【儚き薔薇】留めるもの

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月27日〜06月02日

リプレイ公開日:2009年08月07日

●オープニング

「いつも有難う御座います」
 窓辺に備えられたベッド。色白‥‥と言うには少々白過ぎる女性シーアの礼を受け、男は首を振ると部屋を出る。
 居間に類する所へ男が戻ると、椅子に座っていた彼女の両親は神妙な面持ちで男を見返す。
 男は軽く首を振る。
 何度も、何年も続けられたやり取りであった。
「済みません、僕の力が足りずに‥‥」
「先生のせいではありません。御自分を責めずに」
 自責の念を零した男に、曇った表情のまま父親は告げる。
「済みません‥‥ですが、彼女に生きる意志がある以上は、僕も全力を尽くします」
 そっと彼女の部屋へ視線を移しながら言う。
 彼女は不治の病であり、彼は病気の進行を緩やかにしているに過ぎない。
 医者としての使命、などと言うつもりはなかった。ただ、自分に出来る事があるならば、それをやっておきたかったのだ。
 彼の言葉を聞いた両親は、静かに頭を下げた。
「何か出来る事はありませんか?」
「ええ‥‥実はある薬が不足してきています。少々手に入れるのが難しいので、つてで譲って戴く様に手紙を送ったのですが‥‥」
 父親の進言に頷くと、男は話を始める。
 知り合いの医者に頼んだ薬は見つかったが、道則が険しい事と、自分が長い間離れては、何かがあった時に対処が出来ないと告げる。
「そこで、冒険者ギルドに依頼をして、薬の輸送をお願いして戴きたいのです」
 万一の事があって、薬が届かないと大変であり、男がその旨を説明すると、両親もそれに応じてくれた。

 翌日、家の者が冒険者ギルドへと向かうのであった。

●今回の参加者

 eb5612 キリル・ファミーリヤ(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec3546 ラルフェン・シュスト(36歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4004 ルネ・クライン(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec4935 緋村 櫻(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

エレイン・アンフィニー(ec4252)/ 彩 凛華(ec5071)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115

●リプレイ本文


「それでは‥‥宜しくお願いします」
 冒険者達はノウェル家に到着すると依頼主である両親と医者に挨拶をする。
 医者――アルスレイより伝書となる羊皮紙、順路を示した地図。そして薬の代金を受け取ると、ルネ・クライン(ec4004)は布で包み、体に巻くとそのままマントを羽織る。
「薬は陶器製の小瓶に入っていますので、衝撃には十分注意して下さい」
 彼の説明を受けると一同頷き、各々準備を整えていく。


 目的地への道則を進む冒険者達。気持ちの上では急ぎたいところだが、挙動不審になれば賊からの格好の的にもなる。加えて道の悪さもあり、開拓された街道でない為に獣の襲撃も考えられた。
 様々な要因から、一同はやや急ぎ足といった速度で足並みを揃えて歩む。ラルフェン・シュスト(ec3546)は地理を記憶し、緋村櫻(ec4935)は常に周囲を警戒していた。
 特に問題もないまま、陽が沈んだところで一行は野営の準備を始める。
「皆で協力して、手早く終わらせましょう」
 歩き通しで多少疲れの色が見え始めていたところを、キリル・ファミーリヤ(eb5612)は励ましつつ作業に入る。程なくテントの設営、食事の準備が整う。
「‥‥確かに悪路だよな。歩くのも楽じゃない」
「ですが、その分人通りがないせいもあって、足跡などは極僅かですね。獣の類のものくらいしか見当たりませんでしたし」
 ラルフェンの言葉に続く様に櫻は言う。彼もまたオーラテレパスを用い、愛犬であるリコッタを介してそれには気が付いていた。
「ここまでは、何事もなく‥‥目測では明日の夜には目的地ですね。帰りこそ、僕達が本当に必要とされたところでしょう。気を引き締めて行きましょう」
「お薬を渡すまでが依頼ですからね」
 地図に視線を落としていたキリルは顔を上げて、皆を見回す。櫻が微笑みながらそれに応じると、ラルフェン達もまた頷いた。
 その後、一通りの情報と談笑を交わした後、交代で見張りを立て、その日を終えた。


 夜が明け、道則を進む冒険者達は、林道へと差し込む。
「ここから先は更に道が悪そうですね‥‥」
 そう呟きながらもざっと奥を伺う。森と比べれば軽いものの、それら特有の静寂とひやりとした空気があった。
「賊にしても、獣にしても、こういったところが一番注意しないといけないな」
 ラルフェンは一同に目配せをしながら言うと、他の者も察した様に頷いた。

「ん‥‥これは」
 半刻程歩いたところで、櫻は足を止め茂みの前で屈み込んだ。他の者達も何事かと近付いてくる。
「詳しくは判りませんが‥‥恐らく獣用の罠かと思われます」
「賊です――ね」
 近くに集落や村など、人の住む環境は地図からは見受けられない。キリルの疑問は終わる前に確信に変わった。遠巻きにこちらの様子を伺っていたであろう人影が遠ざかる様子が視界に入る。
「仲間を呼びに行ったのだろうが、今は構っている場合でもないな。急ぐか」
 各々、武器を手に持つと、そのまま駆け出す。
 進むにつれ徐々に増える追手を振り払い、林の出口に差し掛かったところで、彼らは足を止めた。
「待ち伏せされましたか‥‥」
 ふっと息を吐くと、キリルはそのまま構えを取った。櫻は背後を守り、ラルフェンはルネの前に出る様にして構えた。
 一斉に襲い掛かってくる盗賊達だったが、程なくその勢いは断たれる事となる。力量の差が大きかったせいである。
「ちっ‥‥こいつら駆け出しじゃねぇな。おい、おめぇらズラかるぞ!」
 リーダー格と思わしき男の一声を受けると、彼らは散り散りにその場を離れていく。
「昏倒している者は置き去りですか‥‥」
 倒れている者達に一瞥をくれると、櫻は溜息混じりに呟いた。

 その後の道則は順調で、夜も深くなる頃には、冒険者達は目的地へと到着していた。小さな村であったせいもあり、住民に話を聞くと、すんなりと医者の住居も判明した。
「――確かにアルスレイの字ですね、遠路はるばるお疲れ様でした。生憎と皆様にお貸し出来る寝所がありませんので、居間でお休み戴く事になりますが‥‥」
 初老の男性は伝書を読み終えると、冒険者達を中に通して言う。
 夜間に動き回るのは得策でないという意見もあり、冒険者達は医者の厚意に甘える事にした。


 翌朝、医者から薬と返事だと思われる伝書を受け取ると、伝書の時と同様にルネは布に巻いてマントを羽織った。
「途中の林には盗賊も住み着いていますので、十分注意して下さい」
 その言葉に苦笑いを浮かべた冒険者達に経緯を聞くと医者もまた苦笑を浮かべた。
「では、心配には及ばないと思いますが、くれぐれも‥‥」
 彼らは医者に丁重にお礼をすると、村を出発した。

「何だか拍子抜けだな‥‥」
 林を抜けたところで、ラルフェンは後ろを見ながら言う。
 帰りは態勢を整えて襲ってくるとばかり思っていた盗賊も、姿すら見せず終いだったのである。
「先も急ぐから、足止めされないだけ良いと考えましょう」
 ルネの言う事も尤もであり、彼らは再び歩を進める。
 一度通った道であるせいもあって、注意や警戒をする場所を把握出来ていた一行は、ある程度の余裕を持って進行する事が出来た。
 外に出られないシーアの為にと風景のスケッチや花摘みをとの意見があり、陽が落ち始める前に野営の準備をして思い思いの行動を起こす。
「余り得意ではありませんが‥‥」
「まあ‥‥こういうのは気持ちの問題だしな。俺もこんなものさ」
 風景を描き込んでいたキリルのところにラルフェンが歩み寄る。彼もまた自分の描いたものを見せると微笑んで返す。
「こっちにも綺麗な花があったわ」
 ルネと櫻は花摘みである。見た目重視のルネに対し、植物の知識には多少心得のある櫻がついてまわり、花を見つけては一喜一憂していた。
「‥‥あれには混ざれないな」
 その様子を見ていたラルフェンは苦笑しながらぼそりと呟く。キリルも全くの同意見であった。


 翌日。昼を過ぎた頃に、ノウェル家へ到着した冒険者達は、両親と医者のアルスレイに出迎えられる。僅かとは言え、予定よりも早い帰還に、誠意を感じた両親は、一行を手厚く歓迎してくれた。
「――はい、確かに受け取りました。処方と伝書の確認をして来ますので、僕は少し席を外しますね」
 そう言って、アルスレイは部屋を出ようとしたところ、冒険者達からシーアとの面会を求められる。
 両親の立会いの下で、かつ問題がある場合は両親の意見を聞く事を条件にして、アルスレイからの了承を得ると、シーアの部屋へと向かう事になった。
 まず両親が部屋に入り、暫くした後、中へと通される。
「ごきげんよう、皆さん。この様な姿での挨拶で申し訳ありません」
 やや掠れているが、良く通る声でシーアは冒険者と向き合う。続けて、今回の事に対するお礼を丁寧に告げてくる。
 その後、冒険者達は自分の冒険談や、雑談をして彼女にとって言わば外界と言える話に花が咲く。冒険者達からは、シーアを着飾ってとの提案もあったが、時間もかかる上に体力の消耗も激しいので、それは両親の承諾が得られなかった。元より駄目でも仕方がないのを理解していた冒険者達は、代わりに持参したスケッチや花を渡し、またそれについての話で盛り上がるのであった。
 折を見て、ラルフェンが持参した笛の演奏を始める。穏やかな楽曲でそれが流れている間に微笑んでいるシーアの肖像画を描くキリル。曲が終わる頃には陽も沈み始めたので、滋養のあるものをと、母親と共にルネは食事を作り、皆に振舞った。
「皆さんこの度は本当に有難う御座いました」
 時間はあっという間に過ぎ、夜の帳が落ちてきていた。シーアが笑顔でお礼を告げると、続けて両親、アルスレイもまた感謝の念を送る。
「この地は優しい、良い国ですね。シーアさんもお元気になられて是非、私の祖国に遊びにいらして下さいな」
 櫻の言葉に、彼女は笑顔で頷き、その笑顔に見送られ、冒険者達は彼女の部屋を後にした。
 居間に戻ると、両親に各々が持参品を手渡す。
「また機会があれば伺わせて戴きますね」
 挨拶の後、キリルがそう言うと、皆も一様に頷いた。
 そして両親、アルスレイの見送りを受けると、彼らは冒険者ギルドへ戻るのであった。