春の風に歌を乗せて

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月19日〜04月24日

リプレイ公開日:2008年04月28日

●オープニング

 春。極寒のキエフにも、稀に春の陽気が差し込み暖かな日がある。
 そんな日和には最近決まってキエフ界隈に響く歌声があった。
 時に軽快に、時に穏やかに紡がれるその歌は、朝の気だるさを晴らしてくれたり、落ち込んだ気分を払拭してくれたりもした。
 しかし、良い事ばかりでもなかった。
 日によっては歌を聴いた後は気分が沈んだり、やる気が削がれたりする事が起こる様になったのだ。
 影響を受けた者達の中では、歌の主を探そうとする者も出てきたが、目撃した人は居るものの直接会話をした者は居なかった。
 また、目撃した人の話ではローブで体を覆っており、どういう容姿なのかも判らなかったそうである。
 ‥‥ただ、その体躯からか、シフールであろう事だけは判った。

 数日後、冒険者ギルドに二人の男が依頼をしに来た。
 一人はその歌声に聞き惚れ、是非一目会いたいと言う者達の代表、一人は被害を受けた者達の代表で、説得をして悪戯を辞めさせるか、捕まえて欲しいとの事であった。
 ギルド受付の女性は考えた末、両者に説明をして、二つの依頼を一つの依頼として扱う事にした。
「その歌い手のシフールと思われる方にお会い出来れば宜しいですね?」
 ギルド員の提案に同意すると、依頼人達は帰って行く。
 彼女は苦笑と溜息を一つした後、依頼書への書き込みを再開した。

●今回の参加者

 eb2519 左 玉命(21歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 ec0298 ユリア・サフィーナ(30歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ec0854 ルイーザ・ベルディーニ(32歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec4794 バアトル・アスラハル(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec4800 ルゥン・レダ(31歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

●聞き込み
 冒険者ギルドから少し離れた広場。そこに冒険者達の姿があった。
「シフールは探すの大変だけど…まずは情報収集だにゃー!」
 ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)は拳を高らかに挙げて檄を飛ばす。おー! と目一杯手を挙げて応じるのはシャリン・シャラン(eb3232)である。彼女の隣で妖精が真似をしているのが妙に微笑ましかった。
「そうですね。いきなり会う事は偶然でなければ少し難しいでしょうし、二手か三手に分かれて情報を集めましょう」
 ユリア・サフィーナ(ec0298)の提案もあり、皆で相談をした結果三組で動く事になった。

「ルゥンさんは冒険者になって間もないのかな? 僕も依頼は初めてなんだ」
 左玉命(eb2519)の問いかけにルゥン・レダ(ec4800)は頷く。キエフで一般的に使われるゲルマン語を話せないルゥンは、どの言語でもそれなりに話せる玉命と同行出来たのは幸いであった。
 駆け出しの冒険者にはギルドの依頼も目新しい。二人は歓談に時を過ごしながら街道を歩き廻る。
 シフールであろう事は判って居たが、ローブだけでは判り辛いので、容姿の情報を集める事に努める。
 既に依頼者の関係者に散々聞かれたのか、いくらか話を聞けなかったところもあったが、根気良く家々を廻っていく。
「冒険者も楽じゃないね〜‥‥」
 陽が落ち掛けた頃、へたり込んだルゥンは呟くのであった。

「まあ、歌声を聴いたって奴らから聞き込みだな。時期、時間が判れば探し易いだろ」
「歌って廻ってるなら探し出すのは難しくないと思うけど‥‥まあ、やれるだけやりましょ」
 ゴールド・ストームの言葉に多少難色を示したシャリンだったが、歌っている者を全て探して廻っては時間もかかるという結論に達し、調査をして廻る事になる。
 移動をしながら歌っているのは間違いない様で、同じ地域の住民でも聞こえた歌が聞こえた時間に差がある事が判る。
 しかし、大きな差と呼べるものではない事から、その移動速度は決して早いものではない。
「歌が聞こえてからすぐ探せば、見付けられそうね」
 ゴールドは聞いて廻った情報を羊皮紙に書き込みながら頷く。簡易的な地図を描き、シフールが現れた時間と場所を書いていくが、余り法則性はない気がしてならなかった。

「――やーっぱりこういうのは詳しい人に聞くのが一番にゃー」
 恐らく他の皆も似た様な情報が集まるだろうと、住民への聞き込みを早々に切り上げ、依頼人を訪ねる事にしたユリアとルイーザ。
 向かった先はシフールに好意的な方である。
「あの歌は素晴しい。たまには調子が悪かったり気分が乗らないときもあるでしょうが、そんなのは些細な事です。透き通る様な歌声と旋律、そしてそれが実に心地良い! あなた方も聞いてみれば判ると思います、是非聞いて下さい、そう是非!」
 二人は呆然と立ち尽くしてそれを聞いていた。我に返ると乾いた笑いのまま礼を言ってその場を立ち去る。
(「い、息継ぎしてなかったにゃー‥‥)」
「‥‥鬼気迫る印象を受けましたが‥‥」
 その後、二人目の聞き込みを済ませた後。ユリアとルイーザは好意的な側の聞き込みは止めておこうと心に誓う事になった。夕闇の中、ルイーザはしゃがみ込む。
「あたしに膝を着かせるとは‥‥やるにゃー」
 見ればユリアもまたぐったりとしていた。
 二人は心労で重くなった体を引き摺りつつ、情報交換をする為に集合場所へ戻るのであった。

●続く聞き込み
 二日目。三人ずつで二組に分かれての情報収集になった‥‥正確には片方は二人+一匹だったが。
 シャリンとルイーザは、被害側の依頼人を訪れる‥‥念の為に比較的穏やかそうな人を選んで。
「まぁ、私はそこまで被害と呼べるものでもないのだけれど‥‥決まった時間ならまだ良いのよ‥‥歌を聞くと子供が起きてしまうの」
 話を聞きに行った女性はそう呟きながら後ろを向く。見ればまだ幼い子供が昼寝をしていた。動き疲れて眠っている間は、母親にとっては他に色々と着手する時間である‥‥彼女の言い分も納得出来る部分はあった。
「それに、歌によってはその後が凄く気分が滅入ってしまう事もあって‥‥」
 今迄の報告や話から考えるに、やはり月の精霊魔法であるメロディーを使って歌っているのは間違いない様だ。
 その時に何か気付いた事がないか尋ねると、彼女は思い出した様に天候が良くない日が多かったと告げてきた。手がかりになるかも知れないと、二人はその後もその点に注視して聞き込みを続けるのであった。

 そして――二人の新米冒険者と一人の引率者の様相となったもう一組。
 容姿がいまだはっきりとしないので、目撃者に話を聞いて廻っていくが、余り重要な情報もなく、やや途方に暮れる空気が流れていた。
 やはり何度も聞かれている住人も多く、話を聞けないところもあったが、足繁く聞き込みに廻る事でいくらか情報を得ていった。
 そして――。
「ああ、例の歌の主か? 実は――誰も信じないと思って言ってなかったんだが‥‥」
 男性の話によると、良い歌だったんで、見た時に握手でもして貰おうと思って手を出したが、その手がすり抜けたのだと言う。
 姿はそこにあるのだが、動きもなく声もなかったらしく、暫くするとその姿も霧の様に消えてしまったそうである。
「幻影を使うのでしょうか‥‥」
 月の魔法には確かそういうものもあった事を思い出すユリア。だが、ルゥンには良く判っていない様で小首を傾げていた。

●シフールを追って
 夜、全員が集まり情報を纏める。
「天候によって歌の効果が偏ってるのは間違いないにゃー」
 羊皮紙を見ながらルイーザは言う。晴れた日は良い効果、曇った日は良くない効果。そして雨の日には出ていない。
「‥‥気分屋さんなのかも知れないね」
 玉命がぼそりと零す。その意見はあながち的外れでもないのかも知れなかった。実際、人の気分は天候で左右される事も少なくない。
「容姿ですが‥‥ローブ姿以外はやはり判りませんでした」
 幻影を見た人の証言から、被ったフードから覗いていた髪は赤である事くらいは判ったが、見分ける手はやはり歌になるだろうという事で落ち着く。
 粗方の調べが終わった事もあり、本格的にシフールを探す事に尽力する様にしてその日は解散になった。

「明け方はまだ寒いにゃー‥‥」
 朝と夕方に出没時間が集中している事から、夜明け前から見張りを始める冒険者達。
 情報収集をしていた二日間には、これといった動きがなかったせいもあり、そろそろ出る頃だろうと踏んでの事である。
 各自は耳に神経を集中させる‥‥ふと弦楽器特有の篭った音が鼓膜を刺激した。冒険者達はほぼ同時に動き始めたが、いきなり迫って驚かせたりしない様にふらりと誘われて来たという印象を持たせる為、ゆっくりと歩みを進める。
 穏やかに音色が流れ、続けて歌声が聞こえてきた。
 ユリアは念の為に耳を手で覆う‥‥やはり歌声は聞こえてきた――メロディーだと確信するにはそれで十分だった。同時に気を引き締め、それに対する抵抗を試みながら再度歩みを始める。
「しふしふ〜♪」『しふ〜☆』
 一番最初に声をかけられる距離まで近付けたシャリンが挨拶をする。隣の妖精もそれを真似て続けた。
 声に気付くと、シフールははっとした様子で歌を止めて後退る。シャリンが笑顔のまま返事を待っていると、少しの間の後におずおずとした返事がくる。
 シャリン以外の冒険者は、シフールが見える範囲までくると、姿は出さずにその遣り取りを陰から見守り始めた。
「‥‥な、何か御用でしょうか?」
 ややおびえた口調でのシフールの問いかけに、シャリンは事情を説明する。
「事情は判りました‥‥道理で色んな人に声をかけられたわけです」
 話を聞いたシフールは困惑した様子を見せたが、暫く経つと肩を落として話を始める。他の冒険者達も、姿を見せても大丈夫だと判断してか、シフールの近くでそっと腰を降ろす。
 彼女は元々色々な国を旅して歌っていたのだと言う。だが、キエフに辿り着いて最初に歌っていた時に、歌の代価だとある旅人風の男性から楽器を譲って貰い、それで音を奏でながら歌う様になってから良く人に追われる様になったのだそうだ。
「その楽器は、今手に持ってるものかな?」
 玉命の問いに頷き、試しに弾きながら歌って貰うと、メロディーの効果があった。他の楽器で試して貰うと、同じ歌でもそれはなく、平静に聴く事が出来た。
 原因が楽器にあると判り、冒険者達は依頼人へ会う約束をとりつける。彼女も知らずにとは言え、人に迷惑をかけていた事を自覚出来たのか、快く承諾して貰う事が出来た。

●風に歌を乗せて
 最終日の朝。冒険者達の話を聞いて、依頼人達と関係者が広場に集まっていた。
 血気に逸る人が居ては大変だからとシフールを守る様に冒険者が立ち、事情を説明した。冒険者達の懸念は杞憂で済み、不可抗力である事が判ると、依頼人達の対応は柔らかいものであった。
 その後、お詫びとお礼を兼ねたシフールからの歌とそれに合わせて踊るシャリンやルゥン。心得がなくとも、手拍子で応える人々とで、広場は日が暮れるまで活気に包まれた。

 夜、冒険者達は依頼の報告に戻った時に、シフールや依頼人達からお礼が届けられていた事を知るのであった。