森の籠

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月23日〜02月07日

リプレイ公開日:2008年02月04日

●オープニング

 未開発の森の調査‥‥
 キエフにある冒険者ギルド、数年前より大規模な開拓が行われているこの地において、その依頼としてもっともポピュラーなものの一つであろう。
 人の手に染まっていない土地には、常に危険が付きまとう。
 人を襲うモンスターはもちろん物理的な脅威となるであろうし、純粋な自然も時には鋭き牙となる。そして、普通の人間が寄り付かない場所は、普通でない人間‥‥野盗等が身を隠す場所にもなりえ、それもまた脅威となる。
 そんな未開の地に一歩、踏み込むにはそれなりの技量が伴わなければならない。
 そんな事情から、今日もまた、どこそこの『森の調査』依頼が冒険者ギルドへと届く。変哲の無いの調査依頼であり、ただ一つ変わった点と言えば、冒険者自身がその依頼の依頼人である事だった。

 今回調査の依頼された森は既に一度調査が行われ、ある程度の安全が確認された場所であり‥‥目立った危険が無いか身をもって確認して来いだの、巣食っているモンスターを倒せだの、そういった内容ではない。
 そういったものが確認されればもちろんの事そういった依頼が出されるのだが、その森はそういったものは見つからず、その段階は既に終了している。そのため、今回はより詳細な調査となる。
 細かな地形、生息している動植物、土壌、水源‥‥切り開き、その土地を人の手で染めるには、さまざまな事を調査する必要がある。
 今回の依頼は、そういった細かな調査へと向かう内容である。

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea3865 虎杖 薔薇雄(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec0204 イディア・スカイライト(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「う〜、冷えるっすね‥‥」
 言って両の手を擦り合わせる以心伝助(ea4744)、
「そうだな、オーストラリアの暖かさに慣れた私には少々酷だ」
 それを聞いたイディア・スカイライト(ec0204)が、遠方の地を思い出しつつ毛皮で出来たコートを身に寄せる。
「日も‥‥すっかり落ちてしまいましたしね‥‥」
「今の季節はあっという間に真っ暗でやす」
 アルフレッド・アーツ(ea2100)も、暗くなった周囲を見回しながら同じように‥‥体の小さなアルフレッドはモコモコの防寒服に埋もれながら。
「それはそうとして、アディアールと薔薇雄はまだ戻らないのかしら」
 自身が集めた薪を焚火の中に投げ入れながら、リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)がこの場にいない二つの名を口にする。
「うむ、まさかとは思うが遭難していないだろうな‥‥」
 この地この季節、遭難ともなればそれこそ命に関わるため、冒険者と雖も心配の一つも‥‥
「どうっすかね? 単に遅くなっているだけのような気がするっす」
「そうね、アディアールは森に入ってから妙にハイテンションだったし」
「虎杖も‥‥あの調子だしな」
『‥‥』
「まあ、あの人は森で遭難したくらいでは遭難しそうにもないでやすから」
「そう‥‥ですね‥‥」
「心配するだけ損ね」
 どうやら、その二人は、心配の一つもしてもらえないようである。
「さて、どうする? 二人を待つか? それとも先に報告を始めるか?」
「それだと、二人が戻ってからまた同じことを話さないから面倒じゃない‥‥?」
「でも‥‥こうしてじっと待っているのも‥‥」
「いえ、その心配には及びませんよ」
 どうするか意見を交わす四人だが、その四人とは別の声が木々の間からかけられる。
「あ、アディアールさん‥‥」
「まったく、遅いわよ」
 その五人目の声の主、アディアール・アド(ea8737)の姿を確認するアルフレッドとリュシエンヌ、
「ふっ、後から遅れてやってくる私も美しい‥‥」
 そしてアディアールの後ろから姿を現す虎杖薔薇雄(ea3865)。
「美しいかどうかは別として、遅れるのは勘弁っす」
 ‥‥には、ひとまずツッコミを入れておく。
「いやーすみません、つい夢中になってしまって」
「夢中になる君も美しいよ、アディアール君、ついじっと見つめて続けてしまうくらいに」
「見つめるだけではなくて適度なところで止めてあげなさい」
「遅くなった経緯が‥‥簡単に想像できますね‥‥」
 夢中になって周りの見えていないアディアールと、元より周りを見る気がなさそうな虎杖の姿が浮かんで消える。
「森は良いですね、安らぎに満ちています」
「そのセリフはもう何度も聞いたから」
「二人とも、立ち話をしていないでまずはこっちに来て座ったらどうだ?」
 弾む少しばかり冷ややかな会話を止め、イディアが焚火の方へと二人を促す。
「そう‥‥ですね、寒かったでしょう‥‥から‥‥」
「こっちの『火』当たりの良いところに座るといいでやす」
「すまないね、伝助君」
「ではお言葉に甘えて」
 テンションが高く寒さなど気にも留めてなさそうなアディアールと、寒くて凍えてもそのままの調子で凍りつきそうな虎杖だが、やはり寒くない訳ではないらしく、素直に伝助の勧める一番温かい位置へと腰を下ろした。
「なら、全員そろった訳だし報告を始めるか」
 全員が身体を落ち着けたのを確認し、イディアから本題へと入る、
「そうっすね、あっしとイディアさんからでいいっすか?」
「ええ、お願いね」
「ふむ‥‥今日の調査では、特に特徴的な地形とは出会わなかったな」
「穏やかな森がずっと広がってる感じでやすね」
「植物の分布も、森の中ではあまり変化がないようだ」
「住んでる動物も同じでやす、どこもそう変わらないっす」
「私達の方も似たような感じだったから、変化に乏しい森なのかしらね」
「そう‥‥ですね」
 報告を聞いていたアルフレッドとリュシエンヌが顔を見合わせる。
「特に有害そうな生き物もいないようでやす、ギルドの情報通りっすね」
「と、私達の報告としてはこれくらいだな」
「あぁ報告を告げる二人も美しい‥‥」
「では、次はリュシエンヌとアルフレッドにお願いする」
 報告と関係なさそうな虎杖のセリフはとりあえず無視である。
「そうね、って言っても、私達も報告する内容はそう変わらないけれど」
「まあ、一日目は森の様子をざっと確認する程度、という話だったからな」
「植物は、そう種類が豊富な訳ではないけれど、食べられる実を付ける種類も木材になる種類も、ある程度は揃っている感じね」
「開拓するには‥‥ちょうど良いですね‥‥」
「食料や木材は現地調達するのが効率良いですしね」
 近くに人里がないのならなおさら‥‥そして、冒険者にわざわざ調査依頼が出されるような情報の少ない森は、狩猟などを行う人間がない、つまり人里が離れているということでもある。
「えと‥‥僕は、空からこの辺りの大雑把な地図を書きました‥‥ので‥‥」
「おぉ、それはありがたいです」
「地図なら言葉よりも実際に見た方が早いっすね」
「これ‥‥です‥‥」
 アルフレッドが防寒服の中からごそごそと書いた地図を探して皆の前に引っ張り出す。
「ふむふむ」
「ふっ、どうやら川や湖といった目だって大きな水源はないようだね」
「開拓するなら地面を掘る必要がありそうだな‥‥」
「冬の間はあっし達みたいに辺りの雪を溶かせばいいでやすけどね」
 言わずもがな、もちろんキエフと言えども夏は訪れる。
「掘って、都合よく水が出るとは限らないが」
「まあ、そこまでは私達の心配することじゃないんじゃないかしら」
「そうだな」
 さすがに、往く場所で往く場所で地面を深く掘って地下水があるかどうか調査するのはこの短期間では無理である。
 これは、今後の調査グループに任せることになることにする。
「僕達の報告は‥‥以上です‥‥」
「なら最後は虎杖とアディアールだな」
「はい、森を十分に堪能させていただきました!」
「ふっ、美しく浮かれるアディアール君を十分に堪能させていただいたよ」
「‥‥」
『‥‥‥‥?』
「‥‥」
「え、報告終わり?」
 誰ともなく、その沈黙から『もしかして』という疑問の声を上げる。
「はい? これ以上に何を報告するというのでしょう‥‥?」
「何を報告するというんだい?」
 そろって堂々とうなずく二人。
「ぁー‥‥そ、そうっす、アディアールさんは魔法で森と会話するとか言ってなかったっすか?」
「おぉ、そうですね、お話、してきました」
 どう話を繋いで良いのか戸惑う一同だが、なんとか伝助が森への道中で話していたアディアールの言葉を思い出し話を続ける。
「よければ‥‥話したことを‥‥聞かせていただけると‥‥」
「ふむ、お話して分かった事といえば‥‥」
「言えば?」
「この森がとても平和だということですね」
「‥‥けっきょく、みんな結果はそこに行き着くのね」
 一日目の調査結果としては、以上のことに集約されるらしい。
「平和は美しい‥‥」
「その意見には同意だが、この様子だと広範囲を調査してもあまり成果は上がらないような気がするな」
「そうね、遠くまで行ってもほとんど様子は変化はないようだし」
「なら、近くをもっと詳しく調査する感じっすね」
 遠くを調査しても、近くを調査しても、得られる情報にあまり差異がないのなら遠くに移動するだけ時間の無駄である。
「僕も、その方が良いと思います‥‥」
「私も同意しておこう」
 特に反対意見も出ず、
「では、今日の報告会は終了だな」
 イディアが終了を告げる。
「後は明日に向けてゆっくり休むとしようか」
「そうそう、こんな食べ物を持参したんですけれど、どう食べればいいのか分からなくて」
「鮭に餅っすか?」
 アディアールが取り出した食材をみて伝助、
「ええ、ジャパン出身の方なら詳しいかと思いまして」
「ふっ、餅は火であぶって焼いて、鮭は野菜と一緒に鍋で煮ると良いい」
 と、そんなことを口にしたのは虎杖である。
「‥‥ああ、そういえば虎杖もジャパン人だったのよね」
「ときどき‥‥忘れそうになります‥‥ね」
 他の者も一斉に首を縦に振る。
「心はノルマン人だけれどね」
「え? えっと‥‥」
「ダメよ、虎杖の言う事を深く気にしちゃ」
「そうっすね‥‥」
 頭から先のセリフを振り払うと、食材を受け取り手を動かすことにする。
「今日の夕飯はアディアールの食料を虎杖の言った方法で調理するとして‥‥食べたら順番に休むとしようか」
「そうね、遅くまで起きていても寒いだけだし‥‥イディアは私と一緒のテントね」
「うむ、世話になる‥‥さて、私は夕食が出来上がるまで資料をまとめるとしよう」
 普段からどことなくそっけない雰囲気のイディアだが、もくもくと記録を付ける様子は少し違い、わずかだが楽しげな雰囲気を感じ取ることが出来る。
「あぁ‥‥今宵も夜空が美しいね‥‥私の美しさに負けじと星々が輝いている」
『‥‥』
 虎杖のそのセリフを聞いて、つられ夜空を見上げるか、もしくはため息をついて地面を見下げるか‥‥どちらかの正反対な反応を示す一同だった。