軟体地獄
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:陵鷹人
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 32 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月05日〜06月11日
リプレイ公開日:2008年06月13日
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●オープニング
昼下がりの気怠い空気に眠気に誘われ、受付の女性は欠伸をした後、我に返ってかぶりを振った。
――しかし、一時凌ぎにしかならず、こくこくと船を漕ぎ始める。
一際大きく頭が下がったところで、示し合わせたかの様に入口の扉が勢い良く開いた。
「――はっ!?」
慌てて姿勢を正して前を見ると音の主は扉の前で崩れ落ちていた。
「はわわわ‥だ、大丈夫ですか?」
受付の女性は駆け寄ると、女性を覗き込もうとして身を屈めたが、動きが止まる――なんと言うか、目のやり場に困った。
風体を見る限り、冒険者と見受けられる女性は、衣服の所々が焦げた様に欠け、肌が露になっていた。
「依頼を‥‥仲間を‥‥」
受付の女性があわあわと声をあげながら右往左往していると、やがて意識を戻して呟き、そして再び床に突っ伏した。
数刻後、気が付いた冒険者はせめてもの配慮か毛布を羽織ってカウンターの隅に居た。
何処か焦点が合わない目で湯気の出る容器を見つめていると、受付の女性が戻って来た。
「落ち着かれましたかー?」
受付の問いに頷くと、彼女は話を始める。
「私の名前はダーニャ。今日頼みたいのは、仲間の救出」
ギルド員が頷くとそのまま話を続ける。彼女達は旅をしている途中、ある村に立ち寄った。そこで、近くの遺跡にモンスターが出て困っていると住民に頼まれて調査と退治に行っていたのである。
いざ遺跡に到着してみると、住民の話からは聞かなかった軟体なモンスターが多く遺跡内にはびこり、しかも普段生息地が違うものまで大量に居たのだと言う。
「対策が出来ていればある程度どうにかなったのだけど‥‥」
ダーニャは苦渋の表情でそうこぼす。
遺跡内で孤立し、進退も困難になってきたが、仲間と話し合った結果、彼女が冒険者ギルドに依頼を出しに行き、仲間達は到着まで凌ぐ事になったのである。
こうしている間にも仲間の身を案じてか、ダーニャはどこか落ち着かない様子を見せる。
「判りました。詳しい順路や状況なども冒険者さん方に説明するので、お願いしますね」
「いや、私も同行するから大丈夫よ」
ダーニャの台詞にギルド員の女性は驚いて後ずさった。
「‥‥ちゃんと着替えるわよ」
彼女が何を意図したのかを察するとそう呟くのであった。
●リプレイ本文
●疾走
キエフを出て半日。ダーニャと冒険者達は脇目も振らず道を突き進んでいた。
だが、疲労を緩和する履物を持参していた冒険者達ではあったが、流石に無休で走り続けた事で多少なりとも疲れが見える様になってきた。アクエリア・ルティス(eb7789)の馬も疲労の色が見える。
「‥‥休憩にするか」
先頭を走っていたエムシ(eb5180)は歩を緩めて告げる。続く様に他の面々も足を止め、休憩を取る準備を始める。
「半日でこの距離が稼げるとはね‥‥」
丁度良い岩に腰を降ろしたダーニャは、足に視線を落とす――アクアが貸した靴である。
「便利な反面、頼り過ぎに注意しないといけないのですぅ」
やや間延びした口調で野村小鳥(ea0547)はうんうんと頷く。確かに彼女の言う事も一理ある。便利なものは時に諸刃の剣なのかも知れない‥‥誰となく、そんな空気が包む。
それを払拭する様にジュラ・オ・コネル(eb5763)はすくっと立ち上が‥‥っている様には見えないが、ともかく立ち上がると、一同をざっと見渡した後に道の先を見据えた。
その姿が気になってはいるが、突っ込んだら負けなのかも知れないと、ダーニャは自分でも良く判らない何かによって出掛かった言葉を飲み込むと、既に準備の整った冒険者達に続くのであった。
●思いを馳せ
陽が沈むまで走り抜けたところで、一行は野営に取り掛かる。幸い適した場所をジュラが気にかけつつ進行していたので、準備に苦労はなかった。
エムシが周囲の警戒をし、小鳥は食事の準備。他の3人はテントの設営をする。ダーニャも冒険者であるからか、その辺りの作業は手馴れている様で、程なく食事を摂る事になった。
「好みとか判らなかったので、無難に普通の保存食を使ったですぅ。美味しいもの食べて体力をつけるのですよぉー♪」
小鳥の腕は確かであり、ただ保存食をかじるのとは一味も二味も違った。皆は談笑をしつつ、美味しい料理に舌鼓を打つ。
和やかな空気ではあったが、何処か憂いを帯びたダーニャの素振りに気付いていたエムシ――だが、それについては何も言わない事にした。仲間が心配なのは当たり前の事だからだ。
代わりに仲間の話を聞く事にする。遺跡に残るのは全部で3人で、一人は足に怪我を負ったらしく、他の二人が凌ぐ間にダーニャが助けを連れて戻る事になったのだと言う。
程なく順番に睡眠を取る事になり、エムシとアクアが見張りに残る事になった。
「お互い、背伸びした依頼になったけど、頑張りましょうね」
随分経験も積んだし大丈夫、などと続けるアクア。対するエムシは少々返答に困りつつも、周囲への警戒は忘れずに行っていた。
そして、それぞれ見張りを交代していくうち、闇が薄くなっていくのであった。
●ジェルの巣窟
二日目は詳しい場所を知るダーニャが皆を率いて進む事になる。昼を過ぎた辺りで、目的の遺跡が見えてくると、彼女はオーラセンサーを使う‥‥が、反応はない。
「まだ距離が効果範囲外なのかもな」
入り組んだ通路で防戦しつつであれば、同じところに居る事も少ない。判断を下すにはまだ早いと、ジュラはダーニャの肩を叩く。
脱出する事だけを考えて無我夢中で走り回って出たダーニャ、内部の構造は詳しく覚えて居ないらしく、生息していたモンスターの情報だけであった。
冒険者達はそれぞれ準備をし、なるべく近付かない戦法でいく事を共通認識として遺跡に足を踏み入れた。
エムシとジュラ、ダーニャ、小鳥とアクアという配置で通路を進む。すると程なく、およそこういった遺跡には不釣合いな緑色の物体が宙に浮いて蠢いているのが見えた。
「これをお見舞いしてやる!」
「あれは‥‥って、えぇぇ!?」
アクアが何か言おうとしたのとほぼ同時に、ジュラはその場で気合と共に剣を振り下ろした。まさにあっと言う間にそれは真っ二つになって床に落ちると、液体の様に伸び広がった。
「‥‥ん?」
涼しい顔で振り向くジュラに、アクアは口をぱくぱくとさせた後、吹っ切れたかの様にオーラエリベイションを唱えた。
(「でも‥‥ダーニャの言う通り‥‥こんな所に何でこのジェルが‥‥)」
思案は尽きないが、今は目の前の目的に集中しようと、気持ちを切り替えた。
更に先に進み、いくつ目かの分岐した通路の手前で一行は立ち止まる。決して広くはないが、開けた空間になっていたのもあり、各々は僅かな休憩を取る。
道筋の目印を確認していたエムシは、広間を見回り始めると、違和感を覚える――壁に飾ってある鉄製の彫り物。今迄の通路が殺風景であっただけに、余計に不自然であった。
触れてみようとした瞬間、それはぐにゃりと形を崩して彼の腕に纏わり着いた。
「ちっ‥‥!」
咄嗟に腕を振るが、ジェルは腕から離れない。下手に斬り込む事も出来ずにいると、小鳥のオーラショットがそれを貫いた。致命傷まではいかなかったが、引き剥がす事には成功する。続け様に彼の斬撃を受け、ジェルは以後の活動が出来ない物体へと変化する。
「‥‥不用意だったか」
「応急手当だけですけどぉ‥‥」
対処が早かったせいか、彼の腕は軽い火傷程度で済み、その部分の衣服が溶けたくらいで済んだ。小鳥は不恰好に残った袖を少し千切ると、包帯代わりに腕に巻きつける。
そして、良くも悪くもこの一件が皆の慎重さを増す事になり、その後は不意打ちにも合わずに進む事が出来た。
その後一行は切りの良いところで遺跡外へ出る。内部での野営は危険であると判断したのである。
●脱出
翌日。早くに移動を開始し、前日踏破した位置まではさした障害もなく到達する。
「――居たわ、あっちよ!」
定期的にオーラセンサーを行っていたダーニャが声をあげる。
「よし、急ぐぞ」
皆一斉に駆け出す。
暫く進んで行くとダーニャは見知った人影を捉えた。
「イーガルっ‥‥良かった、無事――」
そう言って駆け寄ろうとした直後、彼女はぴたりと動きを止めて冒険者達に振り返る。そして、指をくるくると廻して見せた。
「‥‥後ろを向いてろ。俺が行く」
つまりはそういう事らしく、暫くするとエムシの声を受けてから、女性陣は合流する事になった。
「いやー、参った参った。手間ぁかけたな」
毛布を腰に巻いた大柄の男――イーガルは苦笑いを浮かべながら言う。
「目の毒でした‥‥あ、私はレイムって言います。お世話をかけまして‥‥」
ダーニャの肩を借り、彼を横目で恨めしげに見ていた女性は愚痴を零した後、冒険者に挨拶をした。足を引き摺っている事から、彼女が動けなかった人物であろう事は判るが‥‥。
「あれ? もう一方はどうされましたぁ?」
ダーニャの話を思い返した小鳥の言葉に、彼女も我に返った様に周囲を見渡す。
動揺の色を察し、イーガルはダーニャと数日違いで村の方へ助けを呼びに行って貰った事を告げる。彼らの中で一番隠密行動に長けた人物らしく、恐らくは問題ないであろうと、ひとまずの安堵を得る。
長居は無用と、イーガル達の話や、冒険者達がこれまで遭遇してきた話を纏めながら、退路を進んで行く。やはり通常一箇所に集まる様なものではないジェル類が混在しているのは間違いないらしく、作為的なものを感じるのは全員が同じ結論であった。
順調に通路を進んでいたが、ふとエムシが皆を制する。眼前には広間。彼が油の壷を投げ込むと、次の瞬間黒ずんだ緑の物体が床に落ちてきた。
瞬間的に構えを取り、ダーニャ達の前に出る冒険者達――だが、それが逆効果になった。
「やばっ! 動くと――」
「きゃわ!?」
アクアが特徴を見て何かを言いかけたが、相手の攻撃の方が早かった。酸を次々と飛ばしてきたのである。
ジュラとエムシは素早く反応して、それを避けると間合いを詰める。そしてジュラは駆け込みながらレミエラを発動させ、回避に集中する。
「食らえ! ――今日は顔色がすぐれませんね」
「そのお見舞い!?」
言葉を理解しているのか、ただレミエラの効果なのか、モンスターは挑発しつつ動き回るジュラを狙い続ける。
小鳥はオーラショットを放ち、エムシが両手の武器で斬り込む。幾分か削り取れてきたところで、アクアは距離と間を計って剣を据えたまま突進していった。
そして攻撃の手が緩んだところを見計らって、ジュラは剣撃を衝撃波にして放つ。
1m以上もあったそれは、次第に細切れになり、そして完全に原型を留めなくなった頃、動かなくなった。
「――終わり?」
緊張が解け、ふっと息をついた一同。互いの無事を確認しようと見回した時、空気が凍りついた。
「はぅ!? こっちは見ないでくださいぃ!」
「み、見るなあ!」
「‥‥かぴばら‥‥少し溶けた」
「‥‥‥‥」
動き出した時間と共に、遺跡内に反響した各々の声が響き渡るのであった。
●一先ずの解決
遺跡を出た一行は、移動時間を稼げる為、ぎりぎりまで残ってダーニャ達と話をしたり、衣服などの直しをした。途中、残りの一人が合流し、互いの健在を喜び合っていた。
「縁があったらまた会いましょう」
そして、ダーニャ達はこれからどうするかを検討する事にする様で、冒険者達にお礼を渡すと、別れを告げて村に戻っていった。
冒険者達は遺跡への興味とある思案を胸にキエフへと戻るのであった。