未開の店と未開の森

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月03日〜08月09日

リプレイ公開日:2006年08月11日

●オープニング

「そうなの、まったく主人ってば『任せとけ』なんて言っておいて‥‥頼りないんだから」
「男なんて、いざという時には役に立たないものです」
 ‥‥ここは冒険者の集うギルド。少なくとも、愚痴をこぼす井戸端ではない。
「本当に。お店の新装開店が予定日までに間に合わないばっかりか、仕入れにまで穴があるなんて‥‥」
「苦労の絶えないことで」
 今現在の構図としては、カウンターを挟んで夫の愚痴をこぼしている女性が依頼を申請する側、その愚痴に足を組んで椅子に座り、付き合っている女性がギルド職員で依頼を受け付ける側、である。
「まあ‥‥、お店の移転なんて大事な時に疲労で倒れた私に非がないとは言わないけど‥‥」
「いえ、そんな人が夫だと貴方にも疲労が溜まっていくのは当然でしょう」
「そうなんです‥‥っと、いけない、あまりのんびりもしてられないんでした」
 突然思い出したようにそうは言うものの、既に愚痴り始めて結構な時間が経っている。
「そうでね‥‥では、依頼は商品を受け取りに行く、と言う事ですか?」
「ええ、そうね、なるべく早くお願いするわ」
「一応、それも依頼書に付け加えておくけれど、通る場所が場所だけに保障は出来ませんよ?」
「分りましたわ。それは仕方ありませんね。でも、商品だけは確実に届けてくださいね?」
「それは確かに」
「では、細かい事はお任せするわ。もう戻らなければならない時間ですし」
 愚痴をこぼしている間に信頼も出来上がったのか、あっさりギルドの女性に任せる依頼人。
「ええ、それではお大事に」
「ありがとう」
 微笑を浮かべ、まだ疲労が残っているのか少しだけふらふらとしながらも、急ぎ足で帰って行く依頼人であった。


「近々新装開店する冒険者向けのお店があるんだけれど‥‥まだいくつか商品が揃っていないようなの」
 『近々』と言っているが、実はそのお店、すでに開店予定日は過ぎていたりもする。店主の妻が移転作業中に過労で倒れ、開店が大きく遅れているのだ。
「それで、皆にはその足りない商品を受け取りに行ってもらいたいの。向かう場所は‥‥」
 向かう場所は、人通りがある所からは森を一つ挟んだ小さな村。
「けど、その村へはまだキエフから最短距離で道が繋がっていないの。その村との間にある森が邪魔なのね。大きく迂回すれば道もあるんだけれど、そっちを行くと時間がかかってお店の開店に間に合わない。よって、皆にはその森を突っ切ってもらうわ」
 その森も、近い内に切り開かれる予定はある。だがしかし、今はまだほぼ手付かずの状態だ。
「森の中は色々な種類のモンスターも目撃されていてとっても危険よ。急いでも片道二日ほどだから、往復だと二晩は森で夜を越す事になるわね」
 夜を明かすとなると‥‥危険度もまたずいぶんと違ってくる。
「商品は特性の薬草だそうで‥‥なんでも依頼人の個人的な知人が作っているそうよ。そういった訳だから、村で薬草師の人を探せばその人に話が通っているから、細かい事はあちらが対応してくれるわ。薬草の量は中くらいの木箱二つ分くらいと言っていたわね」
 薬草その物は軽くとも、木箱も含めるとそれなりの重さになる。帰りはこれの運搬方法も考える必要があるだろう。
「ああ、そう、これは依頼人からのついでのお願いなんだけど、その薬草師さんから滋養強壮に効く薬草を分けて貰って来てくれないか、ですって。過労で倒れてから、まだ本調子ではないようね」
 そのための薬、と言ったところか。
「言うまでもないけれど、届ける商品は丁重に扱うようにね? 商品の到着が予定よりも早ければ依頼人も喜ぶわよ」

●今回の参加者

 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5367 リディア・フィールエッツ(35歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5685 イコロ(26歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb5721 カマラ・プリエスタ(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5792 崔 璃花(23歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5812 トーマス・ブラウン(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

荒巻 美影(ea1747)/ フィリッパ・オーギュスト(eb1004)/ 銀山 枝理(eb2409)/ 千住院 亜朱(eb5484

●リプレイ本文

「ーー♪ ‥‥」
『おぉ〜』
 パチパチパチ、と、感嘆の声と共に拍手の音が鳴り響く。
 目的の村とキエフを真っ直ぐ繋ぐ道のり。今、一同は依頼人の情報にあった通りに草木の生い茂る深い森を突き進んでいる最中だった。
「ありがとうございます」
 拍手に礼の言葉を返すのはアシュレイ・クルースニク(eb5288)、モンスター避けとして声を上げるという行為の余興として歌を披露し、一曲歌い終えたところである。
「うぅ‥‥良い歌でゴザル、このような歌を聴けて、それだけでミーはこの依頼を引き受けた甲斐があったというものでゴザル!」
「そんな大げさな‥‥」
 誰ともなくツッコミを入れるも、人一倍クルースニクの歌声に歓喜しているトーマス・ブラウン(eb5812)。ちょっぴり、涙ぐんでいるようにも見れる。
 実際、クルースニクの歌唱力はかなりのものであったが。
「ふむふむ、ではお次はミーが一曲披露するでゴザル」
 二番手に名乗りを上げたのは磧箭(eb5634)、この地では珍しい、珍しくない土地でも街中では存在感の激しい河童だ。
「では‥‥ミーのヘッドが光って濡れる〜♪ 荷物を運べと轟き叫ぶ〜♪」
『‥‥‥』
 歌声を聞き逃さないための沈黙‥‥とはまた別種の、妙な静けさの中に磧の歌声が森へと響き渡る。
 手斧で草木を払い、森に一筋の道を作りながら先頭を進んでいた崔璃花(eb5792)とジュラ・オ・コネル(eb5763)の二人も、思わず手を止めてしまった。
「‥‥? どうかしたでゴザルか? 前に進んでないでゴザルが」
 磧が切りの良いところまで歌い進んだところで、一度歌を中断する。
「う、うん、思わず歌に聴き入っちゃったかなー、な、なんて‥‥」
 親切心から胸の内の真実を隠しつつ、適当に誤魔化そうとするイコロ(eb5685)。
「おお、そうでゴザッタか。ミーの歌も罪作りでゴザルな」
 片手ですっと前髪を跳ね上げ磧。
「うむうむ、こんなスバラシー歌を一日で二度も聴けるとは‥‥ミーは感激でゴザル!」
『え』
 一方、素でそんな感想を叫んでいるのはやはりトーマス。
「クルースニルさんの歌の時と反応が同じなんじゃ‥‥」
「きっと感動の基準ラインが低い人なのでしょう‥‥」
 磧とトーマスに聞こえない声で密かにごにょごにょと言葉を交わす。
 同列に並べられたクルースニル本人はいたって微妙な表情だ。
「そうでゴザルか。ではミーも期待に応えないといけないでゴザルかな」
 そう言って再び歌い始めようとする。
『あ、ちょ、ちょっと‥‥』
「おぉ! ぜひお願いするでゴザル!」
『あぁぁ‥‥』
 一部を除いて一斉に『マッタ』をかけようとするが、それは残念ながらトーマスの言葉によって失敗に終わる。
 そうして無事に再開された磧の歌声を聴き流しつつ、一人最後尾にいたリディア・フィールエッツ(eb5367)が短くため息を付きながら手近な木に帰りの目印を付けていた。


「さっそく現れたようですね」
 愛犬の一吠えに足を止め、前方を注意深く眺めるカマラ・プリエスタ(eb5721)
「沼地に出たようだ」
「いるのは大蛙、ですね」
 先頭を行くジュラと璃花の手斧が目の前にある背の高い草を払うと視界が少しだけ開ける。
 沼地に行き当たったため、狭い範囲ではあるがそこではぽっかりと空いたように青空が望めた。
「けっこういるね」
 体の小さなイコロが隙間から前に出てひょっこりと顔を出し沼の様子を伺う。
「既に向こうはやる気まんまんの様でゴザルな」
 自分たちのテリトリーに侵入してきた冒険者一行に、大蛙は完全に臨戦体制。
「そうみたいね‥‥」
 リディアが剣を抜き、軽く構える。続き他の者も戦闘体制を取る。
『‥‥』
 お互いにまだ距離があり、どちらも仕掛けるには遠すぎて、睨み合う形になる大蛙と冒険者。
「‥‥まあ、ここは沼を迂回して進むとしよう」
「そうね、沼地の外までは追って来ないでしょうし」
 睨み合いながらのジュラの提案に特に反論意見も出ず。
「では、グッバイでゴザル」
 あっさりと身を翻す侵入者の背中を眺めつつ、気合十分だった大蛙が少し寂しそうに「ゲコ」と一鳴きしたそうな。


「方向は合っているようです」
 大蛙の沼地をぐるりと迂回した後、連れていたエレメンタラーフェアリーを上空へ飛ばし方向の確認を行ったクルースニル。
 戻ってきたフェアリーが指差す方を信じれば、村への方向はこのまま真っ直ぐ進んで大丈夫らしい。
「ではさっそく‥‥と行きたい所ですけれど」
「そうも行かないようですね」
 周囲にかすかに聞こえるカサカサという音。今、風は吹いていない。
「今度は何が出るのかな‥‥?」
 音は、一同を囲むように、そして少しづつ近くなってくる。
 冒険者達もそれに対するように背を向け合い、武器を構えて周囲を警戒する。
「‥‥そこでゴザルな!」
 磧が茂みに向かって懐から取り出したダーツを投げ放つ!
『!!』
 命中はしなかった物の、そのダーツに驚いたのか茂みに潜んでいたモノが大きく体を持ち上げた。
 そこに現れたのは、
「蜘蛛!?」
 現れたのは、左右に生えた足の先から反対の足の先まで軽く一メートルは越える巨大な蜘蛛。
 その一匹に反応したのか、その一匹とは対面の左右からも一体ずつ同様の大きさの蜘蛛が体を持ち上げ姿を現す。
「これは‥‥避けて通るというわけには行かないですね」
 大蛙とは違い、行動範囲がどの程度になるのか分らない。
「でも、今のうちに倒しておいた方が帰りが楽になるでしょう?」
「威嚇して逃げ帰るような相手でもなさそうでゴザルしな」
 リディアの言葉にトーマスがうなずきながら返す。
「それでは、やりましょうか!」
 その言葉を待っていた‥‥などと言う事はありえないが、その言葉と共に三匹の蜘蛛が一斉に動き、戦いの火蓋は切られた。

 まずは一匹目。
「ようやくミーの出番でゴザルな!」
 ロングソードを構え、蜘蛛と直接格闘をするのはトーマス。
 蜘蛛の足を切り払おうとするも、蜘蛛の攻撃もありなかなかうまく行かない。
「くっ!?」
 実力がほぼ互角な上に、トーマスの構える剣一本に対し蜘蛛が攻撃に使える足は二本。
 一人だけでは押され気味になるが、トーマスとは反対側にもう一人、
「はっ!」
 カマラのフェイントを交えた軽いながらも確実に命中させていく攻撃。左右からの攻撃によって、蜘蛛もしだいに対応しきれなくなる。
「えい!」
 そこへイコロのサンレーザーによる援護攻撃が加われば‥‥勝負の行方は時間の問題だった。
 
 二匹目。
 戦闘開始時の流れで、蜘蛛一匹に対し二人で対する事になったジュラと璃花。
 しかし、正面から戦闘をしかけるジュラに対し、蜘蛛はなかなか攻撃を当てきれない。逆に、ジュラは手斧で少しずつ蜘蛛にダメージを重ねていく。
「この一撃で‥‥!」
 ジュラの攻撃によって弱り、生じた隙を突いて後ろから一気に間合いを詰めた璃花の素手による攻撃が叩き込まれた。璃花の腕には毒が仕込まれており、わずかにでも傷を負わせることが出来れば‥‥
『‥‥』
 蜘蛛の動きが急に鈍くなる。璃花の毒によって、体の自由が奪われたのだ。
「勝負あり、かな」
 動けなくなった相手に、後れを取る事などよほどの事が無ければありえないことである。

 そして最後の一匹。
「ヘイ! ミーはここでゴザルよ!」
 余裕の挑発をしながら蜘蛛の攻撃を避けまくっているのは磧。蜘蛛の攻撃はかすりもしない。隙あらば蹴りによる攻撃も加えている。
「コアギュレイト」
 磧の時間稼ぎで余裕を持って詠唱を終えたクルースニルが呪縛の魔法を解き放つ。
 その魔法により、蜘蛛の動きが完全に止まった。
「たとえ動けない相手でも、手加減はしないわよ」
 そう言って、重量を十二分に乗せて振り下ろされたリディアの剣は、一撃で蜘蛛の体を断ち割った。


「ようやくたどり着きましたね‥‥」
 蜘蛛を倒し、大蛇を倒し、交代で見張りをしながら夜を明かし、偵察に出して巨大蜘蛛の巣に引っかかった連れのフェアリーを大慌てで救出し、はぐれ大蛙を倒し、磧の歌を聞き流し‥‥幾多の苦労を重ねて森を抜けてからしばし歩いた後、一行は目的の村へとたどり着いた。
「後は薬草師の人を探せばいいでゴザルな」
「あら、あなた達かしら? 代わりのお使いというのは」
 ふいに横からかかった声に、皆がその方向に視線を向ける。
 そこに立っていたのは、さまざまな種類の草を摘んだ籠を持っている一人のエルフの女性。
「‥‥あなたは?」
 答える代わりに、聞き返す。
「違うの? あなた達、お使いで私の薬草を受け取りに来たんじゃないの?」
 が、更に聞き返されてしまった。
「そう‥‥なんだけど、良く私たちがそうだって分ったね?」
 イコロが今度は向こうの言葉を一度肯定してから、もう一度聞き返す。
「そんなに人の出入りが多い村じゃないからね。出入りがあったとしても、あの森の方向からやって来る人はいないわよ」
 そのエルフの女性が笑いながら種を明かす。
「では、貴方が私達が薬草を受け取る予定の薬草師さん、という事で間違いないんですね?」
「ええ、間違いないと思うわよ? ‥‥それはともかく、あなた達も疲れてるでしょう? 休める場所を紹介してあげるから着いていらっしゃい」
「‥‥それはありがたいでゴザル」
 疲れが溜まっていないと言えばウソになる。薬草師の提案に一同は素直に後ろを着いて行き、その日は村の空き家で久しぶりにゆっくりと休む事が出来た。

 そして翌日。
「滋養強壮に効きそうな薬草は調合して一緒に入れておいたわ」
 薬草師の持ってきた二つの木箱にロープを結び、一つは背に背負えるように、もう一つは長いロッドに吊り下げ二人で肩に担げるように。
 運びやすくなるように手を加える。
「お店が無事に開店したら私も顔を出すつもりだから、その時に直接体調を見てもっと体に合った本格的な物を調合してあげるって伝えておいてちょうだい」
「分りました。伝えておきますね」
 木箱は磧が一つを背負い、もう一つは同じくらいの身長の二人が交代で担ぐ事になる。両側から二人で担ぐため、身長が違うとどちらかに重心が偏って担ぎにくいのだ。
「それじゃ、帰りも気をつけて。私がせっかく調合した薬草、台無しにしないようにね」
「うん、任せて!」
 薬草師がひらひらと手を振って見送る中、冒険者は再び森へと歩みを進める。
 行きに道を踏みならしてある。進路上で出合うモンスターもほとんど退治し、種類や出てくる場所も把握している。
 荷物があることを除けば‥‥行きよりも、帰りは楽なはずである。

「それでは好評につき、さっそくでゴザルがミーが一曲」
『‥‥‥‥』

 帰り道が楽だったかどうかは各々意見の分かれるところであるが、数回モンスターと遭遇するもその頻度は行きに比べれば低く、一行は問題なく二つの木箱を依頼人の元へと届け、無事に依頼を完遂したのであった。