幼き日への礎は

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:7人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2006年07月17日

●オープニング

「木陰で昼寝をしていたらゴブリンに置いていた剣を持っていかれた。ふーん?」
「‥‥」
 どこか冷めた視線を送りつつ、平坦な口調でギルドの女性職員が依頼人の言葉を繰り返した。
「‥‥はい」
 女性職員の目の前に小さくなって‥‥元々の体格からして小さかったが、うつむいて体を丸め、更に小さくなって立っている少年は、もういっそう小さくなってその言葉にうなずいた。
「で、その剣を取り返してもらいたいと」
「‥‥はい」
 か細い声で、答える。
「‥‥ゴブリンくらい、自分で取り返して来たら?」
「‥‥うぅ」
 女性職員が実も蓋もなく言い放った言葉に、少年は泣きそうな声でうめいた。
 少年の格好は、目立った武器を携帯していない事とその一式の装備が真新しい事を除けば、今もすぐ周りにいる冒険者となんら変わりないものだ。
「‥‥‥‥ま、正式に依頼したいって言うなら断る理由はないんだけど」
「本当ですか!?」
 少年の格好から大体の事情を察したのか、女性職員が依頼を承諾する言葉を告げると、少年は『ぱっ』と顔を上げてうれしそうに女性職員の手を両手で取った。
「‥‥。私にその気があればほっとかないんだけどな‥‥」
 自分を見つめる、幼さの残るかわいらしい顔立ちの少年を間近で目にし、そっと天井に目線をそらすとそうつぶやいた職員であった。


「で、まあ、詳しく事情を聞くと、もうちょっとややっこしいみたい」
 詳しい事情というと‥‥昼寝をしていた少年は休んでいた木に立てかけるようにして自分の剣を置いていたらしい。
 そして寝ている間にその剣をゴブリンに持っていかれたのだが‥‥少年はすぐに気が付いて、ゴブリンを追いかけたそうだ。追いかけるゴブリンの背は三つ。いくら素手とはいえ、その程度に臆する訳がない。
 そのゴブリン達は少年がもうすぐ追いつく、という所で小さな森の中へと入っていった。もちろん少年も続き森へ入って行ったが、
「少し入った所で、空中に浮かぶ白っぽい半透明な影に襲われたんだって。」
 その影は少年の攻撃がまったく通じない‥‥というよりも、実体がなく触れる事も出来なかったらしい。しかし襲い掛かってくる白い影の攻撃は少年にダメージを与える。
「レイスの類だと思う、ってその男の子は言ってたね。で、追いかけていたゴブリンはとっくに見失うしなったし、そのレイスに対しては何も出来ないし、それで仕方なく逃げ帰ってきた、とかなんとか。」
 「そのとき、奪われた剣が手元あればレイスとも対等以上に戦えたんですが」とは少年の言葉。奪われた剣は、程度は不明だが最低でもレイスにダメージを与える事が可能な程度の力はあったらしいし、それゆえに大切な物でもある。
「自分一人では打つ手がないけれど、剣の価値を考えると依頼料を払って取り戻した方が採算はプラスになるらしーよ。ま、そゆ事だから、報酬の方は安心して良いんじゃないかな?」
 女性職員は笑ってそういうと、説明を終えた。

●今回の参加者

 eb1517 エリゴール・リゴルト(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb4668 レオーネ・オレアリス(40歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5422 メイユ・ブリッド(35歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5486 スラッシュ・ザ・スレイヤー(38歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb5512 ウィオラ・オーフェスティン(27歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

フェネック・ローキドール(ea1605)/ フレイア・ケリン(eb2258)/ 黄桜 喜八(eb5347)/ スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5476

●リプレイ本文

「あ、あの‥‥‥」
「どうかしたか?」
 ゴブリン達の逃げ込んだ森を目指して歩みを進める一行。
 が、そのパーティーには同行する予定のなかった依頼人である少年の姿も含まれていた。
「うぅ‥‥な、なんでもないです」
 明らかに友好的でないシャルウィード・ハミルトン(eb5413)の視線とその受け答えに、思わずそう答えてしまう少年。
「(やはり、どこか怪しい‥‥)」
 おどおどとした少年の態度に、アタナシウス・コムネノス(eb3445)も少年への疑惑をいっそう深める。
 依頼人の少年、町で一行に同行を誘われ、うまく断れずになし崩し的に依頼へ同行する事となったのだが‥‥その道中、少年が何かを言いかけて言いよどみ言葉を中断してしまうのは、もう数回目になる。
「‥‥や、やっぱり、僕町へ戻ります!」
 しばし間を置いて、ようやく決意した、という感じで少年が声を上げ、きびすを返すが、
「ここまで来て今更何を言っているんだい。ほら、自分の物は自分で取り戻さないと。私たちも手伝うから」
 エリゴール・リゴルト(eb1517)に服を捕まれ、あっけなく失敗に終わる。
「そうですよ。奪われた剣は大事な物なのでしょう? 大切な物なら、なおさら自分の力で取り戻さなくては」
「あぅ‥‥自分で取り戻したいのは取り戻したいんですが‥‥‥」
 続いたメイユ・ブリッド(eb5422)の言葉に、もじもじと少年。
「そうだ、君は騎士の子だろう?」
 そう少年を励ますレオーネ・オレアリス(eb4668)。
「え? い、いえ、僕の両親は農業をやっていますけど???」
 だがしかし少年は首を横に振る。
「農家? にしてはずいぶんと立派な剣を持っていたんですね」
「確かに‥‥」
 ウィオラ・オーフェスティン(eb5512)の疑問に、よりいっそうの疑惑の目が向けられる。
「あ、剣は冒険者をやっている親戚のおじさんにお古を頂いたんですよ♪」
 明るくうれしそうに答える少年。剣を譲ってもらった時の喜びを思い出したりしたのだろうか。
「じゃあ、路銀はどうしたんだ? 冒険者を始めるにも元手は必要だろう」
 すっかり少年に対する尋問のような雰囲気だが、スラッシュ・ザ・スレイヤー(eb5486)もそれに同じる。
 アタナシウスとスラッシュは出発前に少年に対して素性調査なども試みたが、名前も知らない、直接会った事もない、そんな人物の素性を調査するにはハッキリと時間が足りていなかった。結果、成果はゼロだったと言える。
「お金ですか? えーと、一年半くらい、お母さんから貰うお小遣いを少しづつ貯めてましたけど‥‥」
「本当にそれだけですか?」
「あ、家を出るときに、お父さんから少し多めにお小遣いを貰いました!」
「ですがあなたはずいぶんとお金を持っていそうですけれど‥‥‥」
「えぇ!? お、お金なんて、持ってないですよ‥‥‥あぅ」
 そこで急にしゅんとなる少年。
「どうした? 何かやましい事でもあるのか?」
 そこで急に大人しくなった少年に、レオーネも多少怪しく思ったのか、
「べ、別に、やましい事なんて‥‥」
「じゃあ聞くが、なんで自分も付いて行って自分で剣を取り戻そうと思わなかったんだ? 高価な代物なんだろう? 依頼を受けた冒険者達に性質の悪いのがいてネコババされるかもしれない、とか心配しなかったのか?」
「ネ、ネコババするつもりだったんですか!?」
「例えばの話だ!」
「ハミルトン君がネコババするつもりだったかどうかはともかく、」
「だから違ぇって!!」
「大切な物を取り戻すのに同行しないというには、何かしら事情があったのかな?」
「‥‥」
 うつむいたまま黙ってしまう少年。
「良かったら、話して下さい」
「うぅ‥‥じ、実は‥‥」
 やさしく問い掛けるリゴルトとメイユに、ついに耐えられなくなった少年が口を開く。
「皆さんにお支払いする報酬が、手持ちのお金だと足りなくて‥‥皆さんが剣を取り返しに行ってくれている間に、ギルドで簡単なお仕事を二つ三つ受けてお金を稼ごうと思っていたんです」
『‥‥‥‥それだけ?』
「はい、それだけですが?」
 少年が、かわいらしい仕草で首をかしげる。
 たとえ剣を持っていないとしても、子守、荷物運び、などなど‥‥ギルドで受けることが出来る依頼はいくつもある。
「そういう事なので、僕がここにいるという事は皆さんにきちんと報酬をお支払いする事が‥‥い、今ならまだ間に合いますので、やっぱり僕は町へ戻ります!」
 今度こそとばかりに勢いを付けてきびすを返す少年。
「いやいや、いいよいいよ」
 だがしかし、またしてもリゴルトに服を捕まれそれは阻止されてしまう。
「町から連れ出したのは私達ですしね」
「ああ、報酬は前金で貰った分だけでいい」
「ですから、あなたも一緒に剣を取り戻しに行きましょう?」
「あぅ‥‥ほ、本当に良いんですか?」
 冒険者達の温情に、うるうると少年。
「そういえば、まだお名前をお聞きしていませんでしたね。」
「あ、はい、僕、リリアって言います」
「‥‥なんだ、名前まで女みたいだな」
 と率直な感想がつい口に出たスラッシュ。
「『まで』ってなんですか『まで』って!? 僕は男ですよぉ!」
「ああ、悪い悪い」
「ふふ‥‥よろしく、リリア君」
 メイユがリリアの手を両手で取り、改めて挨拶をした。


「普通の森、だな‥‥」
「そうですね、もっと暗い雰囲気かと思ってましたけど」
 ゴブリンが逃げ込んだ森へ入り皆が感じた感想はほぼ同じものであった。
「気を付けて下さいね? 僕が森へ入った時にはもうレイスが現れていた辺りです」
 森の雰囲気に気をそがれたような冒険者へとリリアが注意を促す。
「そうは言ってもな。本当にこんな森にレイスなんかが‥‥」
「いえ、待って下さい」
 スラッシュの言葉を遮ったのはメイユ。
「来るか‥‥?」
 向けられるかすかな悪意を感じたか、レオーネが己の槍を構える。
「‥‥!? 後ろです!」
 最初の声を上げたのは最後尾を歩いていたリリアだ。
 その声に全員が敵の姿を視認する。その姿はリリアの報告と同様、空中に浮かぶ白い影。
 皆が振り返ると同時、リリアは出現したレイスに切りかかっていた。手に持つはリゴルトから借り受けたロングソードである。
「ちょっとマテ‥‥!!」
 リリアの一番側にいたスラッシュが制止をかける、が、それも間に合わず。
「あぅ!?」
 リリアの一撃はレイスの体をすり抜け地面へと。その拍子にバランスを崩し、そこへレイスの攻撃がペチンと命中してリリアは尻餅をつく。
「ホーリフィールド」
 リリアを守る為に魔法を発動させたのはアタナシウス。
『はっ!』
 続き呼気を吐きながら時間差でレイスへ打ち付けたのはリゴルトのロングソード、レオーネのランス、スラッシュの剣、どれも十分レイスへダメージを与える事が可能な魔力のある貴重な武器である。
「ムーンアロー!」
 レイスへの多重攻撃はまだ終わらない。さらに続くは詠唱を終えたとウィオラの魔法攻撃。
「――――!!?」
 レイスの甲高い断末魔が響き渡り、その瞬間、レイスの姿が白い影からおぼろげな生前の姿を垣間見せた。
「ゴブリン‥‥?」
 思い返せばリリアがゴブリンを追ってこの森へ入ったとき、先に森へ入ったはずのゴブリンをレイスが襲う事はなかった。
「へっ、いつまでも未練たらしくウジウジとこの世にこびりつくゴミカスが‥‥!!」
 オーラパワーを施したフレイルをゴブリン・レイスに大きく振りかぶるハミルトン、
「大人しく死んどけ!!」
「!!!!」
 その一撃は雄叫びを上げるレイスを容赦なく打ち砕いた。
「‥‥ふわぁ」
 一瞬でレイスを消滅させる冒険者の手際に、尻餅をついたまま感嘆の声を上げるリリア。
「ま、ゴブリンごときのレイスなんざこんなもんだろう」
 剣を収めながらスラッシュ。
「怪我はないですか?」
 メイユがリリアに手を貸す。
「はい、たいした怪我ではないです。」
 その手を取って起き上がり服のほこりを払う。
「リリアを襲ったレイスは一体だったんだね?」
「他にいるかは‥‥」
 リゴルトの言葉にレオーネが何か言いかけて、沈黙する。
 目が、合った。
『‥‥』
 思わず、一瞬なりとも見つめ合う形になるレオーネと‥‥
「ゴブリン!?」
 レオーネの視線をたどり誰かが叫ぶ。騒ぎの様子でも見に来たのか、視線の先にいるのは一匹のゴブリンだった。
「!!」
 その叫び声に反応するように逃げ出すゴブリン。
 八人を前には、当然の反応だろう。
「まてっ!」 
 条件反射的に制止をかけ、ゴブリンの後を追いかける八人。
 先頭を走るのはメンバーで一番森での移動に長けたウィオラだ。
「開けた場所に出ます!」
 木々の合間を縫いゴブリンを追いかける。すると、木々の生えていない小さな空白地帯へとたどり着いた。
「ほう‥‥」
 その空白地帯に待っていたのは、逃げ込んだ一体も含め、計八体のゴブリンであった。
「あ! 僕の剣!!」
 リリアがゴブリンの無造作に置き捨てられていた奪われた剣を見つける。
「奪って行った割には、ずいぶん適当な扱いをされていますね‥‥」
 疑問に思ったのはアタナシウス。
「ふむ、剣を奪っておいてリリアをこの場所に誘い込み、八体全員でなぶるつもりだった、か‥‥?」
「確かに、ゴブリンってのはそういう姑息な事を考えるのは得意だからな」
「案外、リリアがレイスに襲われて引き返したのは幸運だったのかもしれないですね」
「あぅ‥‥複雑な心境です」
 ゴブリンを前に、憶測を続ける一同。
 その落ち着いた雰囲気とは正反対に、
「!!」
「!!?」
「?」
「!!」
 八体のゴブリンたちは、突然の客にそれこそ蜂の巣を突いたような騒ぎであった。
「さて、後はこいつらをぶちのめして終わり、だな。」
 ずいっと一歩前に出るハミルトン。対してゴブリンは一斉に一歩下がる。
「そうですね」
「ああ」
 同じように武器を構え前に出るリゴルトにスラッシュとレオーネの三人。
「レイスには効きませんけれど」
「ゴブリンになら」
 それぞれコアギュレイト、スリープの詠唱を始めるのはメイユとウィオラ。
「この程度なら、フィールドは必要ないですね」
 アタナシウスも今は攻撃魔法であるホーリーを唱える。
 じりっと前衛組みが距離を縮めようと前に出た瞬間、
『!!?』
「あ、逃げます!」
 ゴブリンたちは一斉に背を向けて逃げ出した。
「ま、ゴブリンというのはそんなものだ」
 それぞれ武器を収め、魔法の詠唱を中断する。
「いいんですか‥‥?」
「良いも何も、仕事はボウズの剣を取り返すことだろう?」
「そ、そうでしたね‥‥」
 スラッシュの言葉に思い出したか、慌てて剣に駆け寄るリリア。
「確かに、僕の剣です」
 剣を抜き放ち、確認する。
 その剣はお世辞にもきれいな代物とは言えなかった。手入れはされている物の、その刻まれた傷の全てを隠せるものではない。
「そういえば、おじさんのお古と言っていましたね」
 ウィオラがリリアの言葉を思い出す。
「その剣も傷と共に沢山のものを背負ってきたんだ。その剣のためにも、今後は離す事のないよう、気をつけようね」
 リリアの肩に軽く手を乗せながらリゴルト。
「はい!」
「ふふふ、良かったですね、リリア君」
「さて、これで依頼は果たせたか」
 残るは町に戻るだけ。それで仕事は終了である。
「もう憂いは絶ちましたし、のんびりと帰りましょうか」

 そうして、無事目的を果たした八名はその森を後にしたのであった。