未来を担う者は?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:陵鷹人

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月22日〜04月29日

リプレイ公開日:2008年04月29日

●オープニング

 四月になり新しく春を向かえて、身の回りの整理をしている家があった。
「ほら、ちゃんと手伝って」
 母親が子供をたしなめるが、物置から出てくる普段見慣れない物が珍しいのか、そちらに興味を移してしまっていた。
 好奇心の旺盛な男の子では致し方がないと苦笑を浮かべると、母親は再び作業に戻るが‥‥すぐに手を止めた。
 物置の中には昨年亡くなった祖父の遺した物が少なからずあり、暫し思い出と感傷に浸る。
 若い頃は冒険者であった祖父――子供の頃、良く冒険談を聞いて心を躍らせたものである。
 中には意外な内容の話もあり、冒険者も色々な事をしているのだなぁと子供ながらに感心したものもあった。
 祖父は言葉にこそしなかったが、自分にも冒険者になって欲しかったのかも知れない‥‥だが、自分は暖かな家庭を作る事を選んだ。
「‥‥これは?」
 ふと意識を戻した時、風に当たった事で埃の一部が払われたのか、古ぼけた羊皮紙に気付いた。丁寧に落としてそれに目を通す‥‥祖父の字だった。
 文頭で宛は自分である事を確認すると、ゆっくりと文字を追っていく‥‥やはり祖父は自分に冒険者への道を期待していたのが見て取れた。
 そして、もしも冒険者を目指した時には、愛用していた道具を託すとあった。安置されている場所も記されていた。
 思い返して気付く――祖父の話は良く聞いていたが、実際どういう道具を使っていたのかは、話こそあれ、実物を見た事は殆どなかった事に。
 再び羊皮紙に視線を落とす。祖父は幼い自分が興味本位で触れて怪我をしない様に、また冒険者を目指した時に自分なりの試練として、道具を別の場所に安置したのであった。
 ‥‥頬を熱いものが伝った。祖父の心配りと、それに応えられなかった自分に。
「おかあさん‥‥?」
 母の様子に気付いたのか、息子が心配そうに顔を覗き込んできた。何でもないの、と涙を拭いながら答え、思う。
(「この子は、冒険者になりたいと言うかしら‥‥?」)
 子を見詰めてそんな思案がよぎるが、まだ幼い息子にそれを問う訳にもいかず、目を伏せる。

 数日後、冒険者ギルドに彼女の姿はあった。
「――判りました。その地‥‥洞窟の探索と調査ですね?」
「最深部にある筈の武具も含めた一人分の道具一式‥‥それだけは引き取りたいのです。他に品があるとは思いますが、それに関しては冒険者の皆様に一任致します」
 数日、夫と話し合った結論はそれであった。
 自分達の子がどういう道を歩むかは判らないが、血は争えないのかも知れない。何より、家で大切にしていきたかったのである。
 依頼を出し終えると、彼女は深々と頭を下げてギルドを後にした。 

●今回の参加者

 eb7780 クリスティン・バルツァー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec4660 ヴィクトール・ロマノフスキー(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec4664 マリナ・レクシュトゥム(32歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 ec4810 オルフェ・ガーランド(27歳・♂・神聖騎士・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970

●リプレイ本文

●道則は順調に
「‥‥眠い」
 キエフを出て二日目。陽は既に高く、歩きながらクリスティン・バルツァー(eb7780)はぼやく。
 一日目には何事もなく、順調に目的地への道則を進み、適度なところで野営を行った。
「一番最初の見張りなんだから、一番寝てるだろうが‥‥」
「まあまあ‥‥寝る子は育つと言いますし――わたくしとした事が‥‥忘れて下さい」
 やれやれと言った感じでぼそりと呟くヴィクトール・ロマノフスキー(ec4660)と、間に入った‥‥つもりが追い討ちをかけた形になったマリナ・レクシュトゥム(ec4664)であった。勿論クリスティンには聞こえていた様で睨み付けられる。両者は次からは心中で呟くだけにしておこうと心に誓うのであった。
「‥‥見えてきました。恐らくあれでしょうね」
 黙々と先頭を歩いていた陽小明(ec3096)が一旦足を止める。指差した先に見えるのは洞窟。
 冒険者の性か、そういうものを見ると心躍るのは皆同じ様で、一行の歩調は早まっていった。

「良い子にしているのですよ?」
 オルフェ・ガーランド(ec4810)は丁度入り口の近くにあった木に手綱を括り付けると愛馬を撫でて言う。手綱は万一の事があれば解ける程度に締めておく。
「わたくしは殿ですね。皆さんの背後はお任せ下さい」
 小明を先頭として、他の者が全員入るのを確認すると、マリナは後に続いた。いつ遭遇戦になっても良い様に、彼女自身は明かりを持たず剣の柄に添えてある。
 幸いにも前を歩くヴィクトールやオルフェが最近冒険者の間でも話題になっているレミエラを装着しているせいか、弱いながらも光があるので、はぐれる心配はなさそうであった。
「ずっと気になっていたのだが、その光は目の良い相手からは見付かり易いのではないのか?」
「まぁ、その辺は状況次第だろうなぁ。洞窟内なら便利な方だろうし‥‥今回はお前さんも居るからな」
 策敵能力を信頼しているといったヴィクトールの返答にクリスティンは口篭る。「ふん、まあいい」と捨て台詞を残し、顔を背けたところで小明の手が伸びてきて続く者達の進行を制した。
 立ち止まった一同は目を凝らす。すると丸い緑色の物体が転がっているのが判る。
「面倒臭いのがいるな‥‥死にたくなかったら触れず揺らさずさっさと進む。これだな」
 もう一度絶対に触れるなと念を押すとヴィクトールは先を促した。良くは判らなかったが、いつになく真剣な彼に従い先に進む事にした。

 暫く洞窟を進んでいくと今度はクリスティンが立ち止まる。僅かに熱の反応があった為である。良く見れば明かりも漏れていて、慎重に奥に向かうにつれ、それは強くなっていく。
「これは‥‥外の光でしょうか」
 ふと零したオルフェの予想通り、そこは開けた場所で横穴があった。ただ、外には出れる様になっておらず、崖の側面に空気を通す為の穴がいくつか空けられたものであった。
「シフールでも通れるかどうかですね」
 穴を調べていたマリナの言葉にふとクリスティンに視線が集中したのであった‥‥。

 十分な広さがある事もあり、その場で野営の準備をする面々。出来れば洞窟の外で野営をしておきたかったが、途中にあったものを考え、何度も通るよりはとここを拠点にする事になる。
 先刻の一件の後、不機嫌そうにしていたクリスティンも、食事と酒を摂ると笑みが見られる様になっていた。
 その後は軽く雑談をし、二人ずつで行う見張りを加味して、各自早めに休んで次の日への負担を減らす。
「‥‥しかし、人の手を離れて久しい割りに――」
「それは‥‥わたくしも感じていました」
 クリスティンの意を汲んだ様にマリナは続ける。依頼人の祖父が亡くなってから一年。直前までここに通っていたとしても、荒廃が殆ど進んでいないのは不自然である。
 通路や途中いくつかあった罠も老朽化した感じはなく、手入れがされている様子だった。
 いくつか疑問を話し合ったところで、見張りの交代にとオルフェが起きてくる。マリナは夜に強いので、引き続き見張りをして次に交代する手筈になっていた。
 クリスティンは当然の様にテントに入ると、寝袋の用意を始める‥‥その後、物音に気付いて起きたヴィクトールとの遣り取りが、半刻程洞窟内に響き続ける事になる。

●疑問と成果
 全員の準備が整ったところで、本日の探索を開始する一行。
「やはり罠が新しい‥‥」
 手早く罠を解除したヴィクトールの手にあるものを見て呟く小明。
「む‥‥?」
 ふとクリスティンが皆を制し、指を立てて口に添える。何らかの音を察知したらしく、他の者達も息を潜めて彼女の動向を見守った。
「何かの鳴き声‥‥か? 五月蝿くて数までは判らんが、恐らく多いな」
 小声で皆に告げると、各自臨戦態勢に入り、陣形を整えて先に進んでいく。
 そして、部屋の様な空間になっている前まで来るとその姿が見えた。巨大な鼠が集会でもするかの様に固まって居たのである。
 刹那。足音に気付かれたか、数体の鼠がこちらに向き直り、一直線に駆け出してきた。小明はすかさず自身にオーラパワーをかけると、背後の者達の壁になる様に立ち塞がる。マリナも前に出ようとするが、通路が狭く、二人が動ける余裕はなかった。
「小明さんよ、距離稼いで戻ってくれ!」
 ヴィクトールは油を取り出すと地面に叩き付ける。その間にクリスティンはフレイムエリベイションをマリナにかけていた。
「‥‥破っ!」
 すっと後ろ足を引き一呼吸すると、一足飛びで間合いと詰めて足刀を入れる小明。威力は二の次の間合いを離す為のもの――そして、戻した足の反動で後ろへ二度、三度と飛び退くとヴィクトールはランタンを倒して地面の油に火をつけた。
 火を恐れて突進を止めた鼠を、小明の脇からヴィクトールは弓で射抜き、矢を番え直す間にはオルフェがホーリーを放った。何度目かの合間、意を決したかの様に鼠が火を飛び越えてきた。着地様に噛み付きかかってきた顎を気合と共に小明は蹴り上げた。やけにでかい音を立てて天井にぶつけられた鼠は、地面と衝突すると暫くしてその動きを止める。
 火の勢いが弱まってくると、再び油を敷き、火をつけて迎撃をする。鼠とは言え、流石に馬鹿ではなく‥‥段々と数に押されてきていた。
「ちっ‥‥魔法で一気にやれれば」
 忌々しそうに呟くクリスティン。こんなに狭い場所で自分の魔法を撃とうものなら、ここに居る全員が巻き込まれる可能性もあった。元々開けている場所以外で撃つ気はないが、数が多い相手への愚痴の様なものであった。
「よし、これなら!」
 三度目の放火で形勢は好転した。通路が広いところまで下がれたのである。待ってましたとばかりにマリナは小明に並び応戦を始める。一度に捌ける量が増えた事からか、その後数分で事は片付いた。
 そして、軽く休憩を取りつつ、態勢を整える。軽い怪我ではあったが、オルフェは念の為に小明とマリナにリカバーをかけ、マリナはそのオルフェに自らの魔力を与えた。
 ある程度落ち着くと、彼等は再び奥を目指す。鼠の群れと遭遇した小部屋程の空間まで辿り着くと、洞窟に不似合いな台が鎮座し、錠前が付けられた扉があった。だが、台の上には何もない。
「ん‥‥?」
 各自手分けして周囲を調べていると、小部屋の外に居た小明から声があがる。ややあって、戻って来た彼女は手にメイスを持っていた。死骸の下にあったのだと言う。
「ああ、それはきっとここだな」
 小明を促し、台の上にそれを置くと、側面が勝手に開く。中には丁寧に畳まれた黒い布があり、それを広げると軽い金属音と共に何かが零れ落ちる――拾い上げるとそれは鍵だった。ヴィクトールが錠前に嵌めると、難なくそれは外れる。
 扉を開ける前に全員は臨戦態勢を取ったが、扉を引くと同時に一同は肩を竦めた。何事もなかった――どころか、ここが目的の場所であった。
「呆気ないものだな」
 依頼人の話にあった装備一式を眺め、誰ともなく呟く。
「‥‥本当にこれでしょうか?」
 実際に手に取って調べていたマリナが疑問に思うのも尤もで、安置してあった装備は少し値は張るとは言え、普通に売られているものであったからである。確認の為に彼女は剣を鞘から抜く‥‥何の変哲もないロングソードだった。
「これは‥‥」
 マリナが剣を抜いた際に地に落ちた羊皮紙をオルフェが拾うと、そこに何か書かれていた。
「意志を継ぐ者、ここにこれを残せ‥‥何でしょうか?」
 暫く皆で相談をし、言葉は依頼人に伝え、これは残す事になった。そして、そこにあった装備一式と、いくつかの品を分担してバックパックに詰める。
「大丈夫、これくらいならば持てますよ」
 重量を危惧したオルフェにマリナは笑って答えた。

●継ぐもの、継がれるもの
 行きも帰りも一本道。迷う事なく来た道を戻り、数日後依頼人の下へ到着した。
 安置してあった装備一式、そして他の品を依頼人に渡した後、冒険者達の問いに依頼人は答える。
「これで合ってます。実に祖父らしい――良く言っていました。身に付ける物よりも、自身に付ける経験と心を持てと‥‥」
 懐かしむその目には涙が蓄えられる。
「‥‥祖父殿は確かに冒険者になって欲しかったかもしれない――が、貴女が幸せなら祖父殿も喜んでいる筈。だから、悔やむことはない。」
「そうですよ。今こうして暮らしている事、そしてこの品と子供。これを大切にする事でおじいさんも浮かばれるでしょう」
 小明、オルフェの言葉に、彼女は泣き笑いのまま頷いた。

 一式以外で持ち帰った品々はそれぞれの用途に応じて分けられた。
 冒険者達は彼女の祖父の冒険談を聞いた後、羊皮紙の話をする。
「残す様にあったのなら、それで良かったのです」
 ‥‥という返事。そして先人の言葉を胸に、冒険者ギルドへ報告に戻るのであった。