【黙示録】悪魔の奏

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2008年12月23日

●オープニング

 笛の音が響く。
 人の姿などまるでない、その白く染まった岩山に。
 それでも、笛の音は絶えず空へと消えていく。
 演奏者は額に一角を持つ人型、聴衆は‥‥

 そして、その岩山の情景を見上げる存在があった。 
「何をしておるのじゃ、あの悪魔は‥‥」
 その言葉に首をかしげるのは人型の小さな精霊――エレメンタラーフェアリーである。
 それも、一匹ではなく複数のエレメンタラーフェアリー、そのどれもが赤い姿‥‥火の属性を持っている。
「まあ、おぬし等に聞いて分かるとは思わんが――あの辺りには大カラスどもの巣くらいしかないはずじゃが」
 言葉を発し、フェアリー達に囲まれている存在、それもまた赤い人型をしている。ただし、同じ人型でもその身体の大きさには比べるのも馬鹿馬鹿しいほどの開きがあった。それは、人の数倍の大きさ‥‥フェアリーと比べれば、数十倍の大きさがあるであろう。
 その身体の赤は、真なる炎。それはイフリーテ、と呼ばれる存在だった。
「さて、どうしたものかの‥‥放っておく訳にもいくまい」
 その言葉に対し、今度はフェアリー達がそれぞれ短く声を発する。
「わしか? ふむ‥‥わしだけではな」
 それは人には内容を理解できない声であったが、彼の者たちでは意思疎通の手段として成立しているらしい。
「おぬし等も感じている通り、水の気が多い今の時期はわし等にとってタイミングが悪い」
 言って周囲を見渡せは、どちらに向けても目に映るのは白い‥‥雪。
「かと言っておぬし達に戦いの事を期待してもの」
 イフリーテが近くにいたフェアリーに目を向ける。
 その視線に対し、フェアリーは握り拳で『大丈夫』とばかりに意気込むが、
「やめておけ」
 イフリーテはキッパリと言い放った。
「仕方がないの、お主、少し使いをしてもらえぬか?」
 言って、イフリーテは一匹のフェアリーを指すのだった。


 数日後、町の酒場にいた冒険者を中継して、ギルドに一通の手紙が届いた。
 その手紙の内容には、とある岩山の場所、そして‥‥額に一角をもつ悪魔の存在について書かれてあった。
 依頼主の名も、報酬についても、何も書かれていない。
 それを届けたのがいつものシフールの使いであれば、まともに取り合うことはない内容であろう。
 しかし、そうではなかった。最初は、いつものシフールの使いかと思われた。
 だが、違う。
 羽の生えた小さな人型‥‥というところまでは同じだが、身体がもっと小さい。幸いにも、その酒場は冒険者たちの集う場所。ゆえに、違いに気づける者も、その正体を知る者も多かった。
 シフールに代わり、その手紙を届けたのは‥‥エレメンタラーフェアリー。
 『精霊』、そして『悪魔』。この二つのキーワードにより、人もまた、動き始めた。

●今回の参加者

 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb3988 ジル・アイトソープ(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec3237 馬 若飛(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec4531 ウェンディ・リンスノエル(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

シルバー・ストーム(ea3651)/ ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

「しかし人間にエルフ、シフールとフェアリーにペガサスか‥‥珍妙な組み合わせじゃのう」
「これくらいはまだましな方だぜ。それと、俺は人間じゃなくてハーフエルフだ」
 一行の横から冒険者たちをしげしげと見、イフリーテが呟く。
 手紙に従い岩山の麓へとたどり着くと、冒険者達はイフリーテと合流した。
 もっとも、冒険者達からすれば手紙の送り主がイフリーテである事など会うまで不明であったため、合流後にしばし情報の交換と整理を行う必要があったが。
 そして情報の整理を終えた一行は、さっそくデビルを目指し岩山の道を登っているところである。
「しかし‥‥お穣ちゃん達は楽そうでいいな」
 馬若飛(ec3237)の視線の先に浮かぶのは、元より空を飛べるシフールと、魔法で空に浮いたジル・アイトソープ(eb3988)の姿。
「‥‥‥‥違う‥‥」
「? 何がですか」
「‥‥『お穣ちゃん』と呼ばれるような年じゃない‥‥‥‥」
「いえ、そこは素直に呼ばれてもらっておいて良いと思うの‥‥」
 彼らが進む道はそう広い道幅ではなく、簡単に道を踏み外すような狭さで無いものの、剥き出しの岩がそこらじゅうにあり、雪も積もっていてとても歩きやすいものではない。
「しかし――もうだいぶ上ってきましたね‥‥」
 ウェンディ・リンスノエル(ec4531)が身を乗り出して崖から下を覗くと、すでに結構な高さがあった。
「‥冬の雪山‥‥老体に応える‥‥‥」
 同じく宙に浮いたジルも自分の足元に視線を向けると、首だけでコクリとうなずく。
「そろそろデビルを警戒しておいた方が良いでしょう」
「そうじゃのう、いつも頂上にいるとは限らんでな」
「さっきも話したけど、各地で精霊が襲われているらしいから‥‥貴方は、あまりデビルに近づかない方がいいと思う」
「なんじゃ、わしは後ろで見物していろと申すのか?」
 カグラ・シンヨウ(eb0744)の言葉に、イフリーテは表情を曇らせる。
 激しさを象徴する炎の属性に似合い、じっとしているのは合わないのであろう。
「いえ、そうではなく、後ろからの援護をお願いしたいのです」
「ふん、大して変わらんではないか」
「しかし、貴女自身がデビルの目的かもしれないのです」
 ウェンディ、そしてディアルト・ヘレス(ea2181)と続けて説得の言葉を聞き、イフリーテは曇らせていた表情を諦めの表情へと変えていく。
「分かった分かった、だから皆でそう言い立てるな」
「おう、援護、期待してるぜ!」
「わし、それほど魔法は得意でないんじゃがのう‥‥」
「何か言った?」
「いや、わしをどうこうするつもりがあるのなら、とうにやっておる気がするが」
 馬の期待から少しだけ視線を外すと、小さく呟くイフリーテ。
 かすかに耳に出来たのは一番近くにいたシャリン・シャラン(eb3232)だけだったが、何を言ったかまでは分からなかったらしい。
「人間にエルフとハーフエルフ、シフールとフェアリーにペガサス、それにイフリーテですか、これはまた珍妙な一行ですねぇ」
「珍妙じゃと!?」
「いえ、さっきご自身も似たような事を口にしていたじゃないですか‥‥」
 激昂するイフリーテにウェンディが冷静に言葉を返すも、その言葉がイフリーテの耳に入っている様子は無い。
「んなこと言ってる場合か!?」
 馬の弓には既に矢が掛けられている。他の者も同様、口は動かしながらも、身体は既に戦闘態勢に入っていた。
「現れましたね」
 皆が同じ一点、宙に浮いたそれに視線を向ける。例外は、視線を向けられる本人だけだ。
 流れるような白髪に、細やかな装飾の礼装、人が持つには少しばかり白い肌‥‥そして、整った顔立ち。もしそれが人間であったなら、女性達の熱意を一心に集めるであろう事は容易に想像が出来る。しかし、幸か不幸か、それは人間にあらず。それを象徴するのは、額に存在する一角獣の持つ物に似た一本の角。
「こんな所にどのような御用事でしょうか? ここにはあなた方が興味を引くような物は無かったと思いますが」
「貴方こそ、その何も無い所で何をしているのですか?」
「さて、私はただ音を奏でていただけですが」
 やや芝居がかった口調で口を開いたデビル。
 冒険者達も何か情報を引き出したいところではあるが、その芝居がかった口調のせいでその内心は窺い難い。
「‥‥‥‥嘘‥‥」
「そうですね、そちらのイフリーテが関係しているのは無いですか?」
「イフリーテに‥‥? ふむ、ではそういう事にしておきましょうか」
 その悪魔は、しばし顎に手を当てて考えるような仕草をすると、からかうような笑顔を浮かべ冒険者達の言葉を肯定する。
「――やはり、本当の事を語るつもりは無いようですね」
「ええ、そんなつもりはありません。という事ですので、さっさとお引取り願いませんか?」
「なんだ、やる気はねぇのか?」
「私はあなた方のように野蛮ではないのですよ」
 明らかに挑発の口調でデビルが口にし‥‥低く、哂う。
「しかし、あなたが悪魔である以上、私たちの敵である事に変わりはありません!」
 言い放つと、ウェンディは手にした槍を振るい、それは風の刃となってデビルへと迫る。
 近接武器による不意を付いた遠距離攻撃だった――しかし。
「やれやれ、仕方のない方たちですね」 
「防いだ!?」
「あれが噂のアレか!?」
「い、いいえ、違う。あれは外からの攻撃を遮断するデビルの魔法!」
 ウェンディの風の刃は、デビルへと届く前にデビルの周囲に球状に展開された結界に阻まれその力をデビルに発揮することは無かった。
 その状況を、カグラが写本 「悪魔学概論(ジルの走り書き解説付き)」をめくりながら解析する。
「しかし魔法で防いだという事は、それを越えれば攻撃が効くということ!」
「ふっ‥‥確かにその剣は少々面倒ですが――」
 いつの間にかペガサスに騎乗し、空中のデビルのすぐ横へと迫っていたディアルトが悪魔を打ち倒すために作られた剣を振るう。
「今度はそこのお嬢さんの代わりに私が解説して差し上げましょうか。あなた方が私達に抗する神の魔法があるように、私たちにも神の力を使う者に抗する悪魔の魔法があるのですよ」
「ちっ」
 先ほどと違い、ディアルトの剣はデビルへとダメージを与えていた。しかし、その威力は本来その剣が発揮すべき威力よりも半減している。
 それを見て取るや、返す剣で再びデビルへと切りかかる――が、それはデビルの手に遮られた。
「それに‥‥」
「あれは‥‥えっと」
 カグラが再び写本をめくる。
「エボリューション‥‥効果時間内は、同じ攻撃が通じない‥‥」
 カグラが写本から情報を引き出すよりも早く、ジルが説明をする。
 彼女らも、ただ解説役をやるためにここへいるのではないが、デビルの結界の効果が切れないと攻撃しても無駄だと分かっているため手を出せずにいた。
「ふふふ‥‥それを知っていながら不用意に近づくとは――うかつですね」
 ディアルトとペガサスの間に爆発が起る。それはデビルに耐性を得る魔法を使用しているためダメージは無いものの、不安定な馬上で軽く体勢を崩す。そしてその隙に‥‥デビルが、ディアルトをトンと軽く突き飛ばした。
「なっ!?」
「いくら神の魔法で私達の力に抵抗しようとも、あなた方を殺す事など簡単な事ですよ」
 ディアルトの身体がペガサスから離れ、崖下へと落ちていく。
「ディアルトさん!」
「いや、あやつが落ちた下は雪じゃ、死んではおらんじゃろう」
「けど、この高さじゃ無事でもねぇだろう!?」
「それもそうじゃが‥‥助けに行ってこれ以上ここの戦力を減らすわけにも行くまい?」
「‥‥そうですね、ディアルトのことは彼のペガサスに任せましょう」
 追いかけて行ったペガサスを視線の端で見送ると、残った冒険者達は態勢を整え、再びデビルを見据える。
「おっと、私とした事が‥‥これでは剣が回収できませんね――まあ、剣の回収は後にしましょう」
 そのデビルはというと、まるで態勢を整えるのを待っていたかのようにそんな事を口にしていた。
「でも、どうするんです? 結界があると攻撃は効きませんよ?」
「‥‥代わりに‥‥‥‥あっちも私たちを攻撃できない‥‥」
「結界は中から外に対しても有効だということですか」
 空中に浮いたデビルに対し、その結界内に踏み込むことは出来ない。しかし、あちらがも条件が同じであるならば、こちらを攻撃するために降りてくるはず‥‥である。
「ふむ、貴女は本当に私たちのことをご存知だ」
「‥‥‥‥」
 デビルがジルに目を合わせ、ジルもまたその視線を返す。
「では、こうするとしましょう」
 デビルは手に持っていた笛を取り出すと、空を見上げ‥‥真上、ちょうど山の頂上辺りへとその笛を向けると、その笛の音を奏で始めた。
「何を‥‥」
 その笛の力は知っている。しかし、レジストデビルの魔法がかかっている者には効果が無いはずだ。
 そして、それを相手が知らないはずも無い。戸惑う冒険者達だが‥‥それは、現れた。
「ジャイアントクロウ!」
「大ガラスどもか!」
 デビルの上空から現れたのその数は、約二十ほど。
「ふふふ‥‥食らいなさい」
 デビルが命令するように呟くと、ジャイアントクロウはその命令に従うように冒険者達へ襲い掛かろうとする。
「くっ、聞いてはいたが、数が多いぞ!」
「セーラ様、私に魔を討つ光を‥‥ホーリー!」
 馬が矢を、カグラが魔法を、近づいてきたジャイアントクロウへと放つ。
「通しません!」
 次に、二人が攻撃した後の隙を埋めるようにしてウェンディがソニックブームを撃つ。
「退くのじゃ!!」
「これもついでに、いっけ〜☆」
 ウェンディが背に守るようにしていたイフリーテが声を上げると、ウェンディがとっさに横へ飛んだ。
 同時にイフリーテから火球が放たれ、ジャイアントクロウ達の中心で爆発を起こし、数匹のジャイアントクロウを巻き込む。
 やや遅れて放たれたシャリンのサンレーザーも確実にジャイアントクロウを射ていた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 そして――ジルの重力魔法が放たれる。広域に放たれたその魔法は、範囲内にいた全てのジャイアントクロウに重いダメージを与え、次々に地へと落とす。
「すごい‥‥」
「俺達も負けてられねぇな」
 ジルの魔法の一撃で大部分が落ちたものの、まだ残っている。
 だが、遠距離攻撃手段の揃った冒険者達は残りのジャイアントクロウ達も次々と打ち落としていく。
「もちろんです!」
 言って、冒険者達の中で唯一近接攻撃にも対応できるウェンディが、地面に降りていた一匹に対しその槍を突き入れる。
「ふむ、炎の槍か。珍しい物を持っておる‥‥の!」
 槍が突き刺さりながらもまだ息のあったジャイアントクロウに、イフリーテが手にした大剣を振るい止めを刺すと、炎を象ったかのようなウェンディの槍へと目を向けた。
「お主、名はなんと言ったか」
「ウェンディ、ウェンディ・リンスノエルです」
「――よかろう、気に入った、お主に力を貸そう」
 そう言うとイフリーテはその槍に触れ、炎の魔力を槍へと与える。
「はっ!!」
 ウェンディをその槍でソニックブームを放ち、炎の魔力で威力の上がったその刃は一撃でジャイアントクロウを切り落とす。
「‥‥‥これで最後‥‥」
 ジルが魔法を放ち終わり、その魔法によってジャイアントクロウが地に落ちるのを確かめるとそう宣言する。
 その宣言を聞き終えると、タイミングを合わせたようにパチパチと乾いた音が鳴り響いた。
「いや、あの数をこの短時間で、お見事です」
 ジャイアントクロウが現れる前とその位置を変えず、デビルは魔法の結界を展開したまま宙に浮かんでいた。奏でていた笛は既にその音を止め、代わりにデビルの手を鳴らす音が響いている。
「へっ、次はお前だぜ」
「ダメ、あの結界をどうにかしないと」
 カグラに横から腕を引かれ、馬は弓を引く力を弱める。
「話には聞いていましたが、実際に対峙してみるとなかなか面倒な方達ですね、冒険者というのは」
「‥‥‥‥」
「憂いの種は早めに摘み取っておきたいところですが‥‥今回は手駒も無くなってしまいましたし、出直すとしましょう」
「な‥‥、逃げる気ですか!?」
「はい、それでは皆さん、また私の演奏会にお付き合いいただく時まで、御機嫌よう‥‥」
「待て!」
「‥‥逃げたか」
 デビルが深く会釈をしながら消え行く様を見届けながら、皆が武器を下ろす。
「‥‥あ、ディアルトさん!」
「‥‥‥‥大丈夫、生きています」
 振り向くと、そこにはペガサスに背負われたディアルトの姿。
 身体に傷の跡は残しているが、ダメージそのものはペガサスに治療してもらったようだ。
「空からジャイアントクロウの雨が降ってきったときは、押しつぶされて死ぬかもと思いましたが」
『あっ』
 思い返せば、ジャイアントクロウを撃ち落とすより前、同じ場所にディアルトが落ちた事を思い出す。
「ま、まあ、無事でよかったです」
「おう、そ、そうだな」
「しかし‥‥結局、デビルの目的は分からずじまい、ですか」
「それはまだこの辺りを調べてみないとな」
「そう‥‥ですね、しばらく休息を取ったら、調査を行うことにしましょう」

 その後、十分な休息を取った後、岩山の調査を行った冒険者達だったが‥‥特に、成果は上がらなかった。 
 調査の途中にジャイアントクロウの巣も探索したのだが、光る物を集める習性があるためか雑多な物は有ったものの、デビルと関係しそうな物は存在しなかった。
 結果として、デビルに関することは何も得ることが出来なかったとなる。 
 そして、調べ終えて岩山を引き上げようとした事のこと。
「では行くとするかの」
「住処へ戻るのですか?」
「何を言っておるのじゃ‥‥言ったはずじゃ、『お主に力を貸そう』と」
「え?」
「わしの力が必要なときは呼ぶがいい、ウェンディ。お主の力になろう」
「それはどういう‥‥」
「悪魔達の動きが活発になっている事は、わしら精霊も知っておる。そして、その全てをお主達に押し付けるつもりは無い、という事じゃ」
 人と精霊、どちらもまた、悪魔の打倒を願う者達なのである――――。