今、改めて、聖夜を、
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■ショートシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月24日〜01月29日
リプレイ公開日:2007年02月01日
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●オープニング
昨年の聖夜祭を覚えているか?
もちろん宴の思い出話ではない。そう、ロシアの要人を狙った蛮族どもの襲撃の事だ。
あの時は痕を濁さぬ結末に落ち着き、協力体制を取った我等冒険者ギルドも喜ばしい限りだ。
だがしかし、今になり蛮族どもの残した形跡‥‥それを核にしてかすかながら問題が生まれている。
その問題の核と言うのはあの襲撃時、蛮族どもが一時的に拠点としていたと思われる洞窟だ。
蛮族を退けた今、本来は空き家となっていなければならない洞窟‥‥なのだが、そうはなっていない。今、洞窟はホブゴブリンの巣となっている。洞窟の奥には蛮族の置き残した食料が少なからず蓄えられており、その食料を目当てにして住み着いたんだろう。冬を越すには最適の状況だ。
もう分っていると思うが、今回の依頼はそのホブゴブリンの掃討だ。
洞窟を発見した者の報告によると、ホブゴブリンの数は軽く十は超えるらしい。その何割かは、食料同様蛮族の残したと思われる武器防具を身につけている。物は一般的な品のようだが。
洞窟の内部を知る人物に話しを聞くと、内部は三つ又に分かれているらしい。そしておそらく三本の道のそれぞれにホブゴブリンは存在しているだろう。一本の道を全員で進むとどういう結果になるか‥‥まあ、後ろを他の二本の道に残っている敵に塞がれる事は十分に考えられる。一匹一匹は大した事ないが、地の利と数の差には気をつけることだ。
こちらから伝えられる事は以上だ。聖夜祭同様の良い結果を期待している。
‥‥‥最後に、言い忘れたが今回の依頼主は王室顧問であるラスプーチンだ。どう取るかはそれぞれの自由だが、名を上げたい者はうまくやるといい。
●リプレイ本文
ランプに灯されたかすかな光を背後に、ダガーを手にしたレイブン・シュルト(eb5584)がまた一匹、カウンターでホブゴブリンを貫くと、刃を返し別のホブゴブリンへと突き立てる。
「油断しなければ、問題はなさそうだ」
「囲まれないようにだけ注意しな」
余裕を持ってホブゴブリンと対峙するレイブンの後ろから、ベアトリス・イアサント(eb9400)が注意を促す。
「ま、多少怪我したって私が治してやるぜ」
攻撃が不得手なベアトリス、自分も暴れたいのを我慢し、レイブンの回復役に専念している。
「なるべく世話にならないようにするが‥‥他の道は順調だろうか?」
「ゴブリンに後れを取るような連中じゃないんじゃねーか?」
堅実にダメージを与え少しずつホブゴブリンの数を減らしていくレイブン。
「心配はねーだろ」
その様子を確認し、ベアトリスが楽観すると、また一匹ホブゴブリンが地に伏すのだった。
洞窟の中は三又に分かれている。ギルド職員の報告通り、その三本の道それぞれにホブゴブリンは存在していた。
今回集まった冒険者は六名。冒険者達は二人づつで三組に分かれ、三本の道を同時に攻略する。
レイブンとベアトリスが進んでいるのは三又に分かれた道の左。
そして、右の道を進んでいるのは‥‥‥
刀を片手にうねうねと腰を振る奇妙な人型の生物。もう片手に持った間近なランタンの光が不気味な影を移し、不思議さをよりいっそう引き立てている。
「あぁ‥‥この無機質な岩肌に踊る私の影も美しい‥‥」
「うわっ、しゃべった!?」
その人型をした奇妙な生物が言葉を発した事に、その生物を後ろから観察していたシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)が驚きの声を上げ‥‥
「ふっ、人語を操るなど造作もない事だよ」
「いえ、冗談をそう普通に返されると私としても反応に困るんですが‥‥」
もとい、驚いたふりをしたシシルだが、奇妙な生物の方はその意図を理解しないようである。
ちなみに、こうしたやり取りをしている間にも奇妙な生物はうねうねと腰を振ってホブゴブリンの攻撃を回避し、うねうねと腰を振って敵を攻撃し、ホブゴブリンが辺りにいなくなった後もうねうねと腰を振っている。
「アレは真似できませんね‥‥‥」
その腰ふりを見て、シシルが呟く。何かと自己アピールの激しい目の前の奇妙な生物から、存在感あっぷを目指し何かを学び取ろうとシシルだが、今のところ成果はない。
「また私の美しさに惹かれて出てきたようだね」
奇妙な生物の言葉に洞窟の先へ目を向けると、確かに奥からホブゴブリンが一塊やって来ている。
再び刀を構える奇妙な生物、
「下がってください、ここは私が‥‥こほん」
このままでは自分の出番が無くなりそうなので、今回はシシルが一歩前に出る。そして軽く咳払い。
「この氷の魔女の白い吐息から逃れるすべは無いと心得なさい」
身体を斜に構え、片手を優雅に振り上げ真摯な口調で口上を述べると魔法を詠唱するシシル。その外面とは反面、内心では「(きゃーっ、今の私ちょっとカッコいいかもーーー!)」などと余計な事を考えていた為か、
「おっと、危ない」
ホブゴブリンの投石に気が付かず、奇妙な生物がシシルの前に出て盾となる。コツン、と奇妙な生物の後頭部に当たる石はさておき、シシルと奇妙な生物はほんのわずかな隙間で向かい合う事になった。
「‥‥‥」
これだけ間近で見ると余計に奇妙なその生物。が、これだけ至近距離にいてもうねうねと腰を振るその生物に、とりあえずシシルは詠唱が終わったアイスブリザードを、ホブゴブリンをおまけで巻き込んで解き放つのだった。
「今回の依頼、結局はただの後始末なのよね‥‥雇われ人の私達には関係のない事だけど」
「まあまあ、私達はきっちりと仕事を済ませましょう。右隣には一人楽しそうな方がいますけど‥‥」
適当に雑談を交えながら真ん中の道を進むアーデルハイト・シュトラウス(eb5856)とオリガ・アルトゥール(eb5706)の二人。
基本は他の道と同様、前衛担当のアーデルハイトと、後衛のオリガがきっちり担当を分けた形である。
「あら、また」
オリガが軽く呟くと、もう既に数回目になるホブゴブリンとの遭遇である。
「‥‥任せたわ」
「はい、では任せて下さい」
アーデルハイトの言葉に軽く答え、向かって来る複数のホブゴブリンが全て射程に入るとオリガがアイスブリザードの魔法を撃ち込む。この一撃だけでホブゴブリンの動きはかなり鈍くなるのだが、そこへすぐさま同じ魔法を高速詠唱しもう一撃。これでまともに動ける敵はほとんどいなくなる。
「警戒するまでもないわね」
わずかに動けるホブゴブリンも、アーデルハイトの剣を受けバタバタと倒れ伏す。
「なかなかいいストレス解消になりますねー♪」
「いつもこう楽な仕事だと良いのだけれど」
にこやかな微笑を浮かべるオリガに、剣を収めながらアーデルハイト。既に目に見える範囲のホブゴブリンは全て動く気配がない。
「左右の道はどんな感じでしょうか? どちらも男女のペアですし、楽しそうですよね」
「どうかしら」
そんな話しをしながら、さらに奥へと進む二人だった。
その後、大した時間をかけずに三本の道全てを制圧し、分かれ道で三組は合流した。一番奥には食い散らされた食料、荒らされた装備品などが散乱していたが、特に目を引くような物は存在しなかった。それでも一応、別途調査の手は入るらしい。
合流した六人の内五人はほぼ無傷であったが、次は全身に軽い凍傷を負った唯一無傷でなかった一人の残した言葉である。
「哀巣鰤挫亜恕(アイスブリザード)‥‥嘗て遠き昔、一匹の偉大なる鰤が己が棲家を奪われたとき怒りと悲しみのあまり三日三晩世界が荒れ続けたというところからその名がついた。尚、この後必ず気象の変化により激しい寒気が流れ込むのだが、そこからアイスという言葉が生まれたのはあまり知られていない。ふっ、今にも雪の彫像と化しそうなほど全身凍傷だらけの私も美しい」
―――虎杖薔薇雄(ea3865)―――