【言語研究施設】施設からの頼み事

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2008年09月25日

●オープニング

「ふう‥‥少し休憩しますかね」
 作業をしていた手を止めて、オレノ・ラジアークは外の空気を吸いに扉を開ける。
「あら‥‥丁度良かったわね」
 出た先で一人の女性と鉢合わせる。彼女の名はヴィシア、この施設の副責任者になる。手にはトレイと暖かい飲み物の入ったカップが二つ。
「ああ、どうも有難う」
 そこから一つを持ち上げると、口に運んだ後にほうっと一息つく。
「――状況はどうかしら?」
 余りこういう状況では言いたくはなかったが、期限がある以上は現状把握は必要である。ヴィシアの問いに彼は静かに首を振って見せる。
「結構な量ですが‥‥何処からの依頼――っと、それは聞かない方が良かったんでしたね」
 機関として動いている組織では、必要以上に依頼者の情報を得てはいけない。
 勿論、責任者は直接話もしているだろうし、知っているだろうが、下の自分達が深く知る必要がないのも判らない訳ではない。
「でも‥‥このままだと納期が厳しいところね」
 今扱っているのは、スクロールと呼ばれる精霊の力を引き出す特殊な文字列が書き込まれた経巻で、これは魔法の習得とは別で、精霊碑文学と呼ばれる技術があれば誰でも扱える物である。
 そして、通常の魔法とは違い、詠唱や印を必要としないのも特徴である。
 今現在、施設に精霊碑文学を扱えるのはオレノとヴィシアの二人だけ、このままでは確かに労力不足である。
「そう言えば‥‥冒険者の方々にも精霊碑文を扱える方が居た気がします」
 ふと思い出した様に手を打って言うオレノに彼女も頷く。
 少なくても他にも処理しなければならない作業を任せられれば、それだけスクロールの方に集中は出来る。
「じゃあ、明日にでもキエフの冒険者ギルドで依頼を出しておくわ」
「お願いします――では‥‥続きにかかるとします。ご馳走様でした」
 微笑みながら返事をしたオレノだったが、それはすぐ苦笑に変わり、作業場へと戻るのであった。

●今回の参加者

 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb2258 フレイア・ケリン(29歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb3988 ジル・アイトソープ(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb7741 リオ・オレアリス(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3272 ハロルド・ブックマン(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3559 ローラ・アイバーン(34歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

ルカ・インテリジェンス(eb5195)/ 九烏 飛鳥(ec3984)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●誤算
 キエフより目的の施設へと向けて移動を始める冒険者達。
 暫く進んだ後、フレイア・ケリン(eb2258)の馬の動きが鈍い事にリオ・オレアリス(eb7741)は気付く。
「フレイアさん、少し荷物を預け過ぎていますね。預かりますよ」
「荷物の整理も大事でありますよ」
 次々と出てきてはリオの馬へと移される品を見て、ローラ・アイバーン(ec3559)は苦笑しつつ言う。今回の依頼では特に必要とされる物ではない品も多く見受けられたせいもあった。

 その後は足並みも揃い、順調に進路を進めた彼らであったが、もう一つの問題に差し掛かった‥‥林道である。
 一応の人の行き来はあるからか、多少の道と呼べるものはある。しかし、障害物や坂道なども多く思ったよりも進行は速やかではなかった。
(「‥‥成程。やはりか」)
 ギルドから受け取った地図と道筋にどことなく見覚えのあったハロルド・ブックマン(ec3272)は、目的地が以前依頼を受けた場所であるのを察する。ローラも同じではあったが、別動隊であった為にこの順路では判らなかったのであろう。
 だが、今回は依頼の内容から鑑みても、襲撃されるなどの心配は薄そうである事に、一人心中で胸を撫で下ろす。
 ようやく林を抜けた頃には陽も落ち、一行は野営の準備を始める。
「多分…気のせい…」
 ジル・アイトソープ(eb3988)はバックパックの中身を確認して首を傾げる。保存食が見当たらないのも当然で、移動距離を稼げる見積もりだったせいか、持ってきていなかったのである。
 食べるものがないのも大変だろうと、他の冒険者達から分けて貰う事になった。
 
 翌日の昼前。一行は件の施設へと到着する。ハロルドやローラが以前見た時は一見するとただの家屋であったが、現在は大分施設らしい外観になっていた。
 ヴィシアの出迎えを受け、軽く自己紹介と挨拶を済ませると、保管庫、作業場の案内をされる。
「‥‥他の場所へは行かない様にお願いします」
 その言葉に、興味津々と目を輝かせているパラーリア・ゲラー(eb2257)は出鼻を挫かれた様に肩を落とした。
 作業場に入るとオレノは手を止めて挨拶をする。しかし、すぐに作業に戻ってしまう。それを見るだけでも、作業に余裕がないのが伺え、冒険者達もすぐに作業に移る事にした。

●パラーリアの作業
 彼女の担当は書類の移動になる。
 溜め込むと持ち運びも面倒だが、何より気が滅入る。テキパキと動き、保管庫へと運んで行く。
 また、食事の合間。頃合を見計らって休憩時間を設ける様に提案し、飲み物や菓子を給仕した。

●フレイアの作業
「魔法の種類によって難しい物などはあるのでしょうか?」
 ゲルマン語の代筆をしながら、フレイアはオレノに問いかける。
「特にはありませんね。ただ、その魔法に対する知識がないと難しいかとは思います‥‥例えば、これは作れませんが、私は神聖魔法の殆どは名前しか知りませんので、効果も知りません」
 覚えておきたいとは思いますが、と付け足したところでフレイアの元に更なる書類の山が運ばれて来る。軽い目眩を覚えながらも、彼女はそれらと格闘を始めるのであった。

●ジルの作業
「‥‥竜語は?」
「それは、代筆以前に稀少過ぎる気がするわね‥‥」
 イギリス語が得意な彼女は、そちらの代筆を担当する事になった。流石に言語研究施設と言うだけあって、様々な文字の書類がある。
 彼女の質問に苦笑を見せたヴィシアだったが、もしそういう事があったらお願いするかもとだけ言い残して、自分の作業へと戻っていった。
 ゲルマン語以外での代筆はそこまで数も多くなく、日程途中で作業は終わる。ジルは予め後回しにして貰っていた高所への書類の移動を保管庫にて行う事にした。

●リオの作業
「――こちらへは就職など出来ますでしょうか?」
 魔法用スクロールの補充をしに来たヴィシアに問いかける。意表を突かれた様に目を丸くしていたヴィシアは、静かに首を振る。
「今のところは‥‥今後は判らないけどね」
 リオの技術は確かに高い‥‥が、まだまだ専門的な作成には不安が残る事もあり、難しい文字列の書き込みはヴィシアやオレノが行い、残りの簡易な箇所を書き込むなどの補助的な作業を主に行う事になった。
 たまに失敗する事もあり、一から書き直す事もあったが、それでも作業自体の速度は上がった。

●ハロルドの作業
 ハロルドは豊富な言語知識を持ち、中でも稀な古代語の知識を持っていた事から、遺物などからの簡単な転写作業を主に、代筆などを行う。
 単語単語の組み合わせを理解するのが精一杯ではあるが、それらを転写し詳しい表現などはオレノやヴィシアから師事を受けて文章にしていく。
 精霊碑文と同じく、非常に難解な作業であるが故に、時折自己の思考力を上げての作業を進めていった。

●ローラの作業
「技術者の人員が不足しているのでありますか?」
 実質オレノとヴィシアの二人しか作業に関わっていない様子を見受け、保管庫への運搬の途中にヴィシアに会うと問う。
「居ない訳でもないけれど‥‥まぁ、事情があるの」
「‥‥了解したであります」
 言いよどむ彼女に、ローラは深く詮索するのを止め、己の責務を全うする事に専念する事にした。
 彼女は保管庫での分類と保管を主にし、運ばれてくる書類やスクロールを所定の場所へ移し、丁寧に陳列していくのであった。

●弛まぬ努力
 依頼の期間は終了したが、冒険者達は未だ施設に居た。
 皆が高速の移動手段を持っているせいもあり、残って作業を続けていたのである。各々の分担や、その甲斐もあり、予定していた作業の大半を終わらせると、オレノやヴィシアも緊張を解いて一息つく。
「皆さん、予定を過ぎているのに残って戴いて、有難う御座いました。お蔭様で納期には間に合いそうです」
 冒険者達も安殿息を零す。その中でリオは未だ机に向かっていた。当初より考えていたスクロールに挑戦する為である。
 しかし、リオは魔法用スクロールを持参しておらず、作業とは関係がない事からか、施設の物を買い取る形で挑戦する事になった。
 ――一日かけて挑戦してみるが、結果は思わしくなかった。
「私達でもその等級のスクロールは滅多に出来ません。気を落とさずに」
 施設としては個人の作成には関わる事も出来ず、見守っていたオレノからそんな言葉がかけられた。
 リオの作業が終了すると、机に向かっての作業続きで埃っぽくなっていた部屋をハロルドはスクロールを用いて空気を入れ替える。勿論書類等を片付けた後に。
 そして冒険者達が帰路につく際、二人からお礼にと各自が希望したスクロールを手渡される。
「在庫の関係もあって、全部希望通りにいかなくてごめんなさいね」
「いえ、貴重な物で出来る限り希望に沿う物を譲って戴けたのです。十分過ぎますよ」
「そうだよ〜、感謝感謝〜」
 ヴィシアの言葉にそう返事をし、改めて二人に礼と挨拶を済ませると、冒険者達はキエフへの道を急ぐのであった。