死者の道
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■ショートシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:10〜16lv
難易度:難しい
成功報酬:8 G 73 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月03日〜11月13日
リプレイ公開日:2006年11月12日
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●オープニング
キエフの町と道が一本で直接繋がっているものの、距離はそう近くない。そんな半端な位置にある町の一つ。
その町は毎日少なくとも一つはキエフからの物資、そして人を届ける馬車が停車場に到着している。
だがある日、そのキエフからの馬車が一つもやって来なかった。それだけならば「珍しい事もあるものだ」と町人もそう思うだけだったが、次の日に町からキエフに向かった馬車の御者が身体一つで町に逃げ帰って来たとなると話は変わってくる。
一方、キエフの側も状況は似たようなものだった。すなわち、町へと出発した馬車がキエフへと逃げ帰ってくる。
その理由は戻って来た者の話ですぐに判明した。
どうやら、町と町を繋ぐ街道の途中にズゥンビが現れたらしい。まるで互いの町の繋がりを断つかのように現れたそのズゥンビに阻まれ、行き来が出来なくなったようだ。なぜそんな場所に突然ズゥンビが現れたのかは謎だが、原因の追及は後にし、速やかにそのズゥンビを退け街道に平穏を取り戻さなければならない。
そしてその役目はキエフのギルドを通し、冒険者達へとあてがわれる事になった。
道の片側には沿うように森が広がり、若干見晴らしが悪い場所の辺りで、ズゥンビ退治を請け負った冒険者達は『それ』に遭遇した。
「くっ、この‥‥!!」
一人の男が『それ』に剣を振るう。だがその一振りは受け止められ、逆に『それ』の一撃を身体に貰う。
『それ』の外見はまさしくズゥンビだった。しかし、その男が知るズゥンビに比べその行動はあまりに俊敏である。
そう、『それ』はズゥンビなどではなく‥‥
「なぜこんな所にグールが‥‥‥っ!?」
グールの攻撃を正面から剣で受け止め動きの止まったその時、男の背中に鈍い痛みが走りそのダメージに男は膝を付いて崩れ落ちた。
「く‥‥そ‥‥」
男が目をかすかに後に向けるとそこにいたのは、それもまたグールであった。前と後からグールに挟まれた男の意識は、その後わずかも間を置く事がなく失われた。
依頼は、失敗。
依頼を受けた冒険者六名のうち、キエフへ戻って来たのは一人。その一人も重傷で、街道の途中で発見されると必要最低限の情報を言い残し気を失った。キエフで治療を受けている今もその意識は回復していない。
キエフとは反対のもう一方の町の事は今のところ情報が伝わっていないが、グールの存在に気が付いていないと言う事はありえないだろう。グールに対抗する手段がないのか、それともキエフと同じように行動を起こし失敗に終わったのか。どちらにしてもあちらの町の力は頼るに足らないだろう。純粋に戦力、という意味ではキエフの方が充実しているからだ。
それに、キエフのギルドも回された仕事を失敗し、失敗したまま終わる訳にはいかない。
そしてその名誉を賭け、ギルドは再び冒険者を募った。
依頼内容は街道に出現したグールの掃討‥‥‥
●リプレイ本文
「わ、わわっ」
「大丈夫?」
空を舞う一匹のヒポグリフ。鷲と白馬の特徴を併せ持つそれは、背に二人の人間を乗せていた。
「はい、だ、大丈夫‥‥です」
ヒポグリフに乗っているユキ・ヤツシロ(ea9342)が空を行く馴染みの薄い体験に体勢を崩し、御者であるシオン・アークライト(eb0882)の腰に両腕を回し、しっかりと掴り直す。
「あら、あれは‥‥」
手綱を引くシオンが地上であるモノを発見したのはその時だった。
「‥‥」
地上を進む大半の冒険者の中、雨宮零(ea9527)が空のヒポグリフを無言で見上げていた。
ユキが体制を崩しシオンに固く抱きついた辺りで、ピクリと表情が一瞬だけ変化したような‥‥気がする。
「お空の二人がどうかなさいましたか?」
そんな様子の雨宮に習い、アレーナ・オレアリス(eb3532)もヒポグリフを見上げた。アレーナもペガサスという騎乗生物の中ではヒポグリフ同様珍しいものに騎乗している。
「ふふふ、やっぱり恋人さんが自分以外の人と二人っきりだと気になります?」
アレーナに続き、ルンルン・フレール(eb5885)も雨宮をからかうようにして笑う。
ヒポグリフの手綱を取っているシオンと雨宮は恋人同士という話だ。
「そういう訳ではありません」
否定してはいる雨宮だが、
「大体一緒に乗っているのは女同士だろ?」
というシュテルケ・フェストゥング(eb4341)の言葉には微妙な表情を浮かべるのであった。
「あれ? 降りて来るよ」
そんな会話の流れで注目を集めていたヒポグリグがこちらへと降りて来き、それを指差すジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)。
「何か見つけたのでしょうか」
荒巻美影(ea1747)が、降りて来る理由としては一番可能性の高い条件を呟く。
「これには何の反応もないな」
そう言ってエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が覗き込んでいる物はデビルの存在を感知するアイテムだ。
「デビルは今回の件に無関係なんでしょうか‥‥」
原因不明の今回の事件の真相を推測する冒険者達だったが、その間にヒポグリフは地上へと降り立つ。
「どうかしたか?」
シオンとユキに尋ねるが、
「えと‥‥その‥‥」
ユキの反応は鈍い。それだけであまり良い知らせではない事は予想できる。
「道の少し先に人が倒れて‥‥いえ、人の死体があるわ」
言いよどむユキの代わりに答えたシオンの言葉は、やはり喜べる内容ではなかった。
「う〜ん‥‥私達以外、近くに人の気配はありませんね」
スクロールでブレスセンサーを使用したルンルンの報告。
「誰かが操っている、と言う事ではないのかしら‥‥」
『操っている』と言うのはグールの事である。こんな場所でグールが自然発生する可能性は、やはり低いと言えるだろう。
「グールが封じられていた遺跡や洞窟の入り口が何かの拍子に開いちゃった、とか」
「余裕があれば、この辺りの森を調べてみると良いかもしれませんね」
ルンルンとアレーナが推測を進める。
この場にいるのは女性のメンバーのみで、今は歩みを止めている。この場にいない男性メンバーは空から見つけた死体の調査に向かった。と言うのもユキの「私、死体‥‥血はダメなんですの‥‥」との申し出が有った為であり、かと言ってユキ一人を置いて行くのも危険なので、女性メンバーは死体の調査が終わるまでこの場で待機である。やはり、血生臭い現場には男性が先に趣くものであろう(という女性陣の主張が有無を言わせず通った形だ)
もっぱら調査や推測、その他雑談をしながら時を過ごしている訳だが、シオンはその輪から外れ、戦闘に備えアンデッドの行動を制限する結界を張るために祈りを捧げている。
「セーラ様、不浄なる者の存在をお知らせ下さいませ」
ユキが待機中に等間隔で使用しているデティクトアンデットの魔法を使用した。今で三回目の使用であり、前二回は何の反応も無かったのだが‥‥
「あ‥‥」
今回ははっきりと反応があった。
一方の男性メンバー。
「グールの仕業、と見て間違いはないでしょうか‥‥」
死体を見下ろす雨宮。死体の数は三つ。その格好は自分達と同じ、冒険者風のものである。
「でも前に退治に行った人達って考えるにはまだ新しい感じがするね」
「そうですね‥‥キエフのギルドで依頼を受けた行方不明の五名とは別の方達でしょうか」
ジェシュファの意見に、再度その目を死体へと向ける。
「ふむ‥‥向こう側の町から派遣された冒険者か?」
「キエフの方からなら俺達が依頼を受けた時に何かしら言うはずだろうしな」
エルンストとシュテルケの発言の中、全員が後方に気が付き顔を上げる。
「現れたようだな‥‥」
後方からこちらへ走り寄って来るのは待機しているはずの女性陣。起因は言わずともすぐに見て取れた。女性陣の更にその後ろに、
「一つ、二つ‥‥五体ですか、思ったよりも」
女性陣を追いかけるようにして付いて来るのは五体のグール。しかし「思ったよりも少ない」という言葉は口に出さずに飲み込まれる。
「おいおい‥‥」
呟くシュテルケの視線は女性陣がやって来る方向とは逆に向けられ、その目に映るのは、脇の森から出てくる大量のグール達だった。
グールによって街道の前後に挟まれた冒険者達。現れたグールの数は計十八体。だが、冒険者達がその『十八』という数を知るのはまだ未来の話である。
その時の冒険者達にグールの数を数える余裕など存在せず、すぐに敵味方入り混じる乱戦へと突入したためだ。
「前衛も何もあったものじゃないわ‥‥!」
叫び長い刀を振り回すシオン。その一振りはきれいにグールの身体を捕らえるのだが、平然としているグールにどれほどのダメージがあるのか判断は難しい。攻撃を受けながらも変わらない動きでシオンに爪を振るうグール。シオンはその一撃を刀で受け止めるのだが‥‥その横から別のグールの攻撃を同時に受け、どうしようもなく身体で受け止めるしかない。
「下がってください!」
更にその横から雨宮がグールとシオンの間に割って入り刀を振るう。その一撃はシオンを傷つけた腕を半ばから切り落とす。だが、それでもグールの動きが鈍る事は無い。
「やっかいな」
残ったもう一方の腕の攻撃を寸前のところで回避。
「どうやら、完全に行動不能にしないとダメのようね」
そっとシオンが背中を合わせて言葉を交わす。出来ればこの態勢のまま戦闘を続けたい所ではあったが、
「きゃっ!?」
ひたすら逃げ回るユキを目にしてそうも言っていられない。自分達でも苦しいこの状況の中に、まったく接近戦の出来ない者も同じように立たされているのだ。格闘の出来る者がずっと固まっていられる状況ではない。二人は背中で互いの無事を祈ると、勢いを付けて前後に分かれる。
「えい!」
別れた二人の間を縫うようにしてルンルンの放つ矢が通り過ぎた。その矢はシオンの背中を狙おうとしていたグールの身体に突き刺さる。素早く弓を引き、もう一本。二本の矢が突き刺さり、動き難そうなグールであったが、それは矢が刺さっているという物理的な理由であり、やはりダメージによる動きの鈍さは感じられない。
「矢、足りそうに無いなぁ」
悲しそうに呟きながら近くに居たグールの攻撃を避けるルンルン。既に手持ちの矢は数少ない。その数少ない矢を弓に番えた時、左の肩に鈍い痛みが走った。目で確認するまでも無い。グールがそこに噛み付いている。振り払おうと身体をひねろうとしたが、
「この!」
シュテルケが噛み付いていたグールに体当たりをして跳ね飛ばし、ルンルンの身体から引き剥がした。
「ありが‥」
礼を言おうとルンルンが振り返えろうとした時、シュテルケは今度は自分が別のグールに体当たりされ「うぉ!?」といった声を上げながら吹き飛ばされているところだった。
「‥とう」
ルンルンが完全に振り返り、礼の言葉を言い終えたその時その目の前に居るのはシュテルケに体当たりしたグール。とっても至近距離。思わず目が合い一呼吸ほど見つめ合ってしまったほどだ。
「うわぁぁ!?」
慌ててルンルンが後ずさる。とりあえず引いている途中だった矢を最後まで引き、近距離から矢を放った。軽い音を立てて矢が突き刺さった所へ、起き上がったシュテルケが隣に倒れていたグールの頭を踏みつけながら剣を振るい、それによって生まれたソニックブームの一撃が横からグールを切り裂く。
「おっと、もう一つ!」
身体の向きを変え、もう一度剣を振るう。次はユキを襲おうとしていた一体のグールにソニックブームが放たれた。シュテルケの放ったソニックブームが命中するとほぼ同時、それと良く似た真空の刃が別の角度から命中した。上方から放たれたそれの元を追い宙へ視線を流す。そこに居たのはエルンスト、リトルフライの魔法によってグールの手の届かない高さをふわふわ浮いている。ソニックブームと同時に放たれたのはウィンドスラッシュだろう。
「今のうちに‥‥」
他の冒険者によってグールが足を止めている間に、ユキがグールから距離をとり魔法の詠唱を始める。もう何度か挑戦したが、そこかしこにいるグールに邪魔されまだ使用出来ていない。小柄なユキは、グールからしても襲い易いのだろう。それを証明するように、また一匹。爪を構えユキに突進して来るグール、だがそのグールの進路上に荒巻が飛び出し、しかし今度は目標を立ち塞がった荒巻に変えグールの突進は止まらない。突進の勢いを加えたグールの一撃、その一撃が荒巻に突き立てられる直前に荒巻の身体から気が放たれる。羊守防によって高められた防御に、グールの一撃は荒巻の身体にかすり傷一つ負わせることができない。
「ホーリーライト!」
その隙に、魔法の詠唱を終えたユキの手の平から淡い光が生み出された。その光に近くにいたグールは一斉にその光から逃げようと後退し、その内の一体は荒巻のオーラパワーを込めた拳を身体に受け宙に舞う。そして逃げようとするグールとは逆に光に向かって来る者も、
「ジェシェファ殿、こちらに」
ペガサスに乗ったアレーナがグールを蹴散らし強引に道を作る。その道を通ってジェシェファも光の下へと合流する。
「これで僕も魔法が使えるよ」
ほとんど詠唱する余裕が無く、詠唱出来てもこの乱戦では広範囲に威力が及ぶ魔法は味方を巻き込むため使い所が限られる。そんな状況だったジェフェファが光の中に入り安堵した。前者の問題は既に解決され、
「後何体くらい残っているのかしら」
「まだ二桁はいそうだな」
「矢、もっと持って来れば良かったな」
後者の問題が解決されるのも時間の問題だ。
「聖母さまに代わって私が安らぎを与えて進ぜよう」
セリフを残し、アレーナの勢いを込めた一撃は一番近くにいたグールを一撃で行動不能に追いやる。
少しずつ冒険者達が態勢を立て直していく。そして、一度態勢を立て直してしまえば後は、実力的にゆっくり確実にグールの数を減らす事が出来る。
勝敗が決する事もまた、既に時間の問題であった――――
冒険者達が遭遇した全てのグールは動かなくなる事を確認した。
報告しに町へ向かう途中に別のグールと遭遇する事は無かったし、またキエフへ帰る道中でも同様である。
しかし、結局グール出現の原因は謎のままだった。
原因の究明は依頼の範囲外であり、それによって問題が生じる事は無かったが、冒険者達の心に一本の棘が突き刺さる事となった。