ジューンブライドは終わらない

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深白流乃

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月21日〜08月05日

リプレイ公開日:2006年07月30日

●オープニング

「‥‥そ、そうなんデスカ、それはオメデとうございマす」
 ここは冒険者の集うギルド。
 そしてその冒険者達へと依頼を仲介するギルド所属の職員。その女性職員は今、笑顔を無理やり顔に貼り付けつつも、はっきりと視認出来るほどにこめかみがピクピクしていたりする。
「そーなの! つい先月に式を挙げたばかりで〜」
「ふ、君のあの時のドレス姿は素敵だった。今でも目をつぶればその美しい姿が輝かしく思い出されるよ」
「あーもー♪ ダーリン、た・ら♪」
 それに気づかずに話を続けるのは目の前にいる一組の男女。会話の内容から言うまでもなく、立派な新婚さんである。
 その新妻が夫の頬をつんつんと突っついている。
「はははっ、止めないか。くすぐったいよ」
「えー? や・め・な・い♪ ダーリンのほっぺかわいいんですもの〜」
「仕方がないな‥‥言う事を聞かない子にはお仕置きだっ」
「や〜ん☆」
 頬をつつかれていた夫も、仕返しとばかりに妻の脇腹の辺りをつんつんと突っつき始める。
「‥‥‥あの」
「えーい、私もお返し!」
「そこは反則じゃないのかい?」

「‥‥‥‥あ・の・う!!」

 先ほどよりも口調を強く‥‥と言うよりも殺気を込めて繰り返す。
「‥‥‥なに?」
「‥‥‥なんだい?」
 さすがに無視できなかったのか、新婚カップルは邪魔をされて不愉快そうにしつつも突き合う指を止めて女性職員の方へと目をやる。
「それで、ここにいらした理由はなんなんでしょう?」
 ここはギルドの窓口‥‥依頼を、依頼するための場所である。
「おおっ、とそうだったね」
 思い出したように、夫。思い出さなければ、きっといつまでも思い出す事はなかったのだろう。
「実は今、新婚旅行の途中でね」
「そうそう、それで次はロシア辺りに行こうかと思っているの!」
「(勝手に行ってコイ‥‥‥! ついでに未開の森奥にでも新居を建てて二度と人の住む場所に帰ってくるな!!) ‥‥は、はは、そうなんですか。それは良いですね」
 心の中でかなりダークな事を叫びつつも、ギリギリの笑顔で職務を果たすべくこらえる女性職員。‥‥立派である。
「それで、道中の護衛と‥‥荷物持ちなんかをお願いしたくてね」
「と言っても、私の事はダーリンが守ってくれるから、本当は護衛なんて必要ないんだけどね♪」
「ふふっ、当然だとも。君の事は僕が命に代えても守って見せるさ」
「あんも〜、ダーリンたら、命になんか代えちゃ、ダ・メ、ダーリンがいないと、私死んじゃう〜」
「ああ、そうだったね。でも大丈夫、僕は君を残して死にはしないさ‥‥たとえ天寿によりこの身が朽ちるとも、僕はずっとずーと、永久に君と一緒さ‥‥」
「ダーリン‥‥」
 ぽっと頬を染めて夫の瞳を見つめ、二人だけの世界へと突入する。
「では依頼内容はロシアまでのお供という事でよろしいですね? 今の時期ですとここパリからドレスタットを経由して船でキエフに渡るのが一般的ですがお二人もその予定ですよね? はいそうですね。ではそういう事で手配いたします。ハッキリとした危険がある訳でもないですし二人分の荷物と言ってもそう多くはないでしょうから人数もそう多くは必要ないでしょう。募集は四人から八人くらいにしておきますね。こういった依頼内容ですと同行する冒険者の分の旅費もお二人の負担になりますので。依頼内容はロシアまでと言う事でしたからキエフの港に到着した時点で依頼は終了という事で依頼を作成します」
「あ、ああ、それで頼むよ」
 それまでと違い、突然一切の感情の起伏のない口調で、一気に、また依頼人の同意をはっきり確認するでもなく‥‥どんどんと依頼内容を決定していく、女性職員。
「はい、では以上ですね? まだ何か?」
 「早く帰れ」とばかりに続ける。
「あ、え、えーと‥‥依頼内容だけど、ミンちゃんのお世話もお願いしたいな〜‥‥なんて思ったりとか」
 笑顔ながらも欠片も感情が読めない女性職員にただならぬ気を感じたか、やや控えめに付け加える。
「ミンちゃん?」
 一瞬、女性職員が殺気を放ったような気が‥‥しないでもない。
「妻が飼っている大きな猫、なんだが‥‥」
「ペットの世話追加と。他には?」
『いや』
 ぴったりと声をそろえ、これまたぴったりとそろえて首を横に振る新婚夫婦。
「では以上ですね」
 


―――――依頼人の夫婦がギルドから姿を消してしばらく後、

『あんのバカップルがっ‥‥‥‥!!!!』

 ギルドに女性の叫び声と、物が砕けるような大きな音が響き渡ったそうな――――――

 

●今回の参加者

 ea1860 ミーファ・リリム(20歳・♀・ジプシー・シフール・イスパニア王国)
 eb3039 リディアローザ・ロイ・ルシエール(15歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3502 黒 風怪(47歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb5512 ウィオラ・オーフェスティン(27歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

「わ〜〜見て見てダーリン、カモメが飛んでいるわ!」
 船から身を乗り出すようにして依頼人である新妻、リネスが鳥を指差す。
「ああ、本当だね。でもあまり身を乗り出すと危ないよ」
 その夫、カウルがそれを後ろからそっと抱きしめ、妻の体を船体へと振り向かせる。
「あぁん、ダーリンの意地悪。もっと見たかったのに‥‥」
「僕は鳥じゃなく君の事を見ていたい」
「ダーリン‥‥私もよ」
 見つめ合う二人。そしてその唇の距離が少しずつ縮まり‥‥
「こほん。あー‥‥お二人さん」
 ゼロになる前に、横から声がかかる。
「とりあえず、今後の事について説明していただきたいのですが」
 悪いと思いつつも、夫婦に合わせていてはいつになるか分らない。と話を切り出すウィオラ・オーフェスティン(eb5512)。
 新婚夫婦と依頼を受けた冒険者。時間が押していたため、ゆっくりと顔を合わせるのは船上となった。
「‥‥そうだったね。とは言っても行動が限定された船の上」
 依頼内容にあった事を出来る範囲でやって欲しいとカウル。
「じゃあじゃあ、ミンちゃんはろこにいるのら〜?」
 舌っ足らずな口調で尋ねるのはシフールのミーファ・リリム(ea1860)
「あ! そうそう、忘れてたわ! えーと、そこの人、さっきの檻を持ってきてくれる?」
「あれか。分った。しばし待て」
 リネスに指を指され、船内へと向かう黒風怪(eb3502)
「ミンちゃんは猫さんなんですよね?」
 待っている間にリネスへ確認するリディアローザ・ロイ・ルシエール(eb3039)
「そうなの、結婚のお祝いに親戚のおじ様から頂いたの。と〜っても珍しい猫ちゃんなのよ♪」
「それは‥‥お会いするのが楽しみですね」
 珍しいと聞いてとウィオラ。
「待たせたな」
 話をしているうちに風怪が檻を手に戻ってくる。
 依頼を受けたメンバーはシフールのミーファ、十歳の少女であるリディアローザ、エルフで女性のウィオラ、そしてジャイアントの男性である風怪。
 こういったメンバーであるからして、荷物持ちやその運搬に真っ先に駆り出されるのは、必然的に風怪となってしまった。
「ずいぶんおっきな檻なのら〜」
「そうですね、子猫さんにしては‥‥」
 檻は想像していたよりも一回りも二回りも大きい。
 今は檻には布が被せられていて中の子猫の姿は見えない。
「拝見してもよろしいですか?」
「ええ、いいわよ〜」
 了解を取ってそっと布をはぐ。
『‥‥‥』
「ね、かわいいでしょ〜〜♪」
「妻の自慢だからな」
『‥‥‥』
 思わず言葉をなくす冒険者たち。
 子猫。確かにその愛くるしい姿は子猫である。だが、その体の大きさは一般的な猫の大人とほとんど変わらない大きさであり、毛並みは黄色と一部に白、そして黒い縞模様に‥‥何よりその鋭くとがった牙。
「‥‥この子、ト」
「かわいいでしょ〜〜♪」
 比較的動物に詳しいミーファが何か言いかけるも、それはリネスの言葉に遮られてしまう。
「ちょっと、子猫にしては大きすぎですね‥‥」
「まあ、珍しい種類だからね」
「た、確かに、珍しくはありますが‥‥」
「元気そうでいいじゃないか」
 それぞれが感想を漏らす。
「ミンちゃん、何がお好きなんですか?」
 しゃがみ込んで檻の中のミンちゃんを眺めながらリディアローザが尋ねる。
「えさ? えーと、新鮮な生肉」
『‥‥』
 なんとなくミーファとミンちゃんの視線が合う。
「‥‥(ごくん)」
「狙われてる!? ミーちゃんミンちゃんに狙われてるのら!」
 生唾を飲むミンちゃんから風怪の後ろへ飛んで身を隠すミーファ。
「名前の似ている者同士、気が合うのかもしれないね」
 それは、たぶん、違う。
「で、えーと‥‥この子の世話も私たちの仕事なんですね?」
「ええ、お願いするわ。私達はいちゃいちゃするので手がいっぱいだから♪」
 さらりと言ってのけるリネス。‥‥筋金入りだ。
「ミーちゃんはイヤなのら! 食べられたくないのら!! ミーちゃんは依頼人さん達の側で護衛れもやってるのら〜」
「そうだな、ミーファだけだと力仕事が出来ないだろうから俺も依頼人の側についてよう」
 と、依頼人の護衛をやる事になったのはミーファと風怪。
「私は‥‥ミンちゃんとお友達になりたいです」
「では私もミンちゃんのお世話を担当しますね」
 対してミンちゃんの世話をする事になったのがリディアローザとフィオラ。
「うむ、それでは‥‥長そうで短そうな半端な期間だが、皆よろしく頼むよ」
「よろしくね〜」
 新婚夫婦が締めて、十五日間の船旅はスタートした。



「はっ!」
「リネス‥‥今日の君はまた一段ときれいだ」
「もぐもぐ」
「もう、そんな当たり前のこと言って〜。女は一日一日少しずつきれいになっていくものなのよ♪」
「ふんっ!」
「もごもご‥‥」
「そうだね、でも君の場合は少しづつ、ではないよ。一日ですごくきれいになっていく‥‥」
「こっちのもおいしいのら〜」
「そんな、ダーリンたら‥‥」
「はっ! せいっ!!」
「‥‥皆さん、見事にそれぞれの世界に入り込んでいますね‥‥」
 船上に上がってきたウィオラがそれぞれを一通り見回し最初の一言。
「むんっ‥‥。ん、ウィオラか。」
 気が付いた風怪が手を止めて声をかける。
「はい、そちらは鍛錬ですか?」
「ああ、功夫は一日休めば三日遅れる。こんな時でも欠かす訳にはいかない。‥‥あまりやりすぎると下の階に響くがな。」
 いつも通りにはやれない、と軽く笑って答える。
「と、お邪魔でしたが。どうぞ続けて下さい」
「いや、ちょうど一段落したところだ」
 お互いに軽く気を使う。
「あ、ウィオラさんなのら〜」
 そんなやり取りをしている間に、ミーファも気が付き手を振る。
「‥‥埋まってますね」
 そんな言葉が出てくるのは、甲板の壁にもたれかかったミーファが大量の食べ物に囲まれていたからである。
「減っては減っただけお代わりをしていたからな」
 と、ずっと隣で稽古をしていて状況を把握している風怪の説明が入る。
 シフールのミーファだが、その並べられている料理はヒューマンサイズの物であり、その量も普通のジャイアントなら食べきれないのではないか、くらいある。文字通り、体の小さなミーファが大量の料理に『埋まって』いた。
「えーと‥‥おいしいですか?」
 自分では間違いなく食べきれないであろう料理の量に少し引きつつもウィオラ。
「おいしいのら〜。青空の下で食べるといっそうおいしいのら〜。」
「うむ、周りの景色も良い事だしな」
 周り、当然海原が広がっている。眺めは常に最高と言えよう。
 ただし、体の小さなミーファが座り込んだ状態で海が望めるか、といえば無理そうな気がする。
「あ、これはミーファのらから分けてあげないのらよ?」
 言って食事を再開する。
「い、いえ、大丈夫です‥‥」
 『ミーファの』とは言っているが、ミーファの周りに並んでいる料理は全て依頼人のおごりだ。必要経費、というやつである。
「で、その依頼人さん達は‥‥」
「あ〜ん、ダーリンってばぁ♪」
「ははははは‥‥」
「変わらずいちゃいちゃしているようですね‥‥」
「仲睦まじいのは良い事だが‥‥ずっと眺めるとなると、独り者にはまぶしすぎる光景だな‥‥」
 新婚夫婦に生暖かい視線を送る二人。
「‥‥お、そういえば君は竪琴を持っていたね。どうだい? 僕らのために一曲演奏願いないかな?」
「そうだわ! ダーリンいい考え〜♪」
 ふとウィオラの存在が視界に入ったのか、カウルがそう提案する。
「ええ、私も吟遊詩人ですから、ご要望とあれば」
 竪琴を取り出し適当な場所に腰掛ける。
 そして、その竪琴がゆっくりと音色を奏ではじめた。
「素敵‥‥」
 うっとりとリネス。
「本当に。でも、君の声の方がもっと素敵だよ」
「もう、ダーリンってばぁ、さすがにそんな事はないわよぉ〜」
 言っていちゃいちゃ再開。
「(既に私の竪琴は耳に入っていませんね)」
 耳に入っていたのは最初のほんの一部だけであろうか。
「ま、気にするな。今が一番楽しい時期なんだろう」
 風怪のフォロー。
「ええ、そうですね‥‥」
 演奏者としてのプライドか、聞き手が聞いていなくてもその手を止める事無く、演奏を続けながら答える。
「そういえば、リディアローザは?」
「ああ、あの子でしたら、今もミンちゃんと格闘していますよ」
 笑いながら答える。
「ミンちゃん、元気が良すぎです」 

 その頃リディアローザは船内の一室で、自分のペットである柴犬二匹に熱烈な歓迎を受けていた。
「だ、だめ! イー、アル、このお肉は貴方たちの分じゃないの!」
 懸命に肉の乗った更を上に掲げ、二匹から肉を奪われまいとがんばりながら叫ぶ。イー、アルというのは二匹の名前だ。
「だめですっ」
 再び叱責が飛ぶも、掲げられた肉の魅力の前では些細な物なのか、二匹もなかなか言うことを聞かない。
「む・・・むぅ・・・。はぁ‥‥はぁ‥‥」
 ようやく二匹のリードの長さの外に出てお肉の安全を確保。自分とほぼ同じ身長と体重をもつ生き物二匹を振りほどくのはさすがに大変だったようで、息も上がっている。
「さあミンちゃん、ご飯です」
 二匹を抜けた先に待ち構えていたのは子ト‥‥もとい、珍しい種類の大きな子猫のミンちゃん。
 そのミンちゃんに死守したお皿を差し出す。‥‥ちなみに、海の上であるため新鮮な生肉を用意するのは無理だが、その肉は人が食べるにしても十分に高級な代物である。
「‥‥」
 差し出された肉を満足そうにガツガツと食べるミンちゃん。二匹の柴犬もうらやましそうにそれを眺めている。
「おいしいですか?」
 リディアローザはお気に入りのドレスが汚れる事も気にせず膝を着いて、ミンちゃんと同じ目線の高さで話をしている。
 ミンちゃんも繋がれてはいるものの、互いの距離はリディアローザにミンちゃんの爪と牙が十分に届く距離である。
『‥‥』
 そうこうしている間に食事を終えたミンちゃん。今までは食事に集中していたので気にしていなかったが、それを終えて今度はしっかりとリディアローザを見据える。
「お友達になってくれるまで、動きません」
 リディアローザも膝を着いて四つん這いに近い格好になっているため、互いに姿勢を低くしてにらみ合う形だ。
「‥‥きゃっ!?」
 と、ふいにその均衡が崩れる! ミンちゃんの高速ネコパンチがリディアローザの顔面を捉えた!
「うぅ‥‥」
 呻きながら後退するリディアローザ。幸い爪を立ててはいなかったのか怪我はない。もし爪を立てていたらかわいい顔に長く残る傷が付いていた事だろう。
「こ、こんな事じゃ泣きません!」
 ぐっと顔を上げて決意を新たにする。ミンちゃんとお友達になるにはまだまだ時間がかかりそうだった。



 船の旅を続けて五日後。船はドレスタットの港へと到着した。一行はそこで船を乗り換える事になる。乗り換える船の行き先はロシア王国、キエフへの直行便。
「ロシアはハーフエルフに寛容な地だと聞くけれど‥‥」
 船上で遠くの海を眺めながら一人呟くのはリディアローザ。
「‥‥」
 ドキドキしながらもリボンを一度解き結びなおす。すると、そのリボンと髪でうまく隠されていた自分の耳が白日の下にさらされる。その耳は、リディアローザがハーフエルフである事を示していた。
 船の行き先はロシア。ハーフエルフ至上主義の国。船に乗っている者‥‥今自分の周りにいる者は全員その事を理解しているはずである。
 しかし頭では分っていてもやはりすぐには慣れず、周囲の視線が気になってしまう。
「大丈夫」
 自分に言い聞かせる。
「さあ、今日こそはミンちゃんとお友達になります。イー、アル、助勢は不要ですよ?」
 気を取り直すように決意したリディアローザに、側に控えていた二匹の柴犬も揃い吠えて答えた。

 目的地までは半分も進んでいない。
 船旅は、まだまだこれからである。