激風の夜(+1)
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■ショートシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月17日〜08月22日
リプレイ公開日:2007年08月27日
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●オープニング
冒険者ギルド、それを訪れる人には大きく二種。
なんという事はない、仕事の依頼に来る者と、その依頼を引き受けに来る者と。
「あら、あの娘は‥‥」
ギルドの職員が見つけた小柄な少女。
ギルドの中をきょろきょろと見回し、それと同時に揺れる束ねられた二本の金髪。
「また何か仕事の依頼かしら?」
何度か仕事を依頼に来たことのある少女のため、顔を覚えていたそのギルド職員が少女に声をかける。自分が担当した依頼人なので、名も記憶にある。確か、シフィン・グレイシー。
「だれ? 貴女」
‥‥対する少女、シフィンはそのギルド職員の顔など覚えていなかったようで。
ギルド職員が簡単に以前シフィンが依頼をしたときの担当であることを伝え、
「まあちょうど良いわ。ここの人という事よね」
しかしシフィンは声をかけてきた人物が誰なのか気にせずに話を進める。
「何か良い仕事はないかしら、報酬の多いものが良いわね!」
はて、と首かしげるギルド職員。今日のシフィンは仕事の依頼に来たのではなく、仕事を受けに来たらしい。
以前にシフィンが依頼したときの条件や小奇麗なシフィンの格好から考えるに、特に金銭には不自由していないはずである。家もキエフにあるはずだが‥‥
何か事情があるのだろうか、とは思うがそれはそれ、まずは本分である。
「冒険者として登録するなら、ついさっき入った依頼だけど、報酬が多めの仕事があるわ。その分、大変ではあるけど‥‥」
「それで良いわ、お願いね」
ギルド職員の言葉に、依頼内容も確認せず即答するシフィンであった。
「開拓途中の現場が、ジャイアントオウルに襲われたわ」
ジャイアントオウル、名前の通りでっけー梟である。
「死者は出なかったけれど、重傷者が数名出て開拓もストップしているの。このジャイアントオウルの退治が仕事です」
たまたまジャイアントオウルの縄張りと開拓予定地が重なったのだろう。ジャイアントオウルは今も開拓現場の近くに陣取っている。
もちろん、退治が確認できるまでは危なくて開拓を進める事も出来ない。
「開拓現場はまだそれほど開拓が進んでいないから、ちょっと開けた森くらいで考えてちょうだい。森の奥深くというわけではないけれど、まだまだ野生の生き物に有利な環境という事ね。それに加えて、梟だから夜行性」
現場が襲われたのも、真夜中の事である。
「危険な仕事だから、十分に気をつけて」
●リプレイ本文
「ふぅ‥‥夜まで、暇ね」
切り倒された一本の木に腰掛け、頬杖をつきながらそのセリフに違い無く暇そうな表情でつぶやくのは金髪ツインテールの少女、シフィン・グレイシー。
「暇なら何か手伝ってください」
そんなシフィンを見てため息混じりで口にするミラン・アレテューズ(ec0720)、
「そうです、時間もそんなに無いんですから」
それにゼロス・フェンウィック(ec2843)がミランに続きシフィンを非難する。
二人は今、現場に残されていた木材を使用してバリケードや罠などを設定している最中だ。
「仕方ないわね」
「どうして私が‥‥」といった調子で重い腰を上げるシフィン。
「ところでそれ、勝手に使ってもいいの?」
シフィンがそう言って指差すのは二人が使っている木材。もちろん、開拓の過程で使用する重要な物である。
「後で元に戻しておけば大丈夫でしょう」
「そう、まあ、私には関係ないけれど‥‥これをその辺りの木に引っ掛けて来れば良いのよね?」
言ってはみたものの本当に気にしてはいないらしく、ミランの言葉を聞き流すと近くにまとめて置いてあったランタンを一つづつ両手に持つシフィン。
「あ、それは暗くなって明かりを付けてから‥‥」
ゼロスがシフィンを止めようとするが、シフィンは小柄な体格の割に早い歩みでスタスタと行ってしまった後だった。
「まあ、後から付けて回れば同じことですね」
何かやってくれるだけマシ、と自分の作業に戻るミランとゼロスであった。
「ずいぶん多くの薪を集めているのね?」
ランタンを持って歩き回っているシフィン、その途中で薪を寄せて篝火の焚き木を組んでいるチルレル・セゼル(ea9563)とウォルター・ガーラント(ec1051)の二人を見つける。
「ええ、これと同じサイズの物を囲むように他に五つ、その中心に大きな物を一つ、用意するつもりですから」
シフィンの疑問に答えるウォルター。
「常にある程度の明るさになるようにするよ」
「それはいいけれど――ま、いっか。せいぜいがんばるのね!」
チルレルの言葉に何か言いかけたシフィンであったが、「早く終わらせて仮眠しよ」とまたスタスタと歩き去るのであった。
そして、夜。
しばしの仮眠を取った冒険者達は昼間用意した明かりに火を灯すと、その明かりを維持しながらジャイアントオウルの出現を待つ。
「あなたはどうしてギルドの依頼を?」
ただ待っているのも暇なので、いくらかの夜食を用意し、それを口にしつつ雑談する冒険者達。
その話題の一つとして、ウォルターがシフィンに尋ねる。一応、シフィンが冒険者ギルドの依頼を受けるのは初めて、という話は全員が聞いている事だ。
「べ、別に、そんなの私の勝手でしょ!」
わずかに視線を逸らしシフィン。
「言いたくない事情でもあるのでしょうか‥‥」
聞きたくはあるが、無理に聞き出すわけにもいかないだろうとゼロス。
そんな様子をクールに眺めるミランに、用意された食事をもくもく食べるチルレル。
そうして、さらに夜はふける‥‥。
「ふぁぁ‥‥」
「なかなか現れませんねジャイアントオウル」
仮眠だけではぜんぜん足らないシフィンのあくびを横目で見るミラン。
が、そのミランの言葉に、今度はシフィンが不思議そうな顔を浮かべる。
「それは、これだけ煌々と火を灯していたら野性の動物は警戒して寄ってこないでしょう、普通」
「え‥‥?」
眠たそうにシフィンが言うと、一瞬その場の時が止まる。
その一瞬の後、改めて辺りを見回す一同。まず、自分達を囲むように六箇所にある篝火。その篝火の明かりが届きにくい場所にはランタンが吊るされており、目の前には周りにある篝火よりいっそう大きな篝火。
ジャイアントオウルとは言っても、動物は動物。
「ど、どうしてもっと早く言って‥‥」
「それは後にしましょう、どの道、薪ももうあまり残っていません」
計七箇所の篝火を一晩中維持するだけの薪を集めるには、昼間の準備時間はあまりに短く、人手も足りない。
そして、篝火の炎がジャイアントオウルを遠ざけているなら‥‥
用意した篝火のほとんどが燻る程度になったしばらくのち、それは現れた。
静かに、そして突然に。
「み、皆さん無事ですか!?」
「昼間に作った壁が役に立ちました」
突如として自分達に向かってきたジャイアントオウル。五人はとっさにバリケードを盾にし、察知困難な初撃はギリギリで逃れることが出来た。
「見失わないよう気をつけてください!」
冒険者を襲ったジャイアントオウルは初撃に失敗するとまた上空へ。上から様子を伺うように飛んでいる。
「空にいる間は手が出せません」
槍を構えるミラン。その優勢を奪うべく、ゼロスがウィンドスラッシュの魔法で、ウォルターが弓で翼を狙うが夜空を飛び回るジャイアントオウルはそう簡単に捕まらない。特にウィンドスラッシュは射程的にも際どい。チルレルもファイヤーボムで攻撃を行うが、やはり問題はその射程。
シフィンはというと、射撃攻撃を行うメンバーに対し「右!」だの「左!」だのと後ろからオウルの位置を知らせている。
そうやって上空のジャイアントオウルを追い回すことしばし。
少しずつダメージの重なって動きの遅れた一瞬、ついにウォルターの矢がジャイアントオウルの翼へと突き刺さる。
その一矢でバランスを崩したジャイアントオウルへ今度はチルレルのファイヤーボムが直撃、その衝撃でジャイアントオウルが地面へと下降する。
「逃しません‥‥!」
じっとそのタイミングを待ち構え、力を蓄えていたミラン。地面へ着地した瞬間を狙い済ましてジャイアントオウルの体へ手にした槍を突き立てる。
その一撃は体を貫き‥‥ジャイアントオウルは戦闘中一度も上げなかった鳴き声を上げると、その巨体を地面へと傾けた。
「やれやれ、一事はどうなる事かと思いましたがなんとかなりましたね」
近づいてジャイアントオウルの死を確認し、この夜の終わりを告げる。
「まあ、こんなものよ!」
「あなたはほとんど何もやっていないでしょう‥‥」
なぜか胸を張ってそう宣言するシフィンに少々呆れつつ‥‥それでも冒険者達は、心から安堵するのであった。