【厳冬の罠】ウラジミール一世を追え!
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■ショートシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2006年12月29日
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●オープニング
「な、なんですってー!?」
その話を聞いた少女は、まず最初にとっても気持ちのいい驚きの声を上げた。少女は神官服を身にまとい、長い金髪のツインテールがゆらゆらと揺れている。小柄な体格であるため、そのツインテールの先は少しかがめば地面に着いてしまうほどだ。
その少女、名をシフィン・グレイシーという。シフィンは家の庭で布の巻いてある大木を前に静かに目を閉じて精神を集中させていたのだが、話を聞いてその集中はあっさりと瓦解した。
「ウラジミール様が近くの村を視察する!?」
その話と言うのは、近々ウラジミール一世が近隣の村に自ら出向き視察すると言った内容だった。余談だが、話を仕入れるタイミングとしてはシフィンはかなり出遅れている。
「‥‥‥これはチャンスね」
叫び声をあげ、急に黙り考え込んだかと思うと突然ぽつりとシフィンが呟く。
「村を視察している最中なら、ウラジミール様に間近に接近する機会も必ずあるはず‥‥!」
確かに、視察中であればお城にいる時よりはよっぽど接触できるチャンスは多いだろう。あくまでお城にいる時よりは、だが。
「会える‥‥! 憧れのウラジミール様に!」
胸の高さで両手を合わせ、キラキラと瞳を輝かせるシフィン。とりあえずミーハーな娘である事は確かなようだが、
「村を視察するウラジミール様。一つの村の視察を終え、次の村へ‥‥その道中、ウラジミール様を襲う山賊が! 『へっへっへっ、悪いがここで死んでもらうぜ(山賊)』そう言ってウラジミール様を取り囲む山賊たち。あぁ健闘むなしくも多勢に無勢、ウラジミール様大ピンチ! そこへ颯爽と現れる一人の少女! もちろん私! 山賊を蹴散らしウラジミール様へと手を差し伸べる私。『大丈夫ですか?(私)』『ありがとう、なんて素敵な女性なんだ(ウラジミール様)』そしてそれをきっかけに恋に落ちる二人。その後、クリスマスの夜に二人は‥‥‥!」
いつまで続くか分らないシフィンの妄想もいよいよ山場であるが、これ以上は不毛なので一部カット。蛇足でいくつかツッコミを入れるなら、国王ともなれば一人で村々を回るなどと言う事は有り得なく、それはもう精鋭の護衛が大量にお供に付くだろうからそこいらの山賊など返り討ち必至であり、そもそも直接国王を狙う度胸のある山賊など珍しいを通り越すだろう。そして浸っている所悪いが、ウラジミール一世は既婚である。
「さまざまな試練を乗り越え愛を誓い合った二人が白馬に乗り城に凱旋すると、そこには事件を仕組んだ真犯人が! なんと、最初に襲ってきた山賊を含め全ては二人の愛を引き裂くための陰謀だった!」
シフィンのストーリーによれば、最初に山賊が襲ってきた時には二人の愛は成立しておらず、成立していない愛を引き裂くための陰謀などありえないという所も一応ツッコミを入れておく。
「真犯人は‥‥‥えーと、ラスプーチンでいいや。何度か遠くから見たことあるけど、あの人すっごく悪人顔だしね! あれは絶対裏で何か企んでるタイプだわ」
適当な上に酷い言い様である。そろそろ不敬罪で誰かが捕まえに来るのではないだろうか?
「けれども二人の愛の前に悪は無力であり、ラスプーチンを倒すと二人はお城で幸せに暮らしました、と‥‥‥うん、完璧な計画ね!」
言うまでもないが、穴だらけである。穴しかない。
「さっそく実行に移さなきゃ」
迷惑な話この上ない。
「あーでもそうね、何人かお供がいた方がいいかしら。この計画に失敗は許されないわ。人手も増やして、万全を期さないとね! さっそく人を集めないと」
そう言ってシフィンが向かった不幸な場所は冒険者ギルド。どうなる事やら‥‥‥
「いい! 私の計画のためにウラジミール様は山賊に襲われる事になってるんだから、山賊に負けないようしっかり戦える準備をして来るのよ!」
どこまでも無茶な事を言う少女である。
●リプレイ本文
「さあ、行くわよ、私の野望のために!」
町を出た道の始まりにて、びしっと道のりを指差しシフィンが景気づけ。
「夢を見るのは勝手ですけれど、現実も見ないと痛い目にあいますよ」
その景気をさっくり打ち砕くツッコミを入れるシャリオラ・ハイアット(eb5076)、
「これも若さゆえの過ち、というやつなのでしょうか」
そんな様子を見てクロエ・アズナヴール(eb9405)が感慨深そうに呟く。
「ウラジミール様ってどんな人なのか楽しみだね♪」
若干下がり気味の場の空気を戻すように元気に何気なくイコロ(eb5685)が口にしたセリフだったが、
「楽しみ!? なるほど、あなたもウラジミール様を狙っているのね!」
「えぇ、僕が!? ち、違うよ〜」
シフィンがおかしな部分で反応。当然イコロは首を横に振って否定する。
「陛下には前に一度お会いした事があります。私のような者にも、温かい言葉をかけてくださいました‥‥」
「ほう、それは羨ましいですな。いや、下っ端の神聖騎士が陛下をお目にかかる事など皆無に等しいですからな」
再びワイワイと騒いでいる一部の女性陣をよそに、神聖騎士の男二人。深く目を閉じウラジミール一世と対面した当時の様子を頭に思い浮かべているのがキリル・ファミーリヤ(eb5612)で、そのキリルの隣で羨ましそうにしているのがアルーシュ・エジンスキー(eb9925)である。
「この国の王は男性にも人気があるのだな」
その二人を眺め、なにやら意味深な事を呟く香月睦美(eb6447)。
「‥‥やましい気持ちは全くありませんぞ?」
睦美の言葉にアルーシェが否定してくるが、キリルにはその否定の言葉が無い。気になって隣にいるキリルに目をやると、キリルは目を閉じたままさっきよりも深く自分の世界に入り込み、睦美の言葉が耳に入っていないようで、
「少なくとも私の方は」
そんなキリルの様子を見て、セリフを付け加えるアルーシェだった。
『‥‥』
黙ったままもくもくと森の中を進む一行。誰も、無駄話一つしない。
と言うのも、ただ歩いているのも暇だからと無駄話をしているとシフィンが「そこ! 私語をしない!」と細かく注意してくるのである。
その事前の言動から心配された道中のシフィンの行動だが、意外に一番(無駄に)真剣なのがシフィンであった。
同じクレリックとして、道すがらいろいろ話をしようと思っていたイルコフスキー・ネフコス(eb8684)もそれを断念して黙って道を進むしかない。道中のシフィンの見張りを頭に入れていたシャリオラも、どちらかと言えばシフィンに見張られているような立場になってしまっている。
現在の一行の状況としては、大きく曲がりくねった街道と街道の間にある森を抜けて、少しでも時間短縮のためショートカットをしている最中である。
事前の打ち合わせでは、
「初日や二日目までは街道を使っても大丈夫だと思うよ?」(イコロ)
「ではしばらくは街道を行き、ショートカットが出来る箇所があればそちらを進みましょう」(キリル)
「裏道とかが無いか調べてみるよ」(イルコフスキー)
「林道などもあれば利用して早く追いつけるようにした方がいいでしょう」(クロエ)
「雪深い場所を通る事もあるだろうな」(睦美)
「寒いのはいやです」(シャリオラ)
「夜営も遅めにして距離を稼ぐ必要があるでしょうな」(アルーシェ)
といった感じの相談がなされ、ほぼ相談で出された案の通りに行動しているところだ。
その成果で国王一行との距離はぐんぐん縮まっており、今進んでいる森を抜け、もう一つ同じような森を抜ければ現在国王が滞在中の村は目の前になるはずである、が‥‥
「‥‥ん?」
森を進む一行の視界に入ったのは、数人の男。街道がすぐ近くを通るはずのこの森で出会うには、いささか不自然な相手である。
「こんな所を歩いているなんて‥‥怪しいわね、あなた達」
「それを言うなら私達も同じ‥‥」
シフィンの言い分に冒険者の誰かが小声でツッコミを入れるが、とりあえずシフィンの耳には入っていない。
対する男たちはというと、こちらを見据えながら顔を寄せ合い、小声でぼそぼそと話をしている。あまり友好的でないのは男達の雰囲気からして明らかだ。
「分ったわ、さてはあなた達‥‥ウラジミール様を襲う予定になっている山賊ね!」
「そんな訳‥‥」
ビシッと男達を指差し決め付けるシフィン。事前にシフィンの妄言を聞かされている冒険者達はため息混じりに呆れているが、
『!!?』
男達はなぜか一斉に目をむき驚愕の表情を浮かべる。すると先ほどまでの男達の話し合いはもう必要ないとばかりに中断され、それぞれが携帯している自分の武器を抜き放つ。
「さあ、不埒な山賊達を迎え撃つのよ皆の者!」
「なっ!?」
シフィンの号令に従って‥‥という事は無いだろうが、事情も分らず混乱気味の冒険者達は、それでも降りかかる火の粉を払うため、襲いかかってくる男達に向かい戦闘態勢を構えた。
「はぁっ!!」
戦闘の口火を切ったのは、睦美が全力で振り払った日本刀の一撃だった。その一撃は男達にわずかに届かない距離で放たれ、威嚇する為だけのものだったが、その効果は十分にあり、男達の何人かの動きが一瞬鈍る。
「隙有りですぞ」
その動きの鈍った一人に対し、アルーシェが剣を振り下ろしそれが命中する。剣術の腕はまだまだと自称するアルーシェだが、隙を突けばその攻撃が当たらなくもない。
睦美の一撃に怯まなかった者もいたが、その男達にはキリルが盾で食い止め、クロエが両手に構えたダガーで押し返す。その男達にはイコロのサンレーザーが突き刺さった。
「お日様が出ててよかった」
そんな事に安堵しているイコロだが、サンレーザーの魔法を使うイコロには重要な事である。その横で、シャリオラも同じようにブラックホーリーを使い男達を攻撃しているが、こちらはやや散漫的で、突っ立ったまま近づいてくる敵だけを撃退している。
「別に、寒いからあまり動きたくないとかそういった事ではないですから。シフィンさんを守るためです‥‥ホントですよ?」
「シフィンさんは何か出来ないの?」
シフィンを含めた範囲にホーリーフィールドをはりながら尋ねるイルコフスキーにシフィンは胸を張り、
「もちろん出来るわよ。私がいるからには安心すると良いわ!」
「‥‥具体的に、何が出来るんですか?」
肝心な内容を含めないシフィンの回答に、近くにいるシャリオラが再び尋ね、
「クリエイトアンデット」
『‥‥』
シフィンの出した結論に、反応に困る冒険者達。どうにも、即効力に欠ける魔法である。そもそも近くに何かしら死体がないとどうにもならない。
「そうよ! だから、あなた達の誰かが逝っちゃったらすぐさま私がアンデッドとして使役してあげるから、戦力ダウンは最小限で抑えられるという訳ね!」
悠々と告げるシフィン。
「大丈夫、この戦いが終わっても骨が擦り切れるまでめいいっぱいこき使ってあげるから。安心して逝くと良いわ!」
「――――こんな所で‥‥!!」
「――――死んでなるものですか‥‥!!」
異常なまでに気合の入った冒険者達の猛攻に、男達はそう長く耐えられるほどの力量は持ち合わせておらず、戦いは短い時間で決着が付いた。
「で、結局あの男達はなんだったんでしょうか?」
「ただの野盗じゃないのか?」
男達と戦闘のあった森を抜け、街道を越えたさらに森。その森の中で先ほどの男達に関する憶測が交わされる。
「だから、ウラジミール様を襲う予定だった山賊の一部だって」
シフィンが再び自分の妄想ストーリーの解説を始めようとしたところで、木々の間から街道が見えてきた。
「抜けたようだね」
ガサガサと繁みをより分け道に出ると‥‥
「うわぁ!?」
一人の男が、道の真ん中で腰を抜かししりもちをついていた。
「あ、ああ、あんた達‥‥!?」
「すみません、驚かせてしまったようですね」
「あ、あんた達、あいつらの仲間じゃないのか!?」
「あいつら?」
森から突然何かが出てくればモンスターや野盗が出てきたのかと驚くのはうなずけるが、この男の様子はそれとは別におかしな程おびえている。
「何かあったの?」
男を落ち着かせながら尋ねる冒険者達に、男は、
「村が‥‥ウラジミール陛下が蛮族に襲われた!!」
男の話を聞いた一行は、思い悩んだ末にキエフへと引き返すことになった。当然シフィンは当初の予定通り「ウラジミール様を助けに行く!」と張り切っていたが、この状況では真剣に死にに行く様なものである。最終的に睦美が武力行使でシフィンを黙らせ、踵を返し元来た道をそのまま戻った。キエフでは何らかの対策が講じられているはずであり、それに協力する方が結果的には力になれるだろうと信じて‥‥。