避暑地の憂鬱

■ショートシナリオ


担当:深白流乃

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月15日〜08月20日

リプレイ公開日:2006年08月23日

●オープニング

 夏‥‥夏でも、涼しい気候にあるキエフ周辺。
 しかしそれは『暑い所と比べれば比較的涼しい』という事で、ずっとその地にいる者にとってはやはり夏は夏、暑いものは暑い。

「そんな訳で、この時期になるとね」
「毎年別荘に涼みに行くんだけどー」
 冒険者ギルドのその受付、足を組んで椅子に腰掛けたいつもの体勢で受付にいる職員の目の前には今、二つの同じ顔が並んでいた。
「そうなの、それは羨ましいわね」
「でしょう?」
「私たちも、」
『楽しみにしてるもんね〜♪』
 職員に交互に、そして最後はぴったりと声を重ねてしゃべる二つの同じ顔‥‥顔だけでなく、声もまったく一緒。体型や着ている服も一緒。そして妙に息の合った呼吸。
 誰が見ても一目で分る、とてもそれだと分りやすい‥‥双子の姉妹だった。十代半ばほどに見え、双子という相乗効果もあってとてもかわいらしい。
「それで、今回はどういったご用件かしら?」
 職員も、ただただ自慢話に付き合っている訳にも行かず、本題を促す。
「その別荘ね、すぐ目の前に」
「きれいな小さい湖があるの」
 「まだ自慢話が続くの‥‥」そんな事を思いかけた職員だったが、
「でも今年はどこかのバカがその湖に」
「大きなお魚を放して湖で遊べなくて」
「魚‥‥?」
 放つだけで遊べなくなるような魚なら、よほど大きいのだろうか。
「このくらいの大きさでね、」
 双子の一人が両手をいっぱいに広げる。それくらいの大きさなら、大した危険は‥‥
「頭に大きな角が生えてるの」
「‥‥」
 それは、俗にソードフィッシュと呼ばれる水中のモンスターではないのだろうか‥‥?
「けど、どうしてそんな事を‥‥?」
 他人の敷地内の湖にモンスターを放つ。冷静に考えると、意図がよく分らない。
 何か恨みがあるならもっと直接的な手段があるだろうし、そのくせ必要な手間暇、そしてお金は少ないはずがない。簡単に思いつく大きな障害としても、まずそのモンスターを生け取らなけらばならないのだ。
「んー、単なる嫌がらせだと思うよ?」
「あははははは、いつもの事だしね〜」
「そ、そう‥‥」
 一般的に見れば、割と大事のような気がするが、軽く流す双子に少し戸惑う職員。
 というかこういうレベルの嫌がらせがしょっちゅうあるのだろうか。
「まあ〜、どこのバカの仕業かは分ってるけど」
「とりあえずそのバカは放っておいて良いから」
「良いの?」
 思わずツッコミを入れる。
「うん、どうせきっといつもの通り」
「あいつの仕業だから。後で二人で」
『ボコボコにしちゃうもんね〜♪♪』
「‥‥そうなの、がんばってちょうだいね」
 妙に楽しそうに言う双子。二人にエールを送るギルド職員もアレだが。
『それよりもぉ〜』
「早い所そのお魚さんどうにかしてくれないかな?」
「危なくて湖で遊べないよ〜夏が終わっちゃうよ〜」
 『楽しみにしてるのに』と揃って双子。
「えーと、じゃあ、依頼内容はその魚をどうにかする‥‥だけで良いのね?」
 だけ、という所を少しだけ強調気味にたずねる。ようは『犯人を捕まえなくて良いのか』という事だ。
『うん』
 だがしかし双子は気にした様子もなくあっさりとうなずく。
「でも、お魚さんや怪我した人の血で湖が染まるとかー」
「お魚さんの死骸や肉片がぷかぷか水に浮いてるとかー」
『水遊びが出来なくなるような事は止めてね!』
 さらりと難易度を上げてくる。
 確かに湖で遊ぶために魚を倒し、魚を倒した結果湖で遊べなくなっては本末転倒もいいところ。
『あ、そうだ!』 
「早くお魚さん退治できたら、」
「一緒に湖で遊んでもいいよ!」
 別荘で避暑を楽しむ、という報酬も付随するようだった。

●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8780 王 月花(32歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5760 フォルケン・ジルナツェフ(36歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5856 アーデルハイト・シュトラウス(22歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●サポート参加者

チェムザ・オルムガ(ea8568)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ ディルク・ベーレンドルフ(eb5834

●リプレイ本文

「ふむ、なんとも絵になりそうな良い景色ですなぁ」
 周囲をぐるりと見回しフォルケン・ジルナツェフ(eb5760)が呟く。
 後には荘厳な雰囲気の館、左右にはのどかな森、そして前方には澄み渡る湖‥‥どこをどう切り取っても、風景画の材料には十分な場所であろう。
「水浴び、楽しみね〜」
「暑い時期ですから、水浴びが恋しくなりますよね」
 王月花(ea8780)とオリガ・アルトゥール(eb5706)は待ち遠しそうに湖を眺めている。
「そうですね‥‥本当に、楽しみです‥‥」
 そんな二人の背中をシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)がうっとりとした表情で眺めている。
『?』
 何か妙な気配を感じてウィゼアを振り返る月花とオリガ。
「バカンスも良いですが、まずはお仕事をしなければなりませんよ?」
 シャリオラ・ハイアット(eb5076)がそんな四人に水を差す。
「船の方は問題ないようです」
 そんなやり取りをしている間に、湖の脇に上げてあった小船を一通りチェックし、アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)が戻って来た。
「湖に下ろせばすぐに使えるで御座るよ」
 シュトラウスと共に船を見てきた磧箭(eb5634)
「そう深い場所はない、水も澄んでいるから魚影を見つけるのはそう難しくないな」
 湖を一回りして来たロイ・ファクト(eb5887)もシャリオラと磧の二人とは逆方向から戻ってくる。
「まあ、ここからでもちらほら大きな魚が見えますからね‥‥」
 改めて湖に目をやる一同。はっきりとソードフィッシュの形まで分る訳ではないが、湖の規模に不釣合いな大きな影が泳いでいる、くらいは視認する事ができる。
「ともかく、気持ちよく水浴びをするためにも邪魔者はさっさと退場してもらいましょう」
 オリガの宣言に、冒険者達はさっそく行動を開始した。


 湖に遊覧用として元から置いてあった数隻の小船。その小船を必要な分湖に浮かべ、戦況は船上対水中の形を作る。
 ほとんどの者は小船に乗って行動しているのだが、例外が一人。
「ミーの華麗な泳ぎを見るで御座るよ」
 ソードフィッシュの泳ぐ危険な湖に自らも水に入っているのは磧。緑色の肌に、口には大きな嘴。見紛う事なき河童の彼、水中は本領発揮と言ったところだろう。
「さっそく来たね〜」
 彼のすぐ脇に漂っている小船の先で、水中に目を凝らしている月花が磧に向かってくる大きな魚影を見つけ注意を促す。
「こちらはいつでも良いですぞ」
 同じ小船に乗ったフォルケンが水中めがけて槍を構える。槍には縄が結ばれている。
「私も、大丈夫です」
 同じく小船に乗ったオリガ、彼女はゆっくりと呪文の詠唱を開始。
「手早くお願いするでござる‥‥よぉ!?」
 しゃべっている途中で突っ込んで来たソードフィッシュを磧が体をひねり回避する。頭の角を構え、一直線に勢いを乗せて向かってくるソードフィッシュは速い。
「反転してまた来るね〜」
 月花が魚影を目で追い続ける。
「次で仕留めますぞ」
『‥‥』
「!!」
 向かって突進してきたソードフィッシュを磧が再び回避!
「ふん!」
 目標を捕らえきれず、わずかながら速度が落ちたソードフィッシュにファルケンが豪快に槍を突き立てた。
「アイスコフィン!」
 自らを貫いた槍にもがき苦しむ暇もなく、槍ごとオリガの魔法によってソードフィッシュが氷の棺に閉ざされた。
「まずは一匹で御座るな」
 磧が水を滴らせながら船に上がる。
「うまくいきましたね」
 オリガが水面を確認するが、水中にソードフィッシュの血が零れている様子もない。その前に氷漬けにされたのだ。
「後は引き上げて陸に運ぶねー」
「そうで御座るな。では‥‥」
「うむ、ファイトォーーー!!」
「イッパァーーーッ!!」
 なにやら過剰に気合の入った掛け声を上げて、まずは一匹、氷漬けの魚が小船へと引き上げられた。

「そっちへ行きましたよ!」
「ブラックホーリー!」
 ハイアットの生み出した黒い光が直接ソードフィッシュへと突き刺さる。
 磧を餌にした作戦とは別に、こちらは網を張った場所までソードフィッシュを追い込み、網を引き上げて捕らえる作戦。だが、魚を船上から狙い通りの場所まで追い込む事はなかなかに難しい。
「今度はそっちです!」
「ちっ」
 こちらはウィゼア、ハイアット、ロイ、シュトラウスの四人が二隻の船に分かれて乗船している。単純に、一隻では追い込むのが困難だからなのだが。
「もう一度っ」
 再びハイアットの魔法がソードフィッシュへと向かう。ハイアットの魔法ダメージと、追い立て続けた事でソードフィッシュも最初に比べればかなり元気がなくなってきた。
「このっ」
 その甲斐あって、少しずつ網を構えた場所へと近づいてくる。
「あと少し‥‥!」
 目標の場所は、もう目の前。
「よし、今だ!」
『せーの!』
 網の範囲内に魚影が入ると、四人でタイミングを合わせ、一斉に網を引いた。
「い、今のうちに」
 網に絡まり、バタバタと暴れるソードフィッシュ。 
「アイスコフィン!」
 手に持った網から、ソードフィッシュの暴れる手応えがなくなる。ソードフィッシュはウィゼアの魔法によって氷の棺に固められていた。
「ふぅ‥‥ようやく一匹、ですね」
「だがまあ、だいたいコツも掴んだだろう」
「そう‥‥ですね」
 次からは、もう少し時間を短縮する事が出来そうだ。

 そして辺りも暗くなる頃合になり、最初の方で捕らえたソードフィッシュの氷が溶けてビチビチと弱弱しく跳ねている横で。
「後一匹、なのですがなぁ」
 槍を肩に担ぎファルケン。
「もう暗いですし、仕方がないですけど明日にしましょう」
「一番大物が残ってしまいましたね‥‥」
 オリガやハイアットも、残念そうに呟く。
 湖のほとんどのソードフィッシュを揚げたのだが、一匹だけ、他のソードフィッシュより一回り大きい個体が八人総出で捕らえようとしたにもかかわらず捕らえきれず、翌日へと延長戦を行う事になってしまった。 
「早く遊びたいのね〜」
「絶対、明日朝一番で捕らえましょう」
 月花やウィゼアも決意を新たに。
「とりあえず、館へ戻るか」
「そうで御座るな、夕食も楽しみで御座るし」
 ロイと磧が氷の溶けたソードフィッシュを一匹担ぎ上げる。
「‥‥本当に食べるんですか?それ」
 担ぎ上げる姿を見て、シュトラウス。
「館には本職のシェフの方も呼んでいらっしゃるようですし」
「下手物には美味しい物が多いね〜、きっとおいしいね〜」
「私は‥‥遠慮しておきます」
 結局、最後まで拒否の姿勢を貫いたシュトラウスであった。 


 館にて、ゆっくりと休息を取った次の日の朝。
「これは‥‥どういう事でしょう?」
 より早く遊ぶため、早起きをして湖に集まった冒険者一同は思いもよらない光景を目にする。
「どう‥‥して‥‥」
 状況を理解できず、戸惑う冒険者たち。
「大きさから見て、昨日取り逃した一匹に間違いないで御座るな」
 残された痕跡から、少しずつ情報を読み取っていく。
『‥‥‥』
 沈黙が、その場を支配する。

『あれ〜?』
 沈黙を打ち破ったのは、まったく同じ声が重なった、不思議な声色。
「もう倒しちゃったんだ!」
「すごく早かったんだね!」
 集まった冒険者の間からその足元に横たわるモノを目にし、驚きと、喜びの混じった歓声を交互に上げるのは依頼人の双子。どうやら早朝にもかかわらず、様子を見に来たようだ。
「いえ、今来たら打ち揚げられていたんです」
 双子に状況を説明し始める冒険者たち。その足元には、大きめのサイズのソードフィッシュ。ほぼ間違いなく、昨日取り逃がした最後の一匹だ
 説明と言っても、まとめれば今の一言が全て。今朝全員で湖に来て見れば、陸に打ち上げられ、既に死体となったソードフィッシュを発見した、それだけだ。
『ん〜〜?』
 説明を聞いて、まったく同じ仕草で同時に首をかしげる双子。かしげる首の角度まで、まったく一緒。
『あ!』
 これまたまったく同じタイミングで、双子が同時に拳で手の平を打つ。
「何か心当たりがありますかな?」
『うん、あのね?』
『‥‥‥』
 うなずく双子の言葉を静かに待ち、
「食べる物がなにもなくて」
「餓死しちゃったのかも?」

『―――――』

 ‥‥‥‥先ほどまでとは、別種の沈黙が辺りを生暖かく包み込んだ。
「ほら、ここの湖って魚がいない訳じゃないけど、」
「いっぱいいる訳じゃないし、小さいのばかりだし」
『こんな大きい魚の餌になる物って、ないよ?』
 双子の解説が続く。ちなみにソードフィッシュは肉食だ。
「それでは私たちが何もしなくても、数日放置しておけばかってに自滅して何も苦労はしなかったという事ですか?」
『そうかも、あはははははは〜』
 双子の明るい笑い声が、静かな朝に、無邪気に広がっていった。

「で、でも、これで後は思い切り遊べるという事ね〜!」
「そ、そうですね、ともかく手間は省けた事ですし」
 ようやく気を取り直し始める一同。そう、別に問題が起こったのではなく、むしろその逆。
「それじゃあ、さっそく水浴びを始めましょうか!」
『お〜!』
 その言葉に、双子も拳を突き上げながら同意するのであった。


「あれ? 磧さん何をしているんですか?」
 館に一度戻り、水浴びの準備をしていた女性陣。服装はまだ普通の格好である。
 その途中で、なにやら座り込んで細かい作業をしている磧を見つけウィゼアが声をかけた。
「釣りの準備で御座るよ」
 磧が顔を上げ、質問に答える。
「釣り‥‥ちなみに、どこでするんですか?」
「はっはっはっ、もちろん目の前に広がる湖に決まっているでは御座らぬか」
 笑って答える磧。
『ふ〜ん』
 だがしかし、女性陣の反応はそろってどこか冷たい。
「ああ、大丈夫で御座るよ、ミーは覗きなどしないで御座るから」
 女性陣が、ふと開かれた扉から見える湖に目をやる。湖上に特に障害物らしき物はない。湖にいれば、湖の全てを見渡せるだろう。
「オリガさん」
「はい」
 名指しの指名に、オリガが心得たとばかりに一歩前に出る。
「ん? どうしたで御座るか? ミスは水遊びをス」
「アイスコフィン!」
 セリフの途中で開放されたオリガの魔法に磧、見事に氷漬け。
「ん? どうして磧殿が氷漬けにされいるのですかな?」
 そこへやってきたのは絵を描くのに必要な道具を一通り抱えたフォルケン。
「気にしないね〜」
 月花が簡単に軽く流す。
「フォルケンさんは絵、ですか」
「おぉ、そうですな、一つお願いをいいですかな?」
『な〜に?』
 フォルケンの言葉に、揃って首をかしげるのはやはり双子の姉妹。
「うむ、ぜひ貴女たちが水浴びをしている姿を絵に、と思いましてなその了解を」
 いたって普通にファルケンが提案する。
「‥‥ウィゼアさん」
「はい」
 なにやらつい先ほど見たのと同じようなやり取り。
「む? どうしまシ」
「アイスコフィン!」
 そして、結果も、つい先ほど見たのと同じような結果。
「あー‥‥」
 二つの氷像が並ぶ中、タイミング悪く通りかかってしまったのはロイ・ファクト。
「‥‥ロイさんはどちらに?」
 女性陣の、妙に優しい口調の質問。
「お、俺か? 俺は草むしりでもやろうかと‥‥べ、別に、覗きなんてくだらない事に興味はないからな!?」
 視線が泳ぎ、セリフがどもっているのは並んだ二つの氷像を目にし、女性陣の発するオーラを感じた本能的な恐怖ゆえか‥‥それとも、そのセリフに嘘が混じっていたためか。
 真実は本人以外知る良しもないが、それはともかく、その日は館内の日当たりの悪い涼しげな部屋に氷像が三つ並ぶ事となった。


「さぁ〜遊ぶね遊ぶね〜♪」
 まずは一番手、勢い良く湖に飛び込む月花。その格好は大きくスリットの入った薄い服。
『せーのー!』
 月花に続き湖に飛び込むのは双子姉妹。手を繋いだまま豪快に飛び込む。
「華やかでかわいらしい方ばかりですね‥‥ふふっ」
 その様子を楽しげに眺めからオリガもゆっくりと水に入っていく。
「本当に、パラダイスです‥‥」
 それに同意しながら、隣を歩いていたウィゼアも水に入る。だが心ここにあらず、といった感じだ。
「ところでオリガおねーさん、前髪暑くないですか?」
 ふと我に返り、ウィゼアがオリガに問い掛ける。
「はい?」
 質問の意図が良く分らず、思わずそんな反応を返してしまう。
「‥‥えい☆」
「わぁぅ」
 突然顔面に水を浴びせられ、オリガがかわいらしい悲鳴を上げる。
「えいえい〜」
「わっ、わっ、」
 なぜか前髪を集中的に狙って水をかけているウィゼア、
「お、楽しそうね〜私も参加するね〜」
『私も私も!』
 そこへ月花と双子姉妹も乱入し、戦況は問答無用で一気に乱戦へと突入した。

「ハイアットさんは行かれないんですか?」
 皆が水遊びをしている様子を眺めながら、木陰で静かに休んでいたシュトラウス。
 同じように隣で休んでいたハイアットへ声をかける。
「水遊びなんて、子供のする事です」
 澄ましたように答えるハイアット。
「そうですか‥‥」
「何か?」
「いえ」
 どこか含みのあるシュトラウスの呟きに、きっちり反応を返す。
 現在、ハイアットは『暑いから』という理由により、とても涼しげな、水浴びを楽しんでいるメンバーとほとんど変わらないくらいの薄着をしている。
 もし、本人にまったくこれっぽっちも微塵も欠片もその気が無かったとしても、水浴びをしようと思えばすぐにでもそのままの格好で湖に飛び込んで何の問題も無いだろう。
「あら、足が汚れてしまっていますね」
 突然、今気がついたかのようにハイアット。まあ、裸足で外を歩けば足が汚れるのは普通である。
「ちょっと湖で洗ってきますね」
 立ち上がりとてとてと湖に向かっていく。
 シュトラウスが、そんな後姿を見送っていると、いつの間にか双子姉妹が揃って目の前に立っていた。
『水に入らないんですか〜?』
 相変わらず揃った声で聞いて来る。
「はい、私は‥‥」
「いいからいいから〜!」
「とっても気持ちいいよ」
「とっ」
 双子に左右から腕を取られて強引に立ち上がらせられる。
『いっくよー!』
 そしてそのまま両脇から引っ張られ、抵抗する事も出来ずに湖へと引きずられるシュトラウス。
「我が家には『やられたら二割増返し』という掟が‥‥!」
 一方、湖の方では足を洗いに行っただけのはずのハイアットが水をかけられ、そんな事を叫びながら水をかけた仇を追いかけて湖に入っているところであった。
「わ、ついにハイジさんも参戦ですか。ハイジさんも脱いだらけっこうすごそうですよねー?」
 ハイアットから逃げつつ双子に引きずられたシュトラウスの姿を見つけたウィゼアが歓喜の声を上げ、
『とーう!』
 シュトラウスを二人で抱えたまま、双子姉妹が湖に飛び込んだ。