【ジューンブライド】バージン&ロード

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月17日〜06月24日

リプレイ公開日:2006年06月23日

●オープニング

「ぜ〜〜〜〜ったい!一人で行くんだもん!!」
 冒険者ギルドの出入り口付近から突然放たれた甲高い声はギルドのささやかな喧騒を引き裂き、更なる静寂を呼ぶ。
「だめですっ!! あの町まではとっても危ないの、行くなら誰かに付いて行ってもらわないとだめ!」
 静寂の中、ギルド中の視線を集める小さな女の子とその手を取る女性。二人はその視線を気にも止めていないのか、その小柄な体格とは裏腹にギルドを揺るがすかのような大声で言い争いを続ける。
「だ〜〜〜め〜〜〜! おにぃちゃん一人で会いに行った方が絶対に喜ぶもん!だから一人で行くのーー!!」
「一人では行けないから言ってるんでしょう!? 大体あなたは昔から‥‥!」
「だっておにぃちゃんの結婚式なんだし‥‥! ‥‥‥‥!!」


「嫌がる依頼人をなんとかあやしながら、ここから歩いて二日離れた町まで護衛してあげて‥‥」
 ギルドのカウンターにおもいっきり突っ伏しをながら、疲れた様子でギルド職員の女性が説明を始める。
 ギルドでの叫び声での問答は途中幾度となく脱線しつつ小一時間ほど続いたが、まとめてみるとこの程度だった。
「えーと、もう少し詳しく説明すると、依頼人は八歳になったばかりの女の子とそのお母さん。で、護衛して欲しいのは女の子のほう」
 相変わらずカウンターに突っ伏したまま、やる気のない声で説明を続ける女性職員。
「五日後にある家族の結婚式に向かいたいそうなんだけど、護衛する女の子以外は仕事の関係でギリギリまで行けないんだってさ。家族全員で行こうとすると女の子の足では結婚式に間に合わないだろうから・・・・先に町まで護衛してもらいたいんだって」
 言ってしまえばそれだけの依頼。問題の町は小高い丘の上にあるだけでそれほど遠くはなく、道中に出現するモンスターといってもせいぜいゴブリンがたまに目撃される程度。
「それだけなんだけど・・・・護衛する女の子はどうしても『一人で』行きたいみたいで。まあ〜難しいところだけど、実際に一人で行かせるわけにもいかないだろうから。なんとかうまくあやしながら町まで護衛してあげて」
 先ほど眼前で行われた母と娘の大声問答を思い出したのか、更にぐったりとした様子で、やや投げやりに冒険者に依頼内容を説明したのであった。
「はぁ‥‥結婚式かぁー」
 最後に、ぽつりと羨望の混じった独り言を付け加えて。

●今回の参加者

 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3191 夜闇 握真(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1107 ユノーナ・ジョケル(29歳・♂・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ブノワ・ブーランジェ(ea6505

●リプレイ本文

「たらら〜〜ん♪」
 雲一つない青空の中、小さなバックを持った少女が道を行く。楽しげに歌なんかを歌いながら。
 少女は少しづつ小さくなっていく町を振り返ることもなく、キラキラと目を輝かせ歩みを進む。
 少女の周りには誰もいない。完全に一人である。
 長く激しい母親との格闘の末、ようやく自分の願いを受け入れられた少女の機嫌はまさに最高潮、そして少女自身も絶好調である。
「らっららー♪」
「うーん‥‥困ったなぁ‥‥」
「みゃんみゃみゅー♪」
「‥‥」
 少女は行く、元気よく腕を振って脇目は振らず。
 先回りし、道で困ったふりをして自然に少女と接触しようと試みたケイ・ロードライト(ea2499)はタイミングを計り、ここぞ! という所で「困って途方にくれてふり」を始めたが、
「あー、こ、困った‥‥なぁ‥‥」
「りゅ〜らら〜♪」
 こちらに一目もくれずに自分の前を通り過ぎようとする少女に、もう一度、途方にくれた感じで(今度は演技ではなく)声をかける。
 今の少女にとって道脇に立っている人など、そこいらに生えている木と大差ない存在である。
「えーと‥‥」
「わ、わー、ひ、一人旅なんてすごいですね!! 私よりも小さいのに!」
 どうしようか頭が真っ白になったところで道の後ろから声がかった。
「お、お兄さんも、こんな所で立ち止まっているなんて何か困ったことでもあったんですか!?」
 するとそこへ一人のシフールが慌てた様子で少女の前へ飛んできて、ケイの事を気遣うような言葉をかける。
 少女も行く手を塞ぐように飛んできたシフールのユノーナ・ジョケル(eb1107)には、さすがにその歩みと歌を止め、
「い、いや、一人で旅をしていたんですけど、馬が言うことをきかなくて‥‥そうこうしている間に道に迷ったみたいなんです。困りました、ハハハハ。と、ところで、お嬢さんも一人旅ですか?」
 私と一緒ですね、と続き少女へ声をかける。
 その間に最初に後ろから声をかけたアニエス・グラン・クリュ(eb2949)が小走りで追いついて来た。
「うん、そーなの。あのね、おにぃちゃんの結婚式があるから、丘の村まで一人でお出かけなの!!」
 少しの間きょとんとしていた少女だったが、すぐに調子を取り戻し自慢げに語る。
「わぁ、あの村まで! 私たちもちょうどあの村まで行くところなんだけど、結構遠いよね。それを一人でなんてすごいなー」
「えへへ‥‥」
 褒め称えるアニエスに、少女も満足そうに笑顔を浮かべる。
「それは偶然ですね、私もちょうどその村へ向かっているんですよ。よろしければ案内してもらえませんか?」
 そこへケイが追々し、アニエスとユノーナがもちろんと首を縦に振る。そして、
「そうだ! キミも一緒に村まで行かないかい? きっと楽しいよ」
 と、見事な連携で自然な流れを作りつつ、少女に村までの同行を提案。
「ん〜〜‥‥」
 この依頼最大の難関。『一人で』村へ向かうことにこだわる少女に、いかにして同行を認めてもらうか。
『‥‥』
 固唾を呑んで少女の言葉を待つ。
「ん〜〜‥‥‥」
 そんな冒険者たちの心中は知らずに少女はじっくりと、悩む。
「うぅ」
 その空気に耐え切れなくなったのか、誰かがうめき声を上げたところでついに少女が口を開いた。
「やっぱり一人で行くー」
 ガクッと同時に頭をうなだれる三人。
「あ、おにぃちゃんが待ってるから早く行かなくちゃ。ばいばーい!」
「ちょっと待っ‥‥!」
 元気よく手を振ってお別れの挨拶をし、再び道を歩み始める少女を引きとめようとしたが、
「はーはっはっはっ!!」
 突然どこからともなく上がった笑い声に、それは遮られてしまう。
「そこなチビ! 一人でこんな場所をノコノコ歩いているとはいい度胸だな! ちょうどいい、我が魔獣の餌にしてくれるわ!!」
 びしっ!と少女を指差し、大ガマを引き連れヒールなセリフと共に少女の行く手に立ち塞がった夜闇握真(ea3191)、少女に危機感を与えるための芝居である。
(『ナイスタイミング!』)
 少女の後ろに立ちすくんでいた三人が、少女に分らないようそろって小さく握りこぶしを作る。
「大変だ!」
「悪い人が魔獣を連れて女の子を襲っている!」
「このままだと女の子が!」
 演技を盛り上げるためにケイ、ユノーナ、アニエスの三名がセリフを合わせた。
「は〜はっはっはっはっ‥‥は?」
 再び高笑いを上げる夜闇、だがしかし、気が付くと自分の目の前‥‥というか大ガマの前にちょこんと立っている少女を目にし、語尾が間が抜けたように釣り上がる。
「お、おい‥‥」
 『危ないぞ』、そんな事を言いかけて夜闇の口が固まる。襲うと言った本人が注意をうながす訳にも、いかない。
 一方の少女はというと、しばし至近距離で大ガマの事をじーと見つめた後、
「おっきなカエルさんだー」
 珍しそうに感想を述べると、ペチペチと大ガマの頭を叩いたりし始めた。
「だから、そいつが今からお前を食べてしまうと‥‥」
「えー? 食べないもん。エルミニョルとはお友達だもん。」
 改めて夜闇が少女に自分の置かれている状況を解説するが、少女はこの短期間に大ガマとお友達になったらしく(本人談)、あまつさえ大ガマに名前を付けていたりもしていた。
「お友達を食べたりしないもん。」
「ゲコ」
 ねー、と少女がエルミニョルに問いかけ、エルミニョルがそれに(?)答える。
「手強いなー‥‥」
 なす術もなく二人と一匹の成り行きを見守る中、アニエスがぽつりとつぶやいた。
「くっ! な、ならば、その身包みを全て剥いでくれる!!」
 夜闇が次の手段とばかりに、少し自棄になりつつ提案する。
「ん? お洋服、ぬぎぬぎするの?」
 その言葉を『文字通り』に解釈してしまう少女。意味が分らず首をかしげる。
「な、ち、違う、いや、違わないが、」
「あー! あーー!!」
 このままでは埒が明かないと判断したか、後ろの三人が夜闇の言葉をかき消しつつ少女へ駆け寄った。
 更に首をかしげる少女をケイが担ぐと元にいた位置まで下がっていく。
 アニエスとケイとユノーナと少女、四人は輪になってしゃがみ込み、ぼそぼそと言葉を交わす
「‥‥で、‥‥だから‥‥」
「そう、で、‥‥なんて事も」
「‥‥は、‥に‥‥で、‥‥なんだよ」
「わわわわわわ‥‥」
 冒険者の言葉の一つ一つに、少女の体がガタガタと震えている。どうやら、『夜闇がどんなに危険な人物か』という事を吹き込んでいるらしい。
「‥‥‥」
 なんとなく釈然としないものの、黙ってその様子を眺めている夜闇。
「‥‥分った?」
 ユノーナが締めくくった言葉に、少女がガクガクと激しく首を縦に振る。
「そういう訳だ、通り魔。少女に代わり、騎士の名にかけてお前を倒す!」
 ケイがするりと日本刀を抜き放つと、夜闇に向き合いその切っ先を突きつける。
 アニエスは震える少女を抱きしめ、ユノーナは少女を守るように少女の目の前に立ちふさがった。
「ふ、ふふ、いいだろう、まずは貴様から血祭りに上げてくれる!」
 ちなみに術で呼び出した大ガマは効果時間を過ぎて消えてしまった。
 向き合うケイと夜闇。少女に分らないよう、アイコンタクトで軽く意思疎通を行うとかすかにうなずき合う。
「こい!」
「行きます!! はっ‥‥!!」
 ケイが助走をつけて突撃する。勢いに乗ったその刀は吸い込まれるように夜闇の体に命中し‥‥
「ゲハッ!?」
「え?」
 思った以上に手ごたえのある感触にケイが思わず驚きの声を上げて、一方の夜闇は演技ではない悲鳴を上げ後方へと吹っ飛んでいく。
 『ドサ』と音をたてて仰向けの状態のまま地面に着地する夜闇。‥‥動かない。
「やった! もう大丈夫だよ!」
 今のやり取りも夜闇が動かないのも全て演技だと信じきっているアニエスが少女を優しく包み込んだ。
「一人旅はこういう危険がいっぱいあるから、キミも僕たちと一緒に村へ行かない?」
「うん‥‥‥」
 ユノーナの言葉にようやくうなずいた少女であった。
「よかった! じゃあさっそく行こうか」
「さあ、ケイさんも」
「あ、は、はい‥‥」
 夜闇に一目くれて、少々困ったような表情をしつつもうなずく以外に選択肢はなく、一行はようやく‥‥本当にようやく、村へと歩き始めたのであった。

「ばいばーい!!」
「またねー!!」
 無事に村へとたどり着き、少女を見送る三人。
「それじゃ、私たちも結婚式を見ていこうか♪」
 わくわくといった感じでアニエス、
「いや、もう時間がない‥‥」
 ごそごそと一行の後ろから現れ、その言葉を否定したのは夜闇であった。
「夜闇さん‥‥大丈夫でしたか?」
 彼らが道で別れてから初めて交わす言葉に、まずは身を案じるケイ。
「峰打ちでなかったら死んでいたところだ‥‥」
「しかし手加減は不要と目で‥‥」
 「手加減してね、というつもりだったんだが」っと夜闇。どうやら直前のアイコンタクトは通じていなかったようである。
「それはともかく、確かにもう時間が有りませんね」
 少女の足では、村へ四日ほどの時間を要する。ケイが連れている馬へ乗せようと誘ったが、これは断られた。
 『一人で行く』とは『独りで行く』という意味だけではなく、『自分の力で行く』そういう意味も強く込められているのだ。そのため少女は自分の足を使って村へと歩んだ。
「そっか、途中足踏みもしたしね。」
 一行はゴブリンの目撃された地域での夜営を避けるため、途中で早めに野営を始めるなどして時間をずらし、それを調整している。
 そのおかげかゴブリンとの遭遇は避けられたが、代わりに時間を失った。
「すぐに戻らないと、遅刻してしまうかもしれません」
「残念だ‥‥」
 一行は式へと後ろ髪を引かれつつ、無事に依頼を果たし町へと帰っていった。


「あ」
「どうかしましたか?」
「夜闇さんの誤解を解くの忘れてた」
『‥‥』
 久しぶりに会ったおにいちゃんと結婚式に、少女が誤解自体をきれいに忘れてしまっている事が幸いといえば幸いであろうか。