ささやかな滅びを

■ショートシナリオ&プロモート


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月25日〜08月01日

リプレイ公開日:2006年08月02日

●オープニング

「私達の村にも小さい子供もいますし、森を遊び場とする時もあります」
「それはそうでしょうね」
「距離は多少離れているとはいえ、その気になればすぐに行き来できる距離です」
 ギルドの受付で心持ち悲壮感を背負って受付の女性職員に訴えているのは中年の男性。どちらかと言うとやせ気味の体型であり、その悲壮感と雰囲気が良くなじんでいる男性であった。
 その男性の話をギルドの女性職員もいつもと比べれば真剣な態度で聞いている。
「追い払うだけでは駄目なんですか?」
「そ、そんな中途半端なことをしたら、かえって仕返しが恐ろしいじゃないですかっ」
 女性職員が提案するが、男性は拒否の意を示す。
「仕返し、ですか‥‥」
「それで、依頼は引き受けてもらえるんでしょうか‥‥?」
「あ、いえ、内容や条件その物には問題ないです」
 (「ただちょっと対応が過剰すぎるのがね‥‥」)などと心の中で付け加える。
「では、お願いします‥‥」
「はい、確かに。」
 そうして、ありきたりと言えばありきたりな依頼書を、女性職員は作成したのであった。

「ついこの間にあった依頼なんだけど‥‥」
 その依頼も、同じくこの女性職員が受付を担当していた。
「ゴブリンが溜まり場にしている森っていうのがあってね。ま、それくらいならよくある話しだし放って置いてもいいんだけど、その森から少し離れた場所にある村の村長さんがその事を聞いたらしくってね」
 村の安全を心配をしたその村長がゴブリンの討伐を依頼した訳である。
「ただ、その村長の出した条件って言うのが‥‥確実に全てのゴブリンの息の根を止める事。一匹も逃がしたりしちゃダメ」
 たかがゴブリンに対しては丁寧すぎる内容だが、ゴブリンといえども普通の女子供には十分な脅威であるし、大人の男でも複数に囲まれれば無事ではすまない。
「この前の依頼ではっきりと視認されたのは八体だから、少なくても八体は数を数えて処理してね。その後で、その森の中に他にゴブリンがいないかキッチリ調査するように。見つけたらもちろん絶対に逃がさないよう確実に退治すること」
 つまり、その森の中にゴブリンが一体も存在していない状態にし、それを確認しなければならないのだ。
「それから、前の依頼の時はその森の中でゴブリンのレイスに襲われてるの。出会ったのは一体だけで、その一体もその時に退治されてるんだけど、このレイスの方もその退治された一体の他にいないか調査する事。」
 対する相手の割りに、手間のかかる事である。
「それじゃあ、面倒だけどがんばってね」

●今回の参加者

 ea8407 神楽 鈴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5527 セレン・アークランド(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「またこの森に足を踏み入れる事になりましたね」
「まあ、働き口が増えたと思っておくさ」
 一行は既に依頼にあった森へ入り、ゴブリンの探索を始めている。
 その森からつい先日に踵を返したばかりのアタナシウス・コムネノス(eb3445)とシャルウィード・ハミルトン(eb5413)が言葉を交わす。依頼人の村長がゴブリンの存在を知る事となった仕事に直接関係した二人だ。
 その二人の案内もあり、森へは特に障害もなくたどり着く。そして本題はこれから。
「それにしても‥‥依頼人もちょっと過剰じゃないかな?」
「極端だよね」
 この依頼を担当したギルドの職員と同じような感想をもらすのは神楽鈴(ea8407)とパトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)。確かに、ゴブリン程度にここまで神経質に退治を依頼する人間も珍しい、と言えるかもしれない。
 ちなみに、パトゥーシャは出発前にその村長から最新の情報を聞き出していたが、そもそも村長の持っている『最新の情報』というのがアタナシウスやハミルトンが受けた依頼の結果報告である。よって、村長から得られる情報は実際に依頼に参加していた二人から直接聞ける情報よりも確実に劣化したものでしかなく。
「この辺りには、何も見当たりませんね」
 荷物運搬用の馬の手綱を引きながら一番目の良いセレン・アークランド(eb5527)が周りをぐるりと見回す。
「この前のときはこの辺りでゴブリンを見つけたと思いましたが‥‥」
 アタナシウスが呟くもその言葉に自信はない。似たような風景が広がっている森の中で、日を置いてその場所が前に来た所と同じ場所だと判断する事は難しい。
「もっと奥の方に巣があるんだよね?」
「巣というか、溜まり場だね」
 パトゥーシャの疑問にハミルトンが訂正しつつ肯定する。
「ではまずはその場所へ‥‥」
「案内できれば良いんだけどね‥‥」
「この前はゴブリンの後を追いかけただけですから」
 セレンが二人に案内を、と思うも、ハミルトンとアタナシウスは言葉を濁す。
「こんな森だと目印になりそうな物もないだろうしね、仕方ないんじゃない?」
「じゃあ、まずはその溜まり場を探す事からはじめよっか」
「そうですね」
「こんな事なら目印でも付けて帰るんだった」
 とりあえずの第一目標を定めた五人はまとまって陣形を組み、それぞれが担当する方向を決めて全方位に睨みを利かせつつ、ゴブリンや未確認のレイスに注意を払いながら改めて森の探索を開始した。

 そして探索を始めてしばし後、
「やっと見つけた‥‥」
「おーおー、いるいる」
 全員が茂みに身を隠し、そこからこっそりと顔を出す。
 視線の先はそこの一部だけ生えている植物が少なく、森の中で開けた空間になっている。
「もう少し静かに‥‥」
 多少時間はかかったものの、五人はなんとか『ゴブリンの溜まり場』を見つけ出す。やはり、一度実際に来た事のある人間が同行している事は大きなプラスだった。
 しかも、ゴブリン達が自分たちの存在に気づいている様子はない。
「一匹二匹‥‥九匹?」
「一匹増えてますね」
 その開けて空間に群れているゴブリンの数を数えると、その数は九。報告にあった数よりも一つ多い。
「まあ、最初から数は増えるかもしれないと分っていた事ですし‥‥」
「さて、それじゃあ‥‥」
「どうしましょう?」
『‥‥‥』
 一瞬、その場を沈黙が支配する。
「あー、なんつーか、こういう状況はあまり考えていなかったね」
 ひたすらゴブリンを見つけ出しては狩る、と単純明快な予定を立てていたハミルトン。
 『こういう状況』とはつまり、こちらの存在がゴブリン達に気づかれておらず、確実に先手が取れる有利な状況、と言う事である。
「正面から撃って出ますか?」
「せっかくこういう状況なんだし‥‥」
「やっぱり奇襲とか?」
 パトゥーシャが奇襲を提案するが、奇襲にも色々な方法があり‥‥結局、五名は一度その場から離れ緊急会議を開く事となった。

「おう! てめーら、また会ったな!」
「今度は逃がしません」
『!!?』
 ゴブリンの溜まり場。そこに突然出現したのは人間が二人。ハミルトンとアタナシウスである。
「!」
「!!」
 その二人の顔を覚えている‥‥のかどうかはいまいち分らないが、ゴブリン達は声を上げて騒ぎ立てる。
 しかしそれもすぐに収まり。
「へぇ〜、やる気かよ」
「舐められていますね‥‥」
 相手はたったの二人。対してこちらの数は九。
 『勝てる』と判断したのか、ゴブリン達はそれぞれ武器を構え二人に対峙する。
 じりじりと二人に距離を詰め、先頭のニ・三匹が飛び掛ろうと構えた時、
「だが、ちょっと甘かったね」
 ハミルトンが呟いた瞬間、
「てーい!」
「はっ!!」
 ゴブリン達の背後から武器を構えた神楽とセレンが現れ、強襲する!
『!?』
 目の前の二人に集中していたゴブリン達はその攻撃にまったく対応が出来ない。
「私も、えい!」
 混乱しているゴブリン達に、後方からパトゥーシャの放った矢が突き刺さる。
「おっと、こっちにもいるんだ」
 正面に対峙していたハミルトンも持ったフレイルを振りかざし、攻撃に参加する。
 飛び掛ろうとしていた先頭のゴブリンの内一匹はそのまま攻撃を仕掛けるも、あらかじめアタナシウスが張っていたホーリーフィールドに阻まれ、そこにハミルトンのカウンターが決まりあっさりと崩れ落ちている。
「!‥‥!!」
 完全に挟み撃ちの格好になったゴブリン達。
 神楽は日本刀を勢いよく振り、一気にダメージを与えていく。逆にセレンはゴブリンの攻撃を避けながら、ダガーを使い手数を多くして確実にダメージを重ねる。
 パトゥーシャとアタナシウスの後衛組みもそれぞれ矢と神聖魔法のホーリーを使い、援護を行う。
「!?」
 数は倍近くいるが、個々の能力に差があり、しかも背後を襲われ不利な状況。ゴブリンは一匹二匹と次々数が減っていく。
「あ! 逃げるよ!?」
「くっ」
 そんな状況、左右の比較的離れた場所にいた三匹が一匹と二匹に別れ、それぞれ左右に走り出す!
「逃がさないよ!」
 その内の一匹は、パトゥーシャの放った矢に足を貫かれ、その場に倒れもがき苦しむ。
「これで!」
 その場に残っていた最後の一匹に止めを刺すも、
「追いかけましょう」
 逃げた二匹を止める余裕はなかった。

「一匹逃してしまいましたね‥‥」
 ゴブリンの溜まり場を襲撃したその夜。
「まだ一日目ですし、これから探し出す時間はありますよ」
 森の中で焚き火をし、それぞれが野営の準備を進める。
「見つかるといいけど」
「ただいまー」
 そんな話をしていると、一人姿の見えなかったパトゥーシャが野営の場へ戻ってきた。
「仕掛け終わったのか?」
「罠って言ってもロープに引っかかると木が打ち合って音が鳴るだけだけどね」
 パトゥーシャが今周囲に仕掛けてきた罠の解説をする。その罠はゴブリンを発見し易くすると同時に、今なら野営中の危険も早くに察知する効果があるだろう。
「それはそうと、仕事が終わったら罠は回収しておきなよ?」
「う゛」
 ハミルトンのツッコミに、パトゥーシャが呻く。
 ‥‥その罠を広範囲に仕掛けるのは難しそうだ。 


 そして仕事は順調の進み、予定的には探索最終日の夕方、日がほとんど沈みかけた頃合。
「最後の最後にレイスと出あうとは‥‥!!」
 辺りも薄暗くなり、野営場所を探していた一同が出会ったのはニ体のゴブリンのレイス。
 事前の情報からそのレイスがゴブリンだと知れるが、その姿は宙に浮かぶ白い影、である
「よし、成功した!」
「ありがとうございますっ」
 ハミルトンがセレスのダガーにオーラパワーを使用し、セレスはそのダガーを持ってレイスに切りかかる!
「ウィンドスラッシュ!」
 神楽が詠唱を終了した魔法をレイスに解き放つ。
「リカバー」
 その神楽に回復の魔法をかけるのはアタナシウス。
 オーラパワーを使用するまでの間、呪文の詠唱中をカバーする手段がないため、神楽は呪文の詠唱中にレイスの攻撃でダメージを負っていた。
「お待たせ!」
 セレスが前に出てレイスの攻撃を引き付け、ギリギリで回避しながら攻撃を加えている所へ自身の武器にもオーラパワーを付与したハミルトンも加わる。
 こうなると、神楽とアタナシウスも呪文の詠唱に集中する事が可能になり、
「ピュアリファイ」
「もう一つウィンドスラッシュ!」
 戦況は一気に楽になる。
 特にアンデットには致命的な効果があるピュアリファイは大きな戦力だ。
「みんながんばって〜〜!」
『‥‥‥』
 一人後方の安全な場所で声援を送るのはパトゥーシャ。確かに使用する武器が弓矢である彼女は、その矢一本一本にオーラパワーをかける等という手段でも使わない限り、物理攻撃の効かないレイスに対して何かが出来るという訳でもないのだが。
 漠然とした納得のいかない感情が力となったのか、レイスに対する攻撃にいっそう力が入る四名。
「!!」
 こちらの攻撃が効くとなれば、ゴブリンのレイスもそう手強い相手ではない。
 まずは一体、その存在が無へと還る。
「こっちも!」
 セレスの一撃が残ったレイスの真芯をとらえる。
「はっ!」
 そこへハミルトンのフレイルに攻撃魔法のホーリーとウィンドスラッシュが叩き込まれ、もう一体も静かに消え去った。
「お疲れさま」
 パトゥーシャが四人の労をねぎらう。
「これで依頼は果たせた‥‥でしょうか?」
「多分、ね」
 落ち着きを取り戻しつつ、五人が一息をつく。
「あのゴブリンが逃げた一匹ならね‥‥」
 探索初日目で逃した一匹のゴブリン。その二日後、一同は三体で行動していたゴブリンを見つけ、それも確かに倒しているのだが‥‥
「ゴブリン個体の区別なんで出来ませんしね」
 確かに、ゴブリンは倒した。九匹を見つけ、一匹を逃し、その後三匹を倒している。
 数の上では何も問題はない。だがしかし、逃がした一匹がその後に倒した三匹の中に含まれているかはどうにも判断に困る。
「森は隅々まで探したんだし、それでいなかったんだから良いんじゃない?」
「そうですね、後は明日になって報告へ戻るだけですか」
「ま、ちょっと早いけど、お疲れさま」
 誰ともなく互いに言葉を掛け合い、最後の夜は今までよりもゆっくりと過ごす事が出来た。



――――夜、『生』なる物のほとんどが眠りにつき、
――――そして、
――――それは『負』なるモノ達の時間である事を示す。

 冒険者たちも野営をし、火の番をするか眠るかのどちらかに行動が限定されていた時間。
 そんな時間。
 森に浮かぶ白い影。その数は一つ、二つ‥‥暗い中に薄っすらと存在している為、ハッキリと把握する事は出来ない。
 その白い影が、一斉に、軽い笑い声を上げたような‥‥夢を見た。



 次の日夜が明け、町へ戻り報告を済ませたが、依頼人の村長もその成果を聞いて喜んで報酬を受け渡した。依頼は、無事成功として終わったのだ。