀糸を如き髪を揺らし、男――室斐鷹蔵(ec2786)が眼を開いた。
心は苦笑を零し、
「そんなに物騒な殺気を放っていたら、誰でも気づきますよ」
「ふん」
鷹蔵は、炯とした光を放つ眼を再び閉じた。
●白隠
冒険者と雄太達が白隠の元に辿り着いた時、先行していた弥一郎と瑚月がすでにある程度の手配を終えていた。
「鳴子は仕掛け終えました」
「ご苦労様」
瑚月を労い、カーラは庵に歩み入った。
囲炉裏の傍、一人の老人が座している。接しているだけで、どこか気分の良くなるような雰囲気を纏いつかせた――白隠である。
「禅師、お久しぶりでございます」
「美しいそなたが来るのを待ちかねておったぞ」
白隠が海闊に笑った。その隣では弥一郎が頷いている。
気働きの優れた弥一郎の事だ。すでに懸念の二人――柳生十兵衛と源徳信康の事は白隠に確かめてあるに違いない。
「ところで禅師、一つお尋ねしたい事が」
「命が狙われる心当たりじゃろう」
「はい」
カーラが頷いた。すると白隠に代わって弥一郎が口を開いた。
「禅師には心当たりはないそうです」
「では十兵衛さんの追っ手か、もしくは‥‥」
カーラが声をひそめた。
「禅師、上杉謙信さんとの会談の内容、お教え願えませんでしょうか。ひょっとすると、そこに鍵があるかもしれません」
「生憎じゃが」
白隠は済まなそうにかぶりを振った。
「あの小僧には、かたく口止めされておるのでな」
「そうですか」
カーラが肩を落とした。その背後、庵の庭では慈海と雄太が相対している。
「白隠さんを守れるのは君だけだ。白隠さんの傍を離れるな」
慈海が云った。厳かな口ぶりで。
すると雄太は至極真面目な顔で頷いた。使命感を喚起されたのであろう。
「では、これを」
呼子笛が差し出された。瑚月である。
「場を離れず、皆に急を知らせるのも護衛として重要な務めですからね」
「自分に何ができ、何ができないのかのを見極めるのです」
とは、弥一郎の言葉だ。
むむっ、と雄太は唇を引き結んだ。緊張の為か、顔が熟柿のように紅潮している。
その様子を、小夜は姉のような眼で微笑みながら眺めていた。
「どこも日の陰では権謀が蠢いておりまする。せめて彼のような者達の生きる世界は、泰平である事を願いたいものですね」
「その為に、ぬしは戦っておるのであろ」
白隠の言葉に、小さく小夜は頷いた。
●
あふぅ。
欠伸の響きに、白隠の傍についていたシターレは眼を見張った。
巫女だ。黄昏の光に染まる庭を、可愛らしい巫女が歩みすぎてくる。
さっと手をのばしたのはグリンヒャルティ。金色の魔剣である。
が、シターレの手がとまった。眼の良い彼は、巫女の正体が心である事をすぐさま見抜いている。
「よいしょっ、と」
白隠の傍に寄ると、心はぺたんと腰をおろした。
「村で、ちょっと話を聞いてきました」
「ほお」
シターレが身を乗り出した。
「おぬしならば、村の者の口も軽くなろう。で、何か聞き出せたのか」
「異人の事をね」
答えると、心は白隠を見遣った。
「駿河じゃ、今じーざす会が布教をやっているらしいですね」
「ジーザス会?」
首を捻り――しかし、すぐにシターレは声をあげて呻いた。
「まさか、おぬし――」
「そう。この駿河でじーざす教を広めるには、白隠様は邪魔なんですよ」
心が聖女のように笑った。
●
陽は落ちた。と、ともに雨が降り出した。
世界を包む激しい雨音の中、一人鷹蔵は剣を研いでいた。旅の商人を脅して奪った名も知らぬものだが、刀身から立ち上る禍々しい気配から、彼は魔性の剣と推察している。
と――
突如、鷹蔵が剣をはしらせた。その先、心が立っている。
「忍者小僧、何の用だ?」
「張り番の方に、夜食でもと思いまして」
「ふん」
吐き捨てると、鷹蔵は剣を眼前にかざした。その刀身に映っているのは無論鷹蔵だが、彼の眼はそこに白隠の姿を見ていた。
鷹蔵に剣を砥げと命じたのは、実は白隠であった。何も考えず、ただ砥げと。
――あの爺、俺の迷いを‥‥一目で見抜きおったわ。
心中、鷹蔵は忌々しげに唇を噛んでいる。
迷い――
鷹蔵が信じるものは、ひたすら力である。強き者が弱き者を統べる。弱肉強食こそが鷹蔵にとっての真理だ。
が、彼は負けた。それも同門の夢想流を使う敵に。
それからだ。鷹蔵は剣を抜けなくなった。戦えなくなったのである。
「爺、め」
ぎりぎりと歯を噛み、剣の鬼は再び刃を研ぎはじめた。
その凄愴なる背を眺めつつ、心は思った。白隠様の元で修行を積めば、室斐様も丸くなるのかしら、と。
が、答えはなく。ただ刃の哭く音だけが雨音に溶けていった。
その雨音を、小夜と慈海も白隠の傍で聞いていた。
「‥‥見えない敵」
小夜が呟いた。それを耳にした慈海は丸めた布を取り出した。朱の墨汁を染み込ませた物だ。
「この庵の死角はすでに調べてあるけど‥‥もし姿なき敵が現れたら」
慈海は布の球を持ち上げると、片目を瞑ってみせた。
●
丑の刻辺り。
「‥‥拙いな」
瑚月が呟いた。天より叩きつけてくる雨は音を消し、気配を消し、匂いすら消す。これでは床下に潜む琉もどれだけ役に立つか‥‥。
そう思い、瑚月が眠っている白隠に視線を投げた。何かの気配を感じた故だ。
刹那、ぎくりして瑚月が身を強張らせた。
猫が、いる。闇が凝固したような真っ黒な猫が、どこから忍び込んできたか白隠の枕元に。
そろそろと瑚月は――いや、瑚月とすでに猫を目視していた弥一郎はそれぞれの得物に手をのばした。そして指先が得物の柄にかかろうとした刹那――
猫が飛んだ。
わずかに遅れて抜きうたれた瑚月と弥一郎の刃は、途中の空間で凍結している。刃のような爪が白隠の喉にかかっている為だ。
爪は――闇色の獣のものだ。瑚月と弥一郎が見た事もない獣――黒豹である。そして、その黒猫が変化した黒豹には蝙蝠のものに似た翼が生えていた。
「動クナ」
黒豹の口からしわがれた声がもれた。それは紛うことなき人語であった。
その時、ヒッと声があがった。白隠の隣で眠っていた雄太が黒豹に気づいたのだ。
そうと黒豹の方も気づき、雄太にもう一本の足を乗せた。
「騒グナ」
それっきり――雄太は身動きもならない。恐怖に指先一本まで呪縛されてしまっている。
と――
戸が開いた。そして他の冒険者達が姿を見せた。どうやら雄太の悲鳴を聞きつけて来たものらしい。
「女、余計ナ真似ハスルナ」
小夜の身が白光をおびた事に気づき、黒豹が牙をむいた。そして小夜は唇を噛んでいる。コアギュレイトの瞬間発呪にしくじったのだ。
「ぬっ」
鷹蔵は魔剣の柄に手をかけた。この場、もし機をとらえて抜き打ちできるとするなら、それは彼のふるう夢想流の剣のみだ。
しかし――できるか、俺に? 斬れるか、俺に?
心中鷹蔵が呻いた時だ。
「子供に手を出すな。雄太をはなせ」
シターレが叫んだ。
実は、彼には子供がいる。すでに成人してはいるが、幼き日の我が子の面影を、シターレは雄太に重ねていたのである。
「馬鹿メ」
ぎちぎちと黒豹が嗤った。そして白隠に黄色い牙を近づけた。
が、そうと知っても冒険者達には身動きもならない。下手に動けば、白隠のみならず雄太の身も危ない。
刹那、絹を裂くような音が響き渡った。
笛。
雄太が呼子を吹き鳴らしたのである。
その瞬間、黒豹がびくりと身動ぎした。何でその隙を見逃そう。反射的に鷹蔵は抜刀した。
「グハッ」
黒豹が飛び退った。断ち切られたその右眼はかたく閉じられている。
「逃さぬ!」
冒険者達が殺到した。が、一瞬早く黒豹は障子戸をぶち破り、外に飛び出している。
慌てて後を追った冒険者達だが、庭に黒豹の姿はなく――
ばさりという羽音に、冒険者達ははじかれたように眼をあげた。しかし漆黒の闇天には何者の姿も見受けられず――ただ、怪鳥の羽が空をうつような音だけが遠く‥‥
部屋の中に戻った弥一郎は、呆けたように座り込んでいる雄太に近寄り、その頭に手をおいた。
「よくやりましたね」
「おじさん、自分が何ができるか見極めろって云っただろ。だから、俺‥‥」
「そう」
瑚月が大きく頷いた。
「それが冒険者です」
「‥‥」
雄太がニッと微笑んだ。それはちょっぴり大人じみた笑みであった。
●
東海道。駿河を出た冒険者達は東に下っていた。
そして――
陽のささぬ樹陰の中、声がする。
「カーラ・オレアリス。殺すか」
「待て」
別の声がとめた。
「まだ手を出すな。しかしあの娘、何用あって駿河に乗り込んで来たものか‥‥」
疑念の含まれた声は闇の中、すぐに途絶えた。