【黙示録】誘いの奏

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月01日〜02月06日

リプレイ公開日:2009年02月08日

●オープニング

 笛の音が響いていた。
 軽やかに、漂うように、深く、艶やかに。
 笛の音に追奏する音が有った。
 悲痛と、混乱と、恐怖と‥‥負の感情の込められた、人の悲鳴。

「おっと、全滅させてしまってはいけないのでしたね」
 モンスターに追われ逃げ惑う人々を見下ろし、笛を口から放すと空いた口でそう言葉をこぼす。
 笛を手にした白い人の姿をしたそれは、村の上空に浮かんでいる。見た目で人と違うのは一点、額に備える一本の角。
「後は待つだけ、のんびりと待つとしましょうか」
 その白い姿はそう言うと、ゆっくりと姿を消していった。

 十数時間後、数人の人間によってギルドへ依頼が出された。
 内容は、モンスターに占拠された自分達の村の解放。
 村の人間によって分かっている事は、モンスターに襲われたのは突然だった事、そして、複数の種類のモンスターが群を成して襲って来た事。
 村人も逃げるので精一杯で、どのような種類のモンスターがいたのか詳細までは分からないが、鬼、虫の姿をしたモノ、ジェル状のモノを見たという。
 これらを排除するまで、村が解放される事は無いのである。
 


 一方、村が襲われるのと同じ頃――――――――。

「あらぁ‥‥?」
 とある洞窟に、数名の冒険者の姿があった。
 その冒険者達の中心にいる冒険者の女性‥‥いや、動きやすい格好をしているが、どこか小奇麗なその格好は彼女が本職の冒険者ではない事を物語っている。
 その女性は目の前の洞窟の中としては広いと言える空間を見つめたまま、のんびりとした表情のままゆっくりと首をかしげる。
「‥‥‥‥‥‥お出かけ中、でしょうか」
 その『何も無い』広い空間をしばらく見つめると、その女性はポツリと呟いたのだった。

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9311 エルマ・リジア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4531 ウェンディ・リンスノエル(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●サポート参加者

ダナ・コーンウェル(eb5491

●リプレイ本文

「さて、そろそろ行くか」
「気をつけて下さいね」
 薄れつつあるものの、完全には闇が払拭されていない早朝。
 ロックハート・トキワ(ea2389)は事前に村人から教えてもらった村の地図と、夜中に行った偵察でわずかに得られた敵の位置情報を頭に入れると、銀のナイフを握り地を蹴った。
「お一人で大丈夫でしょうか‥‥夜中の偵察も、あまり情報は得られなかったですし」
「まあ、本人が行くって言うんだから良いんじゃねー?」
 足を速めて空いた時間に夜中に行った村の偵察。それで得られた情報は少なかった――いや、見方によっては、まったく逆であろうか。
「デビルの存在にさえ気をつけていれば、いきなり危険な状態になることは無いと思いますよ」
 偵察が不発に終わった理由。それは、村からかすかに聞こえてきた笛の音‥‥。
 笛を操るデビルの存在が知られている中、今回の事件の状況と照らし合わせ、村に近づきすぎるのは危険だとの判断だった。
「と、悠長に話している時間もねーか」
「そうですね、私達も――行きましょう」
 薄まりつつ闇のなか、モンスターの叫び声を耳にすると、残りのメンバーも敵地へと足を踏み入れるのだった。

「えっと、えっと‥‥なんとなく、ジェルは高い所から落ちても平気そうだから――グラビティキャノン!」
 すでに敵味方入り混じる戦場と化した村の中、ティアラ・フォーリスト(ea7222)は先行したはずのトキワが範囲内に居ないのを確認すると、重力の魔法を放つ。
「本当に節操がないですね!」
 複数種のモンスターが入り混じっている事に辟易しつつ、ウェンディ・リンスノエル(ec4531)はティアラの魔法でダメージを受けたコボルトへと槍を振ると、それは衝撃波となってコボルトに止め刺した
「デビルは居ますかっ?」
 エルマ・リジア(ea9311)が射程内に居た銀色のジェルへとアイスコフィンを放ち、その身を凍らせるとティアラへと問いかける。
「居ます!」
 ティアラが大粒の宝石を付けた指輪に目を向けると短く応え、再び重力の魔法を放つ。
「それにこの音色‥‥聞き覚えがあります」
 次いでウェンディが足元を這っている巨大な蜘蛛へ槍を突き立てると、村へ響いている笛の音へと耳を傾ける。
「デビルが居んのは分かったが、トキワはどこ行ったよ!?」
 少しばかり後方から聞こえる田原右之助(ea6144)の声、この中では遠距離攻撃手段の無い田原は後方に位置取り、数匹の小鬼から仲間の背後を守っていた。
「分かりません、近くに居るはずなのですが‥‥」
 田原に答えを返しながら、エルマもまた、再びアイスコフィンで手近な敵を凍らせる。あまり効率的ではないが、トキワの位置が分からないため影響範囲の広いアイスブリザードを放てないでいるのだ。
「ただでさえ数が多いってのに――よっと!」
 田原がゴブリンの棍棒を左の十手で受け止めるが、
「ちっ!」
 反対の方からもオーガの金棒がせまり、仕方なく右の霊刀で受け止めることになる。
 動きを止めてしまった田原に、冷たい想いがよぎるが――それと同時、上方から投げ放たれた銀の刃がオーガの額へと突き刺さる。
 オーガが大きくよろめくと、その間に民家の屋根の上から人影が舞い降り、突き刺さったシルバーナイフを引き抜くと、そのナイフで鋭くオーガを切りつけた。
「すまん、遅くなった」
 返す刃で力を込めてナイフをオーガへと突き立てると、トキワが皆へと短く応える。
「いや、助かったぜ‥‥とっ!」
 田原が十手でゴブリンをはじき返すと、そのゴブリンはすかさず襲い掛かったウェンディの真空の刃を受け、地へと伏す。
「無事?」
 トキワの姿を見つけると、無事を確かめようと駆け寄るティアラだが‥‥元居た位置取りを外れたわずかな間、ティアラが不注意だったというよりは、運とタイミングが悪かったのだろう、ティアラのすぐ横に一体のオーガが陣取る形となっていた。
「きゃっ‥‥!?」
「させません!」
 オーガが金棒を振り上げティアラが身を縮めると、少し離れた位置からウェンディが槍を構えてオーガへと突撃し、その加速の勢いと重みの乗った攻撃は一撃でオーガの巨体を刺し貫く。
「二人とも、下がってください!」
 エルマがウェンディとティアラの二人に向けて声を張る。
 身を屈めていたティアラは行動が遅れるが、その身をウェンディがひょいと抱えると言われた通り後ろへと退避した。
「いきます――アイスブリザード!」
 エルマが最大威力で放った吹雪が幾多のモンスターへと襲い掛かる。
 その吹雪は村を飲み込み、多くの悲鳴が響き渡った。
「これで、少しは話せる余裕が出来ましたね」
 吹雪が止み、足元の柴犬の頭をなでながらいくらか静かになった周囲に目を向け、少しだけ誇らしげにエルマが微笑む。
「‥‥ありがとう」
「あ、いえ、お礼なんていいですから」 
 抱えられたままのティアラ上目遣いにウェンディへと礼を口にすると、ウェンディは静かにエルマを下ろす。
「‥‥‥‥」
「‥‥?」
 いとも簡単に抱え上げられるティアラの姿に、ほんの少し羨ましそうな視線を向けるウェンディと、その視線の意味が分からず首をかしげるティアラ。
「ん? どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
 そんな見つめあう二人の間に、皆が合流し割って入った。
「それでだな‥‥この笛の音は意外にやっかいだ。動きを抑えられて危うく囲まれる所だった――ん?」
「なんだ‥‥?」
「笛の音が止まった‥‥」
 突然の事に、少しばかり戸惑う冒険者達。そして、それは現れた。
「やはり、この辺りにいる手勢を掻き集めても、貴方達には大して効果は無いようですね」
「なに?」
 上空から響く聞き覚えの無い声――いや、一人だけ、例外があったが。
「やはり、オマエでしたか」
 その例外、ウェンディが上空に居る白い影を睨み付ける。
「現れやがったな」
「デビル‥‥」
「まあ、手駒は減りましたが、意味はあったと言えるでしょう」
 独り言のように呟く、額に角を持った人型のデビル‥‥アムドゥスキアス。
 その姿は、冒険者達の頭上に身体を浮かべていた。
「意味、か‥‥この村を襲うのに何の意味があった?」
「ん? ああ‥‥大した理由ではないのですけれどね」
「オマエにとっては大したことではなくても、襲われた村の人はそれでは済みません」
「ふふふ‥‥なに、こうして適当に村を襲えば彼方達の方からやって来る。手勢の揃った敵地へとね――それだけですよ」
「なっ‥‥!?」
「それだけの事で!?」
「さて、用は済みました。今度からは地獄の手駒も用意しておくとしましょう」
 いくつかの問答の後、アムドゥスキアスの周囲が闇の球状によって覆われる。 
「また逃げる気ですか!?」
「それでは皆さん、次回の演奏会にもご出席していただける事を期待していますよ‥‥」
「――だめ、行っちゃった」
 ティアラが手元の指輪へと目を向ける。デビルの存在を探知するそれは、もう反応してはいなかった。
「『次回』‥‥また、同じような事を繰り返すつもりなのでしょうか」
 静かに呟くエルマに、答えを返すものは居なかった。


 その後、統率を失ったモンスター達を村から追い払うのにはそう手間はかからず――モンスター同士で潰し合う光景もままあった――完全に村からモンスターが居なくなったのを確認すると、村とその周辺の調査を行った。
 ‥‥が、特にこれといったものは見つからず、デビルの言葉の信憑性を高めるだけの結果であった。
 その結果に、胸の内は晴れる事無く‥‥‥村を後にする冒険者達だった。