川の静かな乱れ
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■ショートシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月21日〜10月26日
リプレイ公開日:2006年10月29日
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●オープニング
キエフに流れるドニエプル川、街の下流に位置する人のにぎわいも寂しいくなり始める街の外れでそれは起こった。
一人の少年が川沿いを歩いていると、川に何かが漂っているのを見つけた。
それは一つではなく、いくつもまとまって漂っている。見た目は上から見ると円形の白い半透明なそれを少年は初めて目にし、そして興味を引くには十分なものだった。
少年は川岸に駆け寄ると、冷たい川の中へと入って行った。と言ってもそう深い場所ではなく、水が少年の膝よりも低い浅い位置である。問題の白い半透明な物体はもっと深い場所にも漂っているが、わざわざ深い場所にいるものを目指す必要もない。
少年は近寄ったその物体をじっと観察した。近くで見ると、円形の部分の下にはいくつも細い紐のようなものが生えている。
水の冷たさをこらえてしばらくその物体を観察していると、少年の辺りを漂うその物体が一つ、ふっと消えたように見えたが、数も多く半透明で視認をし難いそれを少年は見間違いだろうと考えた。
やがてただ観察するのにも飽き、水の冷たさも辛くなってきた少年は恐る恐るその物体へと手を伸ばした。
少年がその物体へ触れようと水の中へ手を入れた直後、少年の悲鳴が辺りに響き渡った。
街外れの川にジェリーフィッシュが発生したようだ、という知らせはその日の内にギルドに届いた。
ジェリーフィッシュというのは麻痺性の毒を持つ大型のクラゲである。
発生したのはまだ子供で、大きさは成体の十分の一ほど。その代わりに数が多いが、数える気になれば数えられるほどの数だ。
発見したのは近く住む子供で、発見した時に川に入りジェリーフィッシュに触れようとしたらしが、その時に水中で腕に怪我を負っている。
ここで問題なのが怪我の状態だ。腕の広い範囲で皮膚を食い破られるよな怪我を負い、傷は浅いものだったが、ジェリーフィッシュにこのような怪我を負わせる能力は聞いた事がない。
しかし怪我を負った子供はジェリーフィッシュ以外には何も見ていないとの事だった。
変種のジェリーフィッシュなのか、それともジェリーフィッシュとは違う何かの仕業なのか、外れとはいえ街中で起こったその事件に、ギルドは『至急』との要綱を付け加えた上で依頼書を作成した。
依頼内容は事態の詳細を調査する事とジェリーフィッシュの駆除、および周囲の安全の確保である。
●リプレイ本文
「ご苦労様です」
川のジェリーフィッシュが漂っているという辺りにやって来た冒険者達に、川岸へ立っていた男が声をかけてくる。
先の少年のように川に入ろうとする者を止める為の見張り番だった。
「そちらこそ、お疲れ様です」
それに冒険者の一人、リン・シュトラウス(eb7758)がにっこりと笑みを付け加えて返事を返す。
「川の様子はいかがですか?」
「今のところ大きな変化はありません」
リンの後からレドゥーク・ライヴェン(eb5617)が見張りの男に問い掛ける。
「新種や変種ならこの目で確かめてみたいがな」
目の上に手の平をかざし、川に視線を投げるベルント・シュスター(eb8216)。ここから見ても、川に小さな半透明のジェリーフィッシュが見て取れた。
「この船は使用してもよろしいんですか?」
レドゥークが岸に揚げてある小船を指す。
「ええ、その為に用意した物ですから」
「準備が良いな」
レイア・アローネ(eb8106)の言葉に見張りの男の顔がレイアに向けられるが、その視線が一瞬レイアの顔ではなく豊かな胸元へ向けられていたのは気のせいではないだろう。
レイア本人は小船に視線を向けていた為に気が付かなかったのだが、横から見ていたリンは男の視線に気が付いて、
「あなたも駆除を手伝って下さるんですか?」
自分の小ぶりな胸を数秒ほど眺めた後、どことなくトゲのある口調で男に尋ねた。
「いえ、自分は‥‥」
男が少したじろぎながら首を横に振る。
「船が用意してあるのでしたら、川に入らずに済みそうですね」
「まだ何なのかが分からないからな」
『川の中に直接入るのは遠慮したい』というのは依頼を受けた冒険者四人の共通の認識だった。
「正体の知れぬ生物、油断は禁物だな」
レイアの言葉に軽くうなずくと、四人は小船を川に下ろす用意を始めた。
「むー、特におかしいところはないですね」
小船から身を乗り出し水面に漂っているジェリーフィッシュを眺めるリン。
「俺もそう思う」
同じようにしてベルントも水面に目を凝らす。
「分からないのだったら、生け捕るか死骸を持ち帰るかするしかないな」
「そうですね、それを似合った知識を持つ人物に預けるのが一番でしょう」
レイアとレドゥークの案に反対する理由もなく、まずはジェリーフィッシュの生け捕りを目標とする事にした。
「はい、捕まえました」
などと相談している内に、リンが船に積んでいた網を使ってあっさりとジェリーフィッシュを捕獲する。
「漁って、思ったよりも簡単なんですね」
リンがそう感想を口にするが、
「ま、ただ水面に浮いているだけだからな」
それを捕まえる事を『漁』というには少々大げさだろうか。
「後はこの調子で捕まえていけば良いですね」
そして船は次のジェリーフィッシュの方へと向かっていった。
結果から言うと、ジェリーフィッシュの駆除は何事もなく終了した。地道な作業で面倒ではあったが、ジェリーフィッシュに直接手で触れない事にだけ気をつけていれば後はただの単純作業である。
が、何事もなく終わってしまったせいでそれはそれでまた別の問題が発生した。
「結局、少年の怪我はどういう訳だったんだ?」
そう、謎の部分が謎のまま残ってしまったのである。
「実を言うと、原因に心当たりがない訳ではないんですが‥‥」
「私も、これかな〜って言うのはあるんですけど」
レドゥークと、事前に調べ事をしてきていたリンが言葉を濁す。
「これ以上は川に入らないとな‥‥」
ベルントの表情からも気が進まない事がはっきりうかがえる。
「やむを得ないか」
最後にレイアが呟き、四人は原因究明のため川の中に入る決意を固めた。
「皆、怪我をしないように気をつけて下さい。もちろん私の事も守ってくださいね」
四人で固まって川に入り、後ろを歩くリンがにっこり微笑んでそう言うが、
「敵の正体が私達の予想通りだと、ちょっと難しいですね」
レドゥークはどこか諦めたような表情だ。
「予想が外れている方が助かる気もするな」
「水中に潜む不定形のモンスター、か」
レイアが聞かされたモンスターの特徴を思い返す。
「それではいきますよ」
水の深さが膝ほどまで来た辺りで立ち止まり、リンが呪文を詠唱し始める。
「ムーンアロー!」
リンが放った淡く光る矢は、姿の見えないものにもその特徴が分かっていれば必ず命中する。
リンがその呪文を放つ際にイメージした対象は、ウォータージェルというゼリー状のモンスター。
「ちっ、当たったか!」
淡く光る矢は四人から少し放れた水面に突き刺さった。突き刺さると同時に水が不自然な形で跳ねる。
「姿が見えないのは厄介だな‥‥!」
魔法の矢が突き刺さった水面には何も見る事が出来ず、それもまた自分達の予想が当たっている事を証明していた。
リンがもう一度同じ魔法を放つと、今度は四人のすぐ近くに水面に突き刺さった。ウォータージェルは確実にこちらへ向かって来ている。
「来ます‥‥!」
レドゥークがオーラパワーを付与した槍を構え、レイアとベルントの二人は剣を鞘から抜き放つ。
「ムーンアロー!」
三度リンが魔法を放つ。その矢は四人の目の前に突き刺さり、武器を構えた三人は一斉にその矢の突き刺さった場所へと己が武器を叩きつける。
「くっ!?」
ベルントが水に浸かった足にヒリヒリとした嫌な痛みを感じる。
「どこに行ったっ」
一斉攻撃に手応えはあったが、仕留めるには至らなかったらしく、ウォータージェルの反撃を受けるとついでにその居場所も見失う。
「完全に水と一体化している訳ではないんです」
良く目を凝らせば、水中にいるウォータージェルの姿を視認することは可能だ。四人は水中に全神経を集中する。
静寂は、短い間に終わった。水中を移動する不自然なわだかまりを視界の端に捕らえ、
『‥‥!!』
リンのムーンアローに導かれた三人の獲物が確実にウォータージェルを貫いた。
その後、念のために持ち帰り調査を依頼したジェリーフィッシュは子供という以外は何の変哲もない普通のジェリーフィッシュであるという事が報告された。
少年を襲ったモノの正体が、ジェリーフィッシュを捕食するためによって来たウォータージェルという事も冒険者達によって報告され、正体を突き止めそれの退治までやってのけた冒険者達には依頼料が上乗せして支払われた。
今では、ドニエプル川に元の静かな流れが戻っている。