あの日の思いに花束を

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:7人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月09日〜06月12日

リプレイ公開日:2007年06月18日

●オープニング

「今年ももうこんな季節なのだねぇ‥‥」
 部屋の中に一人、ベッドに身体を横たえる老婆。上半身を起こし、ベッド脇の窓から外の景色を眺めている。
 幾分和らいだキエフの風も、その老婆にはまだ厳しいのか、手を伸ばすとその手でそっと窓を閉める。
「やはり、今年も無理か」
 老婆は毛布のかけてある自分の両足をしげしげと眺めると、寂しげに呟く。
「この身体ではもうダメだねぇ」
 言うと老婆は軽く咳き込み、起こしていた上半身にも毛布をかけた。


 花を、届けてもらいたい。
 ただし、届けるは人ではなく、キエフからドニエプル川を半日ほど下った川沿いの場所にある一個の岩の上。
 その岩に、花を届けてもらいたいというのが依頼だ。周りに、特に何かがある場所ではない。しかし、依頼人は多く語らなかったが、依頼人にとっては特別な場所なのだろう。
 その岩の上に花を届け‥‥もしよければ、その日はその岩の前で野営し、少々にぎやかにやって欲しいとのことだ。酒の席だとなお良いらしい。その分の費用は依頼人が出すとのこと。
 キエフを午前中に出発すると、到着するのはおおよそ夕方辺り。日程的には無理があるわけではないだろう。詳しい場所は周辺の様子が書かれた地図を預かっている。そこに岩の形なども簡単に描かれているため、それを見れば迷う事もないはずだ。
 道中に、何か障害があるとの知らせも無い。
 ささやかな仕事だが、やりたい者はいるだろうか‥‥?

●今回の参加者

 eb3338 フェノセリア・ローアリノス(30歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb4859 イリスフィーナ・ファフニール(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9703 ラヴァド・ガルザークス(26歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec1788 デューセイグ・ヴォルザース(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec2004 虎 再鏡(33歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ec2332 ミシェル・サラン(22歳・♀・ウィザード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ ニセ・アンリィ(eb5758)/ ディエミア・ラグトニー(eb9780)/ ラディッシュ・ウォルキンス(ec1503

●リプレイ本文

 準備日‥‥という事で、各々が自由に行動できる一日目。
 必要な物の買出しを済ませる者が多かったが、広場の屋台を回る二人がまずその一組目。
「こんなものかしら?」
 いくつかの買い物袋を胸に抱えたイリスフィーナ・ファフニール(eb4859)、もっぱらお菓子といったおやつ系の食べ物の入ったその袋を見て、それとなく満足気。
「これもみんなタダなのね」
 イリスフィーナの頭の上を飛んでいるシフールのミシェル・サラン(ec2332)、必要な食料に関しては依頼人が費用を持つという事なので、イリスが抱えているお菓子も全て依頼人のお金である。
「明日が楽しみだわ、ワケありみたいだけど」
 身体の小さなミシェルは買い物袋を持てないため、代わりにイリスフィーナが抱えている自分の選んだ買い物袋を見下ろして楽しげに話すが、それだけではなく一言付け加え、
「大体の理由は想像できるけどね‥‥」
 その一言に、イリスフィーナが小さく呟いた。

 さて、買出し二組目、デューセイグ・ヴォルザース(ec1788)とその付き添い人であるラディッシュ・ウォルキンス(ec1503)、そして、
「おお!! こ、これはなかなか‥‥!」
「‥‥」
 急に立ち止まると、店に並べられていた石を手に取る虎再鏡(ec2004)、
「と、すまん」
 ラディッシュに促されると、手に取った明らかに依頼とは関係ないその石を店に戻し二人に向き直る。
「‥‥相変わらず無駄に声が大きいな」
 するとそのやり取りを見ていたディーセイグがラディッシュに一言。
 そんな、どことなく買い出しには向かない気のする三人は、依頼人に頼まれていた酒を購入する為に店へと入ってく。
 品物を選んだ後の支払い時、ディーセイグが店員相手に値切り交渉をしていたが‥‥口数の少なく、庶民的な金銭感覚に乏しいディーセイグでは、あまりうまくいかなかったそうである。

「花、か‥‥」
 花屋の前で花を眺めているラヴァド・ガルザークス(eb9703)とその友人であるディエミア・ラグトニー(eb9780)の二人。
 依頼人から預かった花とは別に、個人的に手向ける為の花をと思い店に出向いたラヴァド。自分では花のことは良く分からないため、ディエミアに選ぶのを手伝ってもらう。
 購入した花を手に歩いていると、同じ依頼を引き受けたフェノセリア・ローアリノス(eb3338)とフォックス・ブリッド(eb5375)の二人に出くわした。
 二人は依頼人の元へ話をしに行っていたはずなので、時間的にそれが終わったあとなのだろう。
「外に出るのは無理だそうです」
 可能ならば依頼人も一緒に‥‥と考えていたフォックス。しかし、依頼人は足そのものが悪いのではなく、身体の調子が悪く寝たきりになっていたせいで歩く力が衰えてしまっていたのだ。もし依頼人が自分の足で歩くことなく現地に移動する手段があったとしても、身体の調子そのものが良くならなければ遠くまで出向くことは難しい。
「でも、代わりにお婆さんの好きな食べ物を聞いてきました」
 と、フェノセリア。依頼人の代理なので、依頼人の好きなものも用意しておきたい、と言う事らしい。
 フェノセリアはその依頼人の好物を用意するためにまだこれから買い出し、とのことで、それぞれは明日のことを軽く打ち合わせるとまたそれぞれ分かれて行った。


 そして、次の日‥‥
 目的地までの道中は情報通りこれと言った障害もなく、目的の岩を探すのに多少迷った程度だった。
 その岩の上に、冒険者達はそっと花を手向ける。
 クレリックであるフェノセリアが岩の前で祈りを捧げ‥‥
「さあ、後は楽しくやれば良いのよね」
 イリスフィーナの言葉を区切りに、冒険者達は気持ちを切り替えると夜営の準備へと移っていった。

「力仕事くらいしか出来ぬからな」
 そう言ってラヴァドから受け取ったテントを設営していく虎。その横では、フェノセリアとラヴァドが料理をしていた。フェノセリアは先日聞いてきた依頼人の好物を、ラヴァドはそれの残りの材料を使って調理している。二人とも、料理の内容はあまり凝ったものではなく、一般的に家庭で口にするような類のものだった。
 夜営の準備も済み、夕食も食べ終わる頃になるともう辺りも暗い。
 焚き火を囲み、イリスフィーナとミシェルが買ってきたお菓子を広げ、酒が飲める者はディーセイグやラディッシュ達の用意した酒を飲み交わしながら、しばし食後のゆったりとした時間を過ごす一同。
 話をしながら、流れでイリスフィーナがテーブルゲームを取り出すと、しだいにそれぞれ行動が分かれていく。
 ディーセイグや虎はそのまま剣のこと等について話をしていたし、ラヴァドは岩に酒を手向けていた。
 その後もミシェルが持っていた大凧に乗ってみたいと空へ舞い上がった虎が空から降りれなくなり、フォックスの空飛ぶ木臼で救出するなどの騒動があったり、皆楽しげに、夜は更けていく。

 そして、朝日が昇る頃。
 フェノセリアのように次の日に備えて早めに休むものもいたし、そのまま朝まで起きていた者もいた。
 前日夜更かししたせいで遅めの朝となったが、片付けを済ませた後、出発前にもう一度揃って岩の前に並ぶと、冒険者達はキエフへと帰っていった。 
「思い出、か‥‥」
 歩みを進めながらふと岩を振り返り静かに呟いた、誰かの言葉を残して‥‥