森に住み着く影

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月19日〜03月25日

リプレイ公開日:2008年03月27日

●オープニング

 冒険者ギルド。いつもの様に事務処理をし、一通りの作業を終えて一息ついた受付の女性は、入り口と依頼書のある掲示板との間をうろうろとしている男性に気付く。
「どうかされましたか?」
 人の出入りに支障が出ても困ると思い、男性に話かけると彼は恐る恐るカウンターの席に座る。
「あのー‥‥ここは、何でも屋みたいなところなのでしょうか?」
 少し語弊はあるが、あながち間違っている訳でもない。
 恐らくこの男性は、冒険者ギルドの事は良く知らないのだろうと思い、説明をすると依頼を話し始めた。

 村近くの森で大きな蜘蛛が目撃された。その者の話では、パラの背丈くらいはあろうかという大きさで、丁度地面に空いた穴に潜るところだったと言う。
 幸い襲われた人はまだ居ないが、いつ被害者が出るかも判らない上、森での採集などを生活の糧としている村には大きい打撃になりうる。
 そこで、村民での話し合いで出てきた冒険者ギルドに相談に来たのである。

「成程。退治のご依頼という事で宜しいですか?」
「はい‥‥宜しくお願いします」
 依頼を出し終えたが、未だ不安が残るのか、男性は肩を落としたままギルドを後にした。

●今回の参加者

 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec1983 コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(24歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec4452 クレイ・バルテス(34歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec4531 ウェンディ・リンスノエル(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec4660 ヴィクトール・ロマノフスキー(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec4664 マリナ・レクシュトゥム(32歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

イオタ・ファーレンハイト(ec2055

●リプレイ本文

●出発
「勤勉に働く村の方々を妨げようとは、許されませんわ!」
 妙に気合の入っているコンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)の言葉にマリナ・レクシュトゥム(ec4664)はその通りと言わんばかりに頷いていた。
 その様子を見て一抹の不安を抱えながらも、少し重い者の荷物を馬に乗せようとクリスティン・バルツァー(eb7780)は荷上げをしていた‥‥が、元々腕力が余りない彼女は苦戦していた。
「えぇい、これは誰の物なのだ‥‥済まんが、これも頼む」
 クリスティンの隣で楽々と荷物を乗せていた陽小明(ec3096)は小さく頷くと、再び黙々と作業に移る。

●道中
「‥‥やっぱ野宿か。酒でもあれば暖も取れるが、忘れてきたな‥‥」
「何だ。それなら蜘蛛退治が終わったら、こいつで乾杯だ。付き合え」
 ヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)のぼやきにクリスティンは発泡酒を取り出して見せる。
(「酒、飲める歳なのか‥‥)」
 一見そうは見えない。しかし、ヴィクトールは口には出さなかった――言葉に出すと面倒な事になりそうだったからだ。
「‥‥急な用事でしょうか‥‥来られなかった方がいましたね」
 テントの設営を小明と共に行っていたウェンディ・リンスノエル(ec4531)は、ふと手を止めて既に遥か遠くであるキエフ方面を見て呟く。
 準備が整うと、食事を摂りながら話し合いを始める。
「村の人々も不安でしょうから、早々に解決できるようがんばりましょう」
 ウェンディの言葉に一同は頷く。その後村に着いた後の行動について話をすると見張りの当番を決める。
 ヴィクトールの提案もあり、夜に強い小明とマリナが十分な休息が必要なクリスティン、コンスタンツェとそれぞれ二人組になって担当する事になった。
 暖かくはなってきているが、やはりキエフはいまだ寒く、火を絶やさなかった事もあり獣などを見かける事はなかった。

●村
 二日目も順調に過ぎ、三日目の朝に冒険者達は村へと辿り着く。
 村長を含む村人達が幾人か集まって出迎えに出ていたが、少々歓迎と言うには違和感があった。
「皆さんが冒険者ギルドからいらっしゃった方ですか?」
「そうだが‥‥何か問題でも起きただろうか?」
 クリスティンの返事に村長は慌てて滅相もない、と答える。
「そうでした‥‥冒険者ギルドに依頼をするのは初めてなのでしたね。わたくしはコンスタンツェと申しまして――」
 コンスタンツェは深々とお辞儀をすると、丁寧に自分達の事を説明し始める。時間は然程かかっていなかったが、たっぷりと言葉を詰め込まれた村の人達は半ば強引に納得する事になった。

●聞き込み
 村人から情報を得ようと、話を聞いて廻るのはクリスティン、コンスタンツェ、マリアの三人である。
「巣穴や蜘蛛を目撃されたのは一度だけでしょうか?」
 マリアの問いに村の青年は首を振る。蜘蛛は今回依頼に至るまで一度も見た事はないが、巣穴と思われるものに関してはいくつか見た事があるそうだ。
「そんなでかい蜘蛛が何匹も居るかも知れないなんて‥‥これからどうすれば良いんだ」
「恐れる事はありません。わたくし達が必ず皆様の不安を排しましょう」
 心配をさせない様にきっぱりと言い切ると一礼をし、次の情報を仕入れに向かう。

 クリスティンはやや後悔をしていた――探索に廻れば良かったと。
「小さな事でも構いませんから、森や大蜘蛛のお話をよぅく聞かせて頂きますわね」
 コンスタンツェはにこりとしながらそう告げる‥‥二件目である。いくつか情報も得られはするが、その後が時間がかかる。かと言って放って置くことも出来ず、ここに至る訳である。
 陽が傾き始めたところで話は終わり、探索組と落ち合う場所へ向かう道中、クリスティンは項垂れていた。
「森へ行った方々は大丈夫でしょうか」
 ‥‥最早コンスタンツェに返事をする気力は残っていなかった。

●探索
「あそこにもありますね」
 小明が指で示した先、そこには何かを引き摺った後があった。ヴィクトールは近くの木に印を付け、ウェンディは羊皮紙に場所を記録する。
「結構ありますね‥‥」
「ああ、巣穴もいくつかるな。全部に居たらと思うとゾっとする‥‥あともう少し声量は落とせ」
 出来れば戦闘は避けたかったせいもあり、隠密に長けたヴィクトールの指示で皆は動いていた。
 だが、長けていると言っても相手は野生の生き物。本能的に持っているものには及ばないところもあってか、慎重に探索は続けられた。
 いくつかの巣穴や生活痕を調べ終わると、危険を避けて陽が落ちる前に村へと戻る事になった。

 夜。村長の家に一同は集まり明日に向けての話し合いをする。
「聞き込みもあるから他の巣穴の探索は前倒しにしましたが、あらかた調べはついたと思います」
「目印も付けた。簡単な地図はウェンディが記録してある」
 ヴィクトールが言うとウェンディはそれを取り出して見せる‥‥お世辞にも綺麗ではなかったが。
「村の人達に聞いた位置とほぼ合っていますね。やはり巣穴はいくつかある様です」
「こちらも同じ情報だった。一つの巣穴でずっと生活はしないであろう。適度に移動しつつ獲物を待っているのであろうな」
 全部の巣穴で蜘蛛と遭遇する可能性は低いが、やはり出来る限り廻るべきだという事で、近場から順に潰して行く事になった。

●討伐
「ここは空だな」
 小明が小石を転がし、警戒をしつつ巣穴に近付く。何も起こらない事を確認するとヴィクトールは巣穴目掛けて矢を射った後に言う。
 たいまつで炙り出す方法も案に出ていたが、かなりの数が必要な為、矢で牽制する事になっていた。「‥‥これは回収出来んな」とのぼやきが聞こえたが、皆は聞こえない振りをして次の巣穴を目指した。

「む‥‥」
 インフラビジョンをかけていたクリスティンは立ち止まる。まだ小さいが、小刻みに動く赤い点を捉えた為である。
 森という性質上、熱を持つものは多く存在するが、視力が良い彼女には大体の距離感も掴める‥‥これは大きいものであった。
 一同は臨戦態勢を取ると、目標に向かい進む。
「ふん、話の通りでかいな‥‥ムカつく」
 近付くにつれ、予想通り大きくなっていく赤いもの。クリスティンは小明とマリナにフレイムエリベイションをかけると後ろへ場所を取り直した。
 視認が出来る様になったところで、ヴィクトールは弓を構える。
「丁度獲物を襲ったところか、運が良い」
 頭部に狙いを付け、更に距離を詰めてから矢を射った。多少狙いがずれたか、頭部を僅かに外した矢は蜘蛛の胴体に突き刺さる。
 声とも取れない不快な音を発した蜘蛛は、冒険者達に向き直り直進してくる。
 小明は間に割り込む様に立つと、独特の礼をした後、構えを取った。
「陽小明。参る!」
 気合と共に地面を蹴ると、蜘蛛は小明に気を反らした。
 体力の消耗を狙おうと、回避に専念した小明には鋭い足先の攻撃も地面に穴を穿つだけで、牙での攻撃もまた彼女の間合いには入り切れず、難なく避けられていた。
「――はっ!?」
 踊りにも似たその光景に思わず見入っていたウェンディは、我に返ると周囲を見渡す。
 茂みが揺れた次の瞬間、勢い良く新手の蜘蛛が飛び出してきた。ウェンディはすかさず槍を構えると、僅かに力を貯めて突き出す。切っ先は衝撃波となって蜘蛛に突き刺さり、その進行を妨げたが、致命傷までは至らない。
 もう一撃の準備をしようと再び構えを取ったところで、横から何かが風を切った。それは蜘蛛の頭に刺さり、勢いが消え慣性でのみこちらに向かってきた体を間に入ったマリナは両断した。
「セイッ!」
 ふぅと一息ついたところで小明の気合の乗った掛け声が響く。
 体力が切れかかり、隙の大きくなった蜘蛛に強烈な蹴りが入れられたところであった。
 大した怪我ではなかったが流石にいくらか攻撃を受けた様で、念の為にコンスタンツェは小明にリカバーをかけた。

 蜘蛛に襲われていたのは人ではなく、野兎であった。
 コンスタンツェの意向で手厚く葬ると一行は再び巣穴の探索に戻る。

 いくつかの巣穴を調査していくと、印があった場所で巣穴が見当たらなくなっている所があった。
「‥‥これは蓋でもして待ち伏せしてるな」
 ヴィクトールはたいまつを用意しようとしたところでクリスティンに呼び止められる。
「場所はあの辺りで良いのだな?」
「そうですね。間違いない筈です‥‥なるほど、あれですね」
 小明の返事に頷くと他の者達を下がらせてファイヤーボムの詠唱を始める。この場所ならば森への被害もないだろう。
 刹那。周囲に轟音が響き渡ると、突如地面より火達磨の蜘蛛が姿を現した。準備をしていたヴィクトールの矢とウェンディの衝撃波が更に追撃をかけ、呆気無く蜘蛛は崩れ落ちた。

●帰路
 下調べをしていた巣穴や怪しい箇所は全て廻り切った一行は、残りの時間を使い探索を続け陽が完全に沈んだところで村へと戻った。
 村へ報告すると、ささやかな宴の席が設けられた。
 コンスタンツェやマリナは村人の慰諭に勤め、今後森に入る時の注意点や蜘蛛の性質などを小明が説明していた。
 ヴィクトールはクリスティンの酒に付き合い、色々と愚痴などを聞かされる羽目になった。
 消費した分の矢は村から貰えた様である。

 そして翌日。村人からの見送りを受け、冒険者達はギルドへ報告に戻るのであった。