【未来を担うものは?】過去からの挑戦

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 24 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月15日〜06月21日

リプレイ公開日:2008年06月19日

●オープニング

 それは今より半月程前の話である。
「どぉっせい!」
 気合とともに大槌を振り回す一人の男性。得物が捉えた大鼠は壁に激突すると、そのまま動かなくなった。
「――暫く来ないと増えよるのぅ」
 男性――いや、老人は一息ついてから腰を降ろすと、顎に蓄えた白い髭を撫でる。
 暫しの休息の後、老人は歩を進める。目的の場所への道すがら、自分が設置した罠のいくつかは解除が施されているのを確認する――そして戦闘があったであろう痕跡。
 彼の心中は少しばかり複雑であった。
 彼の者なのか、盗賊の仕業か‥‥期待と焦りが同居し、自然と歩調も速くなっていった。奥に到着すると、仕掛けを解除して扉を開ける。
 目的地に到着すると、保管しておいた物がなくなっていたが、一部の品が残されていた。周囲を軽く見回すと台の上の羊皮紙に気付く。
「ふむ‥‥残したか」
 盗賊ならば品は全てなくなっていてもおかしくはない。この羊皮紙も残す事は余りないだろう。
 老人は口元をもたげると、顎髭を擦る。どこか子供が悪巧みをしている時の様な笑みであった。
 そして、今後使われる可能性は低いながらも、整備をすると洞窟を後にするのであった。

 そして一週間程前のお話。
「ご苦労様です」
 シフール飛脚から手紙を受け取った女性は差出人の確認をする――クヴォルド・ドバルスキーとあった。冒険者であった亡き祖父の仲間で、今でも懇意にしている老人である。
 手紙を裏返すと、送り先はここで合っていたが、宛名にはこうあった。
「意思を継ぐ者‥‥」
 心当たりを思い出し、すぐに封を開ける。祖父の意思を継ぎ、日頃の労いと以前冒険者に頼んだ洞窟の話‥‥そして、手紙が届く頃にこちらに来ると書かれてあった。

 手紙が届いた二日後、宣言通りクヴォルドはやってきた。再会と互いの健康を労った後、洞窟での一件の話になる。
「――ふむ、冒険者がな」
 事のあらましを聞くとクヴォルドは一人ごちる。彼女やその息子ではなかったのは少々残念なところではあったが、次代を担うものである者達に期待も募るものである。
「実は‥‥息子のルーフェイが、先日冒険者の方々が持ち帰ってくれた装備を見てから、冒険者に興味を持ち始めまして‥‥やっぱり血は争えないのですね」
 クヴォルドが思案していると、彼女は苦笑混じりにこぼす。感受性の強い子供、しかもそういうところはやはり男の子である影響を受けたのも判らなくもない。
 話によれば最近は泥だらけになって家に帰ってくる事も多く、家でも剣の素振りの真似事をしたりする事も多いらしい。
「ふむ‥‥冒険者に指導や話をして貰うのも良いかも知れんな」
 自分が話をしても良いが、最近の状況などを知っている者の方が良く、自分もそういった情報が得られる方が何かと良い。
 クヴォルドは意を決すると、翌日冒険者ギルドへ出向くのであった。

●今回の参加者

 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec4660 ヴィクトール・ロマノフスキー(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec4664 マリナ・レクシュトゥム(32歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ec5071 彩 凛華(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●過去と未来と
 指定の日。依頼人であるクヴォルドが世話になっている家へと到着する冒険者の面々。この家の者に面識のある者も多く、ディアルト・ヘレス(ea2181)や彩凛華(ec5071)も労せず目的地へと赴いた。
「お久し振りです。その節はお世話に――そう言えば名乗りがまだでしたね。カルフィナです」
 ルーフェイの母、カルフィナは面識のある冒険者と目が合うと名乗りと共に深々とお辞儀をする。ディアルトやマリナ・レクシュトゥム(ec4664)が騎士礼にて応じるが、先に格式ばった礼を見せられたせいか、残りの者達は戸惑いながらも各々の挨拶をする。
「――個性派揃いといったところじゃな」
 それが終わると、そう言って老人が子供を伴い、物陰より歩み寄って来る。追って互いに挨拶を交わすと、それぞれ得意な分野、教えようとしてきた内容を伝え、初日の午前はディアルトによる剣の教えになる。

●一日目
「まずは基本的な型をお教えしましょう」
 やはり一番の花形である剣はルーフェイにも魅力的なのか、クヴォルドから借り受けた木製の剣をすっと構える姿を目を輝かせながら見入る。
 ディアルトは飽く迄も基本的な型、主に構えや持ち方を重点的に講じる。見様見真似ながらも一生懸命に取り組むルーフェイ。
 始めはぎこちないものであったが、昼になる頃にはいくばくか持ち手や構えも形になり、ディアルトは反復練習をする事を約束させるとひとまずの休憩になる。
「‥‥カルフィナ様、今より食事はこちらで」
 昼食を用意していたカルフィナに、マリナは保存食を差し出す。冒険者になれば、行動中にはきちんと調理されたものを食す機会は少ない。慣れる意味でも、体験しておいた方が良いのではないかとの申し出であった。
「ですが‥‥ルーフェイ様も成長期でしょう。毎食これでは偏ってしまいますので、適度に添え物を」
 彼女の言葉にカルフィナは頷くと、用意していた料理を持って姿を消した。暫くして戻ってくるが手には何もない。聞けば、近所にお裾分けに行ったとの事であった。進言が遅れた事を詫びると、カルフィナは首を振る。
「いいえ、お詫びを言わなければならないのは私の方です‥‥子供の相手とあしらわれる事も考えていましたが、皆さんが真剣に向き合ってくれる以上は、私もそれなりの意気込みでなければいけませんでした」
 陳謝の後、面を上げたカルフィナが垣間見せた表情に、不意にマリナは気圧された。
(「やはり、血は争えないと‥‥いう事ですか)」
 改めて宜しくお願いしますとの言葉を受けると、マリナは皆と合流するのであった。

「さて、午後は私か――素質の問題もある。使い方までは教えられんな‥‥」
「ええ! どうしてー?」
 クリスティン・バルツァー(eb7780)は独りごちると、即座にルーフェイが不満そうな声を挙げる。
(「見た目はどっちも教わる奴に見えるがな‥‥)」
 ヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)は、以前の経験も踏まえて、口には出さずにその様子を眺めていた。ふと視線が合うが、何事もなかったかの様にそれを他に向ける。すると、クヴォルドと手合わせ――と言うより、殆ど訓練に近いものが目に映った。
「こんなでかい得物をそんな細腕で受け止めようとするとは、見切りが足らん!」
「あう‥‥済みません‥‥」
 凛華は腕をさすりながら、恐縮した様子でクヴォルドの話を聞いていたが、やがて彼はどかりと腰を降ろすと、凛華を座らせて話し込み始めた。
「おやまあ‥‥ご老体の説教は長ぇぜ? ご愁傷様」
 その後、クリスティンの魔法を使う上での心構えの講義を聞きながら、ヴィクトールは翌日使うつもりである簡易的な弓を作り終えるのであった。
 日が暮れる頃、マリナや凛華の提案もあり、庭でテントの設営をルーフェイに体験させた後、彼を含め冒険者達は一風変わった野営にて一夜を過ごす事となった。

●二日目
「では、午前はわたくしが‥‥ディアルト様の教えの反復にもなりますしね」
 庭のテントを片付け、朝食を済ませるとマリナは剣の構え、型の復習をさせる。
「――まだ振ったら駄目なの?」
 数刻もすると、ルーフェイからやや不満げな声が漏れる。確かにお預けを食ってる状態で延々と型の練習では好奇心の塊の様な子供の事、言いたい事も判った。マリナはどうしたものかと考え込む。
「‥‥それでは、素振りをしましょうか」
 付き添っていたディアルトからの提言もあり、ルーフェイへ素振りをさせる。これもまた型同様に基本的なものに限られた。
「こら! 逃げるな!」
 注意深くその様子を見ていたディアルトの耳にクヴォルドの声が響く――見れば槌を手にしたクヴォルドとクリスティンがさながら追いかけっこをしている様に見えた。
「万一当たったら怪我では済まん! よって逃げるのは至極当然ではないかっ!」
「魔法使いはいつでも安全とは限らん! 体捌きも必要じゃ!」
「逃げ回るのも体捌きの一つであろう! 誰もが爺さん程元気ではないのだ!」
 その騒ぎと遣り取りを呆然と眺めていると、静かに誰かが呟いた。
「‥‥冷静に、心の火を抑えるってのはどうなったんだ?」

 午後。急場ではあるが、丈夫な作りの弓をルーフェイに渡すと、ヴィクトールは簡素に告げる。
「弦を引いてみな。まずはそれからだ」
 ルーフェイは黙って弦を引く。体力に自信があるという話であっただけに引く事は出来た。だが、引き方も教えなかったせいか、彼は弦を拳で掴んで引いたせいで、指に負担がきてすぐに手を離す。
「それで良いぜ。今やって判った通り、弦は手全体で引いたら痛ぇ‥‥そんなのは俺でも痛い」
 そしてヴィクトールは弓を手にして構えると、弦を引いて見せる。ルーフェイもそれを真似て引くが、やはりすぐに手を離してしまう。
「さっきより痛いよー‥‥」
 指の本数が減ったのだから、当然かかる負担も増える。当然ではあったが、弓を扱う以上は指の力は必要だ。彼はまず弦を引いた状態で数秒維持出来る様になるまで練習するように言って、あとはずっとルーフェイの練習する様を見ていた。
 そして陽が落ちる頃になると、頑張ったなと彼を労い、しゃがみ込んで笑みを見せるのであった。

●三日目
 二日目になると、流石にルーフェイもテントの設営や撤去には慣れてきた様で、手順や遣り方などで聞いてくる事は少なかった‥‥が、初日より動きが鈍くなっている事に冒険者達は気付く。
 何の知識もない者、しかも子供が訓練をするのは心身共に疲れが出ているのだろうと考え、今日は口頭での講義を主にする事に決まる。
「――で、あるからして‥‥こら、寝るな」
 魔法の講義を説きつつ、時折船を漕ぐルーフェイの頭を小突くクリスティン。しかし、昼も近くなってくる頃には、限界を迎えたらしく、机に突っ伏してしまう。
 クリスティンは苦笑しながらも、彼をそのままにしておき、庭へと出た。見れば今日はクヴォルドも大人しく、冒険談を他の者達に聞かせているところで、彼女もそれに加わると先人の話に耳を傾けるのであった。

 昼食も変わらず保存食。だが、今日は庭に机を運び出して食事をし、その後は茶会にて冒険者達による談義になる。
「冒険者に憧れる気持ちも判る‥‥確かにロマンはあるし、一攫千金も狙える。自身を鍛える事もできるが、そんなのは極一部だぜ?」
「まあ、いざなるのと、実際にやるのでは大違いではあるな」
 ヴィクトールの言葉にクリスティンは続ける。夢と現実の差というものである。
「世間から偏見の目で見られる事もありますからね」
 冒険者も多種多様な人々が居る。勿論、ある程度の節度ある者達が殆どではあるが、一般的な人達から見れば、野蛮人ともとられておかしくないとディアルトは語る。
「危険と隣合わせなので、家族に心配をかける事になるのも覚えておいて欲しいですねー」
 凛華の言葉にマリナも頷く。いつ何があってもおかしくないのが冒険者である。だからこそ、彼等は己を鍛える事も忘れないのである。
 その後、ルーフェイに今迄のおさらいをさせて、三日目の夜は更けるのであった。

●四日目
 実質的な最終日。冒険者達は朝から各々準備をしていた。ルーフェイは庭先にてその様子を眺めている。
「さて、準備は良いかの?」
 豪快に腕を回しながらクヴォルドは庭の中央に立つ。呼応するかの様に前に出てきたのはディアルトだった。
「宜しくお願いします」
 礼を一つした後、剣を構える――彼の流派はノルド。ロシアでは余り一般的ではない剣技である。
 先手を打ったのはディアルト。真っ向から剣を振り下ろし、それはクヴォルドの槌の柄によって防がれる。
腕に力を篭めて押し戻すクヴォルド。互いに仕切り直すと、大槌が彼の眼前を掠める。
 生じた隙に斬り込むが、気負いをそのまま利用したクヴォルドの二の手に阻まれる。両者一進一退を繰り返した後、得物の差もあって徐々にクヴォルドは押され始める。形勢の巻き返しを狙った瞬間、彼は足を踏み外し体勢を崩す――そこで勝負はついた。
「‥‥流石にやるの」
「いえ、運が良かっただけです」
 突き付けていた剣を鞘に仕舞うと、手を差し出してクヴォルドを起こす。唖然として見ていた者達からも、思い出したかの様に声がかけられた。
 その後、凛華の提案でルーフェイも含む、全員での団体戦になり、お互いの技術や能力を活用した戦術などを肌で感じる機会をもつ。
 ルーフェイの為ではあったが、これは冒険者達にとっても貴重な体験であったのは言うまでもなかった。

●何を欲し、何を得るか
 冒険者達はカルフィナとルーフェイの礼と見送りを受けると、クヴォルドと共に道中を進む。護衛ではあったが、僅か一日の道則。さした問題もなく、クヴォルドとの談義をしながら目的地へと無事に到着する。
 冒険者一行は、クヴォルドより礼の言葉と一人ずつ包みを貰うとギルドへ報告に戻るのであった。