【龍の眷属】引き合う剣

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 59 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月19日〜07月27日

リプレイ公開日:2008年07月29日

●オープニング

 それは一ヶ月程前の話。
 暗き森の中。一人の青年が立ち尽くしていた。
「ちっ‥‥」
 忌々しさと共にフードを剥ぎ取ると、それを千切って腕に巻く。灰色の布はすぐに黒ずんでいった。
(「やはり一人では限界がある‥‥か‥‥)」
 彼の友人が冒険者ギルドに依頼を出したものの、丁度時期が悪かったのか、人が集まらなかった。
 元々人との関わりを余り持たない彼は、一人でも十分だと彼の者を追った‥‥だが、彼は一人の限界を思い知る事になる。
「‥‥見失ったか」
 だらりと下げた腕の先に視線を落とす。先刻まで光を帯びていた剣は、今はただ森の闇の中に紛れるだけである。

 彼は以前怪我をして訪れた村へと戻ると、とある家屋の扉を開ける。
「‥‥クマールダラ!」
 彼の姿を確認すると、安堵と共に傷に気付くと、青年は応急手当を始める。
 この青年のところで世話になって久しいが、自分の素性を知っても青年の応対は変わらなかった。
「――済まないな」
 働き盛りの年頃とは言えども、彼一人で自分の生活の面倒を見るのは楽ではない。多少はこの地にも馴染み、村の手伝いなどをしてはいるが、生活が楽になる程ではなかった。
「‥‥取り戻せなかったみたいだね」
 一通りの処置が終わると、クマールダラの様子を見て青年は呟く。
 彼が追うものは、彼が元々住んでいたところで彼ら一族によって守られてきた龍の宝。経緯までは聞いていないが、非常に稀少なものであるのは青年にも判った。
 そして、それを盗んで逃げた者を追って、クマールダラはこの地へ辿り着いたのである‥‥重傷を負って。
 宝は二つあり、一つは彼が死守し、所持している。
 もう一つの宝を持つ者‥‥つまり追う相手は女性ではあるがかなりの力量を持った相手だそうである。そういった方面の実力などは青年には判らなかったが、彼が再び怪我をして戻ってきた以上、やはり一人で成すのは大変であると再確認出来た。
「――今日は休む。対策を練るのは後だ」
 クマールダラはそれだけ言うと、奥へと姿を消した。

 ――そして数日前。冒険者ギルドにクマールダラと青年の姿があった。青年は入り口からカウンターの様子を伺うと、見知った受付の下へと近付いていく。
「おや‥‥久し振りですね」
 ギルドの受付――ドエルツェは青年に気付くと会釈をして言った。彼は既に羊皮紙とペンを取り出していた。
「またお願いしたい事があって‥‥」
 そう言いつつカウンターに座る青年。ふとクマールダラと目が合うと、彼は黙したまま一礼をして見せた。
 依頼の内容は以前のものと大きな違いはなく、青年の友人であるクマールダラの助力を求めたものであった。
「‥‥その者が何処に居るかの見当はついていますか?」
 ドエルツェの質問にクマールダラは静かに首を振る。
 ある程度は察知が出来るとは言え、余りにも遠い距離だと探す手段がないらしい。
 とは言え、全く手探りでもなく、彼等が独自に得た情報では、以前よりキエフに現れた巨大な壁の近くでそれらしい姿を見かけたらしいとの事であった。。
「では情報収集を含めた捜索。そして発見した場合の討伐ないし盗まれた品物の奪還、という事で宜しいですか?」
 ドエルツェの言葉に二人は頷く。手早く羊皮紙に依頼内容を書き込み終わり、いくばくかの話を終えると、彼等を見送るのであった。

●今回の参加者

 ea5897 柊 鴇輪(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1566 神剣 咲舞(40歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

●月の牙
 冒険者達は依頼主であるクマールダラと彼が借りた宿の前で落ち合う。
「‥‥宜しく頼む」
 ローブに身を包んだクマールダラは不器用に頭を下げる。
「しふしふ〜☆ シャリン・シャランよ☆ この子はフレア。長くて言い難いからクマで良い?」
 シャリン・シャラン(eb3232)は相棒を含めて名乗る。だが、呼び方に対しての反応はなかった。流石に初対面の相手に愛称で呼ぶのは余り好まれないのだろう。
「‥‥絵」
「‥‥‥‥探す相手を描けないかと言っているのだと‥‥あ、ボクはクルト。モンスタハンターをしている。宜しくね」
 言葉少なに帆布と黒炭を差し出した柊鴇輪(ea5897)に補足する様にクルト・ベッケンバウアー(ec0886)は続ける。
 やや躊躇した様子でそれを受け取ったクマールダラはただえさえ慣れない画材に戸惑いながらも、手を止めると、クルトに差し出す。
「‥‥これは‥‥」
 覗き込んだ神剣咲舞(eb1566)は思わず声を挙げる‥‥見た者は皆、口で聞いた方が早いという結論に達するのは至極当然であった。

 探し主の名はラケール。クマールダラの村に立ち寄った旅人だという事で、その名が正しいかまでは判らないらしい。
 女性にしてはかなり高い身長で、見た目は二十代半ば、そして取り戻そうとしている1メートル程の直刀。柄が通常のものより長く片手、両手とも扱い易い物であるという。
「探し物の名前は?」
「‥‥‥‥サン・ファングだ」
 シャリンの質問に彼は呟く。他の冒険者に目を配るが、皆一様に首を傾げる‥‥自分を含め、その名を聞いた事がないのはそれで判った。
 早速シャリンはサンワードを使い、サン・ファングの特徴を告げる――だが、分らないとの答えがくる。対称が日蔭にあるのか、もしくは情報が足りないのか、である。
 日が昇っている間に、情報収集の傍らに何度か試す事を決めると、一同はそれぞれ情報収集に出る事になった。

●初動と失策
 鴇輪はクマールダラ達とは別行動を取り、自身の経験上から目立ちたくない者が行動する範囲に当たりをつけて情報を集める。
 貧民街やジプシーに話を聞き廻る。しかし、流石に該当するものが少なくないせいか、目撃情報の多さに絞込みまでは至れなかった。
 一方クルトもまた、単独にて情報収集に努めていた。彼は主に冒険者ギルドに出入りする者達、そして酒場を廻る。
「冒険者間だとそう珍しくもないな」
 やはりそうかと、クルトは半ば予測出来ていた返答の多さに幸先の悪さを感じる。

「‥‥」
「‥‥」
 情報収集を始めてより半日近くが経とうとしていたが、シャリンは気疲れを起こし始めていた。クマールダラは元より、咲舞も無口な為、会話がこちらからの一方通行であったからである。
 ただ、時折クマールダラは鞘より自らの剣を少し抜くと、暫くして収める事を繰り返していた。
「それ、何かのおまじない?」
「‥‥何でもない」
 問いかけには即答で返される。明らかに不自然ではあるが、何度か聞いても返事が同じなので、既にシャリンは諦め気味である。
 サンワードには相変わらず反応がなく、情報もこれといったものは得られずにいた事もあり、心労は溜まる一方であった。
「シャリン」
 彼女が深い溜息をついていたところで、物陰よりゴールドが姿を現す。そして、彼が作った地図を受け取ると、その姿は消えていた。
 土地勘のないクマールダラに渡す為ではあったが、良く考えれば市街の地図は普通に街に出回っていて、彼もそれは所持していた。その上、必ず誰かと同行するならば、特には必要なかったのかも知れないと少々後悔の念が残った。

 夜になり、クマールダラの宿には鴇輪の姿があった。冒険者同士での伝達が出来ていなかったせいか、情報交換は鴇輪一人とクマールダラのみとなった。
「‥‥大丈夫なのか?」
「明日、は‥‥伝えて、おく」
 僅かな情報の遣り取りの後、問うたクマールダラに彼女は返す。一抹の不安を抱えたのは言うまでもなかった。
 朝。他の冒険者達に鴇輪が伝達をし、情報交換の機会は出来た。
「そう言えば、依頼書にもありましたね‥‥」
 失念していた者達はクマールダラに謝罪をすると、今日も再び情報収集へと赴く。

●陽の牙
 その後、数日の情報収集とそれの交換を経てた夜。
「‥‥当初は不安だったが‥‥そろそろ話そう」
 彼は常に傍らに置いてある剣を手に取ると、ゆっくりと鞘から抜く。一瞬身構えた冒険者達だったが、敵対する素振りを見せなかった彼に、安堵の溜息と共に座り直す。
「‥‥この剣はムーン・ファング。探すサン・ファングとは対になる剣だ」
「この反りは日本刀に近いですね」
 抜いた剣は80センチ程の曲刀。咲舞は自分が身近に接している形状にそう零す。
「特殊な剣で、抜刀している間はお互いの距離が近い程、光を帯びる」
 彼はそこまで説明すると、剣を置いて頭を下げた。
 冒険者ギルドという仲介があっても、彼は一度村に訪れたラケールに剣を盗まれている。試す様な真似をした事を詫びる。
 冒険者達もまた、そういった心情が理解できない訳でもなく、彼が話をしてきた事が前進と見る事にした。
 クマールダラは続けて二振りの剣が村に伝われていた剣であり、彼の一族がその守り手である事、そして伝われている事は、龍の宝である事を告げた。
「成程。大事な物だね」
 クルトの言葉に誰かが同意を示す様に頷いた。
「でもこれで、探せるかも? 朝になったら試してみるわ」
 シャリンが意気込む様に拳を握ると、隣の妖精も彼女を真似るのであった。

●引き合う剣
 次の日、冒険者達は情報と、そしてシャリンのサンワードにより、今は崩れた巨大な壁の近くにラケールが居る目処をつけた。
「‥‥やはりあそこか」
 何日か情報収集の一環で立ち寄ってはみたが、一件の騒動のせいもあり、場が浮き足立っていたせいか、特定の人物を探すには不向きだったのである。
 現地に近付くにつれやはり雑踏が多く、人を探すのは難しかった。
 冒険者達は近くの廃屋と化した建物に身を潜める。そしてクマールダラは剣を抜くと、銀色の淡い光を纏っていた。そして、光を確認すると鞘へ収め直す。
「光はまだ弱い‥‥遠いな」
「それ、相手も判って‥‥逃げ、る?」
 こちらに反応があるならば、相手もまた鞘から抜けば光る。鴇輪の指摘に彼は首を振る。
「‥‥ラケールはこれも狙っている。策が整えば逃げないだろう」
 特に、クマールダラがキエフに来るまでにはかなりの間があったにも関わらず、動きを見せなかった以上は、何かの準備をしていたか、整えていた可能性の方が高かった。
 それでなければ、冒険者という要素が多いこの地で、長く留まるのは不自然であったからだ。
 シャリンは念の為にダウンジングをする‥‥一箇所を指し示していたが、動きはなかった。
「待ち伏せですか」
 咲舞の呟きに一同の緊張感が高まる。陽も傾いてきていて、その見解は外れてはいない様であった。
「あ! 動いたわ」
 地図に添えていた円錐が少しずつ動く――住居などのない場所でそれは止まる。
 彼らは顔を見合わせて、一様に頷くとそこへと向かう。勿論誘い出しであるのは判っていたが、何があるのか判らない以上は、あちらに分があるのは変わらないせいもあった。
 クマールダラは走りながらムーン・ファングを抜刀する。闇夜に染まりつつある中、それは強い光を帯びている。
 鴇輪、クルトは投擲武器を手にし、咲舞は刀を抜く。シャリンは中空に飛ぶと安全を確保した。
「ラケール!」
 冒険者達が視界に捉えた女性にクマールダラが声を挙げる。初めて見る感情を表に出したものであった。
 良く見れば、女性が手にした剣は金色の光を帯びていた。
「クマールダラ。あんたもしつこいねぇ‥‥まぁ、その方がそれを手に入れるには良いけどさ」
 剣を水平に構え、クマールダラに突き付けて見せると彼女は言い放つ。
「何を企んでいるか知らんが、この機は逃さん!」
 彼はローブを脱ぎ捨てると、気合と言うには畏怖すら感じる叫び――そして、それは咆哮へと変わった。その姿にクルトは呟く。
「‥‥ワーウルフ」
 形容は人のままであったが、狼となったクマールダラは天地上段のやや変形した構えを取ると、弦を上向きにして剣をラケールに向ける。
「ふん‥‥前回はそれに意表を突かれたけど、今回はそちらの番さ」
 それを見た彼女は嘲笑を見せると、クマールダラ同様に咆哮を挙げる。
「何‥‥だと!?」
 見えない力による砂塵が巻き起こり、その後にそこに立っていた‥‥いや、居座っていると言った方が良いだろうか。そこにあった姿は巨大な体躯の蛇と女――ラーミアと呼ばれるものであった。
「‥‥!」
 咲舞はその姿を確認すると、素早く前に踏み込む。しかし、一度二度と斬撃を受け流すが、長く巨大な尾は受け切れず、大きく後方へと吹き飛ばされる。
「ちょっと‥‥これマズいん――」
 高度を保っていたつもりだったシャランだが、手の届く範囲と言える距離に、それはあった。独白は言い切られる間もなく、咲舞を吹き飛ばした尾は軌道を乗せてそのまま彼女を襲った。
 寸でのところで、クルトが牽制したダガーがラーミアを襲うが、僅かに動きが鈍くなりはしたものの、シャランは地面へと弾かれる。
「戦いが不得手とは言っていられないね」
 鴇輪と連携を取り、回避と射撃による牽制を繰り返すクルト。だが、両者共決定力を欠き、頼みのクマールダラと咲舞も相手の自由の利く三つの攻撃により接近し切れない状態にあった。
「あんたらが私を探してんのは判ってたのさ。ご丁寧に目立つモノ連れて歩いてるんじゃねぇ」
 にやりと笑いながら、ラーミアは冒険者達を見回す。
(「まだ‥‥何かある?」)
 その余裕ある態度に背筋に冷たいものを感じた咲舞は、クマールダラに目配せをすると、彼は頷き返してきた。
 それを確認すると、再び前に出る。襲い来る尾に対し、全体重を乗せて踏ん張るとクマールダラはすかさず上半身へと斬りかかる――が、咲舞はこの長い尾が自分ですら巻き付ける事が出来る程長い事を失念していた。
 クルトや鴇輪も逸早く彼らの動きに呼応し、牽制をするが出来た隙は僅かでしかなかった。交差した光る剣‥‥サン・ファングはクマールダラの胴を貫き、ムーン・ファングはラーミアの肩口に斬り込まれていた。
 彼とラーミアとでは大きな違いがあった。痛みに暴れ廻り、冒険者達を巻き込むラーミアに比べ、吹き飛ばされたクマールダラは地にその身を横たえていたのだ。
「ぐぅぅ‥‥まだ奴等との確約は取れてない。クマールダラ、覚えておくんだね!」
 お互い傷を負っていたが、残った冒険者達が立ちはだかるのを見て、ラーミアはそう言い捨てて遠ざかっていった。追おうにも、冒険者達の被害も大きく、何よりクマールダラの傷が深い。軽い怪我で済んでいた鴇輪は、彼に近寄ると剣を抜いて薬を口に流し込んだ。

●違えた剣
 冒険者達は傷ついた体を引き摺り、クマールダラの宿に到着していた。彼の素性がばれない様に、隠蔽しつつである。
「ワーウルフは傷の治りも早いから、多分大丈夫だとは思うけど‥‥」
 クルトの続く言葉を想像してか、場の空気は重い。剣を取り戻すどころではなかったせいだ。
 彼らはそのまま宿で看病と休息を取る。
 翌朝クマールダラは目を醒ます。
「‥‥サン・ファングが手元か‥‥皮肉なものだな」
 苦笑しつつ呟く彼にかける声はなかった。それを察したのか、彼は想定外の事態だから仕方がないと告げて、再び眠りへとつく。
 そして冒険者達はギルドへ重い足と共に報告へ向かうのであった。