無謀なる拳

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月04日〜07月09日

リプレイ公開日:2008年07月12日

●オープニング

 冒険者ギルド。受付の女性は手が空いた時間を使って身の回りの片付けやカウンター付近の掃除に勤しんでいた。
「――聞いたか?」
 依頼書を掲示してある方向からの声に彼女の手は止まる。
 見れば3人の冒険者。風体だけを見ると駆け出しの冒険者にも見受けられる彼等は、何かを話してうんうんと唸っていた。
「どうかされましたか?」
 依頼書に不備でもあっただろうか‥‥そう思って声をかける。
「あ、いや。最近ある噂を耳にしてな。それを話してただけさ」
 冒険者の間で噂になる様な事‥‥ギルド員は思い返してみるが、そういった話は聞いた覚えがなかった。
 詳しく話を聞こうと、カウンターに招くと、彼らは話を始める。
 最近冒険者ばかりを狙い、街中の路上、広場などを問わず、いきなり戦いを申し込む者が居るらしい。
 何でも駆け出しの冒険者が一番遭遇するらしく、中でも接近戦の得意な者が狙われるとの事だった。
「ただ戦いを挑んでくるだけですか?」
 彼女の問いに彼は頷く。
 追い剥ぎの類などではないそうで、軽い怪我こそするが、命を狙ったりはしないそうである。
「それでも場合によっては‥‥」
「勿論当たり所が悪ければ怪我どころじゃないが、どうもそいつは素手らしい」
 ギルド員の心配を察した様に彼は言う。それこそ当たり所が悪ければ大怪我はするけどな、と付け足して。
 そこまでを話すと彼らは用事があるそうで、ギルドから出て行った。
 彼女も気にならない訳ではないが、大きな被害があって依頼が来た訳でもないので、頭の片隅に記憶しておくくらいにして、通常の業務に戻る事にした。

 数日後。ギルドに駆け込んできた冒険者により、彼女はそれを思い出す事になる。
 彼の話を聞くと、先日聞いた話の人物らしい者より被害を受けたのだそうだ。
 しかし、聞いた話とはいくつか食い違う点があった。彼は所持金全てと、装備を取られたと言う。加えて、被害にあった冒険者は、聖職者であり接近戦を得意とする訳でもなかったのである。
 彼はその者を見付けて取られた物を取り返して欲しいという依頼をしてきた。
「――あの、お願いがあるのですが‥‥」
 ギルド員は羊皮紙に依頼内容を書く手を止めると、冒険者に頼んでいくつか書き足す事の承諾を貰う。
 依頼者がギルドを後にすると、彼女は再び手を動かし、それを書き込むのであった。

●今回の参加者

 ea6725 劉 志雄(23歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec4660 ヴィクトール・ロマノフスキー(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec5170 フェルディナント・デ・アルメイダ(24歳・♂・レンジャー・人間・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●手掛かりを探りに
「辻殴りかー、あんまいい感じしねーな。ま、辻斬りよりはましだけどな」
「全く‥‥私達の様な駆け出しは金などあまり持っておらんだろうに‥‥気の小さいものだ」
 依頼を受けて集まった冒険者達。いざ行動に取り掛かろうとしたところで、劉志雄(ea6725)よりそんな声があがる。
 そして、頷きつつクリスティン・バルツァー(eb7780)は吐き捨てる様に言う。少々論点が違う様だが本人は気にしていないらしい。
「ま、最初は依頼人だな。これは全員で行くんだろ?」
 やれやれといった感じで肩を竦めた後のヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)の質問に他の者達も同意を示す。

「人相も‥‥逃げ回るのに精一杯でしたので‥‥」
 冒険者達は依頼人の下を訪れると犯人の情報について話をするが、得られた情報はそこまで多くはなかった。
 元々白兵戦に長けた者でもない彼は、幾らか逃げ回りながら攻撃を避けたものの、ほぼ一撃で昏倒させられていた為である。
 そして、意識を取り戻した後、所持金と装備類がなくなっている事に気付いたと告げる。
「何でも良いから、気付いた事はないか?」
「――あ、襲ってきたのも私も一人でしたね。あとは‥‥教会の帰りに冒険者ギルドに寄って酒場に行く途中だったので‥‥」
 依頼書にあった内容とほぼ変わらないのでは、無駄足になってしまう。クリスティンの問い掛けに少しずつ思い出しながら、その時の状況を聞き。ある程度情報が出切ると、一行は依頼者に礼を言った後、通りに出た。
「まだまだ情報足りねーなぁ‥‥」
 流石に一人に聞いただけの情報では有用な情報も少なく、志雄は愚痴る様に零す。
 普段着慣れないローブのせいか、邪魔になる袖の長さに無意識に腕を捲ろうとしたが、それに気付くと苦笑いを浮かべながら手を離す。
「他に被害があった方々を訪ねるのが定石ですかね」
 陽小明(ec3096)が言う様にそれらの数をこなして情報を集めるのが最も適しているといった認識で一致する。
「ああ、ギルドでも少し話を聞いておきたいところだな」
 思い出した様なヴィクトールの台詞を受け、ある程度分かれて行動する事になった。

●それぞれの調査
 囮も兼ねている事から、志雄は単独行動を取った。主に冒険者の噂を聞きに廻る。
 駆け出しの冒険者に見受けられる者に重点を絞り話を聞いて廻るが、知る者も知らない者も半々といったところであった。
 話を統計すると、噂が流れ始めたのはこの半月程である。出所までは分からなかったが、そういったものが判るのは稀である。特に気にしない事にすると、情報収集に専念する事にした。
「あー‥‥あいつか、知ってるぜ。何か無駄に熱い奴だったな」
 何人か聞いて廻るうちにその場に居合わせた者に当たる。被害にあった者との遣り取りを見たに過ぎなかったが、現状では十分な収穫であった。
 話によると、風貌から被害者はファイター。路上でいきなり声をかけられ、戦いを申し込まれるのだそうだ。その時はその被害者も素手での戦闘に応じた様で勝ったのは件の男だったそうである。
「他に気になった事はねーかな?」
「そうだなぁ‥‥ありゃあ素手だが、武闘家じゃねぇ気がするな‥‥私見だけどな」
 冒険者であれば、武闘家も非常に珍しいと言う程でもない。不確定な要素ではあるが、経験上の私見であれば一考の価値はある。
 志雄は男性に礼を言うと、情報を整理してまた別の冒険者を探して廻るのであった。

 一方、小明とフェルディナント・デ・アルメイダ(ec5170)は他の被害者に重点を置いて聞き込みに廻る。
「‥‥思ったより被害は少ないのでしょうか」
 長く聞き込みをしていたが、大した収穫がないままである。噂を知っている者は比較的居たのだが、被害者であるといった話がなく、奇妙な状況にフェルディナントも首を捻るばかりであった。
「あの人ね。確かに挑戦されたわ。容姿? 普通の人っぽかったかな」
 そろそろ諦めの色が出始めた頃、実際に対峙した者に接触する。小明とフェルディナントがそれぞれ経緯を説明すると、彼女は苦笑をして見せた。
「あのねぇ‥‥駆け出しとは言え冒険者が、一見したら一般人に負けたら口になんて出せないでしょ?」
 彼女の言う事も尤もである。冒険者は大小の差こそあれ、自負も自信も持っている筈。それが打ち崩されれば、当然その様な事は自ら明かす事もないのである。彼女もあっさり話したのは、対峙した後に騒ぎを聞きつけた人が集まったせいで相手が逃げたかららしい。
 小明達は、その後はそれを配慮した上で調査を続けるのであった。

「‥‥で、何故お主が付いてくるのだ?」
 冒険者ギルドに向かう途中、黙々と歩いていたクリスティンとヴィクトール。付かず離れずといった感じの距離を保ち、後ろを歩いていたヴィクトールに振り返ると不機嫌そうに言う。
「先にギルドに行くのを提案したのは俺なんだが‥‥まあ、危ないからな」
 彼女の問いにあっさりと返事をする。内心で色んな意味で、と付け足しはしたが嘘は言っていない。
 どう取ったかまでは分からなかったが、クリスティンは無言で廻り直すと、ギルドへ向けて再び歩き出した。
 そしてギルドへ到着すると、依頼書の張り出された所や奥の空いた場所に数名の人を確認する。当たり前だが、受付も居た。二人は一通り話を聞いて周ると、ギルド員の手が空くのを待って話し掛ける。
「今日はどの様なご用件でしょうかー?」
 この場所に訪れれば、必ず聞くと言っても過言ではない台詞を聞き、苦笑混じりに事情を話して知っている事がないかを問う。
「何人かそういったお話はされてますねー」
「時間や場所などは分からんか? あと、手口や人数などもわか――むぐぐっ」
「あー‥‥スマンね。思い出した範囲で良いんで、ゆっくり話してくれると助かるんだわ」
 まくし立てる様に身を乗り出したクリスティンを溜息混じりに制したヴィクトールは、その後受付の業務との兼ね合いを見て、少しずつ話を聞きだすのであった。

●交錯する意思
「どうも犯人は二種類で間違いないようですね」
 情報を集め始めて三日。各自が得たものを元に、囮を使って釣り上げる方法に移る。
 元々の騒ぎの発端になった人物は単独で武器を扱わずに、わざわざ声を掛けて、同意があった時に戦うが、一方の追い剥ぎ犯と思われるものは複数かまでの確認は出来なかったが、声を掛けずに襲い掛かる。しかも打撃補助とは言え、武器を扱うらしい。
 何より、強盗目的かそうでないかで大きく違っていたのである。
 冒険者達は囮に引っ掛かった際の打ち合わせを済ませると、それぞれの行動に移る。
 志雄は法衣を深く羽織いながら、やや肩を落とす様にして一人街道を歩いていく。他の冒険者から離れ過ぎない様に、歩調は遅めにしていた。
 特に用事があるわけではないが、教会に行き慣れない祈りをしたり、エチゴヤに立ち寄り、出来るだけ高そうな物品を品定めするかの様に振舞う‥‥少々店員の視線が痛かったが。
 そして、ギルドへと向かう頃には陽も落ち始める。途中、少し遅めにしてある歩調と同じくらいの足音を耳にする。
 だが、音よりもはっきりしたものを彼は察知していた――殺気である。
 速度を早くし、待機している仲間の下へ誘導して行くと、ローブを剥ぎ捨て身を転ずる。
「てめぇが偽者か!?」
 今、まさに襲い掛かろうとしていた者も、物陰から飛び出そうとしていた者も、そして身を転じて指を挿して決めていた志雄も、突如かけられた声に動きを止める。
 包囲する為に待機していた者と尾行をしていた者の間より、声の主であろう男が姿を現す。反射的に逃げようとした追い剥ぎを冒険者達はすかさず取り囲むと、舌打ちが路地に響いた。
 現れた男は面食らった様に周囲を見回したが、すぐに追い剥ぎに向かって指をかざす。
「似た様な真似して俺を装ったつもりだろうが、そーはいかねぇ! 大人し――ぐほっ!?」
 男は口上を言い切る前に追い剥ぎの打撃を受けて吹き飛ぶ‥‥暗がりで気付かなかったが、良く見れば体のあちこちに包帯と生傷があった。
 追い剥ぎは冒険者達に意識を移すと、じりじりと距離を計る様に体移動をする。それを見た小明は、自分に及ぶかどうかの力量である事を察知する。
「て、めぇ‥‥不意打ちとは良い度胸だ‥‥!」
 声と共にゆらりと立ち上がる男に、追い剥ぎは再び意識を移し直す。構えを取る男を見て小明は軽い目眩を覚えた‥‥完全に素人のそれであったからだ。
 詰め寄る男と迎え討とうと構える追い剥ぎ。
 瞬間、ヴィクトールの投擲したダーツが追い剥ぎを掠め、僅かな隙を作る――それで、決まりであった。
「な‥‥っ」
 何処からか声が上がる。
 恐ろしく我流で素人の動きであったが、威力を高めた強烈な一撃――それは武闘家が修める業の一つに近かったのである。
 今度は追い剥ぎの方が勢い良く拭き飛び、壁に打ち付けられる。その機を逃さず、フェルディナントとヴィクトールが取り押さえた。
「さーて‥‥助力は感謝するが、あんたら冒険者だな?」
 男は深く深呼吸した後、男は再び構えを取った‥‥つまり、そういう事なのだろう。
 険しい眼をした小明が男を見据え、ゆっくりと構えを取る。だが、お互い間を計る事は叶わなかった。
「悪いけど数の暴力で引っ捕らえさせて貰うぜ!」
 男の背後より飛び掛った志雄。振り解こうとする男に続けてフェルディナントが飛び掛る。呆気に取られていた小明だったが、暫し目を伏せた後に、それに加わり、男を組み伏した。

●拳の意味
 冒険者達は追い剥ぎを問い詰め、奪われた品を取り戻すが、情報通り被害者は依頼人だけではない様で、既にいくつかの品と金はなくなっていた後であった。
 そのまま追い剥ぎを然るべき場所に突き出そうとするが、男の処分には少し困った。
 詳しい話を聞くと、男は冒険者になる為にだったと言う。
 冒険者ギルドに登録するには登録料と身元確認が出来る事、もしくは保証してくれる人が必要になる。
 天涯孤独な彼には当てがなかった。そこで彼があるとき耳にした噂が、登録料と保証人になると言う組織であった。
 組織の出した条件が、冒険者に挑み、倒す事。そして一人当たりいくらかの報酬を払うといったものである。しかし、男は未だにその報酬を得ていないのだそうだ。
「要するに‥‥」
「ああ、騙されてんな。条件としても無茶苦茶な上に、何より胡散臭い」
 ばっさりと斬り捨てるヴィクトール。その言葉に項垂れる男の襟首を掴んだ小明は、思い切り頬を殴った。
「拳は‥‥何の為のものか?」
 彼女の流派は拳は守るもの。破するは足である。だが、それ以上に武闘家としての誇りがそれを許せなかったのだ。
「俺、難しい事はわかんねーけどさ、やっぱそういうのに拳使うのは何か違う気がするぜ」
「今迄無事だったのは運が良かっただけ。身勝手な行動は死神ついて廻る」
 志雄、フェルディナントとも男に論すと彼は己の行いを悔いて、自ら出頭する事になった。
 
 冒険者ギルドに報告に戻った一行は、受付の女性より感謝の意と贈り物を貰い、それぞれ帰路につく。
 数日後、その受付から男の処分についての手紙を受け取る事になる。
 手紙にはこうあった――街を騒がせた事については罰せられたものの、同意の下での戦い。つまり決闘の扱いであり、被害にあったという報告もない事から、大きな罪にはならなかった、と‥‥。