お茶会、参加条件は獣耳?

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

 その出逢いは、数日前のことでした‥‥
 私はその日、製作をお願いしていたドレスが仕上がったとの連絡を受け、そのドレスを受け取りに街へと出かけたのです。
 いつもなら使いの者を出して取りに行ってもらうのですが、出来上がるのをとても楽しみにしていたので今回は待ちきれずに自分で直接受け取りに‥‥。
 ドレスは思っていた以上の仕上がりで、目にした時は恥ずかしながらもはしゃいでしまいました。
 ドレスを受け取り、早く着てみたいと屋敷へ歩みを少し早めにして帰る途中、私はふと、街を一人で歩くのはずいぶんと久しぶりの事だと思ったのです。普段は一人で街を歩く機会も少なく、たいていはお供か‥‥そういった者から離れて、もっとゆっくり羽を伸ばしたい時でも妹達に付き添いをお願いする事が多かったので。
 私は抱えたドレスにわくわくしながらも、少しだけ遠回りして、一人で街を歩き回ってみる事にしました。せっかくの機会ですし、楽しみは後に取っておくのも良いかと思って。
 そうして街を歩いている時、辺りよりもいっそう賑やかなお店を見つけたんです。
 入り口近くでは大柄でおヒゲを生やした男性の方が大きな声で楽しげにお客さんの呼び込みをしていていました。看板を見てみると最近開店したばかりのお店のようで、どうやら最近頻繁に見かけるようになった冒険者さん達をお相手にしたお店のようでした。
 少し興味の湧いた私はそのお店へ入ってみる事に。たくさんの人がいましたが、中は広い造りになっていて抱えたドレスが人込みに潰れてしまう心配もなさそうだと一安心しながら、売り物を見て回りまり‥‥。
 剣、鎧、防寒着、ランプ‥‥普段、目にすることは多くてもこうして改めて見る事はない物もいっぱいで、私には使い道の分からない物もたくさんありました。店の一角では保存用の食料がとてもたくさん積まれ、それを女の子の売り子さんが忙しそうに売っていたりもしていました。
 そんな様子を一通り眺め、そろそろ出ようかと出入り口に向かう途中に私はそれを見つけたのです。それは新装開店の為の特別商品とされていた棚にあったのですが、とってもかわいくって、私は一目で気に入ってしまいました。
 それは普通のヘアバンドに、動物の耳に見立てた飾りがついていて‥‥


「それで、思わず買い込んできてしまったんですか‥‥」
「は、はい‥‥」
 ギルド受付の女性職員が、やや‥‥沈痛な面持ちでの問いかけに、正面に座った女性は恥ずかしそうに頬を染めてうつむきながら答える。
 女性は二十代半ばほどといった外見で、身にまとった服飾から高貴な生まれだと判断できるが、貴族特有の張り詰めた印象は受けずどことなく親しみ易そうな感じだ。のんびりとした気質がそう感じさせるのであろう。
「で、どうしたいんですか? それ‥‥」
 女性職員がカウンターにいくつも並べられた、少し変わった形状のヘアバンドに視線を落としながら。
「最初は自分の部屋で身に付けてみたんですが、やっぱり身に付けたまま人前に出るのは恥ずかしくて‥‥妹達に見せたらとても笑われてしまいましたし」
 「かわいいのに」と小さな声で最後に付け加えて、拗ねた様に軽く頬を膨らませる。
「まあ、それが普通の反応‥‥いえ、なんでもありません」
 正直な感想は、とりあえず引っ込めておく。
「え、えっと、考えたんですが、冒険者さん向けのお店にあったものですので、冒険者さん達はきっとこういう物を普段から身に着けているんだと思うんです」
「‥‥」
 「そんな事は無い、それは偏見だ」そういった言葉を、毎日多くの冒険者を見てきたギルド職員の女性は‥‥‥残念ながら、口にする事は出来なかった。
「なので、ここでお願いすれば一緒にこれを身につけて楽しんでいただける冒険者さんを探してもらえると思ったんです」
「それは‥‥依頼の募集条件に少し要項を追加するだけで可能ですが、探し出した後はどうするんです?」
 人を募集するだけで、依頼の内容が無ければ、依頼書を作成する事は出来ない。
「そうですね‥‥今、ちょうど各地でお茶会が開かれているようですので、ひとまずはお茶会にお付き合いしていただける方、という事でお願いできますか?」
「依頼内容はお茶会の参加者募集‥‥ただし参加条件あり、と」
「はい、ちょうど家の別荘の一つに人気の少ない静かな所がありますので、場所はそこでいたしましょう。そこなら人の目を気にする必要も無いでしょうし‥‥森の隙間にあって、目の前に湖のあるとってもきれいな所なんです」 
 少しだけ自慢げな言葉だが、その女性が言うと自慢ではなく、本当にきれいな所なのだろうと自然に思える。
「私も、先日仕上がったばかりのドレスをお披露目しますね。‥‥そうです、貴女も一緒にどうでしょう?」
「いえ遠慮しておきます」
 女性職員の返事はとてもとても素早かった。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb0311 マクシミリアン・リーマス(21歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0908 リスティ・ニシムラ(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5669 アナスタシア・オリヴァーレス(39歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5967 ラッカー・マーガッヅ(28歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

アド・フィックス(eb1085)/ シャサ・グリン(eb3069)/ エレイン・ラ・ファイエット(eb5299

●リプレイ本文

「あれ‥‥?」
「ここは‥‥」
 まずは依頼書にあった別荘にたどり着いた一行。その館の前で、館を見上げる者が二人。
 目の前には荘厳な雰囲気の館、左右にはのどかな森、そして後方には澄み渡る湖、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)とオリガ・アルトゥール(eb5706)の二人はこの景色に見覚えがあった。
「どうかなさいましたか?」
 二人の様子に依頼人。道中に挨拶を交わした時はメリア・ベレンテレールと名乗っていた。ちなみにメリア、正式な名はメリアリンスシュリメリエーゼ・リストリリーベレンテレールとむやみに長い名前で、メリアはこれを皆に伝える過程で三回ほど舌を噛んだ。二十代半ばの外見で落ち着いた感じの女性が涙目で舌を出し「いたぃれす‥‥」と訴える姿はなんとも和む光景であったのだが‥‥‥それはともかく、
「少し前にここ、来たんです」
「双子の姉妹さんの依頼で‥‥」
 とシシルにオリガ。するとメリアは、
「あら、お二人は妹達に会った事があるんですか?」
 とそんな事を言ってきた。
「えーと‥‥双子さんのお姉さん?」
「えぇ、この別荘を使う人間で、双子の姉妹という事であれば私の妹達だと思います。そうですね、ちょうど少し前に別荘へ遊びに行ってくる、といった事を言ってましたし」
 人差し指を一本立てて頬に指先を当て、軽く上を見上げ思い出すようにしてメリア。しかし突然ぼんやりとした表情を引き締めると、
「でも今のあの子達は敵です。あれを付けた私の姿を見て笑うなんて」
 真剣にそう宣言するメリアに、二人は困ったような作った笑みを浮かべるのであった。
 
 玄関先でのやり取りの後、館の中に荷物を置いたり着替えたりと各々の私用や準備にいったん別れ、一間置いた後、とりあえずの目的である『お茶会』を開く事とあいなった。
 湖の畔に小さなテーブルとイスを運び、青空の下での優雅なお茶会。まだ肝心のお茶とお菓子が届いていないのだが。
「皆さん、かわいらしいですわ」
 うすい緑色のドレスに特にこれといって特徴のないシンプルな獣耳を付け、楽しげに皆を眺めているのは本日のホステス、メリア・ベレンテレール(略名)
「あたしは見慣れてるのね〜」
 同じく獣耳を頭に付けて隣にいるアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)、通称アンナは普段から獣耳を身につけている冒険者の一人らしい。今回も「獣耳‥‥そりゃあたしを呼んでいるのね〜」と太陽の宝玉を胸に付けおめかしし、張り切っての参加である。
 アンナは出発前にこの格好のまま皆で町へ出向くようなことを提案していたが、今わざわざこんな所まで来ているのはメリアの「獣耳を身に付けたまま人前に出るのは恥ずかしくて‥‥」という理由による。他にもアンナの提案を強く推す者がいればまた話しは違ってきたかもしれないが、とりあえずそれはまたの機会という事になった。
「用意にまだ少し時間がかかるみたいですね‥‥。どうでしょう? 待っている間に森にお菓子代わりの木の実でも取りに行くのは」
 最後のイスを運んできたマクシミリアン・リーマス(eb0311)がテーブルの脇にイスを置き、周囲の森に目をやりながらメリアを誘ってみる。
「えと‥‥この格好ではちょっと」
 そう言ってメリアがちょこんとドレスの裾を摘み上げた。
「それもそうですね、獣耳は森でこそ映えると思ったんですが」
「では、それはまたの後日に」
 にっこりと笑ってメリアが答える。
 余談だが、メリアが購入してきた獣耳(正式名称『獣耳ヘアバンド』)は、作りがかなり大雑把である。一見してその耳が何の動物の耳であるか、そういった事が判別出来るほど精巧な作りではない。
 が、作りが大雑把だけに、個々がまったく完全に同じ形・色をしているという事も、またない。
 ゆえにその獣耳から何か特定の動物をイメージさせるには、微妙に形や色の違う獣耳からよりその動物のイメージに近い物を選ぶか、それに自分で手を加えるか‥‥という事になる。
「僕ですか? 僕のイメージは狼です。狼が好きなので。狼は時として人を襲う事もある動物ですが、僕も冒険者として敵対する事があれば倒さなければならない事は承知してますし、その気構えもあります。しかしそれはそれとして狼が好きなんです。頭が良い所、プライドが高い所、家族を大事にする所、そしてあの優雅な姿。それらは全て僕の憧れです。ですから僕は狼耳を選ぶのです」
 以上、自称狼大好きさんのマクシミリアンさんからのコメントでした。
 ちなみに今マクシミリアンが頭に付けているのは先の丸く尖った三角に近い形の獣耳。まあ、言われてみれば実際の狼の耳と似てなくはない。
「堂々と耳と尻尾を出せるなんて幸運ですね」
 イーゼルを設置しつつ、そんなちょっと人と外れた幸運を満喫しているのはラッカー・マーガッヅ(eb5967)だ。
 ラッカーの頭にあるのはリスにそっくりな獣耳で‥‥これは自身がミミクリーの魔法で生やした物である。さすがに魔法で生み出した物だけにそのクオリティーは高く、ご丁寧にこれまたリスにそっくりな尻尾まで生やしている。
「うーん、やっぱり本物は違いますね〜」
 と、いつの間にかシシルがラッカーの背後にやって来て尻尾をさわさわギューと触りまくっていた。
「シ、シシルさんっ」
 驚き慌て振り返りつつも、特に何かをする訳でもなく黙って触られるままになっているラッカー。もう諦めているのかもしれない、いろいろと。
「用意はもう済んだんですか?」
 ラッカーの尻尾にリボンを結び始めたシシルを横から眺めつつマクシミリアンが声をかける。
 シシルは館でハーブティーを淹れていたはずだ。
「恥ずかしいです‥‥」
「はい、オリガおねーさま達がすぐに運んでくると思いますよ」
 ラッカーの抗議を華麗に無視し、リボンを結び終わり満足げにマクシミリアンの言葉を肯定するシシルの頭には‥‥固めのしっかりした布を縦に長く丸めて立てた物が二本。‥‥一応はウサギの耳のつもりである。ウサギの特徴と人に尋ねれば、高確率でその長い耳が上げられるだろう。その特徴的で少し特殊な形をした耳は、メリアの用意していた獣耳を多少どうこうしたところでどうかなる物ではなかった。よってほぼ自作に近く、他と比べれば簡単極まりないのだが‥‥特徴的な分、特徴を捉えやすくイメージも伝わりやすいその耳は、遠目に見ればウサギの耳に見えなくもなかった。
「お待たせしちゃいました」
 シシルがメリア以上に獣耳を見てキャイキャイとはしゃいでいるうちに、シシルの前述通りティーカップとポットをトレイに乗せたオリガがやって来た。
 その後には同じくカップとポットを乗せたトレイを手にしたサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)と、お菓子を載せた皿を抱えた真幌葉京士郎(ea3190)の姿もある。
「心安らぐといわれているお茶ですの」
「私はシシルが淹れたものを運んだだけですけど」
 サシャとオリガがそれぞれカップとポットをテーブルに置き、一つ一つのカップへお茶を注ぐとそれぞれの席へと回す。
 京士郎もカップの並んだテーブルの中央へと皿を置く。
「練り菓子などあれば良かったが‥‥さすがにこの地に和菓子屋はないからな」
 「もっとも、このような西洋式の催し物に和菓子は合わないだろうが」そんな事を後に付け加えて軽く笑う。
 お茶もお菓子も参加者もそろい、本格的にお茶会のスタート‥‥といった所だが、その前に最後に揃った三名の付けている獣耳の解説も必要であろう。
 まずオリガ。彼女の付けているのは一回りほど大きめで、あまり先が尖ってなく‥‥制作上の計算ミスなのか、先の方が力なくペタンと垂れ下がっている。その耳は、まさに垂れ下がった犬の耳‥‥と表現しても、道行く人に石を投げつけられる事はないだろう。「私のコーディネートですよー」とはシシルの談。
 次にサシャ。彼女の付けているものはメリア同様いたってシンプルなものだ。ただし、毛の色は真っ黒。今も彼女が抱えているペットの子猫とお揃い、なのだろう、きっと。
 最後に京士郎。少し照れるような京士郎にサシャが「えいっ」と獣耳を付ける微笑ましい一幕もあったのだが、その獣耳は白く、やや縦に長い三角型だ。本人いわく白狐との事で、しばらく前に故郷であるジャパンの地を騒がせた妖怪の姿を模しているらしい。ジャパンで身に付ければ問答無用で石を投げつけられそうな代物だ。
 と、このようにそれぞれが微妙に異なる獣耳を付け、いよいよ本格的にお茶会はスタートしたのである。


 まずは皆でお茶を一口。
「結構なお手前で」
 お茶は異なっても京士郎はやはりジャパンの癖が出るらしく。
「とってもおいしいですわ」
 サシャが口にしているのは自分ではなくシシルが淹れたほうのお茶である。
『‥‥』

 皆でお茶を飲み、用意されたお菓子を口にする。
 ラッカーは用意していたイーゼルに向かい、このお茶会の様子を絵に描き止めている。まるでそれに対抗するかのようにシシルもラッカー同様に筆を取っていた。
『‥‥‥』

「メ、メリアさん、お茶のお代わりいかがですか?」
「あ、はい、いただけます?」
 メリアのカップにハーブティーをそそぐ。
「ミミクリー」
 筆を止め、ラッカーが効果の切れるギリギリに魔法を使い尻尾と耳を維持。
『‥‥‥‥』

 お茶を飲み、菓子を口にする。
『‥‥』
 案外、改めて始まって見ると意外に話題のないものである。
 こういった場なら、ホステスであるメリアがあれこれと話題を振るのがまあ普通なのだろうが、そのメリアはと言うとこの状況だけで満足なのか、この様子をぼーっと眺めているだけで心ここにあらずといった様子。
 他の参加者はというと、性別は男性女性、年齢は十五から三十六歳(外見年齢)、種族は人にエルフ、果ては子猫まで。共通で話せる話題というのも難しそうだ。
 とは言っても空気も微妙に重くなってきた事だし、それぞれの共通項が皆無な訳でもない。
「メリアは冒険者の事とか、どう思います?」
 口火を切ったのはオリガ。軽い口調でぼんやりしていたメリアへと話を振る。
「え? は、はい、えーと‥‥そうですね‥‥」
 さすがに名前を呼ばれてこちらの世界へと戻ってくるメリア。しばし、頬に手を当てながらオリガの質問を考える。
「堂々と獣耳が付けられて、うらやましいと思います」
 回答はなんと言うか‥‥ある意味で予想通りではあった。
「どうすれば、私達のような普通の人も獣耳を付けて街を歩けるような世界になるのでしょう‥‥」
 『私達のような普通の人』と言うのはかなりストレートに『冒険者は普通の人ではない』と表現しているのと同意なのだが、特に抗議の声が上がらない辺りがさすがである。が、それはともかく、
「まずは冒険者さん達と私達の違いを知る事が大切かしら。‥‥そうですわ、せっかくですし、皆さんのお話を聞かせていただけません?」
 にっこりと微笑むメリアに、その後は普通の‥‥いや、普通よりもずっと賑やかなお茶会となった。
 つい先日アンナとオリガが受けた依頼の話やらマクシミリアンの狼話やら、もちろん今回の主題である獣耳についてなど。話す以外にもそれぞれが付けていた獣耳やあまっていた獣耳とを付け替えてどれが似合うかなど試してみたりもした。

 そんな賑やかに続いたお茶会も、お茶もお菓子もなくなれば自然と終わりになる。最後に『どうすれば獣耳を全ての人に広める事が出来るか』という大それた課題を残し、今回のお茶会はお開きになったのだった。


――――とりあえずの目標は『キエフの町を獣耳で埋め尽くす』、らしい‥‥‥