薬草師の薬草集め?〜花〜

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月17日〜09月23日

リプレイ公開日:2006年09月25日

●オープニング

「まいったわね‥‥」
 一人の女性がベッドに横たわる女性を見、静かに呟く。
「手持ちの材料だと、いくつか足りない物があるわ」
「そう、なの‥‥?」
 ベッドの横にある椅子へ腰掛けながら言う女性に、横たわっている方の女性が弱々しく返す。
 横たわっている女性はあまり顔色が良くなく、元気も無い。体調不良なのは一目で分る。
「ただの過労って聞いていたから‥‥こんなひどい状態だとは思って無くて」
「さ、最初はただの過労だったん‥‥だけれど、主人の作った料理を‥‥食べて‥‥」
「食中毒? まったく、自分の奥さんにトドメを刺すような事してくれちゃって」
 二人で同時にため息をつく。だがしかし、どちらも表情はうっすらと笑っている。
 その食中毒を引き起こしたとされる料理も、別に最初からそうなるように作られた物ではないのだ。本当に、愛情『だけは』たっぷり込められた料理。そう考えると、作った本人を憎むに憎めない。
「ま、いいわ。ギルドで足りない材料を集めるように依頼してみるから」
「ごめんなさい、依頼料は私が出すから‥‥」
「いいわよ、友人の健康の為だしね」
 ギルドへ向かおうと腰を上げた女性は、ベッドから起き上がれない友人に軽くウィンクを残し、静かに部屋から出て行った。


「調達してもらいたい物があるの」
 薬草師、と自分の事を言っていた女性が、ギルドのカウンターで簡潔に切り出す。
「薬の調合に、ちょっと足りない物があって‥‥大丈夫よ、マンドラゴラを抜いて来いとかユニコーンの角を取って来いとか、そういう無茶な内容ではないから」
 薬草師の女性が引き合いに出したどちらとも、普通には入手困難な代物。少なくとも、そういった類いの物ではないらしい。
「一つ目はここからはちょっと遠い所にある丘に群生している花で、道中に特に危険な事は無いはずよ。景色もいい場所だし、ピクニック気分で行って来て良いわ。植物に詳しい人がいると話が早くて助かるわね」
 どういった花か、そういう詳しい説明は後でするとし、話を進める。
「二つ目はラージバットの牙。私が材料集めに行く洞窟でたまに見かけるから、そこで取ってきてちょうだい」
 「取ってきてちょうだい」、簡単に言う薬草師だが、そもそもラージバットの牙は薬草でもなければ草でもなく、植物ですらない。『薬草師』と言う言葉に少し疑問を覚えつつも、それを口にしたところで依頼内容が変わるわけでもなく。
「さてと、後は取りに行く二箇所の詳細だけれど‥‥」


「うーん‥‥」
 取りに行く花、その丘の説明をしようと薬草師だが、いきなりうなりながら悩み始める。
「何か忘れてる気がするわ」
 悩む薬草師に、どこからか入り込んだのか目の前をひらひらと一匹の蝶が飛んできた。
「虫‥‥そう、虫がいるのよ、あの丘」
 手の平を打ちながら、ようやく思い出したといった様子で呟く。
「前にその丘へ違う草を取りに行った時、大きなカマキリ一匹だけいてねー。その前に行った時はいなかったんだけど」
 蝶を見てカマキリを連想するのも、なんだか殺伐としているような気がするが。
「その時はもう花を摘んだ後だったし、無視してさっさと帰ってきちゃったんだけれど‥‥まだいるのかしら?」
 ちなみに、『その時』というのは半月ほど前の事だったらしい。
「ま、いいわ、体長が人より大きいカマキリなんて、いればすぐに気が付くわよね」
 さらりと‥‥おかしな表現を耳にする。
「本当、何であんなところにジャイアントマンティスなんていたのやら‥‥」
 今度ははっきりとその生物の名を口にする。『体長が人よりも大きいカマキリ』というのは、聞き間違いではないらしい。
「とりあえず、花だけ摘んでさっさと帰ってきて。カマキリを倒す、倒さないは好きに選んで良いけど、こっちとしては花が手に入れば問題はないから」
 どうやら、『ピクニック気分』で行くのは、無理なようである。

●今回の参加者

 eb0689 アクアレード・ヴォロディヤ(20歳・♂・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 eb5685 イコロ(26歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5874 リディア・ヴィクトーリヤ(29歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5885 ルンルン・フレール(24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb5976 リリーチェ・ディエゴ(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

闇目 幻十郎(ea0548)/ ウォルター・バイエルライン(ea9344)/ ランティス・ニュートン(eb3272

●リプレイ本文

 天気は快晴だった。気持ちよい風が吹いていた。
「は、花を摘むのが‥‥こんなに大変だとは‥‥思いませんでしたよ‥‥」
 急な斜面になっている草原の、茂みに隠れるようにしてしゃがみ込んだリリーチェ・ディエゴ(eb5976)が息を切らせて呟いた。
「だ‥‥大丈夫?」
 リリーチェの隣にペタリと座り込んだイコロ(eb5685)が、同じく息を切らせながら自分の後で突っ伏している二人の安否を気遣う。
「大丈夫じゃないが、なんとかな」
「これの、ど、どこがピクニックなのか‥‥教えてもらいたいものだわ」
 アクアレード・ヴォロディヤ(eb0689)とカーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)がそれに力なく応じる。
 二人は大きなものは無いが、全身傷だらけでなんとも痛々しい姿だ。
「でも、改めて見ると綺麗な花ですね」
 ルンルン・フレール(eb5885)が抱えた皮袋に摘まれた花へと視線を落とす。
 一行が薬草師に教えられた丘へたどり着いたのは、ほんの少しだけ、前の事だった。

 薬草師に摘んでくる花の詳細な特徴を聞き、簡単な絵も描いてもらった一同は、指示にあった問題の丘へと向かった。丘までは特にこれといった出来事も無く、すんなりとたどり着く。
 近くの住民に話を聞くと、丘は途中まで急になっており、ある程度上の方まで行くと緩やかな勾配の草原が広がっているらしい。丘の先は斜面ではなく、崖になっているので気をつけたほうがいいとの事だった。
 そんな事前情報の整理をしつつ丘を登る一行。聞いた通り結構な急斜面だが、その終わりが見えた今、その先は緩やかになっているはずだった。
「伏せて‥‥」
 急斜面の終わりに近づくとルンルンがジャイアントマンティスに見つからないようそう促し、全員が草の上に伏せ、その状態のままゆっくりと最後を登っていく。
「確認、しましたね」
 リリーチェが頭だけを覗かせ、緩やかに広がった草原を注意深く見渡すと、それは見つかった。
「大きいね」
 イコロが簡単な感想を述べる。丘の崖ギリギリ、そこに一瞬目の錯覚かと思わせるような、巨大なカマキリが居座っていた。
「周囲に似たような反応は他に無いですから、あの一匹だけみたいですね」
 スクロールを使用しブレスセンサーの魔法で辺りを確認したルンルン、
「あ、花ってあれかな?」
 イコロが指した場所はカマキリが居座っている場所から少ししか離れていない所だ。
 遠くて確認は取れないが、目の届く範囲で他に咲いている花も無く、
「色は教えてもらった特徴と同じですね」
 と、そこまで来ればほぼ間違いは無いだろう。
「そんじゃ‥‥花だけ貰ってとっととてっしゅーするか。カマキリのエサになるのはごめんだ」
 アクアレードの言葉に皆が軽くうなずくと、作戦の確認をする一同だった。

 あえて言えば、作戦はとてもシンプルな物だった。
「せい!」
「っ!」
 カマキリを両側から挟むように移動しながら、カーテローゼとアクアレードの二人がカマキリに対して己の剣を振りかざす。
 カマキリは両の鎌で二人のそれを軽くあしらうが、カマキリの鎌は体の一部であり、決して鋼で出来ている訳ではなくそれで剣を受けてダメージがまったく無いわけではない。
「くっ!?」
 とは言うものの、カマキリの攻撃は簡単に二人の防御を潜り抜けカーテローゼとアクアレードの身体に次々と浅い傷を加えていく。
 今回はカマキリを倒す事を目的とせず、二人の攻撃はあくまで注意を引き付けるだけの為、深く踏み込んでおらず距離を置いて最低限の接触しかしていない。そのおかげで二人だけでもギリギリ何とかなっている状態だ。
 もしカマキリにダメージを与えようと懐まで踏み出していたら、鎌でバッサリと返り討ちになっていた可能性が高い。
「こっち!」
 カーテローゼが鎌の射程外からカマキリに向かって石を蹴り飛ばす。ダメージは無いものの、注意を引くには十分。
 と、そこへ横から放たれた光の矢がカマキリの身体へと突き刺さった。
「出来れば戦いたくないけど」
 更にもう一本、光の矢がカマキリへと突き刺さる。後方からイコロの放ったサンレーザー。
 射程の長いこの魔法、イコロは作戦をまとめた場所とほとんど変わらない離れた場所から魔法を撃っている。少なくともカマキリの鎌が届く、届かないといった話はまったく無縁な距離だ。おかげで前衛をやっている二人もイコロが呪文を唱えている間のフォローを気にせずにカマキリに集中する事ができる。
 遠距離からの攻撃にどうする事も出来ず、距離を置いて散漫に攻撃してくる二人に挟まれ、カマキリはその場に釘付けとなっていた。

 三人によってカマキリの動きが封じられている間、ルンルンとリリーチェの二人は静かに、しかし素早く、花のもとへと動いていた。
 カマキリはカーテローゼとアクアレードを追うようにして花の咲いている場所からは離れている。そして三人が足止めをしている間に花を必要なだけ摘んで来なければならない。
「間違いは無いみたいですねー」
 距離が近づくにつれはっきりと形を確認できるようになり、それが依頼された花であると再確認する。
「特徴が教えてもらった通りですね」
 ここまで近づけば‥‥二人は一気に花へと駆け寄り、花を依頼された分と、少しだけ余計に根元から抜き取る。この作業自体は簡単なもので一瞬で終わった。
「それではカマキリさん、恨みは無いけれど‥‥」
 摘んだ花を皮袋にしまい、ルンルンが弓を構えると矢を取り出す。
「後は逃げるだけですねー」
 リリーチェも同様に矢を弓に番えた。

「ちっ!」
 アクアレードが鎌による攻撃を避けそこない、腕に浅い傷を作り舌打ちをする。他にも傷は体中に刻まれてた。
 追い討ちをかけようとするカマキリだが、カーテローゼの攻撃によって邪魔をされる。カーテローゼも怪我の具合はアクアレードと大差ない状態だった。
 そろそろ厳しい‥‥そんな事が頭をよぎった時、カマキリに数本の矢が降り注いだ。
「終わったようね!」
 カーテローゼがルンルンとリリーチェが放ったその矢を見て、二人が花を摘み終わった事を確認する。
「よし、撤収だっ」
 アクアレードが牽制に剣を一薙ぎさせると大きく距離を取る。カーテローゼも同様だ。
 その間にもカマキリには次々に矢が降り注ぐ。今度は逆にルンルンとリリーチェがカーテローゼとアクアレードの撤退する隙を作る為にカマキリの注意をひきつける番だ。
「あばよ! もう会う気は無いけどな!」
 矢の攻撃によってその場で暴れるカマキリへセリフを残し、二人は緩やかな下り坂を一気に走りぬける。
 ルンルンとリリーチェの二人も、それを確認すると自分たちもカマキリに追撃されないうちに全力で丘を駆け下りた。


 目的を果たし、作戦通りさっさと撤退した一同。
 丘の半ばで身体を休め撤退時に全力で走り乱れた呼吸もようやく落ち着いたところで一同はゆっくりと丘を下り始めた。
「あのカマキリ、どうなるんだろう‥‥」
 歩きながらふとそんな事を考えるが、先の事を今はどう確認しようも無い。
 ただ確実な事は今年ももうすぐ冷たい季節が訪れるという事であり、ただでさえ寒さに弱いカマキリのような生き物が傷を負った身体でその寒さを生きて乗り越える事は限りなく難しいであろう‥‥という事だけだ。
「そうそう、お花、ちょっとだけ余分に摘んできたんです」
 歩いている途中、突然思い出したようにそう言ってルンルンが皮袋から花を取り出すと、全員に一人一本ずつ花を手渡した。
 意図が分らず皆が首をかしげていると、
「このお花の花言葉は『友情』って言うんですよ」
 笑顔を浮かべるルンルンに、それぞれがそれぞれの思いを抱く冒険者達だった。


 余談だが‥‥結局必要な材料全ては集まらず、その足りない分は他の材料で代用したため完全ではないものの、薬草師はほぼ目的通りの薬を調合する事に成功したという話だ。
 その薬を必要とした人物も、今は順調に回復しているらしい。