【ジューンブライド】夜明けとトモに

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深白流乃

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 31 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月30日〜07月03日

リプレイ公開日:2006年07月08日

●オープニング

「おーい、そのテーブルはこっちに持ってきてくれ!」
「あいよー!」
 青空の下、景気のよい叫び声が交わされる。周囲にはセーヌ川の水が静かに流れるだけで、他はのどかな草原が広がっていた。
 そんな中そんな場所で、男二人が大きなテーブルを両脇から抱えて移動させている。
「よっ‥‥と!」
「これで大掛かりな部分は終わりだな」
 テーブルを抱えていた二人がそのテーブルを大地に下ろし、一息をつく。テーブルは一般的に使われるものに比べるとやや大きめで、重量もそれなりにありそうだ。男二人とはいえそれを運んでくるのは骨が折れるだろう。
「そうだな、あとは明日に細かい飾り付けをするだけだ」
 持って来られたテーブルのすぐ近くには、同じようなテーブルがもう三つほど存在している。
 そして、そのテーブルの少し先には木の板が地面にきれいに並べて固定され、簡単ながらもしっかりとした道が短く作られている。更にその先には‥‥
「いよいよか‥‥」
 男の一人がつぶやき、造られた道の先にある簡素な祭壇へと、静かに視線を向けた。


「この時期こういう結婚式がらみの依頼が多いのは分ってるんだけどね、なんと言うか、もう少し遠慮してくれてもいいんじゃないかなーとか」
 冒険者ギルドのカウンターに頬杖を付いて、ちょっぴりいぢけた様子で話を切り出すギルドの女性職員。切り出すと言っても、その切り出しは依頼内容とは少々関係のないものだったが‥‥
「はぁ‥‥そうだね、そうだよね、お仕事だもん。仕方ないよね‥‥」
 なにやらぶつくさとつぶやき自分を納得させる女性職員。この態度から分りきったことだが、この女性職員のプライベートに『ジューンブライド』は今のところ無縁な単語のようである。
「あー、えっと、なんの話してたんだっけ。‥‥そうそう、依頼依頼」
 ようやく、といった感じで本題に入る。
「結婚式を村から少し離れた草原でやるんだけど、その会場を式前日の一晩だけ見張ってくれないか、だって」
 テーブルを運んだりバージンロードとなる土台などの大掛かりな準備は既に終わっているが、細かい飾り付け等は式の前日に一気に準備をしてしまう。そのため一晩だけは繊細な状態のまま放置されることになるのだが、依頼はその間だけ会場の状態を保守する、という内容だ。
 結婚式を物騒な場所で行う訳はないので、たった一晩では特に何も起こらないとは思う。だがしかし結婚式と言えば一生に一度のイベント。万が一にも備えておきたい。
 別に村の人間でも普通に可能な仕事なのだが、見張りをやって式の当日を徹夜した状態で迎えたくはない‥‥という事である。
「とりあえず会場のすぐ横で朝まで一晩すごしてくれればいいよ。簡単だよね。夜の仕事だから、村に着いて一眠りするくらいの余裕は考えて予定を組んでるから安心して。まー、昼間に寝てなくても大丈夫って人は会場の設営でも手伝ってあげたら? 見張り中はすぐ近くに村があるんだからあんまり騒ぎ過ぎないように。あと、暇だからって全員が寝ちゃわないように。」
 最後に注意事項を説明し、
「私みたいに、なんとなく悔しいからわざと依頼失敗して結婚式をめちゃくちゃにしちゃえ! とか考えるような人はこの依頼受けちゃだめだからね」
 さらりと過激なことを言って締めくくった。

●今回の参加者

 ea1558 ノリア・カサンドラ(34歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1641 ラテリカ・ラートベル(16歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea1662 ウリエル・セグンド(31歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea1899 吉村 謙一郎(48歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5283 カンター・フスク(25歳・♂・ファイター・エルフ・ロシア王国)
 ea8407 神楽 鈴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9935 ユノ・ユリシアス(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

エグゼ・クエーサー(ea7191)/ クリステ・デラ・クルス(ea8572)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ アンリ・フィルス(eb4667

●リプレイ本文

「ふぁぁぁ‥‥」
 日も暮れ、本格的に簡易教会の見張りを始めた一同に、まずはノリア・カサンドラ(ea1558)が大きく欠伸をかみ締めた。
「ついさっきまで寝ていらしてましたからね。あら、よだれの跡が」
 メイユ・ブリッド(eb5422)が布を取り出すと、まだいまいち目が覚めきっていないノリアの口元を拭い、
「最初からそんな様子で大丈夫か?」
 カンター・フスク(ea5283)がからかうように笑う。
「まだ、始まったばかりだし‥‥昼に寝たから、大丈夫‥‥‥」
「ラテリカもたくさんお昼寝したですーー!」
 その言葉にウリエル・セグンド(ea1662)とラテリカ・ラートベル(ea1641)も『大丈夫』と。
「要は、ずっと起きてて見張ってれば良いだけなんだよね?」
「そうだす。ここは静かな様子でごぜえますし、そう難しくはねえだ」
 神楽鈴(ea8407)が改めて依頼内容を口にして確認すると、吉村謙一郎(ea1899)が付け加える。
「結婚式、良いですわねぇ‥‥私もいつか‥‥」
 一方で、一人一同の輪から一歩ほど外れてうっとりと教会を眺めていたユノ・ユリシアス(ea9935)が呟いたりもしていた。
「いやはや、本当にうらやましい‥‥」
 そこにいつの間にか隣に立っていたノリアも同調するように呟く、が、後半は『げふんげふん』と咳払いでごまかす。
「あたいも、いつかは‥‥」
 そこへ更に同調する者が一人。
「でもまずは痩せないと駄目だよね」
 自分のふくよかな体型に凹みながらも現実的に未来を見据える神楽。
『はぁ‥‥‥』
「大丈夫ですよ! ラテリカもこうしてカンターさんと巡り合えたんですから。皆様にもきっといいご縁が!」
 そろってため息を付く三人に、ぐいっ、とカンターの腕を取ってアピールするラテリカ。
 ラテリカ・ラートベルとカンター・フスク、二人はつい先日そろって教会に名前を刻んできた正真正銘ピカピカのカップルだったりする。
『‥‥‥』
 しばし仲睦まじく腕を取り合っていたカップルを見つめていた三人であったが、やがて「目に毒」とばかりにふっと同時に新婚さんから視線をそらす。
「あ、あれ?」
「あー‥‥、さてと、僕は夜食の準備でも始めるか」
 どことなく気まずい雰囲気に、まずはカンターが逃げを打った。
「じゃあ‥‥出来上がるまでに、お腹空かせてこよう‥‥」
 こちらは気まずい雰囲気とは無関係な様子だが、ウリエルもそうマイペースに呟いて、自分の剣を手に持ち輪を離れる。
「あたいも‥‥。フル装備で教会の周りを十週もすれば少しは痩せるかな」
 神楽も、自分の装備を担ぐと軽く走り始めた。
「草むしりでもしよ‥‥」
 「一人寂しく」などとセリフの後ろに聞こえてきそうな声色でノリアが呟き、教会の周りにある草場にしゃがみ込むと『ぶちぶち』と雑草と思しき草を抜き取っていく。ただの草を大地から引っこ抜くにしては、どう見ても力が入りすぎている。
「こういう野外での結婚式って、挙げるとなるとどれくらいの費用がかかるものなのかしら?」
 ユノは外界からの情報をシャットダウンするかのように計算に没入する。
「‥‥わしは周囲を見てこよう」
「ではわたくしもご一緒に‥‥」
 吉村とメイユも腰を上げ、
「え? え?」
 最後に、戸惑うラテリカが一人ぽつんと取り残された。
 そして、それぞれがそれぞれの夜を過ごし始める‥‥‥‥


 月の明かりと焚火の炎が対峙する人型の影をかすかに照らす。
 距離を置いて向き合っているのはノリアとウリエル。
 その二人のちょうど真ん中ほどに、二人の直線状からやや距離を置いて立っているのが吉村。そこから更に後方から様子を眺めているのが神楽である。
 ウリエルの剣の鍛錬と神楽のランニング、それぞれウォームアップが済んだところでより実践的なトレーニングを、という事になり、それに教会周りの草むしりを終えたノリアと辺りの見回りから帰ってきた吉村も加わった。
 まずはウリエルの「剣以外の‥‥体術の修練を積みたくて‥‥」という要望もあり、クレリックのノリアがその相手をする事となった。そこへ吉村が見分役を買って出て今の形になる。
 ちなみに、「なぜクレリックが?」というツッコミは特に上がらなかった。ノリアだからだ。
 それはさておき静かに対峙するノリアとウリエル‥‥体術の修練のため、もちろん二人とも素手である。素手、そして修練である、とは言っても二人の間に漂う気はきつく張り詰めている。
 その真剣な空気に見守る二人にも気圧される。
 しばしにらみ合う二人、だがしかし、ずっとそのままでいる訳にもいかない。タイミングを見極めようと‥‥その時、少し離れた場所から『カチャリ』といった軽い金属音が響く。その音が闇夜に消えるよりも早く、二人が同時に疾った!!
『!?』
 一瞬の変化に神楽と吉村の二人にも緊張が走る。
 二つの疾る影は互いの距離を変える事無く平行に走り‥‥
「って、あれ?」
 緊張に体をこわばらせた神楽は、交錯する無く自分の横を同時に通り過ぎて視界から消えた二人に戸惑いの声を上げた。
「‥‥む?」
 吉村も同様である。
 とりあえず、とばかりに同時に振り返る神楽と吉村。
 体をちょうど真後ろへ向けた辺りで、
「夜食が出来ましたよー」
 カンターの料理の手伝いをしていたユノが声を上げた。
「あたし大盛りで!」
「俺も‥‥大盛り」
 走り去ったノリアとウリエルはしっかり席に着き、もう完全にお食事モードである。先ほどまでの張り詰めた空気はどこへやら。きれいさっぱり欠片もない。
「ああ、冷めないうちに食べてくれ」
 今宵の料理長、カンターが自ら料理をよそい並べていく。並べるのは教会のすぐ横にある大きめのテーブルの上。‥‥先ほどの軽い金属音はこれだったようだ。
「ラテリカもウリエルさんに負けないくらいいっぱい食べるですよー♪」
「どうしたんです? お二人は召し上がらないんですか?」
 ラテリカもテーブルに着き、メイユがぼーぜんと硬直したまま突っ立っている神楽と吉村へと。
「はふはふ‥‥早く食べないと無くなるよ?」
 二人を気遣う言葉とは裏腹に、容赦なく料理を平らげていくノリア。
 今ここにいる人数を考えると明らかに量の多い料理。しかし、本当に、普通に食べていたのでは食べ損なってしまいそうな気がしないでもない。
「‥‥食べる」
「わしも、せっかくの御膳を食い損なうのは勘弁‥‥」
 ようやく、そんな自分の置かれた状況を察したか、硬直から抜け出し二人も駆け足でテーブルへと向かった。


「よしよし‥‥」
 自分の愛馬を優しく撫でているメイユ。
 作られた夜食も全て平らげ、食事前とは逆にそれぞれはゆったりとした時間を過ごしている。
「あ、また間違えてしまいました」
 竪琴の弦に指を撫でるのはユノ。まだまだ練習中らしく、今は先日習ったばかりの曲を復習しているようだ。
 その音は徹夜で夜を過ごす皆の眠りを誘う‥‥程にはいたっていない。
「うーん‥‥」
 神楽はユノの隣でなにやら一人考え事をしている。事前に話を聞くと、ジャパン風詩歌を空想しているらしい。
「あ、また」
「う、うーん‥‥」
 しかし隣で奏でられる、プツプツと音を外しては途切れる不思議なメロディーにいまいち集中できず、なかなか良い歌は思い浮かばないようであった。
「さて、と‥‥」
 勢いをつけ突然立ち上がったノリアに軽く視線が集中する。
 つい先ほどまでは夜食にお腹が膨れて満足げに横になっていたはずだ。
「お腹も膨れたし‥‥」
 『(今度こそ真剣に修練を‥‥?)』一同にそんな思いが巡る。
「今度は私も何か料理を作ろうかな」
「まだ食べるの!?」
「まだ食べるんですの!?」
「まだ食べるんですか!?」
 ノリアの予想外の発言に、依頼を受ける時に受けた「あんまり騒ぎ過ぎないように」という注意を忘れての驚きの声が三つほど上がる。
「よろしく‥‥お願いします‥‥」
『ウリエルさんも!?』
 ノリアの作る料理に期待を込めたウリエルの言葉に、再び驚きの声が上がった。


 少しばかり声を殺しながらもワイワイと賑やかな一同。今はノリアが夜食第二弾を製作しつつ、こういった状況下では話題に上がりやすい怪談の類をユノが必死になって止めようとしているらしい。
 そんな楽しげでささやかな喧騒から少しばかり離れ、場所は簡易教会の祭壇の前。
 大して離れてはいないものの、焚火の明かりが届かぬ場所に立てば、その喧騒の音まで届かぬような錯覚を起こす。そこに立つ者がひどく狭い世界しか感じ取れていない状況ではなおの事‥‥
 
「ラテリカ、お式の間は夢みたいでしたし、ホントは今でも、夢じゃないかって思うのです。だからね、本当の印に、ここで、キスして欲しいのです‥‥」

 祭壇の前に、照れて俯き立っているのは小さき新婦、ラテリカ・ラートベル。

「僕はキミに、永遠の愛を誓おう。この長き生をかけて、キミを愛しぬくと」

 新婦の体をそっと抱き、向かいに立つは新郎であるカンター・フスク。
 
 二人は互いの名を呼び合うと、誓い合うように軽い口付けを交わした。
 その二人の姿を、静かに流れるセーヌ川に映りこんだ月の光が、祝福するように包み込んだ‥‥


 そして夜が明けたその日の‥‥夕方。
「ブーケ! 花嫁のブーケは!?」
「えっと‥‥まだ小さな女の子がゲットしてましたよ?」
「そんな‥‥」
 ぜひとも花嫁の投げるブーケを欲しかったノリアだったが、残念ながらその時ノリアはぐっすりとお休み中であった。徹夜をした分、やはり睡魔には勝てなかった。
「ふに‥‥」
 睡魔に勝てなかった者がもう一人。今はカンターに抱っこされてその腕の中で寝ているラテリカである。
「歌い終わるまではしっかり起きていたんだけど」
 ラテリカは結婚式が始まるまで粘り、祝福の歌を新郎新婦へ贈った。
 その歌は大変喜ばれたが、歌い終わると同時にラテリカはぽてっと寝てしまい、それ以後ずっとカンターに抱かれている。
「でも、とても素敵な歌声でした」
 途中までだがこちらも耐えて式に参加していたメイユ。ラテリカが歌っている頃はまだ会場にいたようだ。
「そっか、やっぱり良いもんだね、ジューンブライド‥‥」
『ん?』
 改めて口にした「ジューンブライド」という言葉に一同、何かが引っかかる。
『(ジューン・ブライド。ジューン‥‥)』
「あ」
 誰かが手の平をぽんっと軽く握ったこぶしで打つ。
「今日はもうジュライ‥‥」