【黙示録・ドラゴンインパクト】竜と奏
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■ショートシナリオ
担当:深白流乃
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 60 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月27日〜04月01日
リプレイ公開日:2009年04月04日
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●オープニング
爪が肉を裂き、尾が骨を砕き、炎が全てを焼き払う。
重ねられていく屍。
重ね続けられていく屍。
死屍累々の中、それでも屍は増え続ける。
辺りは肉が裂け、骨が砕かれ、炎に焼かれる音が響きながらも、どこか静けさが感じられた。
それは、葬送曲には似つかわしくない、軽快なメロディーがその場の音を支配していたからなのかもしれない。
そして、屍の元となるモノが辺りから無くなる頃、そのメロディーが止み、代わりの言葉が紡がれる。
「久しぶりの再開のところ、申し訳ありませんが‥‥前奏曲はこれくらいにしておきましょう」
言葉を紡ぐのは、笛を手にした白い人型。ただし完全な人型ではなく、その額には一本の角が存在していた。
「今は舞台と観客を揃えることの方が大事」
その白い人型、デビル・アムドゥスキアスは折り重なった屍の、その『中心』へと目を向ける。
「『アナタ』には、観覧をご遠慮いただきたいですが‥‥ね」
そう言い残し、アムドゥスキアスは姿を消した。
残された、屍の中心にいた『モノ』が一歩踏み出し屍を踏み躙る。
その姿は、ただのモンスターとは‥‥いや、ただの生き物とは一線を画する存在、それは生ける者の中でも誇り高き種族――ドラゴン。
幾多の――そして幾種のモンスターの屍の上、赤黒い体をもつそのドラゴンはアムドゥスキアスの消えた跡に向け、激しく空気を震わせた‥‥。
村がモンスターに占拠された――そんな知らせがギルドに届くのは、今年に入ってから二度目の事だった。
このご時勢、村がモンスターに襲われる、そういった話が少ない事はない。
しかし、やはりそれを『二度目』と言えるのは、その二度にしかない共通項があるからだ。
複数種のモンスターが、複数。そして、まるで外に知らせさせる為、とばかりに村人を追い出すように攻め立てる。
故に、規模は大きくても人的な被害は少ない。だが、かと言って占拠された村をそのままにして置く訳にもいかない。
それに、二度目であれば犯人の素性も予測が出来る。そのモンスター達を操るのはデビル、それも力のあるデビル。
村の占拠如何に関係なく、デビルの行動は無視できない。
そして‥‥無視出来ない要素がもう一つ。
ギルドが監視を行っていた一匹のドラゴン‥‥その凶暴な性格で知られるボォルケイドドラゴンが、まっすぐその村に向かっているというのだ。
ドラゴンの目的は分からない。分からない故に、無視が出来ない。
村と、デビルと、ドラゴンと―――さまざまな事象が幾多の選択肢を作り出す。
●リプレイ本文
「よし、これで‥‥!」
ティアラ・フォーリスト(ea7222)がローエングラビティで地面に叩き落した禿鷹のようなデビル、アクババの上にマグナス・ダイモス(ec0128)が跨ると、手にした剣を真っ直ぐアクババへと突き立てる。
黒い霧のようなものを纏ったそのアクババは、一鳴きすると塵となって消えていった。
「まずは大物一体、ってところか」
田原右之助(ea6144)が近くにいた小鬼二体を捌きながら、目の端でアクババの消滅を捉える。
アクババもデビルの内では小物な方だが、目の前の小鬼と比べれば大物と言えよう。
「さて、他の大物はどこでござろうな」
ラグナート・ダイモス(ec4117)も、目の前の巨大な蜘蛛へと剣を振り下ろし止めを刺すと、周囲を警戒する。
「一つは上空、ボスの位置はまだ分からないね」
ティアラが空を指差し、続いて首を振る。
指を刺した先にはもう一体、アクババが空を飛んでいるが、肝心のボス、アムドゥスキアスの姿はまだ誰も見ていない。
「仕方ありません、小物でも少しずつ数を減らしていくしか」
周囲を見回せば、そこは多種多様なモンスターの群。
冒険者達とモンスターの戦闘はまだ始まったばかりであり、まだまだ数は多く残っている。
「いえ、そうも言っていられないようです」
ルメリア・アドミナル(ea8594)がその言葉を否定すると、前方を指差す。
「あちらから、大きな生物がやって来ています」
ルメリアのブレスセンサーが探知したのは、周囲のモンスターとは明らかに規模の違う生物。
「本命その一、か‥‥? と、うわっ!?」
田原が口にするとほぼ同時、田原のすぐ横を赤い炎が横切る。
その炎に近くにいたモンスターの何体かが巻き込まれ、炭と化した。
「や、やっぱり大きいね」
炎のやって来た方に視線を向けたティアラの第一声、そこにいたのは言うまでもなく‥‥
「ヴォルケイドドラゴン‥‥!」
赤黒い皮膚を持つ、ドラゴンの中でも凶暴な部類に属する炎のドラゴン。
「アムドゥスキアスが出てくる前に――」
「いっちょやるか!」
冒険者達は今一度、戦意を奮い立たせる。
ラグナートがドラゴンの爪を盾で受け止めると、盾と反対に構えた剣でドラゴンの身体を切り裂く。
痛みによるドラゴンの雄たけびが轟くが、その雄たけびもティアラの放ったグラビティーキャノンによって掻き消された。
いかにドラゴンとはいえ、冒険者の実力からしてもその一体だけで戦いの情勢は覆せるものではなかった。
周囲のモンスター達は散漫に攻撃を仕掛けてくるも、ドラゴンの攻撃の巻き添えを恐れてか、積極的ではない。周囲に万遍無く展開されている事もあり、冒険者達の行動範囲は自然と絞られてしまうが、大きく戦況に影響するほどでもない。
ドラゴンの炎も魔法やアイテムで耐性を得ている事と、ルメリアがストームで拡散している事で冒険者達にはまったくと言って良いほど影響が無い。憂慮すべき点としては、ストームで吹き散らしても炎そのものが完全に消える訳ではなく、撒き散らされた炎はいたる所で少しずつ大きくなっていき、既に村のほとんどの場所で炎が上がっている事だ。
村の全焼はもう逃れられないであろう。
周囲の状況は良いとは言えないが、その中心の戦いは‥‥やはり、憂慮すべき点は無かったといえる。
マグナスの持つドラゴンスレイヤーの剣が深々とドラゴンに突き刺さると、ルメリアが最高威力のヘブンリィライトニングを落とし、それでドラゴンは動かなくなった。
ルメリアの強力な魔法の一撃により、最後の断末魔を上げる事もなく、ドラゴンは息絶える。
――――目標としたドラゴンは倒した。
しかし‥‥村は炎で包まれ、いくら身の回りを固めても、どれだけ炎に対策を取ろうとも、その熱と煙そして酸欠はどうしようもない。
そして今、冒険者達のいる場所は最も火の手が強い場所と言えた。
今になって思えば、取り巻きのモンスターはこの場所へと誘導するように動いていたように思えなくも無い。
その炎に、冒険者達のダメージは戦う間にもじわじわと重ねられていた。
特に、体力の低いティアラとルメリアはすでに呪文も詠唱していられるような状態ではない。
一刻も早く、この場から退避しなければならない。
だが、その退路はあまりに遠かった。
「くっ‥‥」
辺りを見回せば、炎を背に立ち塞がる大量のモンスター達。
一体一体の力は冒険者に比べれば小さいものだが、それを数で補っている。その数も、ドラゴンとの戦闘に集中しすぎたため、ほとんど減っていない。
文字どおり、『壁』となって冒険者達を取り囲むモンスターの群。
隙間無く冒険者達を取り囲んだそれは、まるで冒険者達が焼け死ぬのを待つかのように、じっと冒険者達に視線を向けるのみである。
どうすべきか‥‥考える間にも、炎は迫る。
「どうやら、私の目的も無事果たせたようですね」
考える最中、響いた声に上を見上げると、そこにあったのは白い人型の姿――。
「ちっ、こんな時に‥‥!」
姿を見た事のある田原が毒づく。
「あれが‥‥デビル」
「いやぁ、あなた方には感謝していますよ。私の仕事を手伝っていただいたようで」
「なん‥‥ケホッ、なんだと‥‥!?」
「あなた方が倒して下さったそこのドラゴン、昔に私が少々痛めつけた縁で、私の事をしつこく追って来ていましてね」
「え‥‥じゃ、じゃあ‥‥」
「はい、そのドラゴンは私と戦う為に、こんな所までやって来たのですよ」
「そんな‥‥」
「つい先日も多くの手駒を喰われましてね、少々困っていたところでした。邪魔者を排除して下さったあなた方には、とても感謝していますよ」
「‥‥‥‥」
「あなた方と、そのドラゴンに共闘されると私も少々本気を出さなければならない状態になっていたかもしれませんので、ね」
そこでデビルはわざとらしく首を振ると肩をすくめる。
「さて、あなた方がこのまま焼け死ぬのを鑑賞するのも良いですが、地獄もどうやら騒がしい様子。ドラゴンと冒険者の命、それなりに目的も成しましたし、私もそろそろ地獄に帰るとしましょう。」
「また‥‥逃げるのか!?」
「はて、この状況を『逃げる』と言うのでしょうかね」
冒険者達を囲む炎は、すでに間近に迫っている。
壁となっているモンスターも、炎に焼かれる者が出始めていた。それ以前に、デビルが冒険者の上に現れた頃からモンスター達の統率が崩れ、炎に右往左往している状態である。
「それでは皆さん、せいぜい苦しみながら死んでください。私が地上に出てくる事ももう無いでしょう」
そう告げ、恭しく頭を垂れると、デビルの姿は消えていった。
「うっ‥‥‥‥」
今後デビルと戦う上で、この上ない強力な協力者となったかもしれないヴォルケイドドラゴン。
それを‥‥同じくデビルを敵とする者を、自らの手で討ち取った事に、心が折れる。
熱と酸欠に侵されながらも、ギリギリのところで保っていた意識が、次々に闇へと落ちる。
そして、抵抗の力を失った冒険者達はただ炎の魔の手に包まれるのを待つしかなかった。
その後、ヴォルケイドドラゴンを追ってきたという一人の女性と、その女性が引き連れた数人の従者によって、冒険者達は何とか一命を取り留めることができた。
しかし、その傷が回復するにはしばしの時間が必要であろう‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。